からあげとそーせーじ
我が家のリビングに、大ちゃんがいる。
朝から行った〝ウサギのエサやり〟。
……結局、ヒーロー活動になったけどね。
その帰りに、ちょうど玄関前に母さんが居た。
「え、大作くん、お家の人、誰も居ないの? ご飯とかはどうするの?」
という感じになり、一緒にお昼を食べる事になったのだ。
あ、栗っちの千里眼によると、町田鏡華、大波友里、橋月日奈美の三人は、無事に保護されて、背の低いおじさんも、逮捕されたようだから安心してほしい。
「いやー、悪いな、たっちゃん。俺、家に帰ればカップ麺とか、あったんだけど」
「まあ、栄養とか、偏っちゃうから」
ちなみに父さんは、明日が正月休み最終日なので、同僚と日帰りスキーだそうだ。元気だな。
「あれ? おばあちゃんは?」
「ああ、おばあちゃんもね、老人会の寄り合いで、お弁当が出るんですって」
おばあちゃんは近くの公民館で新春カラオケ大会だって。元気だな。
「しかし、冬休みももうすぐ終わりか。早いなー」
「僕はね、ちょっと楽しみなんだ。学校」
「あー、たっちゃんは〝久し振り〟だもんなー」
よく覚えているな、さすが大ちゃん。
……そう、久しぶりにみんなと会えるのがうれしい。まるで同窓会に行くみたいな気分だ。
「でも授業、2回目だろ? つまんないぜー、きっと」
「はは。大ちゃんは絶対に忘れないからなぁ。僕はね、多分ほとんど忘れてると思うよ」
リビングで大ちゃんと話していると、妹が入ってきた。
「あ、大ちゃん、あけましておめでとう!」
「よー! おめでとう!」
ん? ……あれ? 妙に違和感が。
「るり、なんか背、伸びてないか?」
明らかに伸びた。というか、ちょっと待て! 何で身長が同じくらいあるんだ?
「あと、お前〝大ちゃん〟じゃなくて〝大作さん〟って呼んでなかったっけ……?」
妹が僕の同級生を呼ぶ時は、ユーリ以外全員、〝名前+さん〟だったような……?
「え? 何言ってるの? 私、ずっとこの呼び方じゃん」
「たっちゃん、俺、同級生から〝大作さん〟なんて呼ばれたら、ちょっと照れちゃうぜ?」
え? え? なに言ってるんだ、大ちゃんまで。
『タツヤ、随行者の左手だ』
「え? それって栗っちの能力じゃ……」
『カズヤのは、随行者の右手だよ』
「あ、うん。そうか、そうだったな……え?」
「前にも言ったが、随行者の左手は、救世主と同じ時を生きる能力だ。だから、年齢も同じになるし、周囲の全ての不整合が修正される。普通の人間では、この変化に気付くことは出来ないだろうね」
「さすが救世主と永遠の愛を誓った者だけのことはあるな。スゴい能力だ」
『そうだタツヤ。救世主には理不尽なほどに奇跡的な力が用意されている』
「ふーん……で、それと妹と、何の関係があるんだ?」
『本気かタツヤ!?』
まったく! ブルーらしくないな。急に関係のない話を始めるとは。
まあ、なんだ。
るりの件に関しては、なんか不思議現象だな。
カマキリ男とか悪魔とか猫耳娘とかが出てくるんだから、それ位はあるある。
『タツヤ、なんで妹とカズヤの事に関してはそうなるんだ?』
「ん? 栗っちは今回の事には関係ないだろう?」
『……私にとっては、一番の不思議現象だ、タツヤ』
なにかブルーが言っているが、それもきっと気のせいだな。
「ああ、るり、九条君のご両親、急用で遠くに行かれてるんですって。だから、お戻りになるまで、ウチで食べてもらうわね」
台所の奥で、戸棚から食器を出しながら、母さんが言った。
「へー、そうなんだ……大ちゃん、もしかして遠くって、ドイツ?」
「当たり。さすが双子だけあって、たっちゃん並みにヒラメキが良いよな!」
ん? 双子? 誰と誰が? あ、そっか、不思議現象で僕と妹は双子設定か。あるある。これ位の事では驚かないぞ。
「大ちゃんさ、ドイツ以外も色々と詳しいでしょ? ハネムーンはやっぱりヨーロッパにしようって話してるんだ。またその内、色々と教えてよね!」
「ははは、栗っちも気が早いな~! いくら婚約したって言っても、まだまだ先の話じゃんか」
何故だろう。すごく引っかかる会話な気がするが……まあ、それも不思議現象のせいだろうな。うん。気のせいだ。
「お待たせ。こんな物しかなくてごめんね。九条君が来るってわかってれば、もっと何か用意したんだけど」
「いえいえ、俺、からあげ大好きです。いただきます!」
そんなわけで、数日間、大ちゃんはウチでご飯を食べることになった。
「どうせなら、ここで寝泊まりすればいいのに」
「いや、もしかしたら親父達から連絡が来るかもしれないからなー」
大ちゃんの両親は、きっと自宅が一番安全だと思っている。よそで寝泊まりすれば、余計な心配をするだろう。
セキュリティを最大にしたという事は、ドイツに行ったのも、例のダーク・ソサイエティ絡みなのかもしれない。
『タツヤのそばが一番安全なんだけどね』
「そうだな。でも、大ちゃんちのセキュリティも凄いんだぜ?」
どんな罠が飛び出すのか、ちょっと興味がある。
「〝お前は大丈夫だと思うが、なるべく外には出るな〟とか、言われてるしなー」
「そうだったんだ。じゃ、家で居たほうが良いね。何かあったら、例の欠片で呼んで! すぐに行くから」
「おおー、頼もしいぜ! ありがとなー!」
と、言って、大ちゃんは帰って行った。さて、見つかる前に、大ちゃんに交換してもらった300ユーロを地下室に置いてこなきゃ。
「ああ、そうだ、昼から栗っちが来るかもしれないな」
『〝精神感応〟の練習だな。カズヤは真面目だね』
地下室に入ってしばらくすると、やはり栗っちも現れた。
「たっちゃん、また、練習付き合ってくれる?」
「おう! もちろん!」
そして、この日の晩ごはんは、栗っちも加わって、さらに賑やかだった。
母さんに希望を聞かれたので、牛麻神社で食べ損ねた、お好み焼きをリクエスト。とうもろこしも食べたかったけど、そちらはさすがに却下されてしまった。ちょっと残念。
「はい、和也さん、あーん! おいしい?」
「えへへ。とってもおいしいよ!」
そういえば、母さんやおばあちゃんの前だというのに、妹と栗っちが妙にベタベタしているようだが……まあ、気のせいだろうな。




