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救急車

 栗っちの土人形(つちにんぎょう)は、ぐったりとしている。

 アリバイ作りのために運んで来ただけで、元々、栗っち本人ですら、まだ上手く動かせないのだ。

 なんとか誤魔化さなきゃ……!


「えっと。栗っち、急に気分が悪くなったみたいで……」


「いつもごめんなさいね、達也(たつや)くん、大作(だいさく)くん」


 栗っちのお母さんは、申し訳なさそうにしている。

 ……ちなみに、この〝達也くん〟と〝大作くん〟も、土人形だ。


「熱は……うーん、無さそうね。和也(かずや)、しっかりしなさい。達也くんたち、重いでしょう?」


 土人形は、体温もあれば呼吸もしているし、脈まである。じっとしていれば気付かれる心配はないが、問題は栗っちの操作技術だ。下手に動かそうとするとカクカクと不気味に振動したりして、極めてマズい事になる。






 >>>






 ……で〝本体〟の僕たち3人は、遠く離れた場所にいる。


「ブルー、栗っち人形を、僕に(つな)げられないのか?」


『駄目だ、タツヤ。本人が〝操作権〟を持ったまま気を失っている。カズヤが許可しない限り、回線をキミに繋ぐ事は出来ない』


 そう。僕たちは、2つ隣町の砂浜に墜落した。

 怪我こそ無かったものの、変身は自動的に解除されて、栗っちと大ちゃんは気を失っている。


「栗っち! 大ちゃん! 起きてくれ、大変なんだ!」


『無理だな、タツヤ。このまま少しでも移動しよう』


 やれやれ。まあ、大人の身体能力だから、大した事ないんだけどさ……

 僕は二人を抱えて、無人の砂浜を、国道目指して歩く。






 >>>






「ごめんなさい? 和也、具合が悪いみたいだから、連れて帰るわね」


 結局、栗っちのお母さんは、栗っちの土人形を背負って、帰って行ってしまった。残念ながら、止める方法を思いつかなかったのだ。

 まあ、戻ってきたら、そっと入れ替わればいいかな。


「はぁ。まりも屋、行きたかったな……」


 僕は土人形2体を操作して地下室に行き、大ちゃんの人形を消した。






 >>>






 国道を歩いてしばらくすると、2人は意識を取り戻した。


「いやー、ごめんなー、たっちゃん。飛行ユニットは、根本的に見直しが必要だなー」


「えへへ。僕たち、空、飛んだね! すごいね!」


 2人とも、無事で何よりだ。救星戦隊の初陣も何とか上手く行ったし、偶然だが車の修理代も返せたし、これで、まりも屋に行ければ最高だったのだが。


「で、栗っち。さっきね、火災現場からの帰りに、土人形が……あ、待って、動かそうとしないで!」


「どうしたの? 僕の人形に、何かあったの?」


 栗っちにはまだ、人形の感覚が、ほとんどフィードバックされていない。何が起きているかは直接見てもらおう。


「栗っちのお母さんにバッタリ会っちゃってね。栗っち人形がグッタリしてるから、心配して連れて帰っちゃったんだ」


「うわあ! そうだったの?! ちょっと見てみる!」


 栗っちは〝千里眼〟で確認している。


「大丈夫。台所のソファーに寝かされてるみたい…………あれ?」


 にわかに表情が曇る栗っち。


「栗っち、どうかした?」


「救急車がね、ウチの前に止まったんだけど、誰か病気かな?」


「おいおい、違う違う! それって絶対、栗っちの様子がおかしいから、お母さんが呼んだんだろー!!」


 急に目を覚まさなくなった息子を心配しない親は居ない。このままだと、土人形が病院に連れて行かれるぞ!


「あわわわ! どうしよう!」


 あたふたする栗っち。人形は、救急隊員にストレッチャーに乗せられようとしている。


「ああっ! やっちゃった!」


「どうした、栗っち!」


「人形がカクカクして、お母さんが泣き出しちゃった!」


 恐れていた事が起きてしまった。

 意識の無い息子が、あの動きをしたら、不安感ハンパないよな。

 ……そして、栗っちも半泣きになっている。


「栗っち、操作を代わって! 僕が何とかしてみるよ」


「あ、そっか! たっちゃんなら、僕の人形も普通に動かせるんだ!」 


「ブルー、回線を僕に繋いで!」


『了解だタツヤ。今、通信の秘匿性を解除した』






 >>>






 栗っち人形の感覚が来た。救急車に乗せられてしまった所だ。さて、どうやって誤魔化せばいいのやら。


「お母さん?」


「和也! ああ、和也、大丈夫なの?!」


 栗っちのお母さんは、泣きながら、悲壮な表情でこちらを見ている。悪い事をしたな……


「大丈夫だよ。心配しないで」


「大丈夫じゃないわ! だってあなた、全然目を覚まさなかったし、変な痙攣(けいれん)もしていたし!」


「いや、違うんだよ、あれは……」


「このまま病院で診てもらいましょうね」


 ダメだ。これ以上は(あらが)えない。救急車は走り始めてしまった。






 >>>






「おいー、どうなったんだ? 大丈夫なのか?」


 千里眼で見ている栗っちと違い、大ちゃんは状況が全く見えない。


「ダメだ、()められなかった。救急車で搬送されてしまう」


「マジかー! ヤバくないか?」


「ごめんね、たっちゃん! 僕がもっと上手に土人形さんを動かせていたら」


 いや、そうなんだが、どちらかというと何もせずに交代した方が良かったんだよね。カクカクしちゃったのがトドメになった気がする。さて……


「ブルー、土人形は精密検査とか、大丈夫か?」


『大丈夫だタツヤ。脈も血圧も偽装してあるし、レントゲンも問題ない。解剖などをされない限り、気付かれる事はないだろう。あ、注射針も通るよ』


 なんだ、僕自身が調べられるよりも安全じゃないか。


「じゃ、このまま僕が操作して、大人しく検査を受けるよ。下手に入れ替わりに行くよりも、その方がバレないだろうし。無事に帰れるまでは、栗っちは地下室に居ればいい」


 しかし、自分の人形と違って〝栗っちのモノマネ〟をしながらの人形操作な上に、普段の生活を同時進行となると、若干ヘビーだな。


「長引くようなら、食べ物とかは、俺が何とかするぜー! まあ、カップ麺とかだけどなー」


「ありがとう、大ちゃん!」


『タツヤ、人形同士の距離が開き過ぎたので、カズヤの人形を、直接キミと繋ぎ直すぞ』


 そうだった。栗っちが操作するために、人形同士を繋いでたんだったな。その間の距離は、最大1キロぐらいだったか。


『必然的に、キミの人形は操作できなくなる』


「ああ、頼む。今は栗っち優先だ」


 一瞬、人形の感覚が消え、再び繋がった。


「まあ、バレないように頑張るよ。お母さんを安心させよう」


「えへへ、ありがとう、たっちゃん! なるべく早く帰ってきてね!」


 新妻(にいづま)か。

 いや、早く帰れるかどうかは、お医者さんとお母さん次第だよな。〝健康体です〟で、納得してくれれば良いんだけど……

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