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まりも屋

「おじさん、僕、カツ丼!」


 随分(ずいぶん)迷ったが、今日はやっぱり、オムライスよりカツ丼って気分だな。


「僕は、冷やしラーメンでお願いします」


 うわっ! 懐かしっ!


「この時期でも、やっぱりそれ頼むの?」


 栗っちは〝まりも屋〟に来ると、必ず〝冷やしラーメン〟を注文する。

 ここのオリジナルメニューで、冷やし中華ではなく、スープが冷たいだけで普通のラーメンという、掟破(おきてやぶ)りな一品だ。


「だって、美味しいんだもん。たっちゃんも、試しに食べてみればいいのに」


「ん~、美味しいのは分かるんだけど、冬だぜ~?」


 それに、オムライスと、カツ丼の、ツートップをはじめとする強豪たちを差し置いて、他の物を注文するなんて、僕には出来ない。ちなみに、次点はカツカレーとなっている。


「お茶、冷たいのと暖かいの、どっちにする?」


 店員のおばちゃんが聞いてくれたので、僕達は同時に「冷たいの!」と答える。


「ほら、たっちゃんだって、冬なのに冷たいのじゃない」


「僕、食事の時は、冷たい飲み物派だから」


「おんなじだよー! 僕だって、ラーメンは冷たい派なんだ」


「何だよ、その派閥。冷たいラーメンなんて、まりも屋だけだろー?」


 とか言っている内に、(くだん)の冷やしラーメンが運ばれてきて、テーブルに置かれた。スープには、氷が浮かべられている。この氷、やっぱオールシーズン入ってるんだ……


「冷めちゃうから、先にいただくね」


「あ、どうぞどうぞ……って、それ以上、冷めないだろ!?」


『あはは、面白いね』


「やった! ブルーさんにウケたー!」


 喜んで頂けて嬉しいが、何やってんだ〝地球の意思〟と〝救世主〟!

 ……厨房から、カツを揚げる音が聞こえているので、カツ丼は、もうちょっと後だな。


「まだみたいだから、先に食べててよ、栗っち」


「ううん。たっちゃんのが来てからにしよう」


 いや、見てるだけで寒いんだ、冷やしラーメン。

 ……でも、やっぱ優しいな、栗っちは。


「あ……見てるだけで寒いの? ごめん。すぐに食べちゃうから……」


 精神感応(せいしんかんのう)キターー! 心を読まないでえええ!


「いやいやいやいや! 一緒に食べよう! 食べたいなー! 一緒に!」


「そう? じゃ、待つね」


 微笑(ほほえ)む栗っち。無心だ。何も考えずに待つんだ! 無心無心無心……


「無心なの?」


 考えてたーーー! 無心のつもりが〝無心〟って、心でつぶやいてたーーー!!


「えへへ。なんてね……ごめん、なんとなく、わかっちゃうんだ」


『タツヤ。キミの思考は、私にも(おおむ)ね伝わっている。今更、恥ずかしがっても無意味だ』


 やっぱりか。たまに、僕の頭の中の言葉に返事してるもんな。


「栗っちの能力に(あらが)いようがないのは、よくわかったよ。思い出してみると、昔から、色々感づかれてた気がするもんなぁ」


「今まで気にしてなかったけど、これが僕の力なんだね……」


『そうだカズヤ。そのうちキミは、人間の思考だけでなく、万物の意志が、全て読み取れるようになるだろう』


「それ、超、救世主っぽいな! もう、ほぼ神様じゃん」


『タツヤ。救世主は〝神様候補〟だよ』


 マジか。そう言えばさっき、神化がどうとか言ってたな。


「はい、カツ丼お待たせ!」


 とか話している内に、来た来た! 愛しのカツ丼ちゃん! 待ってました~!


「いつ見ても、凄いボリュームだよね」


 栗っちの言うとおり、まりも屋の〝ご飯系メニュー〟は、どれも大盛りだ。


「うん、僕のラーメンは普通なのにねー」


 温度は氷点だけどな。

 ちなみに、まりも屋には、もちろん普通のラーメンとか、うどんもあるし、種類も豊富だ。


「あー、そういえば、前に一度、冷やしうどんを頼んだら、蒸籠(せいろ)に乗った、ざるそばタイプのうどんが出てきて、そういえばそうだよねって思ったよ」


『アハハ、カズヤ、それは面白いね!』


 でも何故か、カレーも、オムライスも、チャーハンも、定食に付いてくるご飯も、とにかく米が絡むと、ビッグサイズなのだ。


「たっちゃんは昔から、たくさん食べる方だから、頼むのはご飯物だよね」


 このカツ丼も、フタをしてあるのが無意味なほどに、カツがハミ出している。

 というか、下手したら、フタの存在感が無さ過ぎて、気付かずフタから食べそうなぐらいだ。


「ははは! たっちゃん! それはさすがに無いでしょー!!」


『アハハ! 最高だ! タツヤ!』


「おーーい! ちょっと! 栗っち、ブルー!!」


「どうしたの?」


『何だい、タツヤ』


「なんでさっきから、僕の〝心の声〟と会話するんだ! 全く違和感がなくて、ツッコむのが遅くなったじゃないか!!」


「あ……あれ? いつの間に……」


『私は以前からこんな感じだろう? それが2人になったと思って欲しい』


 〝思って欲しい〟じゃないよ、まったく! 僕のプライバシー、侵害されまくりだな。


「ごめんよ、プライバシーの侵害はダメだよね」


『すまないタツヤ。キミのプライバシーは、極力、守って行きたいと思っている』


「はいはいはいはい! たった今、侵害してるから! 僕はひと言も〝プライバシー〟って言葉、声に出してないからな!」


「えっ?! 本当に?! ごめん、本当に自然にわかっちゃって……」


『私は、わざとだ。タツヤは面白いな!』


「ブルーはアウトだ。後で説教してやる!」


 僕は、巨大なカツの上に、ちょこんと乗っている、フタを取った。


「とにかく食べようか。栗っち、待ってくれて、ありがと!」


「いえいえ、どういたしましてー!」


 僕は久し振りに、まりも屋のカツ丼に舌鼓(したつづみ)を打った。そして何より、友達と食べる食事の嬉しさが、心に染みた。次は、大ちゃんも誘おうかな。


「そうだね! 大ちゃんも誘えばよかったなー!」


『タツヤ……小学生は〝舌鼓〟などとはあまり言わないぞ。気をつけるといい』


 ほらああああ! もおおおおおっ!!!

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