表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/267

土人形

『タツヤ、たった今キミは〝土人形(つちにんぎょう)〟を使えるようになった』


 深夜2時、ブルーが言った。

 自在に操れる、自分と同じ姿の人形を作り出す能力〝土人形〟。操作には、かなりの練習が必要らしい。


「やった! ブルー、どうやって使うんだ、土人形」


『地面に手が触れている状態で、作りたい人形の姿をイメージすればいい。自分の人形なら本当に簡単だよ』


 ブルー曰く、熟練すれば自分以外の人形も作ることが出来るらしい。


「よし、そーっと外に出て作ってみようか」


『万が一、誰かに目撃されたら大変だ。地下室で作るといい』






 >>>






 僕はこっそりと外に出て、地下室に入る。床に触れて、自分の姿をイメージすると、ズモズモと奇妙な音を立てて床面が盛り上がる。


『タツヤ、イメージしやすいのはわかるが、キミは今、11歳だ』


 出来上がったのは、26歳の内海達也(うつみたつや)人形(1分の1)。


「あーあ……巻き戻ってまだ一週間も経ってないからな」


 そう、まだ一週間も経ってないのだ。なんか、ここ数日で、色々と起こり過ぎじゃない?


『キミの存在は、とてつもなく大きい。大きな石を池に投げ込めば、それなりに大きな波紋が出来るだろう。今起きている事は、キミが巻き戻った事に起因しているから、そのうち収まるはずだよ』


 なるほどね。このままのペースで何かしらの事件が起こり続けるのかと思った。


「で、これ、どうしよう……」


『消そうか。もう少し練度を上げなければ、複数体の人形は作れないからね。直接人形に触れて、消えろと命令すればいい』


 なるほど簡単だな。僕は人形に手を当て、消えろと(つぶや)いた。


「ぎゃああああああああ!!!!」


 悲鳴を上げ、膝をつく26歳の内海達也。


「うぐああああッ! 痛い! 痛い! 痛いいいいぃぃぃ!」


 苦悶の表情で涙を流しつつ僕を(にら)む人形。


「嫌だ、うがああああ! うぐっ! うぼぇあああ!」


 転げ回り、のたうち回り、やがて床に溶けていった。


『さあ、やり直そうか、タツヤ』


「出来るかああああっ!!!!!!」


 何だよ今の!? 何だよこの罪悪感!! 


『どうしたタツヤ?』


「いやいやいやいや! 今のどういう事さ?!」


『ああ、今の土人形の声は、キミにしか聞こえないから安心していい』


「そういう事じゃなくて! すっごい苦しそうだったよね?!」


『心配ない。土人形には意識も感情もない。苦しんでいるように見えるのは気のせいだ』


「それはアレだよな〝魚には痛覚が無いから、さばいても大丈夫〟的なヤツだよな?!」


『魚に痛覚はあるぞ、タツヤ。活造(いけづく)りとか、本当に人間は可哀想(かわいそう)な事をする』


「土人形の消え方も、見た目が可哀想(かわいそう)なんですけど! 何とかならないのかよ!」


『了解した。何とかしてみよう。安心してくれていい』


 毎回、人形を消す度にアレじゃ洒落にならんぞ。


『お待たせした。完璧だ、タツヤ。もう一度やってみて』


「よーし、11歳の自分をイメージして……」


 また、ズモズモと床が盛り上り、人の形になる。完璧な、彩歌(あやか)が出来た。


『タツヤ、何度も言うようだがアヤカの事を考えすぎだ』


「いやいやいや! そんなに考えてないよ!?」


『しかも、自分ではない土人形を、訓練も無しに完璧に作るとは。アレだな、タツヤは』


「アレって何だよ、ハッキリ言ってくれよ!」


『私のキャラ的に、それは言えない。察してくれれば助かるのだが』


 僕の気持ちも察してくれよ! ……あ、察してるから言わないのか。逆にショックだブルー。


「やり直すぞ、ちょっと残念だけど」


 僕は彩歌人形に手を置いた。感触も、普通の人間と同じだ。ちょっと頭を撫でてみる。


『やはりタツヤはアレだな』


「やっぱりアレってアレかよ! 僕はアレじゃねぇし!」


 なんだかよくわからなくなった。早く消そう。


 「消えろ」


 そう言われた彩歌人形は、ハッとした表情で僕を見た。うっすら笑顔を浮かべながらポロポロと涙を流す。両手を差し出されたので咄嗟に握ると、何か言いたそうに、泣きながら僕を見ている。


 「……さようなら」


 彩歌人形は、口の動きで微かに分かるぐらいの小さい声でそう言うと、僕の手をスルリとほどき、笑顔のまま床に消えて行った。


『さあ、やり直そうか、タツヤ』


「ちょっと待てえええええい!!!!」


 さっきのより罪悪感が! トラウマ級なんだけど!


『どうしたんだタツヤ?』


「お前、わざとやってるな?」


『さすがだなタツヤ。よく気付いたね』


 やっぱりか。ああもう、なんかモヤモヤする。


「ブルーさん。真面目にやって下さい」


『了解した。タツヤは面白いな』


 今度こそ、今現在の自分のコピーを作るぞ! これ以上面白がられてたまるか。


「いでよ! 僕!」


 ズモズモと以下略。

 成功だ。11歳の自分が出来上がった。


『見事だタツヤ。キミの精神と接続するよ?』


 奇妙な感覚だ。無いはずの〝3本めの腕〟が、背中から延びて行き、土人形に繋がったのが分かる。そして徐々に、土人形の頭、両足、腕、体のすべての感覚が自分の物として広がっていく。視界と音も、背中から伸びた腕の先にあるもう一つの器官として、感じ取れるようになった。


「うお! これ凄いな。思ってたより感覚的に操作できそうだ」


 土人形の視界から僕が見えている。なんか変な感じだが、自分の目で見ている視界とは別の感覚で捉えられるので、全然違和感がない。


『そうなのか? タツヤ、ちょっと動かしてみてほしい』


 僕は、無いはずの〝3本めの腕〟の先にある、人形の右手を上げてみた。〝右手の人差し指を立てる〟ぐらいの感覚で動かせる。


『タツヤ、恐れ入った。少し動かすにも、普通はかなりの訓練が必要なのだが』


「そうなのか?! 僕って、もしかして天才?」


 僕は人形を色々と操作してみた。歩く、走る、座る、ジャンプ、逆立ち、側転、バック転。


『ちょっと待った、タツヤ、本当にどうなっているんだ?! キミ、もしかして土人形の視界、もう見えてるのか?』


「え? 最初から見えてるけど」


『音とかも聞こえてる?』


「うん、最初から聞こえてる」


『ありえない。凄いぞ、タツヤ!』


 あれ、そうなの? 僕的には手を動かしてるのと同じ感覚なんだけど。


「あー、あー、只今マイクのテスト中―」


 土人形に喋らせてみた。


『最高だ!! 発声は一番苦労する所なんだぞ?!』


「えー、本当に?」


『だってタツヤ、今やった、一連の動作が出来るなら』


「出来るなら?」


『もう、土人形と入れ替わって、生活できるな』


 ……という事で、僕、明日から、人形と入れ替わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ