魔道具 VS 科学兵器
※視点変更
吸血鬼 → 内海達也
吸血鬼の足元に、丸い穴があいた。
せり上がってきたのは、背丈が2メートルもあり、黒光りする大きな鎧だ。
「これが、私の〝魔道具研究〟の集大成、〝覇王の黒衣〟だ」
〝覇王の黒衣〟は、ぱっと見の硬そうな見た目とは裏腹に、グニャリと吸血鬼を飲み込む。
「これを出してしまった以上、お前たちに勝ち目は無い」
……はてさて、また大層な物を。
『タツヤ〝魔道具〟というからには、魔界絡みの攻撃や罠があるかもしれない。気をつけてほしい』
「了解。しかしこのパターンは、大した事ないヤツだろ? ……うーん、どうしようか。誰がやる?」
正直なところ、たぶん誰でも勝てる。いや、そんな気がするだけだけど。
「それじゃ、俺かな? 魔道具とやらの性能には、興味あるしなー!」
「九条くん、呪いには気をつけてね?」
彩歌の心配は分かる。魔界の関係する物は、何もかもが悪意に満ちているから。
まあ、イザとなったら〝病毒変換〟もあるし、呪い無効の栗っちも居るし、大丈夫だろう。
「ああ、ありがとなー! そんじゃ、変身!」
まばゆい光に包まれて、大ちゃんは変身した。
「ふむ。これで完全回復だな」
レッドは、拳をバキバキと鳴らしながら、吸血鬼に近づいて行く。
「ちなみに、この拳を鳴らすという行為には、演出的な意味合いしか無い。むしろ、拳を壊す恐れがあるので注意したまえ」
なら、なぜやったんだ、レッド?
「おのれ小僧。おかしな格好をしおって!」
「そんな格好をしたお前に、言われる筋合いはない。500年も生きれば、羞恥心にもカビが生えるのか?」
やはり、舌戦で大ちゃんに敵うヤツは居ない。このパターンで逆上した敵が、隙きだらけで突っかかっていくんだ。ほら、吸血鬼も。
「目にもの見せてくれるわぁッ!」
吸血鬼は、腰に下げた剣を抜き、襲いかかる。あんなデカい鎧を着ているのに、かなりのスピードだ。
「ほう。スピードの向上は、なかなかだな。そして、剣の方は……レッドブレード」
手首から飛び出した柄に、赤い光が伸びる。
……あれ? パープルブレードじゃないの?
「光る剣だと? ええい、子どもだましか!」
剣同士がぶつかり合い、火花を散らす。
「……なるほどな。光の粒子を相手に、この強度。剣にも何かしらの細工がしてあるという事か」
少し、押されている? レッドは数歩下がって、何やらブツブツと独り言を言っている。
「はーっははは! どうしたどうした! 口先だけなのか?」
吸血鬼が、グイグイと剣を押し付ける。それに押されて、レッドはジリジリと下がって行く。
「ふむふむ。大体分かった。3層構造の剣……合金は、未知の物質か。サンプルをいただこう……パープルブレード!」
レッドの剣の刀身が、赤から紫に変わる。ギャリン! という鈍い金属音と共に、吸血鬼の剣はキレイに切り飛ばされた。
「な、何だと?!」
「ユーリ、回収しておいてくれ。もう少し、サンプルを頂く」
「やー! りょーかい!」
切り飛ばされた剣先は、キリキリと回りながら飛び、ユーリの足元に突き刺さった。
「む? 1ミリほどズレたか。まだ少し、本調子ではないようだ」
……刺さった位置も計算通りか。さっすが。
「き、貴様?!」
「次だ。他にも武装はあるんだろう? 急いでくれないと困るな。われわれは色々と忙しいんだ」
おっと、忘れてた!
レッドの言う通り、そろそろ帰って土人形を何とかしないと、栗っちのお母さんが大騒ぎすることになる。
「くッ……! 吠え面をかかせてやるわ!」
吸血鬼は、両手を前に出す。〝覇王の黒衣〟の篭手がガチャリと展開して、筒が2本現れた。
「ほほう! 飛び道具なのか……!」
レッドは嬉しそうだ。
……っていうか、まず〝嬉しそう〟な時点で、吸血鬼は、もっと警戒するべきだと思うんだけどなあ。
「威力があり過ぎて、使いたくはないのだが……蜂の巣になるがいい!」
吸血鬼が、レッドに筒先を向ける。
「メルキオール・マリオネット!」
『READY!』
ダダダダダダダッ!
青黒い球体が、篭手から弾き出され、命中した床や壁に、穴が空いてゆく。
「あーっははははは! この弾はな! 延々と直進して、私の楽園を囲っている壁すら、貫通するのだ! 当たったら最期だぞ! 死ね! 死ね! 死ね!」
なるほどな。それで、使いたくなかったのか。
……おっと、流れ弾が結構来るな。
「みんな、急いで僕の後ろに!」
案の定、何発かの弾が、僕に命中して爆ぜた。
お? チクっとするって事は、なかなかの威力じゃないか。
「それそれそれ! 踊れ踊れ踊れ!」
「踊れ……か。では、そうさせてもらう」
レッドの動きが変わった。左手にもパープルブレードを装備して、クルクルと舞い踊るように、弾丸を避けつつ吸血鬼に近付いていく。
「マリオネットは、踊るように動くのが本分だ。美しいだろう?」
スパァン!
……次の瞬間〝覇王の黒衣〟の両腕が切り飛ばされ、ユーリの前に転がる。
「ぎぃやああぁああッ?!」
「面白いサンプルが採れた。ユーリ、暴発するかもしれないから、気をつけて回収して欲しい」
「レッド、優しいっ! あいしてるっ!」
まるで、虫採り網を持った、夏休みの小学生のように、レッドは次々と採集品を増やしてゆく。
「ふぅーッ! ふぅーッ! き、貴様は……何なんだ?!」
「いまの私は〝戦士〟というより〝研究者〟だな。一番めんどうで、一番理解不能な部類の人種だ。せいぜい気をつけるといい」
ああ。なんか分かる気がするぞ。動き始めたら納得するまで止まらない系の人たちだ。
「ぐっ! こ、ここまで……」
ブクブクと、両手を再生する吸血鬼。〝覇王の黒衣〟による補正だろうか、再生スピードが早いな。まあそれでも、ユーリの足元にも及ばないけど。
「ここまで……コケにされて! 生かしておかんッ! 許さんぞッ!」
背中のマントが盛り上がり、両肩から、2つの大きな筒が現れ、甲高い音が響く。
「……これは、使ってはならない武器……この空間どころか、外の世界をも壊滅させるほどの威力を持つ最終兵器だ! お前たちがいけないのだぞ? これを使わせたのは、お前たちだからな!」
甲高い音は、なおも大きくなってゆく。
「なるほど。そういう隠し玉を持っていたのか。だが……」
レッドは、吸血鬼の〝最終兵器〟を、じっくりと、値踏みするように見つめる。
「諸君、あと12メートルだけ、離れてくれたまえ。来い! 〝レッドキャノン!〟」
レッドの頭上に、巨大な大砲が現れる。それも転送システム無しで出せるのか!
……とりあえず危ないから、指示どおり、12メートルは離れよう。
「ブルーエネルギー、接続!」
レッドは、両手に持っていたパープルブレードを、レッドキャノンの持ち手部分に差し込んだ。そんな仕組みになってたの?!
「何だ、そのオモチャは! そんなものでこの私の最終兵器と、勝負するつもりなのか?」
「……〝最終兵器〟か。その武器に、〝名前〟がない時点で、お前の負けだ」
レッドキャノンに、紫色の光が宿り、よく分からない風が吹き荒れる。
「はぁ? 何を言っているのか分からぬ! さあ、食らうがいい!」
「お前は道具に〝愛情〟を注いでいない。それでは、道具は所詮、道具のままなのだ」
双方の武器が発する光が、辺りを赤黒く染め、甲高い音は、耳を塞ぎたくなるほど、大きくなっていく。
「最終兵器よ! ヤツを消し飛ばせ!」
「うおぉぉぉおおおおぉぉおおっ!! ファイヤあぁぁぁぁー!」
青白い光の帯と、奇妙にうねる紫の光が、双方の間で激しくぶつかる。
「……レッドの方が押されている?」
「いや、彩歌さん。あのレッドキャノンは、見た目はゆっくり飛ぶけど……それは残像なんだ」
既に勝負はついていた。光の衝突は未だに続いているが〝覇王の黒衣〟は、すでに紫色の炎に包まれている。
「いぎゃあああああぁぁぁぁあああッ?! こんなッ! こんなバカなアアアァッ?」
うねる紫の光は、いまやっと、吸血鬼がいる場所に達したが、その延長線上には巨大な穴が空き、周囲は紫色に燃え続けていた。
「ふむ。こんなものか……サンプルを取れなかったのが残念だな」




