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職員室

「職員室って、妙に緊張するなあ」


 久しぶりというのも相まって、超ドキドキだ。


「ううう……何だろうね、お話しって」


 栗っちが青ざめている。


「うーん、色々と思い当たるフシが有りまくるしなー」


 大ちゃんは腕を組んで首をひねっている。


「……まさかアレとか、アレかな。いや、もしかしたらアレかも?」


「達也、アレって何だ?」


 背後から、谷口先生が現れた!


「ひゃあぁ?!」


 びっくりした!

 ……脅かさないで下さいよ。

 変な声が出たじゃないですか。


「待たせたな、三人とも中へ入れ」


 職員室に入った僕たちを待っていたのは、正月の〝洞窟事件〟に関する、ちょっと重めのお説教だった。

 ……良かった。アレでもアレでも、ましてやアレでもなかったか。


「…………という事だ。わかったな?」


「はい! ごめんなさい! もうしません!」


 3人で、口をそろえて反省の言葉を述る。よし、これで無罪放免だな。


「あ……あれ? 先生?」


 谷口先生が、わかった〝な?〟の所で、固まってしまっているぞ。

 ……何だこれ?

 違和感を感じて、周囲を見渡す。


「おいおい。たっちゃん、何か変だぞ?」


 大ちゃんも、同じようにキョロキョロと辺りを見回している。


「うん、先生たちも、急に動かなくなった」


 壁の時計の秒針も止まっている。

 これは単に故障かもしれないけど……


「マジか?! たっちゃん……見ろよ、あれ!」


 大ちゃんの指さした先。窓の向こうのスズメが空中で静止していた。

 ここまで来ると〝不思議現象〟確定だな。


「どう思う? 栗っち」


 隣の栗っちに話し掛けたが、返事がない。

 よく見ると、栗っちも先生と同じように固まってしまっている。


「そんなバカな! 栗っち?!」


 (まばた)きもしていない。

 どうやら動いているのは、僕と大ちゃんだけのようだ。


『ふう。危ない危ない。タツヤ、全身ちゃんと動くだろうか』


「ああ。大丈夫だけど、どうなってるんだブルー?」


『これは、時神(クロノス)休日(きゅうじつ)という現象だ。時間管理局(じかんかんりきょく)が運営を()めた時に起きる』


時間管理局(じかんかんりきょく)?」


『そうだ。と言っても、生物が運営してる団体ではない。宇宙の法則のうち〝時間〟を(つかさど)る部分〝そのもの〟を指すんだ。それが、何らかの理由で休止状態になる事を、時神(クロノス)休日(きゅうじつ)と呼ぶ』


「じゃあ今って、宇宙全体の時間、止まっちゃってるの?」


『そうだね。そして、止まった時間の中で行動するには、時券(チケット)が必要だ。今回は突然だったのでギリギリだったけど、なんとか発券してもらえた。一枚の券で、一回の休日を過ごせる』


 宇宙全体の時間が止まっているだって? また新しい不思議現象か……


「たっちゃん、あのさ?」


「あ、ごめんごめん、大ちゃんを放っといて」


「いや、俺、さっきから聞こえるんだ。その……声が。いま、たっちゃんが会話してた相手が、ブルーだろ?」


「マジで?! 何で急に?!」


『それはね、今まで私の存在を隠していた〝自然現象〟が、一切無くなってしまったからだ』


 土砂降(どしゃぶ)りの雨の中の一滴は気にならなくても、曇り空から(ほほ)に落ちた一滴には気づくだろう? と、ブルーが説明した。確かに〝お、降って来たな?〟ってなるな。


『はじめまして、ダイサク。まずは、この現象について詳しく話をしよう。ふたりとも聞いて欲しい』


 ブルー曰く、時神(クロノス)休日(きゅうじつ)が自然に起こる事は非常に(まれ)で、何らかの意思が時間管理局に干渉した可能性が高いらしい。

 つまり、今回の時間停止も、十中八九、作為的に引き起こされた物のようだ。


「ダーク・ソサイエティかな?」


『いや、タツヤ。今の人間の文明レベルでは、時間管理局に関わることは出来ないだろう』


 休日の長さは管理局への干渉の度合いによるが、止まった時間は、そのうち必ず動き出す。永遠に止めるというのは不可能だそうだ。


「かなりのエネルギーが必要になる。太陽一個分を使えば、まる一日ぐらいは止められるかな」


「えっと、ブルー……で良いのかな?」


『構わないよ、何か質問かい?』


「あのさ、全てが止まっているなら、今、俺たちが見ている光景はどういう事なんだ?」


『面白いね、さすがダイサクだ! 確かに、時が止まれば〝目に見える〟という事が、有り得ない』


 何言ってるんだ? 駄目だ。会話についていけない。


『今、見えているように感じ取れているのは、時券(チケット)と呼ばれる物の効果だ。それについては後で説明しよう。時券(チケット)が、物質の存在を脳内で視覚化しているだけで、目は機能していない』


「なるほどね、すごく不思議だけど大体わかった。あと……呼吸が出来てるのは?」


『ああ、空気関係か。呼吸と会話と……動作も全てだね。それらは多分、この後の説明と重複するので、キミならわかると思うよ』


「おっけー! 了解した。ありがとな、ブルー」


 了解しちゃった!? 呼吸って何だ? 僕の中では何も解決してないぞ?


『タツヤ、大丈夫。全て、不思議現象でうまくいっているんだ』


 なるほど。不思議に目が見えている事と、不思議に呼吸が出来ている事と、無様に僕が馬鹿にされてるっぽい事だけは良くわかった。


「たっちゃん、気にする必要の無い事だぜー」


「大ちゃんは優しいな。ブルー、おバカな僕は放っておいて、続けてくれ」


『了解した。それでは聞いてほしい』


 そういってブルーは説明を再開する。

 さらっと〝おバカ〟を肯定しやがった……


時神(クロノス)休日(きゅうじつ)に縛られず時を過ごすには、時券(チケット)を所持していなければならない』


 僕の場合は、ブルーが直接、時間管理局にアクセスして、時券(チケット)を取得してくれたようだ。

 時券(チケット)は、様々な形で存在する。実際に物質として存在するもの、実在はしないが、精神や魂や遺伝子のレベルで持っているもの、時券(チケット)の機能が含まれた能力というのもあるらしい。


『タツヤの場合は、実在しない、精神的な時券(チケット)になる。ダイサクが今、停止せずに休日を過ごせているという事は、何らかの形で時券(チケット)を持っているのだろう』


「俺の能力のどれかが、時券(チケット)の機能を持ってるかもしれないのか」


『もしくは、前世や先祖から引き継いだという線もある』


「栗っちは止まってしまっているな。持ってなかったのか」


『カズヤの持つ〝救世主〟の覚醒が進めば、時券(チケット)の効果を得るだろう』


 停止した全てのものは、移動させたり、壊したり出来るが、休日が終わり次第、元の場所・元の形に戻る。

 例えば、いま!停止している谷口先生が、時券(チケット)を持った誰かに殺されたりしても、今、時が止まっているこの学校が粉々に破壊されたとしても、全て元に戻る。


「おいおい、そうなると、止まっている方が安全という事だよな」


『そうだね、普通は大人しく停止していれば、その内、休日は終わって何事も無かったように時間は流れ出す。だが、もし時を止めた者の狙いがタツヤだった場合、話は別だ』


「〝敵〟だった場合って事か?」


『そうだタツヤ。地球の破壊を目的とした者が居た場合、停止したタツヤを破壊する方法は少なからず有るんだ。だから念のため、時券(チケット)をとった』


「俺の聞いた話だと、たっちゃんは確か、不老不死じゃなかった? その上、殺されても時間が止まる前に戻るなら、問題ないんじゃないのか?」


『今、地球は時を止められている。というか、全宇宙の時間が止まっているんだ。そして、時券(チケット)は、生物にしか発券出来ない。つまり、地球自体は停止を免れない』


「そうか、僕の力って全部地球から貰っている物だったな」


『そうなんだ。私はタツヤと融合しているから生物扱いとなっているが、地球自体は止まる。必然的に、地球から得ている力は、私がストックしている分を除いて、タツヤには伝わらなくなる。もちろん、今の状態でもタツヤを破壊できる存在など有り得ない。だが、タツヤまで時神(クロノス)休日(きゅうじつ)に巻き込まれたら、その不死性に問題が出る』


「そうか、ブルーまで止まっちゃうんだ」


『そう。そして、停止した物質を〝復元させずに〟破壊する方法がある。これが問題だ。例えば、時券(チケット)と同じ効果を、物質に与えるやり方だ』


 それを聞いて、大ちゃんがハッとした。何かに気づいたようだ。


『物質は通常、時券(チケット)を持った生物に関わった時だけ時の流れを取り戻すが、休日が終われば元の位置、元の状態に戻る。そしてそれには、いくつかの例外がある。例えば、今、ダイサクが手に持っている変身ベルトは、通常通り動作するだろう』


 動くんだ、ベルト。


『もっと細かい所では、キミ達が今着ている服は、停止していない。それは休日が始まった時点で時券(チケット)所持者に触れていたという例外措置的なものなので、休日が終わっても巻き戻らず、破壊されたままになる。このような例外を、意図的に行われたら危険だ』


「つまり、例えばたっちゃんが停止してしまった状態で、首でも()ねられた上、巻き戻らない方法で時を進められたら……って事だよな」


『さすがだ、ダイサク。その場合、タツヤは死ぬ』


 死ぬんだ、僕! 急に怖くなってきた!


時神(クロノス)休日(きゅうじつ)は、数少ないタツヤの弱点の一つではあるが、故意に起こせる存在は居ないと油断していた。今後は必ず、時券(チケット)を多めに取得しておくことにしよう』

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