随行者
※視点変更
九条大作 → 栗栖和也 ←new!
※舞台変更
秋葉原 → 内海宅前
「たっちゃんと大ちゃんは、いま頃、もう電車の中かな」
僕は〝作戦X〟には、残念だけど参加できないんだ。お邪魔になっちゃうし。
……あ、ごめんなさい! 忘れちゃってた!
僕は、栗栖和也だよ。
いま僕は、たっちゃんの家の前にいるんだ。
「今日はね、るりちゃんと遊ぶんだ。楽しみだよね!」
チャイムのボタンに手を伸ばそうとしたその時……
「いい? お父さんもお母さんも、絶対に、2階に上がってこないでね?」
ドアの向こうから、そこそこ大きな、るりちゃんの声が聞こえてきたよ。
「特にお父さん……もし、階段に一歩でも足をかけたら……」
「あ、足をかけたら……?」
「あんたの娘には、一生会えないと思った方がいい」
「本人の言うセリフじゃないよね?!」
クスクス。やっぱりるりちゃんは面白いなあ。
僕はチャイムのボタンを押した。
「ピンポーン」
「バアァァーン!」
わわっ! ビックリしたよ!
チャイムの音が鳴ると同時に、玄関の扉が大きな音を立てて開く。
立っていたのは、けっこう奥の部屋に居たはずの、るりちゃん本人だ。
……相変わらず、早いなあ!
「か、か、和也さん、いらっしゃいませ! どどどどどどうぞ上がってください!」
「うん。それじゃあ、お邪魔します!」
靴を脱いで、ふと、奥の扉をチラリと見ると、お義父さんとお義母さん……じゃなかった。お父さんとお母さんが、こちらを覗いていた。
「ちょ! お母さん! なに見てるのよ?! もー!」
るりちゃんの困ったような声に、お母さんは、はいはい。と言いながらニコニコしている。
「お父さん? 今日の〝はんせい文〟は、げんこう用紙20枚ね?」
るりちゃんの怒ったような声に、お父さんは、ええええ?! と言いながら泣いている。
「ごめんなさい、和也さん……変な家族で」
「ううん。みんな楽しいし、いい人たちだよね!」
僕は、みんなの〝心の声〟が聞こえてしまう。〝精神感応〟って言うんだって。
……だから、悪い事を考えている人は、すぐ分かっちゃうんだ。
でも、るりちゃんの家族は、みんないい人だよ。だって、今まで一度も〝悪い言葉〟を聞いたことがないもん。
「か、和也さん、どうぞ……!」
るりちゃんの部屋は、たっちゃんの部屋の隣。
……入るのは、ちょっと久し振りだよ。ドキドキしちゃうよね。
「失礼します……」
るりちゃんに続いて、中に入る。
造りは一緒だけど、たっちゃんの部屋と違って、ぬいぐるみとか、小物とか、かわいらしい物でいっぱいだよ。
「わぁ! やっぱり、かわいいねえ!」
るりちゃんは、僕の目を見たまま、固まってしまった。
……と思っていたら、顔が見る見る赤くなっていく。
「ひゃあッ?! そそそっ! そんな! かわいいだなんて、私ッ!」
るりちゃんは、耳まで真っ赤になっているよ。
『私のこと、かわいいって言ってくれた! 私のこと、かわいいって! きゃあああああっ!』
今のは、るりちゃんの〝心の声〟だよ。
うーん、そういう意味で言ったんじゃないんだけど。でも、ぬいぐるみや小物なんかより、るりちゃんの方が絶対にかわいいから、別にいいよね!
……えへへ。ちょっと照れちゃうけど。
さて、るりちゃんは、今日は何をして遊びたいのかな。
「えっと……るりちゃん、何がしたい?」
「え?! あ、えっと……その……ボソボソ……」
あれ? 最後の方、聞こえなかったよ。
ごめんね。よく分からないけど、そんなに複雑な遊びじゃないなら……
「よーし、それじゃ、それをやろうか!」
るりちゃんとなら、何でも楽しいからね。
「ひゃうッ?! か、和也さん、意外と大胆……」
どういう事かな……?
『わ、私、とうとう和也さんと……! うれしい! うれしいよおおお!』
う~ん……? 考えている事はよく分からないけど、すごく嬉しそうで良かったよね。
「でも、僕、あまり詳しくないから、教えてくれる?」
「ひ、ひぃぃ?! わ、私もそんな……くわしくないのよ?! は、はじめてなのよ?!」
初めてかぁ。どんな遊びなんだろうね。
「それじゃ、二人とも初めてだね! どうすればいいかな?」
「か、か、和也さんが、の、のぞむなら……私、何をされてもいいの……」
るりちゃんは、両手を目に当てて、ベットにゴロンと寝転がる。
……これはどんな遊びなんだろう?
「和也さん……はやく……」
ごめんね、るりちゃん。僕、ちょっと分からないよ。
「えっと……るりちゃ……」
「いいのよ? 好きにしてくれて……」
え? え? 何なのこれ?! るりちゃん、顔も手も、つま先まで真っ赤だよ!
……もしかして、真っ赤になるほど怒っているの? 僕も〝反省文〟なの?!
あ、そうだ、心の声を……
『は、はやくして……和也さん……ああ、でも、実はまだ心の準備が……ううん、大丈夫。和也さんとなら私……でもちょっと怖い……ああ、和也さん、はやく……』
ああっ、ダメだよ! 何のヒントも無い!
「えっと……」
よーく考えてみよう。るりちゃんは、手を目に当てているよね……目を隠しているって事は……
あ! もしかして〝かくれんぼ〟かな?
……うん、間違いない。それしか無いよね! でも、この部屋で隠れられる所って、そんなに無いかも。念のため、聞いてみよう。
「るりちゃん、どこでもいいの?」
「どどどどどっ?! どこでもっ?! ひぁあああっ?!」
るりちゃんの赤さが、さらに増してゆく。光まで放ち始めたよ……?
そんなに怒らなくてもいいのに……
「ど、ど、ど、どこでもいいのよ……? か、和也さんが思ったところで……でも、や、やさしくしてね?」
優しく、かぁ。
……そうだよね。さすがに、僕の〝能力〟全開で隠れたら、小学3年生のるりちゃんには見つけられないもん。
「うん。大丈夫だよ! 安心して? そんなに無茶はしないから……」
「むちゃ……?! か、和也さん……? い、いいの! いいのよ! 私はどうなってもいいから!」
えー?
「本当にいいの?」
「ひぅっ?! い、いいから! さ、さあ、早く!」
「それじゃ、いくよ?」
「うん! 和也さん、私をむちゃくちゃにしてっ!」
>>>
「もーーーー! 和也さんのいじわる! なんで押入れに入っちゃうのぉ?」
……むちゃくちゃに怒られたよ?
何で? 僕、ちゃんと隠れてたのに。
「わ、私、その……すっごく……こ、こわかったんだか……ら……」
るりちゃんの瞳から、ポロポロと涙があふれる。
泣き出しちゃったよ……! 押入れって、ちょっと高度だったのかなあ?
「ご、ごめんなさい! 僕、るりちゃんが分かりやすい所に隠れたつもりだったんだけど……」
「うぇぇぇん! なんでぇぇ? なんでかくれるのぉぉぉ?!」
〝かくれんぼ〟って、〝隠れる〟以外の遊び方があったの?!
『もしかして……私、和也さんに嫌われてるのかな?』
「そ、そんな事ないよ! ぼ、ぼ、僕、ずっと前から、るりちゃんの事が大好きだよ!」
……あ、あれ? 今のって?
「……っ?! か、か、か、和也さん?!」
しまった……! 〝心の声〟に返事しちゃった! どうしよう! 恥ずかしいよ!
「それ、本当?」
「うん。僕、るりちゃんの事が好きだよ!」
「……和也さんが、私のことを……好き……」
「そうだよ。僕、るりちゃんと、ずっと一緒に居たい」
……でも、だからこそ、僕はるりちゃんに、言わなきゃならない事があるんだ。
「るりちゃん。僕と一緒に居るという事は〝普通〟じゃないんだ。きっと、辛い事や、苦しい事が、いっぱいあると思う」
るりちゃんは、キョトンとして、僕を見つめている。
……僕は〝救世主〟で〝神様候補〟だよ。僕とずっと一緒に居るという事は、るりちゃんが〝神様の奥さんになる〟という事なんだ。それはきっと……
「とっても大変な事なんだ……大好きなるりちゃんを、そんなひどい目に合わせるなんて、僕には出来ないよ」
「私、和也さんと一緒なら……」
……え?
「和也さんと一緒なら、どんなに辛くても大丈夫だから!」
「るりちゃん……?!」
「だから、私を……和也さんのお嫁さんにして下さい!」
「るりちゃん……」
真剣な眼差しで、るりちゃんは僕を見つめている。
僕は……
「……僕も、るりちゃんと一緒に居たい」
この人と、一緒に生きていこう。
「るりちゃんは、僕が守るから! だから、僕のお嫁さんになって下さい!」
ハッとした表情のるりちゃん。
……そして、静かに頷く。
『しかと聞き届けました』
「え?! か、和也さん! これって……?」
「僕にも分からない。けど、もしかして……」
『ようこそ、神の世界へ。〝内海るり〟の神化を認めましょう』
光が満ち溢れる。
まばゆく光る〝何か〟が、優しい声で語り掛けて来た。
『本当にいいですか? 貴女は〝神々たちの理の螺旋〟に組み込まれます。もう〝人〟には戻れませんよ?』
そう。るりちゃんは、僕と一緒に、神様になるんだ……
「いいの? るりちゃん……」
「はい。和也さんと一緒なら!」
『良いでしょう。それでは、儀式を!』
手が……! 僕の右手が光りはじめた。とても暖かい光だよ!
「和也さん……! 私も!」
るりちゃんの左手も、綺麗な光を放っている。
『さあ、手を。貴方たちが繋いだその手は、何者にも断ち切れぬ絆となります』
僕は右手を、るりちゃんは左手を。
繋ぎ合わせた手が放つ光が、糸のように絡み合って、一つになってゆく……!
「るりちゃん!」
「和也さん!」
僕たちは見つめ合う。
ずっと……こうしていたい。
『良いですか? この儀式によって、貴方たちには様々な変化……〝奇跡〟が起きるでしょう。ですが、この儀式の事や、変化する以前の事を覚えているのは〝右手〟であるカズヤだけです』
「ええっ?! そんな……! どうして?」
『必要な事なのです。急激な〝歴史の改変〟に、貴女の幼い身体は耐え切れません。大丈夫。時が来れば、思い出すでしょう』
「そうなの……ちょっと怖い……」
『分かります。それまでは、カズヤ、貴方がしっかり、エスコートしてあげるのですよ?』
「もちろんだよ! るりちゃんは、僕が守るんだ!」
「和也さん……」
光が弱くなっていく……と同時に、るりちゃんは眠ってしまった。
『おめでとう、カズヤ、るり。貴方たちの未来が、素晴らしいものであります様に……もちろん、貴方たちの頑張り次第ですよ?』
うん! 頑張るよ! 地球もるりちゃんも、僕が守るんだ!




