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全てを知るという事

 カマキリのような姿になった〝アル〟こと〝アルレッキーノ〟が、 すでに頭と腕がなくなった〝黒スーツ〟の胴体を、真っ二つにする。

 悪の秘密組織と怪人か。大ちゃんの親父さん、面倒なヤツらに目をつけられたものだな。 


「はっはー! そう。僕は、カマキリ人間なのさー。こうなったら、ちょーっと強いよ?」


 声も若干、特撮の怪人っぽくなってる。


『タツヤ、あいつの強さは、なかなかだ。〝生物部分〟が少ないので誤差は大きいかもしれないけど、先日の悪魔と比べると、生命力は20倍ぐらい、防御力も5倍はあると思う』


「凄いな。攻撃力は?」


『わからないので、ちょっと食らってみて?』


「試食コーナーみたいに言うな」


 まあ、それも面白いか。どれどれ、アーン。


「死んじゃってー!」


 アルが鎌を振り下ろす。正確な一撃が首に当たる。金属音とも鈍器で殴ったのとも違う、不思議な衝突音が鳴り、攻撃は弾き返された。


「んー、チクッとした」


「えええー!? キミ、本当に何なのさ!?」


 カマキリ姿なので表情は分からないが、明らかに台詞(セリフ)に動揺がうかがえる。


『タツヤ、今の攻撃、何で換算するとわかりやすい?』


「仕方ない。あの〝赤い玉の魔法〟でヨロシク」


 ちょっと換算方法を考えないと、さすがに飽きてきたな。


『質が違うので計算しにくいけど、殺傷能力でいえば、2分の1ぐらいだね』


 やっぱり。ちょっと弱めな気がしたんだ。


「アルレッキーノさん、ちょっといい?」


「はーい、いいけど、キミ、こーんな状況なのに〝ユルい〟ね?」


 アンタには言われたくないな。


「今の一撃、同時に4000兆ほど出せる?」


「おいおい。なーんかスゴイ数字が出てきたなー。中二病かい?」


 うん、僕もそう思うよ。でも。


「それが出来ないなら、僕は死なないんだ」


「はーはっは! 嘘だよねぇ、そんな(やつ)ぁー居ないだろう?」


「本当だよ」


 しばしの沈黙。

 アイツの生命力と防御力から考えると、僕の攻撃では、倒すのに時間がかかり過ぎる。

 早く帰らないと〝作戦X〟が失敗に終わるんだ。ここは、諦めて帰ってもらおう。


「……あーあ。本当っぽいなあ。キミ何なの? マジ」


 素直に信じるアルレッキーノ。思ったとおり、(かしこ)い奴だ。


「ほらぁ、警察も来たし。ボスに叱られちゃうよ」


 本当だ。パトカーと救急車の音がする。スルスルと、人間の姿に戻るアルレッキーノ。

 落胆しながらも、やっぱりマイペースだな、この人。


「ちょーっとさ? 証拠隠滅しなきゃだから、その子、さっさと連れて、電車から離れて?」


 上着の懐からリモコンのような物を取り出し、スイッチを押す。なになに? 何するの?


「危ないよ? ウチの戦闘員を自爆させるから。あと、はーい、9、8、7、」


 アルレッキーノは、カウントダウンしながら逃げ出した。

 ヤバい! 僕も大ちゃんを抱えて車外に飛び出す。


「せめて20秒にしろよなあああ!」


 ドーン!! という爆発音が次々に轟く。

 僕たちが乗っていた車両で、アルレッキーノにやられた2体と、ダイサークキャノンで下半身だけにされた黒焦げの1体だけでなく、3、4両目の戦闘員も、ほぼ同時に爆発したのだろう。


「3両目の奴、バラバラにしたのに、よく起爆したな」


『タツヤ、それより、早く逃げた方がいい。ダイサクも一緒に』


 そうだな、作戦Xは、二人同時に家に帰らなきゃ成功じゃないんだ。

 僕は、燃え盛る車両の横を、大ちゃんを抱えたまま、自転車まで走った。

 顔に巻いたマフラーを外して、バックパックに突っ込む。

 大ちゃんは目を覚まさないし、このまま自転車に乗るのは無理だ。

 

「……とりあえず、少しでもここから離れよう」


 僕は大ちゃんを背負い、自転車を押しながら歩く。


「まあ最悪、あの電車に僕も乗り合わせてた事にすれば、誤魔化すことは出来るか」


『いや、タツヤ。ダイ・サークの目撃者が23人もいる。色々と問題になりそうだぞ?』


 そうか。大ちゃんがあの電車に乗っていた事がバレれば、どう考えてもダイ・サークは大ちゃんという事に、行き着いてしまうな。

 大声で名乗っちゃってたし。

 ……せめて、ネーミングをもう少し、ヒネっておいて欲しかった。


「急いで、良い言い訳を考えなきゃ……」






 >>>







 自転車を押しながら少し歩くと、背中の大ちゃんの意識が戻った。


「ん……あれ、たっちゃん?」


「良かった。大ちゃん大丈夫?」


 僕は大ちゃんを立たせて、自転車にまたがる。

 辺りはすっかり真っ暗だ。


「とにかく、時間がヤバイんだ、説明するから後ろに乗って」


 なんとなく状況を悟り、荷台に乗る大ちゃん。

 二人乗りだが、この際、大目に見て欲しい。

 急いで駅を目指す。


「うわ、たっちゃん超パワフルだな!」


「まあ……ね」


 さすがに、僕がパワフルな理由や、今回の事件の事は、ちゃんと説明しないと、もうどうにもならないよな。


「ブルー。どう思う?」


『良いとおもうよ、タツヤ。どうやらダイサクも、キミの周囲に集中した〝英雄候補〟の一人のようだしね』


 やっぱ、そうだよな。

 どう考えても〝特記事項〟とか〝賢さ〟とか、普通のヒトっぽくない。


「そうか。たっちゃんが助けてくれたんだな……」


 少し考えてから、大ちゃん口を開いた。


「…………回路、やっぱり、もたなかった。負けちまったぜ―」


 少し悔しそうに、ボソリと呟く。


「いや、ちゃんと戦えてたよ。スゴいじゃん」


「うーん、エネルギーの制御は完璧だったんだけど、負荷がキツイのが課題だよな」


 さすが大ちゃん。もう問題点に気付いたみたいだ。


「あ、そうだ。大ちゃん、紙とペン、持ってない?」


 すごいスピードで駅に着いた。

 元あった場所に自転車を停めて、さっき壊したチェーンを拾い上げ、前カゴに入れた。


「急ぎだから雑になるけど……盗られちゃったらごめんなさい」


 僕は、大ちゃんから受け取った色紙とサインペンで〝友達を助けるために、少しお借りしました。鍵とチェーンを壊してすみません。このお金で直して下さい〟と書いて4つに折り、旧一万円札を挟んで、そっとチェーンの下に置いた。


「なんで色紙とサインペン持ってるの?」


「だって、東京行ったら、有名人とかに会うじゃん!」


 そうだ。大ちゃん、意外とミーハーだった。

 さて……と。

 駅の時計で今、7時22分。さて、どう言い訳するかな……


「たっちゃん、簡単だぜ。逆に考えてみな」


「え? どういうこと?」


「俺が乗ってた、もうひとつあとの電車に、2人で乗っていた事にすれば、問題解決だ」


 そうか! 先に走ってる電車が遅れてたから、後続の電車も止められて遅れてるんだ!


「次の電車がそのうち着くから、それに合わせて家に電話しよう」


「あ、でも、あの電車、大爆発とかしちゃってたから、簡単には来ないかも……」


「そんな事になってたんだ。でも、開通しないならしないで、鉄道会社が臨時バスを出すだろ。それ待てばいい」


「おおお! さすが大ちゃん、賢さ5882だけのことはあるよ!」


「俺の賢さ、数値化されてるの? なんかちょっと興味あるな」


「ちなみに僕は25だよ」


「うわ! いくらなんでも、そんなに差、ないだろー?」


「あるんだなー。しかも、名工神(ヘパイストス)だし」


「ヘパイストス? ギリシャ神話の、鍛冶の神だなー」


「なんでも知ってるなぁ。やっぱり賢いよ、大ちゃん」


「いやいや、見聞きした事を忘れないだけだぜ」


「瞬間記憶?」


「あー、それそれ。〝カメラアイ〟とか、色々と呼び方があるみたいだな。一度見たものを、絶対に忘れないんだ」


「便利だな、すごい能力じゃない!」


「でも、忘れたい事だってあるんだぜ? 絶対に忘れられないけど」


「なるほど……うん、それはちょっとイヤかも」


「忘れるっていうのも、すごい能力だと俺は思うよ」


 深いなあ。僕もその内〝死ぬってすごい能力だよ〟とかいう日が来るのかもな。


「……あ、そういえば。大ちゃんって、どこかの〝司書〟なのか?」


 僕の質問に、大ちゃんの表情が強張(こわば)った。


「たっちゃん、その〝司書〟って、図書館の職員さんの事で合ってるか?」


「うん、僕もそう思ったんだけど。何か心当たりがある?」


 大ちゃんは、少し考えてから、一つ長く息を吐いて話し始めた。


「俺が考え事をする時は、まず、頭の中の記憶を手繰(たぐ)って行って、答えを探すんだけど、どうしても答えが見つからないと思った時、たまに、自分の頭の中ではない〝どこか〟へ通じる、扉が現れるんだ」


「扉……?」


「すごく立派な扉でなー? 開けると、本棚が一杯並んだ部屋に入って行けて、そこには、俺の記憶にない事が書かれた本が、無数にあるんだ」


『なんと!? タツヤ、やっぱりそうだ! 凄いぞ!』


 何故かブルーが興奮した感じになっている。どうしたんだろう。


「俺にはなぜか、欲しい知識の書かれた本の在処(ありか)がわかるんだ。図書館の司書さんみたいだろ?」


『本物だ! タツヤ! それは、〝バベルの図書館〟だ!』


「バベルの図書館?」


『森羅万象。まさしく〝全て知識〟が収められている場所だよ』


「そんな場所、あるの?!」


『そんな場所、無いんだ』


「どういう事だよ! 無いのかよ!」


『そう、そんな場所、有り得ない。けど、ダイサクはその図書館の司書だ』


「有り得ない知識の宝庫を自由に見れる……?」


『そうだ。彼は〝全て〟を知ることが出来る』

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