変身!
「変身!」
大ちゃんが、ベルト正面の赤い部分を押し込むと、まばゆい光が車両内を照らした。
「無敵超人! ダイ・サーク!」
ほぼ、本名だ。
大声でそんな……聞いている方も、ちょっと恥かしいんだけど。
……いや、しかし! その姿は思っていた以上にヒーローっぽくてカッコ良いぞ!
特に、カラーリングのセンスは秀逸だ。
シルバーを基調に、所々、赤いラインが入った光沢多めのボディがチープさを払拭。
マスクは、ヒーローというより〝合体ロボ〟にヒントを得たような、ちょっとゴツゴツしたデザインで、オリジナリティに溢れたマニアック仕様。
リュックサックを背負っているせいで、少し可愛くなっちゃてるけど、それはまあ〝動力源〟だから仕方ないか。
『おや? タツヤ。今朝の話では確か、あのベルトは〝皮膚が硬質化して被膜が貼る〟という効果だったはずでは?』
「そうだな。変身まで出来てしまうとは、言ってなかった。きっと、あの武装も発明品の応用だろう。前に見せてもらった〝W〟文字付きの光線銃も、腕時計のスイッチひとつで、何もない所から取り出したし」
『面白いね。もはや人知を超えている』
……ド派手に、パンチで扉を破壊し、
「さあ、みんな、逃げるんだ!」
とか言って、乗客を脱出させるダイ・サーク。
なぜか棒立ちでそれを許す黒スーツたち。
……もしかしてこれ、ヒーローショーじゃないか?
『いや、たぶん、あのスーツの男たちのターゲットは、ダイサクなのだろう。今回の一件は、彼の父親か、彼自身を狙ったものの可能性が高い』
なるほど。言われてみれば、大ちゃんが中学の時に引っ越して行ったのも、家族に何かあったとか、そんな理由だった気がする。
「ブルー、助けに入らなくてもいいかな?」
『ちょっと待って。今、ダイ・サークの詳細を表示するよ』
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九条 大作 Kujoh Daisaku
AGE 11
H P 17 + 256
M P 0
攻撃力 11 + 64
守備力 3 + 256
体 力 14 + 128
素早さ 10 + 64
賢 さ 5882
<特記事項>
名工神
瞬間記憶
思考加速
過集中
司書
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「強いなあ! まさに〝無敵超人〟だ!」
『〝神〟を冠する特記事項がある。興味深いね』
「本当だ! 名工神って? あと、賢さがヤバイな!」
『タツヤ。私は、最後の〝司書〟が気になる。もしかして……』
「司書って、図書館とかのアレか? ……あ、思い出した。そんな事より、毒ガスとか大丈夫かな?」
『今朝の話では、あのベルトは〝真空中〟でも平気な構造だった。単独で宇宙空間でも活動できるような仕様なら、毒ガスも大丈夫だろう。それに、誘拐目的なら〝致命的な攻撃〟はしないはずだ』
「あ、そっか。なるほどね」
『キミが先に2体ほど倒したし、カズヤの見た〝未来〟は、回避できたかもしれないよ』
そういう事なら、今はとりあえず、ダイ・サークの戦いを見守ることにしようかな。
「ダイサーク・パーンチ!」
「セントウモード・カイシ」
「ダイサーク・キーック!!」
「ターゲット・ロック・ホカク・カイシ」
「ダイサーク・チョップ!」
なんだろう、この戦い。
次の行動を全部言っちゃうユルさが、妙にイラッとするんだが。
『タツヤ、1体は見守っているだけで動かないが、2体同時だ。少しキツそうだぞ?』
確かに、若干押されているのかも。
……と、ここで大技が飛び出す。
「来い! ダイサーク・キャノン!」
腕のボタンを押すと、例のサッカーボールを撃ち抜いた光線銃が、頭上に現れた。
「うおおおおおおお!!! ファイヤー!!!!!!」
すっごい叫んでるけど、たぶんこの〝シャウト〟に意味はないと思う。
真っすぐ飛ばずに、グネグネとウネって進む怪しい光が〝ジュッ!〟という音と共に、黒スーツ1体の上半身を消滅させる。
……ついでに電車の壁も、座席ごと撃ち抜いて大穴が空いてしまった。
残った黒いスラックスの下半身には火がつき、盛大に燃えている。
『タツヤ、あれが!』
「そう。〝サッカーボール消し炭光線銃〟だ」
『あはは、呼称はもうちょっと格上げしてあげても良いんじゃないかな』
いや、格上げっていうか……よく考えたら、本人が〝ダイサーク・キャノン〟だと言っているのにな。
『あ、タツヤ、あれは……』
「え? なに?」
ダイ・サークが背負っているリュックサックから、見たこともない色の煙が上がっている。
「おいおい、あれはちょっと、ヤバくないか?」
僕が言い終わらない内に、ベルトのバックル部分からも煙が上がる。
間もなく〝複雑なシャッター構造の赤いカバー〟が開き、今日作ったと思われる、制御用の基盤が、黒焦げになって排出された。
「オーバーヒートだ!」
ダイ・サークは、フラフラと膝をつき、バッタリと倒れ込む。
そして超カッコ良く、変身が解けた。そこまで凝らなくても良いのに。
「大ちゃん!」
僕はドアを開けて車両内に入り、大ちゃんに駆け寄る。
『タツヤ、大丈夫。気を失っているだけだ』
「テストも無しで、いきなり実戦なんかするから」
『でも、なかなか強かった。よく戦ったよ』
「そうだな。後は僕がやる」
僕は、大ちゃんを仰向けに寝かせると、残る2体の方を向いた。
「ピピピ・ターゲット・チンモク・ピピピ・モード・ヘンコウ」
スーツの男が何か言っている。
「エネミー・ロック・ショウキョ・カイシ」
左手が外れて、毒ガスの噴射口が現れた。
……っておいおい、ちょっと待て!
そう思った瞬間、先程まで戦いを見物していた、もう一人の男が、手刀で、味方であろう男の腹に穴を開ける。
「あーあ。まーたプログラムミスだ。〝ガス〟使ったら、ターゲットまで死んじゃうでしょーよ?」
腹を貫かれた男は、膝をついて倒れ、ピクピクと痙攣している。
「おいー、変な覆面のキミ。ここまで来れるという事は、只者じゃーないな?」
スーツの男が話しかけてきた。そうか、僕、今、マフラーで顔を隠してたっけ。
「僕、その倒れてる子に、ちょーっと用があるんだよねー。何も言わずに大人しーく、しててくんない?」
するわけないだろ。こいつがボスか?
「お兄さん、何者なの?」
「ああー、ごめんねー、名乗るの忘れちゃってた。僕の名前はアルレッキーノ。アルって呼んでね」
アルレッキーノ。こいつは機械じゃないのか? それにしては、一撃で仲間を倒したし、どういう奴なんだ?
「僕の所属する組織は〝ダーク・ソサイエティ〟って言うんだけど、あ、これ、皆にはナイショね」
皆って誰だよ。っていうか、軽いな、口。
「後ろのその彼のお父様に、ずーっと、熱いラブコールを送っているんだけど、フラれっぱなしでね。仕方がないんで、搦め手でいこうって話になったのさ」
「ふーん、やることがストーカーチックだね」
「まーね、僕はあんま、こーんなやり方は好きじゃーないんだけど。ボスがどーしてもって言うからさー」
ボスが他に居るのか。
『タツヤ、さっき、犬か猫が一匹居るって言ったよね、あれ、コイツだ』
「おいおい、どういう間違え方なんだよ。あれ?じゃあ、もう一体は?」
『上だ、タツヤ!』
突然、天井に穴が開き、何かが降ってきた。黒スーツだ!
不意打ちを食らって、ちょっとビックリしたが、相手の刃物は僕の頭に当たり、ねじ曲がった。
「ああ、ビックリした!」
「おーいおい。ビックリしたのはこっちだよ。キミ、頭どーなってんのー?」
その割には、意外と冷静な感じのアルレッキーノ。ちょっと楽しげなのがイラっとするな。
「この後、ガス使うだろこれ。何とかしろよ」
僕は落ちてきた黒スーツの腕をつかみ、アルレッキーノの方に蹴り飛ばした。
「はいはい。あーあ、メンドクサイ」
手刀で、頭と左腕を瞬時に切り飛ばすアルレッキーノ。
あーあメンドクサイ。アルでいいや、アルで。
「キミ、強いね。ちょっとだけ、本気出しちゃおーかな」
そう言うと、上着を脱ぐ。次の瞬間、アルの体格が変わった。どんどん肥大する筋肉。徐々に体の色が黄緑色に変わっていく。両手は鎌のような形に変わり、顔も角ばって目は大きく、そして複眼になった。最後に触角が伸びる。これは!?
『タツヤ。犬か猫ぐらいの反応が、熊のサイズになった』
「なるほどね。本気を出すまでは、生物部分がイヌネコサイズだったのか」
だが、これは熊じゃなくて……
『カマキリだね』




