魔界への通行手形
ランドセルを背負ったままの僕と彩歌の前に、地下室への扉が現れた。
「凄い……!」
「さあ、入って入って!」
放課後、僕と彩歌は、日直で帰りが遅くなる大ちゃんと、同じく日直の妹に付き合わされて何故か嬉しそうな栗っちに、彩歌の〝住宅事情〟を説明して、先に帰ってきた。
「早く部屋を作らないと、公園でテント生活を始めてしまうからね」
「も~! 始めません! 達也さんのイジワル!」
階段を降りて、扉を開くと広い空間に扉が4つある。僕、栗っち、大ちゃんの部屋と、練習場の引き戸だ。今日ここに、もう一つ部屋が増える。
『アヤカの場合は部屋というより住居だから、少し広く作っておこう。必要な設備はひと通り用意するが、何か欲しいものがあれば言って欲しい』
「嬉しい! ありがとう、ブルー!」
壁が出現し、部屋が出来た。中からガタゴトと音が聞こえてくる。
『アヤカ、キミが来るのが急だったので、部屋の作成には少し時間が掛かるよ』
「ごめんなさい。達也さんを驚かせようと思って……」
『いや、今日のタツヤの慌て方は最高だった。むしろ、グッジョブだ』
なんで喜んでるんだよブルー。まあ、嬉しいサプライズだったけどさ。
さて、とりあえず先に練習場を紹介するかな。
「この奥に練習場があるんだ。この扉も、彩歌さんの魔法で壊れないように頑丈に作ったって、ブルーが言ってたよ」
頑丈な扉を開けて、中に入る。
「広い! ここ、本当に地下なの?!」
驚くのも無理はない。飛行訓練が出来るほど天井は高いし、射撃訓練が出来るほどの奥行きがある。
「え?! 達也さんと……えっと、栗栖君?」
練習場の隅に土人形が2体、立っていた。
「ああ、それが前に話した土人形だよ。僕が作ったんだ」
僕は自分の人形を操作して、コミカルなダンスを披露した。
「すごい! それ、達也さんが動かしているの?」
クネクネと動く人形を見て、嬉しそうに笑う彩歌。
「平日に遠くへ出掛ける時の身代わりだよ。彩歌さんのも作らなきゃね」
僕の言葉を聞いた彩歌は、ニッと笑ってから呪文を唱え始めた。
「HuLex Thel aVat Ne」
彩歌の隣に、黒い影が現れた。徐々にハッキリとした姿になっていく。
「分身を作る魔法よ」
もう一人、彩歌が現れた。僕を見てペコリとお辞儀をする。つまり、可愛さ2倍だ。
『面白いね、アヤカ! これは自律式なのかな?』
ブルーが嬉しそうに訪ねる。しかし、本当に何でも出来るんだな、魔法。
「分身は自分で考えて行動するわ。身体能力は私の3分の1ぐらいで、魔法は使えない。それと、消える時に記憶をもらえるから、分身に何が起こったのかわかるの」
操作しなくていいの?! 超便利だ!
『凄い魔法だね、アヤカ!』
「今回、達也さんの学校に来ると決めた時に、きっと必要になると思って買ったの」
「へえ、魔法って売ってるんだ!」
「うん。買って契約をすれば使えるようになるの。あ、魔力が無いとダメだけど」
僕も、魔法使いになれるかもしれない! MPもあるぞ。3だけど。
『でもこれだけ高機能だと、お高いんでしょう?』
なぜショッピング番組の口調なんだ、ブルー。
「ふふ。ちょっと頑張っちゃった。でも、分身できれば、学校を気にしないで一緒にどこでも行けるから!」
その為に買って来てくれたのか。スゴく嬉しい!
「よし、彩歌さん! 来週は一緒にオランダに行こう!」
「うん! 楽しみ!」
『タツヤ、アヤカ。分かってくれているとは思うし、今回の〝分岐〟は難易度の低い物だが、遊びではない。くれぐれもよろしくお願いするよ』
「大丈夫だよブルー。しかし、同じタイミングでユーリの〝予約〟の日だったな。何もなければいいが」
「友里さんの敵が来る日ね……」
今日の授業中に、かなり話し込んだので、ユーリの事、大ちゃんの事、栗っちの事など、彩歌には、今の状況がほとんど伝わっている。それ以前に、夜の暇つぶしに、実は少しだけ雑談をしていたりもするのだが。
「そういえばブルー、彩歌さんに時券ってもらえるの?」
『申し訳ないが、私が発券してもらっている時券は、私と同化したキミだけに有効だ。アヤカは別の方法で入手しなくてはならない』
「時神の休日。……魔法とか魔界のアイテムで、どうにか出来ないか、私も調べてみる」
「なるほど。若返りとかが出来るんだから、時間系の魔法もあるかもね」
というかむしろ、時間を止めるとか、魔法の領域の気がする。
「そうだ! 達也さん、もし良かったら、近い内に一緒に行かない? 魔界」
「ぜひ連れて行って! 前から行きたいって話してたんだ! なあ、ブルー!」
『アヤカ、私からもお願いしたい。好奇心が爆発しそうだ』
痛くしないでくれよ、その爆発。
「あ、でもそうなると、まず達也さんに魔力を身につけてもらわなきゃ。魔力を持っていないと門が通れないのよ」
魔界の門には、一般の人間が迷い込まないように細工がしてあるらしい。魔力のない者は軽いダメージを受けて拒絶される仕組みだそうだ。
「あ、でもたぶん、魔力あると思うよ? 僕」
「え? でも、元々魔界生まれの人か、儀式を受けた人じゃないと、体に〝魔〟を宿す事は出来ないはずよ?」
そうなの? あ、もしかしてMP3ってブルー関係の〝不思議効果〟とかなのか?
「儀式ってどんな事をするの?」
「そうね。手っ取り早いのは、悪魔と契約しちゃうとか……魂と交換だけど」
それは嫌だ。死にたくない。
「ふふ。冗談よ。一般的には、軽いのでいいから、攻撃魔法を何回も受け続けるとかで大丈夫……あ!」
「ん? どうかした? 彩歌さん」
「もしかして、達也さんの魔力って……」
「……ああ! そっか!」
僕って正月早々〝究極の死の魔法〟とやらを、受けまくったよな。




