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姉と妹

「全くの健康体ですね」


「いいえ先生、そんな(はず)ありません。もっと詳しく調べて下さい!」


 ……ということで、栗っちの土人形(つちにんぎょう)は、入院して精密検査を受ける事になった。


「ゴメン、たっちゃん。今日は帰ってこれないね」


 地下の練習場に栗っちがいる。咄嗟(とっさ)にフォロー出来るように、〝精神感応〟を使って僕の思考を読み、土人形とお母さんの会話を、間接的に聞いてもらっているのだ。


「検査入院かー! やっぱりそうなるよな」


『大丈夫だタツヤ。絶対にバレはしないよ』


「いや、検査ではバレないだろうけどさ。僕のモノマネがどこまで通じるかが問題だろ」


 栗っちのお母さんに心配を掛けないように、なるべく普段通りに振舞おうとはしているが、やはり少し違和感があるようだ。


「えー、次は心電図とエコー検査ですので、こちらの部屋に……」


「えへへー。〝エコー検査〟って、カラオケなのかな?」


「……和也、ふざけているの?」


 くぅっ! 今のはダメだったか、言いそうなのに!


『タツヤ……カズヤの事、馬鹿にしてはいないか?』


 ブルーにまで突っ込まれた。

 そんなにおかしかったか? 大体いつもあんな感じだろう?!


「たっちゃん……僕、さすがにエコー検査は知ってるよ……?」


 ああっ……ごめんなさい。悲しそうな目で見ないで。


「えー、これで今日の検査は終了です。明日はレントゲン撮影がありますので、9時以降は何も食べないで下さいね」


 食事は、消化に良いものなら何でも良いということで、食堂で済ませる事になった。


「うどんで良いわね?」


「うん。 うどん美味しいよねー!」


「……和也、ふざけているの?」


 これは普通だろう! 何がいけなかった?!


『タツヤ……今のはマズかったな』


 何がさ?! 何が地雷なのか教えてくれブルー!


「たっちゃん……あんまりだよ……」


 どの部分が?! なんで涙ぐんでるの?!


「おいおい、何か盛り上がってるな! 差し入れ持ってきたぜー!」


 そこへ、大ちゃんが現れた。スーパーのビニール袋と、電気ケトルを持っている。すぐにお湯が沸くヤツだ。


「シャワールームがある位だから熱湯も出るかもと思ったけど、念の為になー」


 さすが大ちゃん、すごく気が利く。


「カップうどんで良かったか? 親父が好きなんで、いつも箱買いなんだ」


「えへへー! ありがとう! うどん美味しいよねー!」


「ほら! 言った! 今言った! さっきのと何が違うの?!」


『タツヤ……カズヤの身にもなって欲しい』


「ブルーさん、たっちゃんは悪くないよ。僕は大丈夫だから」


 だあああ!! わざとだ! 僕で遊んでいるな?!

 ほら、ブルーからは、なんとなく押し殺したようなクスクス笑いが聞こえてくるし! 栗っちも腹を抱えて小刻みに震えながらうずくまってるし!

 ……あれ? でも、そうすると栗っちのお母さんは何に反応してるんだ?


「お前ら、本当に仲いいよなー! ……で、どんな状況?」


 検査入院になってしまった事を伝えると、大ちゃんは、やっぱりな。という顔をした。


「それにしても、今日はオムライスの日だった筈だけど、うどんの日になっちゃったな」


「うん? たっちゃんは自分ちで食べるだろー? 一応、カップうどんは多めに持ってきたけどなー」


 そうか。僕は今、自分の人形が操作できないから、家で食べなきゃな。

 という事は、そろそろ自宅に戻っておかないとマズイ。






 >>>






「……お母さん、ちょっと電話してくるわね。先に食べてなさい」


 栗っち人形視点。あまりに心配過ぎて、自宅への連絡を忘れていたのだろう。栗っちお母さんが、席を立った。

 いやあ、しかし、栗っちの家族にも、余計な心配を掛けて申し訳ないなあ。

 

「あれれ? 栗っち? どうしたのん?」


 栗っち人形が、うどんをすすり始めた時、不意に声を掛けられた。ユーリだ。なんで病院の食堂に居るんだ?

 ……とにかく、栗っちのフリして対応しなきゃ。


「えへへ。急に検査で入院することになっちゃって。ユーリちゃんこそ、どうしたの?」


「やー、実は姉ちゃんが怪我(けが)してさー。今日は付き添いなんだ」


 そういえば、そんな事言ってたな。いや、あれは栗っちの〝精神感応〟で聞いたんだっけ。


「お姉さん、大丈夫?」


「それがさー、結構重症でね。三日前まで、ICU(アイシーユー)っていうの? 入っちゃっててさー」


 ICU……集中治療室か。かなりの怪我だったんだな。


「まあ、なんとか普通の病室に移れたから、もう大丈夫だと思うんだけどね。ほら、ウチ、とーちゃんもかーちゃんも忙しくってさー」


 ユーリの家が忙しいというのは聞いていた。お姉さんも大怪我をして、すごく大変だと思う。だが、それより気になるのは……


「ユーリちゃん、大変な事に巻き込まれてない? お姉さんの怪我って何が原因なの?」


「やー、前にも言ったけど、大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう」


 やはり、何も教えてくれない。いっそ、僕たちの秘密をバラしてしまう方が良いのかも……


「あら、ユーリちゃんじゃない。お久しぶりね!」


 電話を掛けに行っていた、栗っちのお母さんが戻ってきた。


「あ、こんにちは!」


 ユーリが栗っちのお母さんと話し始めてしまった。

 ……これ以上は突っ込めないか。


「じゃあ、栗っちもお大事にねー!」


「うん、またねー!」






 >>>






 再び視点が変わり、地下室。

 ユーリは、お姉さんの居る病室に戻っていった。こんな時、栗っち本人なら〝精神感応〟で色々と聞き出せるんだろうけどな。


「まあ、仕方ないか。ちょっと、晩御飯食べてくるよ」


「俺も戻るぜー! あー、もしかしたら深夜に来るかも」


「えへへ、行ってらっしゃい! 僕も部屋で、うどん頂くね」


 3人揃って練習場から出ようとした時、栗っちが止まった。ニコニコしたまま固まっている。これは……


「たっちゃん、これってまさか!」


「ブルー! もしかして!?」


『そうだね。時券(チケット)が1つ、消費された。〝時神(クロノス)休日(きゅうじつ)〟だ』


「マジか!? たっちゃん、土人形は大丈夫か?」


「大丈夫。全然問題なく動くよ」






 >>>






 病院の、栗っち人形視点。

 食堂から、病室に向かう廊下だ。

 周囲のすべての物は動きを止め、もちろん栗っちのお母さんも固まってしまっている。


『タツヤ、キミと土人形は繋がっている。時券(チケット)は離れていても有効だ』


 なるほど。土人形は、時間を止められても自由に動けるのか。

 でも、待てよ? ということは〝壊されても元に戻らない〟という事だな。気をつけよう。


「……ね、簡単でしょ? ガジェットを使えば、あなたも〝戦場(ボード)〟を作れる」


 声だ……すぐ目の前の病室から話し声が聞こえる。

 ……ってちょっと待った! 停止した時間の中、動いている者がいるのか?! 

 病室の名札には〝大波愛里(おおなみあいり)〟と書かれている。もしかしてユーリのお姉さんの病室?

 僕は聞き耳を立てた。


「作った〝戦場(ボード)〟は、どれだけ破壊しても元に戻るから安心して戦えるわ。で、こうしてガジェットに触れている者は、自由に動ける。だから、戦士は必ずガジェットを身に着けて戦うの」


 破壊しても元に戻る? もしかして、時神(クロノス)休日(きゅうじつ)の事か?


「予約の日、敵はマーカーを目指してやって来る。戦士は最大5対5と決まっているわ。でも、もう戦えるのはあなた1人。あなただけで5人に勝たないと……」


「やー! 大丈夫だよ姉ちゃん! 私、こう見えて、ちょー強いんだから!」


「そうね、あなたは〝ウォルナミス〟の血が凄く濃く出ている子だから」


 ウォル……何だって?


「でも、できれば、あなたがもっと大きくなるまでは、私が戦いたかった。友里、あなたは、まだ(おさ)なすぎる」


「ううん、お姉ちゃんは充分過ぎるぐらい戦ってくれたよ。後は任せて!」


「友里……」


 やはり、ユーリは何かと戦うんだな。止まった時の中で。


「さあ友里、もう一度説明するわね」

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