おかえりなさい
六極共振拳銃は、残り1丁。
『ウォオオオオオオン!』
「ああもう! お前ら死んでるくせに、なんでそんなに元気なんだよ!」
もう1丁は、オーバーワークでシステムがダウンしてしまった。
予備のコイツも、そろそろ限界っぽいし……元より、弾がもう数発しかない。
まあゲームじゃあるまいし、ひと晩で何十発も撃つようには作られてないんだろう。
「システムダウンならいいけど、まさかこれ壊れてないだろうな? ……絶対に白八滝さんに怒られるぞ」
パウン! という発射音のあとに、弾切れを知らせる電子音が響いた。
ポケットに手を突っ込んで〝疑似エーテル弾〟を取り出し、装填する。
「……1、2、3、残り4発か。ヤな数だ」
まあ、田所さんなんか妙にワールドワイドだから〝世界的に見れば、3から6まで忌み数だから気にするな〟とか言いそうだけど。
……日本人としては、こんなシチュエーションで残弾〝4〟は、ちょっとメンタル削られるよなあ。
とか言ってる場合じゃなかった。
複数の悪霊が廊下の向こうから、フワフワやらグニャグニャやらズルズルやら、奇妙な動きで近付いてくる。
「えっと。1、2、3……9体か。って、やっぱイヤな数か、よっと!」
パウン! パウン!
『ギャアアアアアアアッ?!』
『グォオオォォォ……』
2体の霊が消えていくのを確認しつつ、特徴を脳裏に焼き付ける。
いや、映像情報はスコープに記録されているんだけどね。
そのせいで適当に書いたらバレてしまうから、逆に報告書を書くのが面倒なんだよ。
「パッチリ目の大きな小柄の女性に、いかり肩で長身のおっさんの霊、と。さすがに覚えきれないぞ、こりゃ」
警察官は、拳銃を〝使用〟した場合、所属長に報告をしなければならない。
一般的に〝使用〟というのは銃を撃った場合だけでなく、相手に向けて構えた場合も含む。
「普通の人間なら威嚇だけで逃げ出してくれるんだろうけどなあ」
残りの7体は、何事もなかったかのように近付いてくる。
威嚇しても苦情が出ないから……って訳でもないと思うけど〝魔特課〟の場合は、発砲しなければノーカンだ。
その代わり、間違って生身の人間に〝この銃〟を向けたら、報告書どころか始末書モンだ。
さらには、責任を持って〝目撃者〟の詳細を調べあげて報告しなければならない。〝記憶処理〟するためにね。
「……栗栖君には、ぜひ内緒にしておいて貰おう」
始末書を書くのが面倒なのはもちろんだけど、彼の〝記憶処理〟が可能な人員など、どこを探しても居ない。
「それにしても、栗栖君はさっき、何を〝待て〟と言ったんだ?」
残る霊は7体。お気付きかと思うけど、残弾2発ではどう頑張っても倒し切れない。
一発で複数体倒せば……とか余計な事を考えていると、絶対外すからね。慎重に狙いをつけて確実に2体を倒す。
パウン! パウン!
『ぬグがあああああぁぁぁ……』
『ギエェェェェェェェッ!』
白髪のおじいさんと、スキンヘッドのマッチョマンを消滅させた。
さてと。これで弾切れだ。
僕は〝電離柵生成籠手〟のバッテリー残量を確認してから〝プラズマロッド〟を構える。
「どっちのバッテリーも、そう長くは保たないぞ……」
廊下を歩いてくる男性の霊に〝プラズマロッド〟を振り下ろす。
意外と素早い動きで躱しやがった……が、その方が対応しやすい。なぜなら、僕の得意な〝普通の人間〟の動きだから。
「これでどうだ!」
人間っぽく体勢を崩した霊の横っ面に、起動しておいた左手の籠手を押し当てた。
電離気体との接触面から聞こえてくる、独特な〝プツプツ〟という音が、グイと力を込めると徐々に〝ブチブチ〟という大きな音に変わっていく。
「せいやっ!」
霊体の顔を力任せに突き飛ばした反動を利用して、僕のすぐ隣まで迫っていた霊の脇腹目掛け、ロッドを真横に振り抜いた。
「ウゴアアアアアアアッ!」
恨みがましい叫び声を上げ、女性の霊は塵になって消える。
ロッドを突き出したままクルリと水平に一回転。突き飛ばされて大きく体勢をくずしている霊の脇腹から頭部目掛けて、斜めに振り上げた。
叫び声ではなく、パァン!と激しい炸裂音を残して、男声の霊も消えていく。
……ちなみに、報告しなければならないのは〝銃〟を使った場合のみで、それ以外は不要なんだ。
え? それなら全部〝プラズマロッド〟で倒せって? それは……
「……うわっと!」
突然、低い姿勢でノロノロと近付いてきていた霊体が、スピードを上げて這い寄る。
僕は咄嗟に横っ飛びで躱して、一撃を食らわせてやろうとロッドを強く握りしめた……と同時に、聞き慣れないブザーが鳴り響く……これはロッドからの音か。
チラリと目をやると、さっきまで緑色に灯っていたランプが、赤く点滅している。
「クソッ! このタイミングで電池切れかよ!」
素早く予備のロッドを取り出して電源を入れた。
……ヤバいな。コイツの電池が切れたら、もう怨霊と戦う術は残されていない。
『ウォオオオオオオオン!』
「なっ?!」
ヒヤリとした冷たい気配に振り向くと、そこには男女合わせて10体以上の霊が迫っている。
『アぁああアあぁうゥうウウ……』
『オオォォォォオォォオオオッ!」
奇妙な動きで近付くもの。フワフワと飛んでくるもの。床を這いずってくるもの。
それぞれが、意味の分からない呻き声を発しながら、恨めしそうな目で僕を見ている。
もちろん、スコープの針は全てレッドゾーンだ。
「挟み撃ち?! マジかよ……コイツめ!」
足に纏わり付いてきた霊の背中に、逆手に持ち替えたロッドの先を突き立てる。
青白い顔を苦しげに歪めた霊は、仰け反って霧散した。
「よし。これならいける……うっわ?!」
パッと見、コイツはもう人の形を保っていない。
どこから突き出されたのか分からない霊体の腕が、すぐ目の前に迫っていた。
盾の起動が間に合わず、ロッドで受け止めようと左手を添えて構える。
「ぐあっ!」
すさまじい衝撃。次の瞬間、僕は廊下に転がっていた。
背中の痛みで、吹き飛ばされて壁に叩きつけられたのだと気付く。
「うぐっ! あ痛たたた……」
ほら見ろ。たまにこういう訳の分からないヤツが混じってるんだ。
どれだけ僕が〝格闘が得意〟で〝報告書を書くのが不得意〟でも、怨霊なんかには近付かない方がいいに決まってる。
僕はロッドを構えて……
「……うわ! ウソだろ?!」
さっきの攻撃で、ロッドがくの字に へし折れてしまっていた。
電源ランプは 赤の点滅どころか、完全に消えてしまっている……最悪だ。
「クソッ! 弾は……あれだけあったんだ。一発や二発、ポケットのどこかに引っかかってないか?!」
ダメ元で、ポケットを弄れどもエーテル弾は一発も残っていない。
「は……はは。こんな事なら経文の一つでも覚えとくんだった」
ジリジリと近寄ってくる怨霊たち。
ちくしょう。まさかこんな〝非現実的な死に方〟をするなんて思わなかったぞ。
上着の胸ポケットにも、内ポケットにも、もちろん弾は入っていない。
僕は、きっと何も入っていないであろう、ズボンのポケットにも手を突っ込んで……ん? 何か入っている?
「ああっ! これは!」
それは、近所の肉屋さんでコロッケを入れてくれた小袋に似ていた。
思い出したぞ! 白八滝さんが手渡してくれた〝塩〟だ。
「説明すらされなかったけど……これって、撒けばいいんだよな?!」
イチかバチか。僕は袋の口を破って、周囲に塩を振り撒いた。
足元に散らばった塩は……しかし、特に何も起こらない。
「おいおいおい。まさかの効果なしか?!」
……パチン。という音がして、火花が散った。
怨霊が近付いた辺りの塩が、黒く焦げている。
……パチン! パチパチ!
今度は背後からも、何かが弾けるような音が聞こえてきた。
やはり、塩が黒く焦げて煙を上げている。
「効いている……のか?」
怨霊たちは、廊下に撒かれた塩に、近付いては後退り、苦悶の表情を浮かべ、唸り声を上げている。
ふう。ありがとう白八滝さん。おかげで助かった。
「いやしかし、いつまで保つか分からないな、これ」
霊が近付くと、真っ白な塩が黒く焼ける。
怨霊は少しずつ塩の結界を越え、僕に迫ってきていた。
左右前後から、ジワリジワリ、パチンパチンと。
火花を散らしながら、塩が黒く変色していく。
やがて廊下に撒かれていた塩は、ほとんど黒く焦げてしまった。
……くッ! これまでか?!
『ウゴォオオアアアアアッ!』
飛び掛かってきた霊を〝盾〟で受け止め……クソッ! 出力があがらない!
青白い霊の腕が、電離気体をグイグイと押し退けて徐々に近付いてくる。
も、もうダメ、だ……
「……遅くなっちまったぜー。ゴメンな、先生」
「なっ! 君は?!」
いつの間に?! 僕のとなりには、見覚えのある生徒が立っていた。
「初めましてだよなー! 俺は九条大作。大ちゃんって呼んでくれよなー!」
そう言って微笑んだのは〝救星戦隊プラネット・アース〟のメンバー、九条大作君だった。




