表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/267

墓守

※視点変更

大波友里 → 九条大作

「あの人は、話を聞かないからなぁ」


 美土里(みどり)は、顔をクシャクシャにして、困り顔だ。


「いやいや、それは美土里(みどり)さんもだよー!」


 あー、確かに。

 美土里(ミドリ)は、興味が無い話は全く聞かない。


「まあ、()()なったら、里久雄(りくお)梃子(てこ)でも動かないよ。困ったもんだね」


 やれやれといった感じで、帰里江(きりえ)さんも腕を組んで、ため息をついている。

 長老からの通達を帰里江(きりえ)さんから聞いた里久雄(りくお)さんは怒り狂い、自分のレプリカ・ガジェットを片手に飛び出したらしい。

 ……で、三日三晩、墓の前に座り込んでいるようだ。


里久雄(りくお)さんっていうのは〝戦士候補〟だった人だろー? 長老の命令を聞かないってどういう事なんだ?」


「昔からなのよ。里久雄(りくお)は〝蘇毬(そまり)〟の祖となった戦士の事となると、周りが見えなくなって……アイツ、墓の守護者にでもなった気でいるんだよね」


 再三に渡る帰里江(きりえ)さんの説得にも、聞く耳を持たないらしい。

 なるほど。気持ちは分からなくもないが、面倒だなー。


「私も、小さい頃はよく〝蘇毬(そまり)の戦士〟の伝説を聞かされたよ。あの人、本当に嬉しそうに話すんだ」


 美土里(みどり)は、どことなく懐かしそうな顔で語る。

 その戦士の墓を掘り起こそうなんて言ったら、そりゃまあ、怒るよな。


「やー! とにかく、お墓に行ってみようよー!」


「そうだな。ガジェット姿のまま、放って置くのも問題だぜー」






 >>>






 蘇毬(そまり)の菩提寺は、上り坂を歩いて5分と、想像より近い場所にあった。

 ……まあ問題は、その先だったんだけどな?


「戦士の墓は、この上です」


 どうしてこう、寺社仏閣っていうのは〝長い階段〟が好きなんだろうな。ひぃふぅ。


「師匠!」


「大ちゃん!」


「いや、おんぶも抱っこも要らないからなー?」


 俺の前でしゃがむ美土里(みどり)と、俺の後ろで両手を差し出すユーリ。


「さ、さすがです師匠!」


「やー、まだ何も言ってないのに」


 俺は大丈夫だから。

 まったく……ウォルナミス人は、どうして俺を甘やかそうとするんだ?

 確かに、この石段は俺が今まで登った中でもトップクラスの長さだが、所詮は一般人向け。さすがに、この程度で、しかも女の子に助けて貰ったりしたら男が(すた)るってヤツだ。


「ひぃふぅ。や、やっと着いたのかー?」


 な? 諦めず、地道に頑張れば、いつかはゴールに……


「次は、あの階段よ」


「ひぃ……?!」


 帰里江(きりえ)さんが指差した先には、更に上へと続く階段が……!


「師匠、もしかしてギブアップ……」


「やー! 大ちゃん……」


「いやいやいや! 大丈夫だ! 近寄るな!」


 くッ! こ、こうなったら、意地でも自力で登りきってやるからな! ひぃふぅ……






 >>>






 墓が並んでいる。

 その中でも、ひときわ立派な墓の前に、里久雄(りくお)さんらしき影が、胡座(あぐら)をかいて座っていた。


「なんで、誰も警察を呼ばないんだー?」


「まあ地元では、見慣れている人が多いからね」


 帰里江(きりえ)さんが、ニッコリ微笑んで答える。

 って、おいー! ()()()()()()(ほど)も、あんな格好してちゃ駄目だろ! 完全に埴輪だぜ?!


「アレはアレで、何だかホッとするんだけど……」


 美土里(みどり)が、ボソリと(つぶや)く。

 大波神社の〝レプリカ・ガジェット〟は、俺がスペシャルな改造を施して、全部、スタイリッシュなフォルムに生まれ変わったからな。

 おっと。埴輪……じゃなかった。里久雄(りくお)さんが、こちらに気付いたようだ。ゆっくりと立ち上がって、野太い声で叫ぶ。


「お前が戦士ユーリか?」


 ガジェットのせいで、表情や視線は分からないが、たぶんユーリを睨み付けているんだろう。

 普通の人間である俺でさえ、里久雄(りくお)さんからユーリに向けて、ピリピリとした怒気が放たれているのが分かる。


「墓参りに来たというのなら歓迎するが……偉大なる〝蘇毬(そまり)の戦士〟の墓を暴こうなどという不届き者は、このワシが成敗してくれる!」


 里久雄(りくお)さんは、腕を組んだまま、大声で怒鳴り付けて来る。

 おいおい、取り付く島も無いって感じだなー!


「長老命令だぞ? 分かっているのか?」


「フン。何だ、美土里(みどり)か。久し振り過ぎて、誰だか分からなんだぞ」


「アンタは相変わらずみたいだな」


 そう言い合ってから、里久雄(りくお)さんと美土里(みどり)は、同時に鼻を鳴らす。


「聞いたとは思うが、惑星ウォルナミスを救うには、そこに眠っているガジェットが必要だ。。ゴチャゴチャ言ってないで、そこを退()け」


 ちょ! 美土里(みどり)! いくら何でも言い方って物が……


「ガハハ! あいも変わらず生意気な! そういえばお前は、ガキの頃にも〝ガジェットを修理させろ〟とか言いおって、墓を堀り返そうとした事があったな!」


「あー! やっぱり美土里(みどり)さん、ガジェットを掘り出そうとしてたんじゃんか!」


 予想通りだぜ。美土里(みどり)が〝お宝〟を放って置く訳無いもんなー。


「そんな昔の事はどうでもいいんだ。私は暇じゃない。早くそこを退け! ……いやむしろ、墓を掘り起こすのを手伝え!」


 どうでもいい事では無いし、言い方って物があるだろー?


「……あん時ゃ、ガキのやる事だと拳骨(ゲンコツ)で済ませてやったが、今回はそうはいかんぞ」


 里久雄(りくお)さんは、太い腕を、右、左と、交互に振り回して、握り込んだ拳を打ち鳴らす。


「やー! 里久雄(りくお)さん、お願い! 惑星ウォルナミスの人たちを助けるためには、ガジェットが必要なんだよー!」


 ユーリも、必死に頭を下げる。

 けど、里久雄(りくお)さんの怒気は、増す一方みたいだぜー。


「どんな理由があろうと、偉大なる戦士の墓を(けが)す事は、このワシが許さん! ……どうしてもと言うなら、このワシを殺して奪っていくがいい!」


 そこまで〝戦士の墓〟が大事なのか。

 ……ある意味、この人も美土里(みどり)と同じ血筋なんだな。(こだわ)りが強すぎだ。

 仕方がない。無駄だとは思うけど、俺も説得を試みるか。


「気持ちは分からないではない。けど、同じウォルナミス人を救うためなんだ。協力してもらえないかなー?」


「ん? お前は何なのだ、小僧」


 あー、自己紹介がまだだったか。


「俺は九条大作(くじょうだいさく)。大ちゃんって呼んでくれよなー?」


「ふむ。聞いた事がある名だ……ん? そうか、お前がガジェットを修復出来るという子どもか。ハン! 眉唾(まゆつば)だな」


 ウォルナミス人って、俺の事、絶対に信じないよな。

 まあ、ガジェットの修理って難易度()高いから、仕方ないんだが。


「その下に埋まっているガジェットを渡せば、目の前で師匠の修理(かみわざ)が見られるぞ?」


 美土里(みどり)がニヤニヤしながら里久雄(りくお)さんを説得……いやコレ、なんかもう〝挑発〟だな。良い方には全然響いてなさそうだ。


「くどいぞ美土里(みどり)。帰れ。死にたくなければな。それとも、ワシと勝負するのか?」


 里久雄(りくお)さんは〝戦士候補〟だったらしいけど、それはつまり、戦士に成れなかったという事だよな? まさか、ユーリの強さを知らないとか?


「長老から聞いていないのか? 里久雄(りくお)さん、アンタじゃユーリには勝てない……」


「黙れい! …………ガジェットの継承者を選ぶための戦い。あの時、ワシが戦った戦士たちは、皆、強かった」


 里久雄(りくお)さんは、ユーリに向けて指を差し、怒りに任せた声で続ける。


「その子娘(こむすめ)が戦士だと? 片腹痛(かたはらいた)い! 何なら、今からでもワシが代わりに、この星を守ってやろうか?」


 おっと、それはダメだ。言っちゃいけないヤツだぜ?

 決めた。俺が強制的に武装解除してやろう。


「変身……」


 ベルトのバックルに手を伸ばそうとしたその時、美土里(みどり)が俺の腕をそっと掴んで()めた。

 美土里(みどり)は、少し呆れた顔で里久雄(りくお)を見て、首を横に振る。


里久雄(りくお)さん。アンタは確かに強い。が、それは〝私たちが理解できる次元〟での話だ」


 美土里(みどり)は、ユーリの肩をポンと叩いてから続ける。


「だがな。この戦士ユーリの強さは、私にも理解不能。はっきり言おう。この子は恐らく〝史上最強〟だ」


 それを聞いた里久雄(りくお)さんが、ガクガクと怒りに震える。

 そう、それはきっと……〝史上最強〟という言葉に対する怒りだぜ。


「聞き捨てならん! 聞き捨てならんぞおぉおおッ! 史上最強だと?! その小娘が、偉大なる〝蘇毬(そまり)の戦士〟よりも強いというのかあぁああッ!」


 里久雄(りくお)さんの怒りで、周囲の空気が振動しているのが分かる。

 ダメだぜ美土里(みどり)。これじゃ余計に怒らせただけだ。

 ……まあ、俺もこの分からず屋には、かなり怒ってるけどな。

 よし、変身してサクッと倒すか。俺は再び、ベルトのバックルに手を伸ばして……


「お待ち下さい師匠。お気持ちは分かりますが、ここは戦士ユーリに……」


 またしても、美土里(みどり)が俺を静止する。

 ああ。なるほど、そうか。さっき俺の変身を止めたのも、そういう事だったんだな。

 確かに、俺が戦ってもダメだ。ここは里久雄(りくお)さんが納得するためにも、戦士であるユーリと戦ったほうがいい。

 いやいやスマン。俺とした事が、ついカッとなっちまったぜー。


「ふふふ。新ガジェットの戦闘を生で見るチャンス……!」


 って、そういう事かよー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ