ランディング開始と言いたかった
「ありがとう。君たちには、感謝しかない」
僕たちは、グリーンの作った〝水のトンネル〟を抜けて、無事におじいさんを家の外に連れ出した。
建物は未だ炎に包まれているが、消火活動は順調に進んでいる。間もなく鎮火するだろう。
「何か礼がしたいのじゃが……」
消防隊が行き来する中、おじいさんが言った言葉に、レッドが反応した。
「実は先日、我々が〝事件〟を追っている時に、やむを得ず、とある会社の車を拝借した。多分、あなたが関係する会社だと思う」
何を言い出すんだレッド? 急に……あ! そうか、麻木さんって!
「〝アサギニット〟という会社だが、違っただろうか。後日、車を破損させた分の修理費を届ける予定だったが、もし良ければ、今ここで何も言わずに受け取ってもらいたい」
「確かにアサギニットはウチの系列の会社じゃが……」
今気づいた。〝アサギグループ〟は、様々な分野を手掛けている、全国的に有名な企業だ。
「金は要らんよ。車の修理代など気にせんでくれ」
「いや、そういう訳にはいかない。私たちは正義の味方なのだから」
「……あい分かった! 君たちの、その心意気、感じ入ったわい! 車の修理費は受け取ろう。その代わり、君たちの名前を教えてくれないか」
「本当の名を名乗る訳にはいかないが、私は、レッド」
「俺はアース」
「僕はグリーン」
「我々は、救星戦隊プラネット・アース。この星を破壊から救うために戦っている」
「ぷらねっと・あーすか! 覚えておくぞ」
おじいさんに、旧札だけの10万円を渡した。
「おお。懐かしいのう。アイツの息子のために用意したのも、この札じゃったな……」
その金を着服した部下は、おじいさんの右腕的な存在だったそうだ。
着服が発覚した時点で、おじいさんは部下を解雇した上で、合法的に制裁を加えていた。
「救星戦隊ぷらねっと・あーす! 何か困ったことがあれば、我がアサギグループが全力で支えよう。ワシにも、正義の味方の手伝いをさせてはもらえないじゃろうか」
「その申し出、有難く頂戴する! 共に世界を守って欲しい!」
「うれしいぜ! 俺たちの活躍、見ててくれよな!」
「感謝致します。あなたと共に、世界の平和を守りましょう」
おじいさんに別れを告げ、僕たちは門を出た。数メートル先に、自分たちの土人形が見える。
……できれば、チョットだけ絡む感じで、アリバイを作っておきたいな。
僕は自分の土人形に意識を集中した。
「あなた達は、いったい何者なの?」
僕の人形が大声で叫ぶ。周囲の人たちの視線が、一斉に3人のヒーローに集まった。
よしよし、いい感じだ。
「よくぞ聞いてくれた、少年! 私たちは、救星戦隊プラネット・アース。正義の味方だ!」
さすがレッド。僕の意図を一瞬で理解してくれた。
さて、次は大ちゃん人形で……
「……な、なんだってーーー?」
完璧だ。演技下手な感じで違和感なし!
……レッドがこっちを睨んでる気がするが、まあ、大丈夫だろう。
「それでは、さらばだ、諸君!」
レッドは、僕とグリーンの手を掴んだ。
「レッド・ウイング!」
レッドの背中から翼が飛び出す。ちょっ? まっ?!
「ウィー・キャン・フライ!!」
バシュッ! という音とともに、僕たち三人は、空高く飛び去って行った。
>>>
……土人形視点、終わり。僕たちは今、雲の中にいる。
「レッド、大丈夫なのか?!」
「心配はいらない。全員〝守備力的には〟耐えられる」
って墜落するの前提じゃないか!
「素晴らしいですね。空を飛ぶのがこんなに心地よい物だとは思いませんでした」
余裕だなグリーン! お前の守備力が一番心配なんだが?!
「人気の無い場所に着地する。しっかり掴まっていてくれたまえ」
レッドは着陸態勢に入った。
減速のための逆噴射が始まる。眼下に広がる砂浜。なるほど、この季節には誰も海水浴場に用は無いな。
だが、死なないと分かっていても怖いものは怖い。ジェットコースターだってあんなに怖いのだ。
「空の旅も終了ですか、名残り惜しいですね」
「そっと降りてくれよ、出来るだけフワっと頼むぜ!」
「任せておきたまえ! ランデ……」
ズドンという音と共に、3人とも頭から砂浜に勢い良く突き刺さった。
>>>
再び、土人形視点。
火災現場では、消火活動も大詰めを迎えていた。
僕人形と大ちゃん人形で、栗っちの人形の腕を掴み、半ば強引に地下室へ移動を開始する。
一瞬、栗っち人形がビクンと動いたのは、本体が砂浜に突き刺さったのが原因だろう。
「あ、こんにちは!」
「俺んちは防火は完璧なんだぜー」
「えへへー! すごいねー!(腹話術)」
「……な、なんだってーーー?」
などと、周囲の知り合いへのアリバイ工作にも余念はない。
「あ、たっちゃんたち、来てたの? 火事、怖いね」
突然、女子が話し掛けてきた。
クラスは違うが、同級生だ。名前は確か……
「チカコは、いま来たトコなんだー あれ? 栗栖くん、具合悪いの?」
思い出した。河西千佳子だ。
〝一人称が名前〟の女子ってなんか懐かしいな。
ポニーテールで、フード付きのジャンパーと長めのキュロットスカートに、慌てて出てきたのだろう。少し履き古した大き過ぎるサンダルという姿だ。
「ちょっと聞いたんだけど、ヒーローがおじいさんを助けたんだって?」
「うん。3人組で、赤いのと青いのと、緑のが居たよ」
「そうなんだ! ホントに出たんだね、見たかったなー!」
河西の家も、確かこの近くだったな。きっと騒ぎを聞きつけて見に来たのだろう。
「それにしても、栗栖くんグッタリしちゃってるね、大丈夫?」
「ああ、なんか、はしゃぎ過ぎ、みたいな?」
今、ちょっと栗っちの株を落としたかもしれない。
「あはは! 栗栖くんらしいねー」
なんか納得された。どうやら大丈夫そうだ。
「じゃ、火も消えそうだし、栗っちもこんな感じだから、俺たち、帰るなー」
「あ、うん、またね。お大事にー!」
大ちゃん人形は、まだちょっと動かし辛いが、多分、違和感は無いだろう。問題は栗っち人形だ。この状況で栗っちの家族にでも出会ったら大変だぞ。
……あ、ダメだ。
今、盛大にフラグ立てたな、僕。
「和也? どうしたの!?」
……ほら、言わんこっちゃない。栗っちのお母さんだ。




