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腕相撲(下)

※視点変更

栗栖和也 → 七宮啓太

 やっぱりこのガキ、普通じゃない。

 どういう仕組みなのかは知らないが、あの後もコイツは、1から順番に〝クアッド〟を3回も出した。

 おかげでディーラーのおっさんは完全に目を回す始末……


「えへへ。カードゲーム、楽しかったね!」


 気楽なもんだ。普通に楽しんでやがる。

 〝異常に運が良い〟ヤツって事なのか? いや、運が良いヤツは、こんな所に迷い込んだりはしないよな。


「ほら、着いたよ。ここが第2の試練の部屋だ。さあ、中に」


 って、もう入ろうとしてるよ。ニコニコしやがって! 恐怖心とか無いのか……ん? そういえばアイツ、さっきも私が指示する前に、何の迷いも無く〝右〟に入って行ったような……


「気のせいか?」


 私は左の扉を開けて中に入る。構造は、さっきの部屋とほとんど同じだ。せまい空間に、木製のみすぼらしい椅子が5つ。右の壁のガラス越しには、となりの部屋が見える。テーブルと……あのデブ専用の椅子だけは、バカでかいけどな。


『ジュジュ……ジュ……オレ様を見て逃げ出さなかったのは、ほめジュジュ……るぜ、ボウズ』


「えへへ。おじさん、大きいねえ!」


 逃げ出さないっていうか、なんでまだニコニコしてるんだよ。私だって、あの巨体を見たら多少はビビるぞ?


「この試練は、腕相撲だよね!」


『そうだ。ワシに腕相撲で勝てば、お前は次の〝試練〟に進める。負けたら、全て禁じられて〝吸血鬼様〟の餌食(えじき)だぞ。ぐあっはっは!』


 デブは、巨体を揺らしながら豪快に笑う。

 いつも思うんだが、お前がまだ〝眷属(けんぞく)〟になっていないのは、(アブラ)()すぎて〝吸血鬼〟に血を吸ってもらえなかったからじゃないのか……?


『あと、ヒジがテーブルから離れたら、負けだからなあ?』


『うん、それはさっき聞いたよ? 僕、がんばるよ!』


 ……ん? 〝さっき聞いた〟って、そんな説明したか?

 ガキは腕まくりをして、ヒジをテーブルに乗せる。デブも、いつものように、角度を付けて、ガキの手を握る。

 何だろうな、この奇妙な構図は。体格差あり過ぎて、遠近感が狂ってしまう。


「まあ、これだけガタイに差があればさすがに楽勝で……」


 いや、待てよ? コイツも、あの〝藤島彩歌(ふじしまあやか)〟の仲間だ。もしかしてスゴい怪力だったり?


『うへへへ。それじゃあいくぞ。レディ……ゴー!』


 ドン! という音が響き、衝撃が伝わって来た。

 おーい、やっぱりかよ!

 真っ赤になって歯を食いしばっているのは……デブの方だ。


『ぐ……あ! 最近のガキは、みんなこうなのかあ?!』


 対するガキは余裕の表情。


『えへへー! おじさん、すっごい力だね!』


「……そろって化け物かよ! 何の集まりなんだよ、コイツら?!」


 徐々に、デブが押され始めた。ガキにチカラ負けしてんじゃないぞ、まったく!


『がはああああっ?! なんでだあっ! コイツすげぇ力だあっ!』


 必死で力を込めるも、巨漢の腕はグイグイと押され続ける。

 一方のクソガキは、ニコニコ顔のままだ。チッ! 仕方ないな、ガキ相手に2回も連続で裏技かよ。


「ククク。まあいい。どんな相手でも、そのデブに負けは無いんだからなあ!」


 ……腕のコピー。

 生身の人間でありながら、ヤツは特殊過ぎる能力を持っている。


「負けるはずがない。あのデブは、触れている間、相手の腕をそのまま自分の腕の能力にプラスする事ができるんだからな」


 その際、腕に装備されている衣類や装備、アイテムの能力はもちろん、なんと相手の〝全身から腕に伝わってくるであろう(ちから)〟に至るまで、そっくりそのまま複写して、自分の力に上乗せしてしまう。

 そう。ヤツはまさに、腕相撲をするために生まれてきた様な……ちょっと可哀想な男だ。


『ぐううっ! ワシより強い子どもに、2度も出くわすとはなあ! だが! ここからがワシの本当のちから……』


『えへへ。やめた方がいいよ?』


 突然、ガキはちょっと困った表情を浮かべた。


『ああん? 何だとお?』


 デブの顔が、一層(みにく)く引きつる。


『おじさんが、これからしようとしてる事って、とっても卑怯(ひきょう)だし、ズルいよね。だから、やめた方がいいと思うよ?』


 何言ってんだ、このガキ。まさか、知ってるのか? このデブの能力……?


『何だ? どういう事だあ? ガキい!』


 無駄に大声で怒鳴(どな)るデブ。あーもう、うるさいな! もっと静かに生きられないのかよ。


『ガキいいぃ! お前え、ワシの能力のこと、誰かに聞いたのかあ? ……七宮かあ?!』


 ちょ、私じゃないぞ! 言うわけないだろ? ちくしょう、何なんだよ、あのガキは?


『えへへ。聞いたんじゃなくて、見たんだけどね。おじさんのは、相手の腕をそっくりそのまま、自分の物にできるんだよね?』


 ……やっぱり知ってやがった! どうやって手に入れた情報だ?!


『がぁっはっは。知ってるんなら、隠しても仕方ないなあ……ああ、その通りだあ! すぐに見せてやるぞお?』


『ああっ! ダメだよ! やめてよおじさん……!』


 ガキが、泣きそうな顔で訴える。


『がはははは! やめろと言われて、やめるわけ無いだろうがあ! さあ、変わるぞ変わるぞ!』


 徐々に、デブの腕だけが小さく変化していく。

 それにしても気持ち悪い顔だなオイ! やめろ、ヨダレを()き散らすな!


『おじさん、本当にダメだよ! だって僕の手には……』


『うるせぇんだあ! もう終わったんだよ、クソガキゃああっ! 見てみろ、ワシの腕が、お前の腕をそっくりそのまま……か、カハッ?!』


 突然、苦悶の表情を浮かべたデブ。変化していないゴツい方の左手で、首元を押さえる。

 ……な、何だ?


『ああ、もう! だから言ったじゃない……』


 ガキは、やれやれといった感じで、困った顔をしている。


『あ、あぐ、あうぐっ?! くかかかかかっ!!』


 デブは、みるみる顔色が悪くなり、小刻みに震え始めた。

 おいおい、お前一体、何をしたんだ?


『ううん。僕は何もしていないよ? このおじさんが悪いんだ。僕の腕をコピーしちゃうんだもん』


 こ、こいつやっぱり、私の心の声に返事している?!


『ぐ、ぐるじい……! た、たず、げて……!』


 デブの顔色は、白いどころか真っ青になっていく。

 さっぱり分からん! これはどういう事なんだ?!


『えっと、僕の手とおじさんの手、見えるよね。人差し指と中指に……わかるかな?』


 指輪か! ガキの指輪は、デブにもコピーされて、人差し指と中指で怪しく光っている。


「待てよ! それはただの指輪だろう? 外から持ち込んだ〝道具〟を使えば、すぐにゲームオーバーだぞ?」


『えへへー! 僕は使ってないよ? だだ身につけてるだけ』


 ウソをつくな! それじゃ、なんでデブは、そんなに苦しんでるんだよ!


『この指輪はね〝病気になる呪い〟と〝重くなる呪い〟が掛かってるんだ。怖いし、悪いよね!』


 ……はあああぁぁっ?! なんでお前、普段からそんな凶悪な〝呪いのアイテム〟を身に着けてんだよ! いや、それ以前に、お前は何でピンピンしてるんだ?!


『大っきいおじさんは、とっても悪い病気になっちゃったみたいだよ。あ、それから、だんだん重くなって……』


 ズドン! という音と共に、床にめり込んだデブ。ピクピクと痙攣して、白目をむいている。


「〝重くなる〟って、そこまでかよ! 常人なら即死レベルじゃないか!」


 見た事もないほど強力な〝呪われた装飾品〟……あれは魔界の深層クラスの呪いだぞ?!


『あーあ。ヒジがテーブルから離れちゃったね! えへへー! 僕の勝ちー!』


 そう言って〝常時呪われた〟ガキは、ピョンと飛び跳ねて喜ぶ。

 ……本当に、コイツは一体、何者なんだ?

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