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猫はお前なんだけどな

「おい、聞いたか? 今日、転校生が来るらしいぞ!」


 彼は今井暁雄(いまいあきお)。クラスのムードメーカー的な存在だ。

 彼が持ってくる情報はいつだって、ポップで、センセーショナルで……誤報(ごほう)に富んでいた。


「おいおい、また適当な事言ってないかー?」


 教室の隅で、僕と大ちゃんと栗っちは、彼のニュースを話半分で聞いている。

 いや、少なくとも栗っちは違ったかもしれない。〝精神感応〟があるからな。


「本当だって! しかも、すっげー可愛い娘らしいぜ!」


 ほほう。それは楽しみだ。

 しかし今日、転校生が来る事は無いだろう。だってそんな記憶、全く無いもん。歴史はしなやかだけど頑丈なんだ。一般ピーポーには曲げられないよ?


「よーし! 皆、席につけー!」


 例の如く、教卓には、いつの間にか谷口先生が居た。やっぱり特記事項に瞬間移動があるよな。


「転校生を紹介するぞー。藤島、入ってこい」


 あれ? マジで転校生来たの? ヤワヤワじゃんか歴史。

 先生に(うなが)されて、教室の扉がガラガラと開き、転校生が入ってきた。


藤島彩歌(ふじしまあやか)です。皆さん、よろしくお願いします」


「あ! 彩歌さん?!」


達也(たつや)さん!」


 右手に力を込めずに叫んでしまった。彩歌も、普通に僕の名前を呼ぶ。必然的にクラスの全員が僕と彩歌に注目し、やがて起こる、意味の分からない、冷やかし混じりのザワメキ。


「なんだ、達也、知り合いかー! スミに置けんなー!」


 先生まで、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。マジでやめて下さい……


「それじゃ、達也、廊下に机と椅子を持って来ておいたから、お前の横に置いてやってくれー!」


「さらに追い打ち?!」


 ……まあ、仕方ないか。先生、昔からこんな感じだったもんなー。

 それにしても、歴史を曲げたの、僕だったのね。


「早くしろ達也。いつまでレディーを立たせとくんだー?」


 教室中から〝ヒューヒュー〟とか〝チューしろチュー〟とか〝付き合ってんのかな?〟とか、ザワメキと言うには余りにもはっきりとしたワードが聞こえてくる。彩歌もちょっと恥ずかしそうにしているし、早く机と椅子を持ってこよう。


『ごめんなさい、達也さん……来ちゃった!』


 ブルーを介して声が聞こえる。ああもう。可愛いから許す!!


『ビックリしたよー! 儀式、終わったんだね』


 彩歌は悪魔を倒した後の〝清めの儀式〟のため、魔界に居た。


『うん! 呪い、意外と軽かったみたい』


『それは良かった! ちょっと待ってね』


 僕は廊下の机と椅子を教室に持ち込み、僕の席の隣に置いた。一部始終をクラスの全員が見ている。何だ? この()()(もの)感。

 彩歌が隣りに座ると、歓声と共に拍手が沸き起こる。なんで先生まで拍手してんだよ。


『たっちゃん、たっちゃん! もしかして、魔法使いの子?』


『あー、そうそう! そう言えば、栗っちは知ってたんだ。後で紹介するよ』


『うん! 可愛い子だねー!』


 というセリフと同時に、妹が栗っちをキッと(にら)んだ気がするが、まさか聞こえてるのか?! ……気のせいだよな。

 さておき、さっきからの会話、彩歌と栗っちと……あ、いつの間にか〝(すご)メガネ〟掛けてる大ちゃんにも、同時に聞こえてるんじゃないのか?


『大丈夫だタツヤ。お互いの紹介が済んでからの方が良いと思って、波長を変えて、それぞれ直通会話にしてある』


『グッジョブ! さすがだブルー』


 確かに、こんなゴチャゴチャした状態で自己紹介とか出来ないからな。


『たっちゃん! ユーリちゃんが……』


『ん? ユーリがどうかし……』


 (にら)んでいる。

 背後に黒いオーラを纏って。

 鬼の形相で、僕と彩歌を交互に睨んでいる。


『なにこれ怖い』


『ユーリちゃん〝キーッ! 何よあの女!〟とか〝あたしのたっちゃんに色目使って!〟とか思ってるよ!』


 そんなに僕の事を? モテる男は辛いなー!

 ……しかし、なぜ表現が古いんだ、ユーリ。


「よーし! じゃあ、お前ら静かにしろー!」


 自ら散々、(あお)っていた気がするが、ちょっと怒った感じに先生がその場を(しず)めた。

 チラチラと目線を合わせる僕と彩歌。ただ、角度的に彩歌の向こうに見えるユーリが、ずっと僕を睨んでる気がする。これは気のせいじゃないな。

 授業が始まり、僕と彩歌は授業そっちのけで近況を報告し合った。なにせ、二人とももう、義務教育は一旦終えているのだから、全然問題なしだ。


『……という事で、栗っちと大ちゃんは、僕の事情を全て知っているんだ』


『救世主と名工神(ヘパイストス)かー! 達也さんの周りには、普通じゃない人が一杯集まってくるのね』


『本当だね。ブルーが言うには、こういう事って、一箇所に集中するんだって』


『へぇー! そうなんだ! ……でも、なんだか(くや)しいな』


『え? なんで?』


『だって、達也さんにとって、その……特別? な存在って、私だけじゃなかったんだ。って思うと、ね?』


 ぐあああああ! ヤラレタ! ダメだ! もう彩歌は僕の嫁決定だ!


『違う。彩歌さんだけだよ』


『……え?!』


『だって、地球が終わるまで、僕達は、一緒に生きていくんだから』


『!!!!!』


 視線を向けなくても、真横にいる彩歌が真っ赤になっているのがわかる。多分、僕もだけど。

 ……あれ? プロポーズした感じになってるけど、よく考えたら事実を言ってるだけだな。


『でも、そのためには、地球を破壊から、遠ざけなきゃならない』


『うん。私も一緒に頑張る!』


 授業が終わり、休憩時間になると、僕達の周りに大勢の男女が集まってきた。彩歌に質問攻めを始める。


「どこから来たの?」


「兄弟は居る?」


「どこに引っ越してきたの?」


「誕生日は?」


「ご趣味は何ですか?」


「好きな食べ物は?」


「犬派? 猫派?」


 そんな事聞いてどうするんだ? という質問にまで、律儀に答えている彩歌。


「やー! ちょっとどいて!」


 ワイワイと騒いでいるクラスメートたちをかき分けて、ユーリが現れた。腰に両手を当てて、仁王立ちしたかと思うと大きく息を吸い込み、教室中に聞こえる声で、こう言い放つ。


「私と勝負しなさい! この泥棒猫!」

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