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強者の気配

※視点変更

内海達也 → 大波友里


※舞台変更

神奈川県 → 岩手県

 私、大波友里(おおなみゆうり)は、大ちゃんと一緒に、岩手県に来ている。

 やはは! 二人っきりでお泊り旅行!


「師匠、さあ、こまめに水分補給を! この私が、く、口移しでっ!」


 ……じゃないんだなー、これが。

 美土里(みどり)さんも一緒なんだよー。


「ちょ! っていうか、ドサクサに紛れて何してるのさー?!」


「……ちっ、邪魔が入ったか」


 〝ちっ〟じゃないよー。まったく、油断もスキも無い。


「師匠、その脇道(わきみち)を上です」


「おいー、スゴい登り坂だなー!」


 ここ、岩手県の東御前町(ひがしみさきまち)には、遥か昔、地球を守るために戦った〝蘇毬(そまり)の戦士〟が、(ちから)を失ったガジェットと一緒に埋葬されている。

 その〝蘇毬(そまり)の戦士〟の一族の代表って、美土里(みどり)さんの実家なんだって。

 だから〝長老直々(じきじき)の命令〟で、ガイド兼、顔つなぎ役に、付いて来たんだよ。だけど……


「師匠! 私が後ろから押してあげます! えーい!」


「うおお?! お尻を押すなよなー! 危ない! 危ないって!」


 ……これじゃ、ただのセクハラおばさんだよ。






 >>>






「ひぃふぅ。やっと到着したのか?」


 やー! 大きな門! すっごく立派なお屋敷だよ!

 玄関には〝蘇毬(そまり)〟という表札が掛かっている。


「ねえねえ! 美土里(みどり)さんの実家って、すっご……あ、あれ?」


 美土里(みどり)さんは、門を素通りして、スタスタと歩いて行く。


「やー? ここじゃ無かったのかな?」


「いや。俺の記憶じゃ、間違いなくこの家だぜ」


 大ちゃんは、周囲の風景と地図を見比べている。

 ええ? どういう事?!


「ちょっとちょっと美土里(みどり)さん! どこ行くのん?」


 私に呼び止められて、面倒臭そうに振り返った美土里(みどり)さんは、さも当たり前のように言い放った。


「何言ってるんだ? 〝戦士の墓〟に決まってるだろ?」


 そっか! 私が、戦士のお墓からガジェットを取り出すんだった! それじゃ、レッツゴー!


「って〝レッツゴー!〟じゃないよ! 〝戦士の子孫〟に挨拶しなきゃ!」


「あっはっは! 何を言っている戦士ユーリ!」


 やー?


「そんな事をして、何の意味があるんだ?」


 やああっ?!


「死人に気を使っても無意味だ。今日の用事は、穴を掘って、埋まっている〝お宝〟を手に入れるだけだろう?」


 うわうわ、出たよ! マッドなサイエンティストっぽい発言!

 こうなったら止まんないんだよー、この人。

 ……でも、放っとけないし、一応、苦言を(てい)してみよう。


美土里(みどり)さん! お墓を勝手に掘り起こしたら、怒られちゃうから!」


 いま私が言った事って、当たり前すぎるよね。

 〝科学者脳〟の人はこれだから、もー!


「は? 馬鹿なのか? 怒られる前に、立ち去ればいいではないか」


 〝科学者脳〟と言うか、墓荒らしだコレ!

 どうしよう、やっぱり()まらないパターンだよ!


「いやいや、ダメだぜー! 美土里(みどり)さん!」


 やー! 良かった。さすが大ちゃん!

 そうだよ、ガツンと言ってやって!


(だま)って墓を(あば)くなら夜だろー! こんな日の高いうちから、大っぴらに掘ったら、絶対バレるぜー!」


 こっちも似たようなモンだったー!


「何を言ってるのさ二人とも! 手順はちゃんと踏まなきゃでしょ?! 長老も言ってたじゃんか!」


「ははは! なんてなー! もちろん冗談だぜ?。美土里(みどり)さんだって、まさかそんな盗掘(とうくつ)まがいな事、するわけないだろー?」


 やー? そ、そうだよね。いくら何でも、大ちゃんがそんな事するワケないか。


「え? あ、ああ! そ、そうそうそう! も、も、もちろんですよ! 何言ってんですか、やだなー師匠!」


 美土里(みどり)さんは、絶対に盗掘(とうくつ)するつもりだったよ。間違いない。


「な、なぜそんな目で私を見るんだ戦士ユーリ? と、とにかく、まずは挨拶からだ。礼儀正しくな!」


 いそいそと門を(くぐ)って、美土里(みどり)さんは玄関の呼び鈴を鳴らした。

 大ちゃんと私も、その後ろで身だしなみを整えつつ待つ。


「はい、どちら様でしょう?」


 という声が、インターホンから聞こえると同時に、美土里(みどり)さんが〝スパーン!〟と豪快に引き戸を開け放つ。


「ただいまあああ!!」


「えええええええ?!」


「おおおおおおい!!」


 ドコが礼儀正しくなんだよー?!


「あれれ? 師匠、どうしました?」


 美土里(みどり)さんは、心底(しんそこ)不思議そうに首を(かし)げる。


「……なあユーリ。ウォルナミスの血筋は、みんなこうなのか?」


 私と美土里(みどり)さんを交互に見て、大ちゃんが苦笑(にがわら)いをしている。


「やー、大ちゃん?! 私はここまでヒドくないよ?!」


 とか言ってる内に、奥の方からパタパタと、足音が近付いて来た。

 まあ〝生命感知(せいめいかんち)〟で、中に人が居る事は分かってたんだけど。


「ああ美土里(みどり)。お帰りなさい。久しぶりだね」


 かなり〝強そうな気配(けはい)〟だったから、こんな若い女の人だとは思わなかった。


帰里江(きりえ)おばちゃん! ただいま!」


 美土里(みどり)さんの言葉に、女性……帰里江(きりえ)さんの〝強者の気配(けはい)〟が、グン! と跳ね上がる。

 次の瞬間、美土里(みどり)さんは帰里江(きりえ)さんにヘッドロックをキメられ、藻掻(もが)いていた。


「誰が〝おばちゃん〟だってー?」


()だだだだだ! お、お姉さまっ! 帰里江(きりえ)お姉さま、た、(いた)たた、ただいま帰りましたっ!!」


 (はや)い! この人、かなりの強さだよ!


「話は長老様から聞いてるよ。さあ、上がって上がって!」


帰里江(きりえ)さん、痛い! 痛いよっ!」


 美土里(みどり)さんの頭をロックしたまま、帰里江(きりえ)さんは、大ちゃんと私を奥の座敷に案内してくれた。


「なあユーリ。あの帰里江(きりえ)さんって、すっごく若くないか? 美土里(みどり)さん、小学生ぐらいに見えるけど、本当は30歳前後なんだろー?」


 そっか。大ちゃんには、ウォルナミス人の年齢って、分かりにくいかも。


「やー。ウォルナミスの血が混ざってると、見た目と年齢に差があったりするから……」


 でも〝帰里江(きりえ)さんの年齢(ばなし)〟は、しない方がいいと思う。

 だって、さっきの素早い動きも、放っている気配(けはい)も、ウォルナミスの血が濃い事の証明なのさー。

 つまり、大ちゃんと私の、この〝ヒソヒソ声〟は、たぶん帰里江(きりえ)さんに聞こえてるよ。


「うふふふ。〝若い〟だなんて、うれしい事を言ってくれるのねえ! ちょっと待ってて、ジュース入れてくるから!」


「痛い痛い痛い! 離して! 助けてー!」


 嬉しそうにそう言うと、帰里江(きりえ)さんは、パタパタと部屋を出て行った。美土里(みどり)さんをロックした状態で。

 ほらね、やっぱり聞こえてた。


「何かこう、色々とスゴいなー!」


「やー。ホント、スゴいよー」






 >>>






「早速で悪いんだけど〝蘇毬(そまり)の戦士〟のガジェットを、掘り出させてもらえるかな」


 やっと〝頭〟を開放された美土里(みどり)さんが、両手でコメカミを()でながら言った。

 それを聞いた帰里江(きりえ)さんは、少し困った顔で答える。


「その事なんだけど……実は、里久雄(りくお)のヤツが、反対していてねぇ……」


「ええ?! それはマズいな。まさかとは思ったけど、長老命令に逆らうなんて」


 美土里(みどり)さんが、珍しく神妙な顔つきをしている。


「やー? 里久雄(りくお)さんって?」


 私の問いに、帰里江(きりえ)さんが、申し訳なさそうに答えてくれた。


里久雄(りくお)は、私の兄で〝蘇毬(そまり)の戦士〟を、まるで神様か何かのように崇拝しているんだ」


 まあ、そういう人も、少なくないとは思ったんだよー。


「だから今回、長老からの命令にも〝偉大(いだい)なる戦士の墓を(あば)くなど許されない〟とか言って、墓の前で座り込みを……」


 やー、頑固な人なんだ。


「……しかも、レプリカ・ガジェットを着込んでねえ」


 ちょ! 武装してるの?!


「おいおいおい! 町中(まちなか)で堂々と、()()()()ってマズくないか?!」


「想像以上に、ガチなヤツだよー!」


 まいったなあ。さすがに〝長老命令〟に、ここまで堂々と反抗する人が居るとは思わなかった。


「相変わらずだなあ里久雄(りくお)さんは。もう歳なんだから、ちょっとは大人しくすれば良いのに」


 美土里(みどり)さんも、()()()()といった表情で、頭をボリボリ()いている。

 その(ヘッド)を、帰里江(きりえ)さんが再びロックした。


「痛たたたたたっ! や、やめっ! 痛い痛い痛いっ!」


「誰が〝歳〟ですってー?」


 やっぱこの人、(はや)い!


「おおお? 何だ? どうしたんだ?!」


「師匠! き、帰里江(きりえ)おば、あ痛たたた! 帰里江(きりえ)お姉さまと、り、里久雄(りくお)さんは〝双子(ふたご)〟の兄妹(きょうだい)なんです! い、痛たた痛いいいいい!!」


 なるほど。同い年だから〝もう歳〟っていう言葉に反応したんだ。

 ……あれ? という事は!


「もしかして、里久雄(りくお)さんって、強いの?」


 帰里江(きりえ)さんは、ハッキリ言って強い。

 で、その双子のお兄さんって事は〝ウォルナミスの血〟を、同じぐらいの濃さで受け継いでいるはず。


「強いよ。里久雄(りくお)は〝戦士候補〟だったからね」


 やっぱり!

 ……戦士候補。つまり、侵略者と戦うために〝戦場(ボード)〟に立つ、その寸前まで行った人なんだ!

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