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あの日の姿のままで

※視点変更

内海るり → 内海達也


※舞台変更

地下室 → 吸血鬼の食料庫

「えへへ。僕と約束できる?」


「約束か……知っているぞ。この世に〝神との約束〟ほど恐ろしい物はない」


 栗っちは、蝙蝠(こうもり)と会話している。

 あれは〝吸血鬼〟だ。


「そうだよね。僕と〝約束〟しちゃったら、僕たちを攻撃するどころか、悪口を言う事さえ出来なくなっちゃうもん」


 それは聞いたことがある。

 栗っちとの〝約束〟は、自動的に、破った時のペナルティが課せられるのだ。

 悪意を持って約束を破れば、その悪意に応じた重さの罰が与えられる……らしい。


「だが、生き残れる道があるというのなら…………分かった。その〝試し〟とやらを受けよう」


 ペコリと頭を下げる蝙蝠(こうもり)


「当然ね。ここで〝プライド〟を重んじて死ぬような生き物は、魔界には居ないわ」


 あれ? でも、それじゃあ……


「一緒に地球を守るって、血はどうするんだ? 〝吸血鬼〟なんだから、人間の血が必要じゃないのか?」


 しかも、結構な大食漢(たいしょくかん)だぞ。ひと晩で、僕たち全員の血を吸う気だったみたいだし。


「えっとね、それは大丈夫だよ。僕の血をあげるから」


 ちょ? まっ?!


「大丈夫じゃないだろ?! 度々(たびたび)死んじゃうぞ! ……なんか日本語がおかしい気もするけど!」


 確かに、栗っちは死んでも復活するし〝眷属(けんぞく)〟にもならないけどさ。


「えへへ。おぼえてる? 僕に向けた〝呪い〟は、プラスにしか働かないんだ。つまり〝吸血鬼の眷属になる〟っていう〝呪い〟は〝反転〟するんだよ」


「なるほどなー! 吸血鬼の方が、栗っちの下僕になるのか!」


 マジかよ?! そんなに都合よく行くのか?


「しかも〝眷属〟と同じで、食事も摂らなくて大丈夫になるよ! スゴいよね!」


 そうか。都合よく行くんだった。

 〝神様だから仕方ないね〟で、全部解決だ。

 ……なんで栗っちが主人公じゃないんだろう。


「でもね? うまく行かなければ、消滅しちゃう。だから〝試し〟なんだよ」


 しかも、都合が悪くなれば、消滅でスッキリ。

 〝神様だから仕方ないね〟で、全部解決だ。

 ……あ、そっか。だから主人公じゃないんだ。


「〝神の血〟を……飲めと言うのか?!」


 蝙蝠(こうもり)が、身震いをひとつ。

 それを見ていた栗っちは、にっこり笑って、そっと右腕を差し出した。


「えへへ。痛くしないでね?」






 >>>






『……という事で、吸血鬼は居なくなりました。私たちは自由です』


 ここは、七宮啓太(ななみやけいた)がリーダーを努めていた隠れ家。

 吸血鬼は、コウモリの姿のまま、栗っちの腕から血を吸ったあと、眠ってしまった。


『隠れ住んでいる、他の人たちにも伝えて下さい。出口は(すで)に開かれています』


 河西千夏(かわにしちなつ)は、ここに住む人たちに、そう()げた。

 喜びの歓声を上げる人々の中に、少し寂しそうな千夏(ちなつ)の表情に気付く者は、誰も居なかったようだ。


「お待たせ。さあ、行きましょう」


 コンクリートで塗り固められ、鉄板で補強された玄関……本来の出入り口を〝ただのパンチ(アース・インパクト)〟で破壊して、外に出る。

 空間の出口へと向かう途中で、やっと吸血鬼は目を覚ました。


「私は……眠っていたのか」


「しばらくは、その姿のままの方がいいよ? みんなビックリしちゃうから」


 栗っちの言う通り〝居なくなった〟ハズの吸血鬼が歩いていたらパニックになる。


「あい分かった」


 ……まあ〝シギショアラ〟で誰かに見られても〝コスプレだ〟で通せるかもしれないけど。


「身も心も洗われた様に清々しく、(ちから)(みなぎ)る。分かるぞ! 確かに、これはもう人の()など不要だ」


 パタパタと飛び回る吸血鬼。


「えへへ。良かったね! ……それで、誰にするか決めた?」


 長い間、罪もない人間を殺し続けてきた吸血鬼の(みそぎ)は、これから始まる。

 ダーク・ソサイエティの〝実験体〟だったクロのように〝守護獣〟として、僕たちの内の誰かを守る。それが、栗っちの提案した〝罪滅ぼし〟だった。


「それでは……」


 吸血鬼は、大ちゃんの肩に止まった。


「お前に決めた。よろしくお願いする」


「おー! よろしくな!」


 そういえばコイツ、色々な魔道具を作っていたし、発明家(はつめいか)同士、何か通じる物があったのかもしれない。


「えっと……何て呼べばいいんだ?」


「私は生まれ変わったのだから、主人であるお前が、好きに名付ければ良い」


「そうか……んー、蝙蝠(こうもり)の博士か。それじゃ〝ファルケ〟って呼ぶぜ」


 〝ファルケ〟か。よく分からないけど、大ちゃんの事だ。きっと何か、意味があるんだろう。


「了解した。今から私は、お前の忠実なる下僕(しもべ)、ファルケだ」


 ……さて、それじゃその〝ファルケ〟に、肝心な事を聞いとかなきゃ。


「ファルケ、質問なんだけど。この空間、このまま消さずに残せるのか?」


 ここは、吸血鬼が〝食料〟を得るために、魔道具によって作った空間。多くの人々は、この場所で生まれ、生活してきた。

 つまり、ここが消えてしまうという事は〝故郷を失う〟という事だ。むしろ、帰る場所がない人の方が多いだろう。


「えっとね。出来るなら、ここはこのまま、そっとしておきたいんだけど……」


 栗っちの言葉に、少し頭を(ひね)った後で、ファルケが口を開く。


「永遠に、という訳にはいかないが、当分は問題ない。空間を維持するために私が蓄えた〝負のエネルギー〟は、まだまだ沢山ある。今まで通り、100年は〝アガルタ〟と〝魔界〟の定期的な複写を続けるだろう」


 この空間は、一定の周期で〝シギショアラ〟と〝北の大砦〟を混ぜこぜにコピーして再生成される。生き物を除く全てが、定期的かつ無償で手に入るのだ。だから、ここに住む人たちが、衣料品や食料、住居に困る事は無い。


「やー。問題は、100年後に先送りかー」


 ユーリがボソリと呟いた。

 腕を組んで、複雑な顔をしている。


「えへへ。とりあえずは、ね。近い内に、僕たちで何とかしようよ!」


 相変わらずの笑顔で、栗っちが答えた。

 そっか。言われてみれば、100年も放っとく必要は無い。

 地球側の、どこか安全な無人島に、町を作ってもいいし、魔界側、北の大砦周辺を、ササッと安全な状態にして、移住っていう手もある。


「まあ、時間もたっぷりあるし、地球を守った後で、ゆっくり対策を練ろう」


「……それなんだが、たっちゃん。別の意味で〝時間〟がヤバい。すぐにでも帰らなきゃだぜー」


 そうだった! この空間に迷い込んだせいで、土人形(つちにんぎょう)との繋がりが外れてしまったんだ。急いで帰らないと、大変な事になるぞ。






 >>>






 老夫婦が、遠くで手を振っている。

 間違いない。あの人たちが、河西千夏(かわにしちなつ)の祖父母だ。

 なぜなら、この距離なのに、双方がすでに、涙でグシャグシャになっているから。


「おじいちゃん、おばあちゃん!」


 千夏(ちなつ)が駆け出す。


千夏(ちなつ)?! お前、本当に……!」


「ああ! 千夏(ちなつ)ちゃん! 無事だった! 千夏(ちなつ)が帰ってきてくれた!」


 祖父母は、駆け寄る孫を抱きしめた。


「えへへ! 良かったね! 本当に良かったね!」


 いつの間にか、今回一番の功労者である栗っちも、泣いている。


『タツヤ、キミも泣いてしまっている事に関しては、スルーで良いのだろう?』


 ブルー。それを聞いてきた時点でスルーになってないからな?


「あら、千夏(ちなつ)ちゃん……? あなた、何だか……」


「……ん? どうしたんじゃ?」


「いえ、おじいさん。この子……若すぎませんか?」


 そうなんだ。驚いた事に、あの空間から出た途端、千夏(ちなつ)は若返った。

 あの空間を作ったファルケにも、原因は分からなかった。


「あー。あくまで推測だが、あっちとこっちが完全に分離されているから、戻った時に〝世界〟が整合性を合わせるために、こっちに居なかった分、年齢だけを巻き戻したんじゃないか?」


 大ちゃんが、年齢〝だけ〟というのは、千夏(ちなつ)も僕たちも、記憶までは戻されていないからだ。

 それに、千夏の服装や、あの空間内で負った怪我(ケガ)の傷跡などは、そのまま残っている。


「ほら、見て下さいおじいさん。服が()()()()……」


 つまりこの現象は、いつもの〝しなやかで頑丈〟なアレと、似た感じなのかもしれない。

 ……ちょっと〝無理しました感〟があるけど。


「細かい事はいいじゃないか。千夏(ちなつ)が無事だったんじゃ。それだけでいい」


「ええ。ええ! 本当に!」


 そうそう。気にしない気にしない。

 ……とか言いつつ、実は僕もさっきから、どうも引っかかるんだよな。

 若返った千夏(ちなつ)を見ると、何かこう……


『タツヤ、本当にキミは……』


 ち、違うし! 全然そんなんじゃねーし!


「たっちゃん。もしかして気付いたのか。俺も、若返ってから気付いたんだけど、超、似てるよなー!」


 え? 似てる? 何が?


「えへへ。名字(みょうじ)も一緒だもんね!」


 名字? 一体、何を言って……


「少年、本当にありがとう!」


「ねえ、あなたたちの事、どうしても教えてもらえないの? せめて、お名前だけでも……」


 突然、千夏(ちなつ)の祖父母に手を握られ、栗っちは、ちょっと困った顔で返した。


「えへへ。僕たちの事は、絶対に秘密なんだ。だからナイショ。ごめんね?」


 ……そう。本来なら、彩歌(あやか)の魔法で全部忘れてもらう所なんだけど、今回は、そうもいかないらしい。


千夏(ちなつ)さんの記憶をすべて消すことは出来ないわ。期間が長すぎて、どうしてもムラができてしまう……少しでも〝断片〟が残ってしまったら、それを元に、全ての記憶が蘇ってしまうかもしれないの」


 ……つまり、いつ記憶が戻ってしまうか分からない状態にするより、記憶を消さずに、口止めをする方が良い……という事だ。

 それに、幸か不幸か、事件が余りにも現実離れし過ぎていて、誰に話しても、信じてもらえないだろうし。


「あなたも、お友だちに会えたのね。良かったわ」


「ありがとう。おばあさん! 千夏(ちなつ)さんも、またね!」


 栗っちはニコニコと笑顔で…………ん? 〝またね?〟


『タツヤ、大変だ。急いで戻ろう』


 ……ブルー? どうした?!


『地下室の〝聖剣〟が無くなった』


 な、なんだって?!

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― 新着の感想 ―
[良い点] カズヤが主人公になれない理由が納得過ぎて笑いました(笑) カズヤの神っぷりが健在で何よりでございます(笑) いやはやコントっぽい面白さがあるけど、敵からしたら冗談じゃないでしょうねぇ。 …
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