レッド参上
「元気なのはいいが、あまり心配をかけないようにするんだよ?」
僕たち3人がお礼を言うと、町の駐在さんは、優しく僕達を諭してくれた。
「はい、ありがとうございました!」
洞窟事件の時、駐在さんは、ずっと僕を呼び続けてくれた。本当に感謝している。
「また何か困った事があったら、いつでもおいで」
僕たちは派出所を後にした。
駐在さんは笑顔と敬礼で見送ってくれている。
「本当に良い人だよなー! ああいう大人になりたいと思うぜ」
「正義の味方って感じでカッコイイよね」
僕にも、この星を守るという使命がある。
改めて身が引き締まる思いだ。
「おまわりさん、ありがとうー!」
栗っちは、まだ手を振り続けている。
「おいおい、栗っち、駐在さんがちょっと困ってるだろー」
「えへへ。おまわりさん、僕たちの事、本気で心配してくれてたよ」
どうやら栗っちの〝精神感応〟でも、駐在さんの心遣いに偽りは無かったようだ。
そりゃ手も振るな。僕だって、もう一回振りたいよ。
「さて、それじゃ、まりも屋かな-」
「よーし! 急ごう! 12時になると混んじゃうし」
「たっちゃん、うれしそうだよね」
っていうか、今日は誰が何と言おうと〝オムライスの日〟だからな。
嫌でもテンションが上がる。
『タツヤ、ちょっと待って』
待たない。今日は〝オムライスの日〟なんだ
「ちょっ? たっちゃん?! ブルーさんが……」
「え? 何かあったのか?」
大ちゃんが〝凄メガネ〟をかける。
……ああもう!
こういう場合はきっと何か事件なんだよな。
「なんだよ、ブルー」
『キミの自宅周辺に、人が密集している。まだ増え続けているぞ』
「んー、という事は、俺んち周辺でもあるよな。何だろう」
「えへへ。ちょっと待ってね」
栗っちが〝千里眼〟の構えをとった。
「ああっ! 燃えてる! 火事だよ!」
見る見る青ざめていく栗っち。
「マジで?! どこ? まさかウチ?」
冗談じゃない。そんな記憶、全く無いぞ。
歴史が変わったか?
「俺んちは防火システムがあるから大丈夫だな」
大ちゃん家は本当に凄いな。
六角形でパリパリ割れる〝バリア〟とかも張れるんじゃないか。
「ううん。たっちゃんの家じゃないよ、いち、に、さん、よん件となりの、えっと……」
「麻木さん?」
「そう! 表札に麻木って書いてある!」
門のある、大きなお屋敷だ。ウチの五~六倍はある敷地に、大きな庭や池もある。
「消防車が来てるけど、どんどん火の勢いがすごくなっていってるよ」
今日は乾燥しているし、風もある。その上、麻木邸は、純・木造家屋だ。マズイぞ。
「行こうか! 救星戦隊プラネット・アース 出動だ!」
「すごいね! ご近所も守っちゃうんだね!」
「というか、こっそりとなー。近所過ぎるし、人も多いし、俺達だってこと絶対バレるぞ?」
それもそうだ。とりあえず、変身せずに行こうかな?
『タツヤ、土人形を並べておけば、カモフラージュになるのでは?』
「ナイスアイデア! それで行こう」
僕は自宅方面に走りつつ、地下室の栗っちの人形を僕の人形に背負わせて外に出た。火災現場の人混みに、こっそり立たせて……と。
「オッケー、これで僕と栗っちのアリバイは完璧だ。で、次は……」
僕は立ち止まり、周囲に人が居ないのを確認してから地面に手をついた。
「出よ、大ちゃん!」
グムグムと地面が盛り上がり、大ちゃんそっくりの土人形が完成した。
「おお、俺だ! 凄いな、たっちゃん!」
大ちゃんはリュックサックからベルトを取り出しつつ、人形を見て驚いている。
「ブルー、大ちゃん人形と、僕の人形を繋いで! 今回は僕が操作するから」
『了解だタツヤ』
すぐに、大ちゃん人形の感覚が来た。さすがに三体目はちょっと操作感が良くないが、そこそこの動きは出来そうだ。
自分の土人形に意識を移す。火災現場では、圧倒的に困難な状況での消火活動が行われていた。消防車は2台目が到着したが、未だ火の勢いは衰えない。
「大ちゃん、変身して先に行って! 僕はもう少し近くまで、人形を連れて行くから」
変身した大ちゃんは、まだ飛べないにしても体力と素早さに凄い補正が掛かる。栗っちは、変身しても素早さ15のままなので、僕と一緒に行ってもらおう。
「俺に任せろ! 変身!」
まばゆい光に包まれ、変身が完了した。あれ?
「えっと……レッド、リュックサックは?」
「光学迷彩だ。アレがあると、かっこ悪い上に、正体がバレバレだからな!」
いつものリュックサックは、透明になっているらしい。どんどん新技術が導入されていくな。相変わらずワクワクが止まらない。
「では、先に行っているぞ!」
「何かあったら連絡して!」
「えへへ、気をつけてね!」
レッドは凄い速さで走り去っていった。あれなら一瞬で到着するな。よし、ちょっとここは演出しておこうか。僕は土人形の視覚で、レッドが到着するのを確認して、大声を上げた。
「あっ! あれは!?」
僕が指した先に、レッドは人混みを押し分けて現れた。周囲の誰もが、「何だこの子どもは」という顔をしている。まあ、小学生サイズだし、そうなるよな。
「あなたは誰ですか?!」
僕の言葉に、レッドも勘付いたらしい
「私は、正義の味方だ。状況を教えてほしい」
状況は、土人形で先程から見聞きしていて、ある程度わかっている。まず、中に一人、取り残されているようだ。それ以外の家族は外出しているらしい。そして、強風や乾燥以前に、消火活動の妨げになっているものがある。
「犬が邪魔をしているんです!」
絵に描いたような強面ゴリゴリのドーベルマンが、大きな門の格子と格子の間に2匹、そして庭に3匹居る。ご近所うちでは有名なのだが、かなり訓練されていて、関係者以外は例外なく襲われる。門の前には、〝猛犬注意〟の張り紙が貼ってあるが、すぐそこにドーベルマンが見えているので、「張り紙いらねーな」と、小さい頃から何度も思ったものだ。
「おい、君たち、何をしているんだ!」
僕が大声とワザとらしい口調でレッドに説明していると、警官に声を掛けられた。あ、さっきの駐在さんだ。
「私は正義の味方だ。話は聞かせてもらった。もう大丈夫だ」
「キミ、ダメじゃないか。こういう時にふざけていると、危険だし迷惑になるよ」
もっともだ。なんとなく、このまま帰りたくなる。でも、レッドになった大ちゃんは全く動じない。
「ハハハ! 私の姿を見ればそう思われても致し方ない。ちょっと待ってくれたまえ」
そういうと、門の格子の前に進む。
「危ない! その柵には電気が通っているんだ。家の人でないと開けられないんだよ!?」
門には〝猛犬注意〟の隣に〝あぶない! でんきがながれています!〟と、大きく書かれている。色々と問題だろう、コレ……と思ったら、普段はその手前に、もうひとつ鉄格子があって、中の格子には触れないらしい。どちらかと言うと、犬を外に出さないための仕組みのようだ。
「緊急事態なので失礼する。 レッド・ブレード!」
〝ダイ・サークブレード〟と、言い間違えないのは、さすがだな。
レッドが腕のプロテクターをスライドさせると、短い筒状の物が飛び出した。赤い光が伸びて、剣になる。
「ちょっと離れていたほうが良い。レッド・スラッシュ!」
鉄格子がスパスパと綺麗に切断されて、人が通れるほどの四角い通路ができた。観衆から、ざわめきが起こる。
「君! 危ないぞ、犬が!」
駐在さんは警棒を持って構えた。
「大丈夫だ。チェンジ、スタンモード」
レッド・ブレードの光が黄色く変化して、電気の火花が散る。
「すまないが、少し痛いぞ」
襲い来るドーベルマンに、一撃ずつ加えると、2匹は地面に倒れて動かなくなった。
「気絶させた。暫くは動けないだろう」
「どうなってる? 君は一体何なんだ?」
駐在さんは警棒を構えたまま、ポカンと見惚れている。
この時点で、野次馬から、歓声のような物が上がり始めた。
……こりゃ、早く到着しないと、僕の出番が無くなっちゃうな。




