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楽園

※視点変更

栗栖和也 → 吸血鬼←new!

 私は、500年もの歳月を費やし、この場所に、楽園を築いたのだ!

 それなのに……なぜ……?


「えへへ。かくごしてね」


 この少年が神……?


「栗っち、さすがだなあ! やっぱり僕、いらないんじゃないかな」


「おいおい、たっちゃん? リーダーがそんなこと言ってちゃ困るぜー」


 では、この少年たちは?


「ふふ。達也さんったら。人には得手不得手があるのよ?」


「やー! 呪いとか、そういう〝ぽわわわ〟ってしたのは、栗っちに任せとけば大丈夫さー!」


 そしてこの少女たちは……?

 何なのだ、この状況は? 何なのだ、この得体の知れぬ者たちは?

 憎い……! 小さく脆弱な姿に化けた、私の楽園を脅かす侵略者どもが……憎い!


「何なのだ! 貴様らは?! なぜ私の楽園を壊しに来た? なぜ私を狙う?!」


 理由が分からぬ。

 私は、住まう場所を作り、食事をしていただけだぞ?


「えへへ。僕が怒っている理由が分からないの?」


「分かるか! この世は〝弱肉強食〟だ! 人間(しか)り! 数多(あまた)の動物(しか)り! 他のものの命を奪って生きることは、自然の摂理ではないか。ごく一般的な、生命の営みではないか」


「あー。つまりお前は〝強いものが弱いものの命を奪うのは当たり前だ〟って言うんだなー?」


「その通りだ! 弱き人間など、食料に過ぎぬ。食って何が悪い! 捕まえて()って何が悪い? 人間も、様々な動物を食っているではないか!」


 そうだ。私だって生きるためには、食わねばならぬ。血を(すす)らねばならんのだ!


「じゃあ、きたない罠で、人の心を(もてあそ)び、マイナスの感情を引き出して利用しようとしたのは、どう説明するんだよ?」


「それは、生きるためじゃないよね。きっと、面白がって、卑怯な方法でたくさんの人たちを、ひどい目に合わせたんだよね」


 ……ふざけるな。それのどこが悪い! まったく理解のできない、自分勝手な言い草だ。


「ほざくな! それこそが弱肉強食だろう? 野ネズミを散々いたぶってから食べる猫が、悪なのか? 身動きできない鳥の(ひな)や卵を狙う、(へび)が悪なのか? 弱きものは、強きものに何をされても、文句は言えぬ!」


「やー? そんなの当たり前じゃん! なに言ってるの?」


 ……は?


「えへへ。僕は、お前が〝悪だから〟浄化しようと言ってるんじゃないんだよ?」


 ……はあ?


「〝弱肉強食〟って、魔界では()()()()()()()、あまり使わないわよね。でも、とても素敵な、いい言葉だわ」


 ……はああ?


「俺たちから見れば、お前が悪だから倒すとかじゃなくて、目の前に、蚊がいるから潰すって感じなんだよなー」


 ……はあああ?


「つまりだ。僕たちは、お前が目障りでムカつくから殺す! 以上!」


 ゆっくりと、近づいてくる小さな破壊者ども。


「そ、そんなバカな理由があるか?! 私は500年以上生きた吸血鬼だぞ? 貴様ら人間や、幼き神ごときに、なぜこんな理不尽な目に遭わされなければならないのだ?!」


「やー? マジで言ってるのん? お前が私の〝狩るべき相手〟だからに決まってるじゃんか」


「えへへ。僕はね、友だちにひどい事をされたから、怒ってるんだよ? 神とか、善悪は関係ないよね」


(ぬる)い質問ね? あなた、こんな安全な場所で500年もいたから、色々と(なま)っているんじゃない?」


「ユーリに危害を加えたヤツは、例え善だろうが悪だろうが許さない。それだけだぜー?」


「まあ、そういう訳だ。弱っちいお前は圧倒的に強い僕らに、何をされても文句言えないんだろ? そう言ったよな?」


 ……何という傲慢(ごうまん)! 何という卑劣(ひれつ)さ! 弱き者の気持ちすら考えることの出来ぬ、薄汚れた精神!

 この様な傲岸不遜(ごうがんふそん)(やから)に、因縁をつけられようとは、不運の極み!


「面白いぐらいに話の分からないヤツだなあ! ……いいか? 僕とお前、どっちが強い?」


 何を(たわ)けたことを。


「私に決まっているだろう? 人間風情が私となど、比ぶべくもないわ!」


「まずはそこからか。面倒くさいなあ……じゃあさ、僕の血、吸ってみろよ。何にもしないからさ」


 なんだと? こいつは馬鹿なのか? そこにいる神ならまだしも、人の子が私に血を差し出すとは。


「まさに身の程を知らぬ愚か者だな。貴様の血、望みの通り吸い尽くしてくれよう!」


 私の鋭い牙が、愚か者の喉に突き刺さ……


「あガァああああ?!」


 な! 何が起こった? 痛い! 痛い!


「ハぐあぁ! ガはッ! かヒゅウウ!」


 私の下顎(したあご)が、はじけ飛んだ。バカな……! 何がどうなった?!

 とにかく、再生せねば! よし、集中だ。回復に集中……


「ガフ、ぐぶ、ひゅ、ひゅーひゅー……き、貴様! ど、どういう汚い手を使ったのだ?!」


「おお、さすが吸血鬼! 再生するんだなあ!」


 こいつ、ニヤニヤしおって!


「どういう手を使ったのかと聞いておるのだ!」


「うるさいな。お前のアゴが、僕の肌より弱いってだけなんだよ」


 ……なんだと?


「そんな馬鹿なことがあるか! 人間ごときが調子に乗りおって! 見るがいい。先ほどの薄汚い策によって受けた傷も、この通り完全に元通りだ。そんな私に、お前たちが敵うとでも思っているのか?」


「ふうん? じゃあさー? このユーリちゃんと勝負してみるかい? 〝魔神の爪!〟」


 少女の両手から、爪のような(やいば)が飛び出す。


「待ったユーリ、そっちは〝ノームが居る方〟だぜ?」


「あー! いっけねー! 追加攻撃で殺しちゃうとこだった! さっすが大ちゃん!」


 少女がそう言った次の瞬間。スパン! という音が響き、少し遅れて、右腕に凄まじい激痛が走った。


「いぎぃ?! いィ痛あぁあががあああッ?!」


 私の腕が、切り取られて宙を舞う。な、なんという速さだ! まったく見えなかった……!


「んで、次は私!」


 思わず目を疑った。

 2度目のスパンという音。今度は少女の腕が宙を舞う。自分で自分の腕を切りおった?! 一体どういう……


「やー! どっちが早く元に戻るか勝負ね!」


 な、何を言っているのだ、この(むすめ)は……?! 人間の腕が再生するものか! 愚か者め!

 ぬう。腕の痛みで思考がうまく回らぬ! 早く、早く治さねば……! 集中、集中……な、何?!


「フンフンフン。あ、そうだ、大ちゃんの身体(からだ)、ボロボロなんでしょ? 変身しなくて大丈夫なのん?」


 少女の腕が治っていく! いや、治るというより、ブクブクと泡立つように、みるみる腕が生えていく?! しかも、鼻歌まじりで、会話をしながら、私より早く回復するだと?! こ、この娘、人間ではないのか?!


「やー? いま、何か失礼なこと考えた? ……ま、いいか。よっし! ユーリちゃん、完治! 完全勝利!」


 少女の腕は完全に再生していた。


「それにしても、私の腕を簡単に切っちゃうなんて、すごいよー〝魔神の爪〟」


 先ほど切り落とした自分の腕から、爪のような武器を取り外して、新しい腕に装備しなおしている少女。不要になった〝自分の手だったもの〟をポイと放り投げる。


「お前の再生能力も大したことないな。他に何か、僕たちに勝てそうな特技はないのか?」


 お、おのれ、化け物どもめ!


「いいだろう。人間には絶対にたどり着くことのできない〝魔道〟の高み……究極の魔法を、とくと味わうがいい!」


「ふふ。それじゃ、私の出番ね?」


 魔道士……か? 〝人の子〟の魔力など、たかが知れている。まずはこの小娘を八つ裂きにしてやろう。


「HuLex UmThel FiR iL」


 火球か。子どもの遊びだな。ならば私は、その上位の魔法で遊んでやろう。


「HuLex UmThel gAl FlAm iL」


 城攻めに使うほどの炎魔法だ。消し炭になるがいい!


「死ね! 豪炎魔法!」


 私の大魔法と小娘の火球が空中で衝突する。さあ、そんな魔法消し飛ばして、小娘を焼き殺せ!


「あなた、センスがないわ。あと、練習不足ね」


 き、消えない?!


「なんだと?! 私の魔法が、あんな低級魔法に押し負けて?! ぎゃああああ!」


 熱いっ! 熱いいいいっ?! 何だこの魔法! こんな重くて強い火球の魔法など知らない! 何なんだこの威力は?!


「バカな! こんなバカな事があるか! ただの低級魔法だぞ?!」


「あなた、魔道の高みにたどり着いたんじゃなかったの? 上級魔法を覚えるだけなら、誰でもできるわよ?」


 まさか……火球の魔法に、上級魔法以上の魔力を込めたというのか?!

 信じられん……そんな事が、ただの人間にできるはずがない!


「ふ、ふはは、ふはははは! ならば! ならば仕方あるまい! もう、アレを出すしかないな!」


 私の研究の到達地点。今まで作った魔道具の中でも、群を抜いた最高傑作。

 ……この空間をも壊しかねない圧倒的な力で、この者たちを地獄に叩き落としてくれるわ!

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