花の行方
「じゃあ、気をつけて。夕方6時に、まりも屋の前で!」
僕は、都心へ向かう大ちゃんを残して、電車を降りた。随分遠くまで来た。この町なら、少々無茶しても大丈夫だろう。
『タツヤ。さっき見ていたダイサクのベルト、面白いね』
「やっぱり? あれ、完成したら、見たいよな」
ブルーと会話しつつ、訪れたのは駅前の商店街。時間もないし、今日は、バシバシ買いまくるぞ!
『タツヤ、そこに案内板がある』
商店街入口に、店舗が載った地図がある。これを見て、計画を立てよう。
『タツヤ。とりあえず、右の店から順番に一品ずつ買っていくかい?』
「ちょっと待った。一番手前の店、米屋だぞ?値段は丁度良いけど、いきなり重いよ」
『なるほど。それを持ったままウロウロするのは賢くないな』
「じゃ、米屋さんは最後にしよう」
次は……どこかの政党の事務所だ。その次は、パチンコ屋。美容院に歯医者ときて、ラーメン屋で、魚屋、接骨院だ。更にいくと、神社がある。
「ブルー、右側は、ちょっと僕らのニーズには合ってない感じだ」
『あはは。本当だね』
左側はどうだろう。一番手前が酒屋だな。で、次は金物屋、不動産屋、畳屋に本屋、自転車屋で、ハンバーガー屋、花屋、ゲームセンターがあって、喫茶店か。
「この商店街は、途中でこっちの横道にも店があるな」
本屋と自転車屋の間の道に、北に向かって、更にアーケードが続いている。薬屋、居酒屋が3軒、床屋、電気屋、服屋、文房具屋、駐車場、交番がある。
「よし、取り敢えず、無難そうな所から行こう」
文房具屋さんに入ってみた。一万円を出して違和感なく多めのお釣りを貰えそうな物。
「絵の具セット 2980円」
『いい感じだ、タツヤ』
次は、電気屋で、掃除機の紙パックを買う。お使いっぽくてグッドだ。更に、薬屋さんで酔い止めを買う。よし、違和感なし。
「床屋さんもアリだけど、髪型が変わると家族に怪しまれるよな」
『時間も食うぞ、タツヤ』
それもそうだ。えっと、次は。
服屋で、婦人用のマフラーを買い、贈答用の包装をしてもらう。本当に贈るわけにはいかないが、子どもが親にプレゼントというのはよくある。
「持ち物がいっぱいになる前に、袋を買いたいな」
現地調達のつもりだったから、このあいだ買ったリュックサックは持って来なかった。
『タツヤ、カバン屋さんが無いけど、どうする?』
「ああ。僕に考えがある。あそこに売ってないかな」
僕は自転車屋さんで、サイクリング用のバックパックを買った。
「もしかしてと思ったんだ。売ってて良かった」
健康のためにと自転車通勤していたことがあり、形から入りがちな僕は、サイクリング用品を無駄に買い漁っていた。
「雨に降られて風邪を引いてからは、全然乗らなくなったけど」
『それで健康を害しては意味がないね』
……まったくだ。
これでよし、と。持ち物をバックパックに詰めて、両手が空いた。さあ、次は何を買おうかな。
『タツヤ、花は邪魔かな?』
「ん~。 ちょっと今回はパスかな」
で、丁度お昼時になったので、ラーメン屋にやって来た。
「味噌ラーメンください!」
野菜がたっぷり入った、ヘルシーなラーメンが運ばれて来る。
「なあブルー、僕って、栄養が偏ったりとか、極端な話、毒とか飲んだりしたら、どうなるんだ?」
『キミの体は、常に健康な状態を保ち続けるようになっている。何を食べようが、体調に影響しない。毒などは、無効化される。今は特記事項に載っていないが、一定以上の毒や病原体を体内に取り込めば〝病毒無効〟が発動するだろう』
すごいな僕。やっぱ、本当に不死身なんだ……うお! ラーメン美味い!
あっという間に平らげる。よし、また来るぞ。この店は殿堂入り決定だ。
「おじさん、凄く美味しかったよ!」
「おう、有難うなボウズ! また来いよ!」
さあ、お腹も一杯になったし、後は何を買うかな。
「そういえば、金物屋さんって、あまり入ったことないな」
店の入口には、セール品の茶碗や花瓶が並べてある。とにかく、入ってみよう。
「いらっしゃーい!」
店の入り口に、赤外線センサーで鳴るチャイムがあったようだ。ピンポンという音に続いて、お店の人らしい声が聞こえてきた。
「あらら、しまったな! ノンビリ店内を見て回り辛くなったぞ」
小学生が、金物屋をブラリと訪れるというのは、かなり違和感がある。
「ボク、何か探しもの?」
中から、素朴な感じの、可愛いお姉さんが現れた。メガネとエプロンが印象的だ。
……さて、どうするか。
「えっとね、お箸が折れちゃったの。ママが買って来なさいって」
茶碗があるなら、お箸もあるだろう。にしても、ちょっと苦しいか。
「ああ、それならこっちよ」
良かった。お箸売ってた! そして怪しまれなかった。ラッキー。
「ありがとうお姉さん」
僕は、箸を一つ選び、お姉さんと一緒にレジまで移動した。
「今日は、このお金で買って来なさいって言われたんだけど、大丈夫? 見た事のないお金なんだけど」
僕は、ボケットにまだ10枚ほどある旧札を、一枚だけ出してお姉さんに渡した。
「わぁ、これ、古いお金よね。私が小さい頃は、まだ、たまに見かけたけど」
「良かった! やっぱりお金なんだ。これ使える?」
「大丈夫よ。でも、珍しいから、使わずにとっておいた方が良いわよね」
お姉さんは、紙袋に箸を入れ、僕に手渡すと、ウインクしてこう言った。
「そのお金、使っちゃうの勿体無いから、これ、お姉さんからプレゼント!」
なんていい人なんだ! 嫁にほしいぐらいの逸材だ! でも、今日の目的とはベクトルが真逆なんだよな。
「そのお金は、ママに言って、置いておいてもらったほうが絶対いいよ!」
「そんな……悪いです、頂けません」
と言うか、箸よりもお釣りが欲しいんです。
「遠慮しないで。どうせ売れ残りの商品しか置いてないのよウチ」
エライ事をぶっちゃけて来た。これ以上遠慮すると、僕の大人の部分が出そうでマズイな。
「ありがとうお姉さん。それじゃ、頂きます!」
「良かった! 気にしないで」
本当に良い人だ。これは後日、何らかの形でお礼をせねば。思惑とは違ったけど。
「お姉さん、お名前、教えてもらってもいいですか?」
「名前? 夏川春菜っていうの。季節が2つも入ってておかしいでしょ?」
!!!!
「ん? どうかした?」
気づかなかった。この人、会社の上司だった、春菜先輩だ。確か6~7歳年上の。
「ううん、何でもない。本当にいいの?」
「いいのいいの! また来てね!」
先輩、若ぇえええ……という事は、この時点でまだ高校生ぐらいかな。ちょっとビックリした。
「お姉さん、本当にありがとう!」
僕は金物屋を後にした。お釣りは手に入れられなかったけど、ちょっとホッコリしたので良しとしよう。僕はその足で、花屋に行った。
『タツヤ、花はパスじゃなかった?』
「いや、ちょっと必要になったんだよ」
僕は贈答用の花を注文し、送り状に宛名を書いた。〝夏川春菜様〟。差出人は無記名で。
お釣りは少なめだったが、ちょっとホッコリしたので良しとしよう。




