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試練と罠

※視点変更

栗栖和也 → 内海達也


※舞台変更

外 → 中

 ここは、吸血鬼の食料庫。


『タツヤ、その説明では、少し分かりづらいかもしれないね』


 そうだな。それでなくても、よく分からない状況だし。

 えっと……ルーマニア、シギショアラの魔界の(ゲート)は、結構やっかいな状態になっていた。

 魔界からやって来た〝吸血鬼〟は、この場所を何らかの方法で外界と切り離し、500年以上も前から、迷い込んだ人間を閉じ込め、食料にしていたのだ。


「見えた……あの広場だ。ラッキーなことに〝眷属〟も、今はいない」


 屋根づたいに移動して、20分たらずで、僕たちは、噴水のある大きな広場にたどり着いた。


「この扉を開けて、中に入れば〝試練〟が始まる」


 七宮啓太(ななみやけいた)さんは、広場の片隅にある大きな扉を指差して言った。

 扉には、無駄に豪華な装飾が施されていた。

 裏側に回り込んでも、やはり同じ装飾の扉が有るだけだ。ペラッペラに見えるんだけど……


「この扉は、不思議なことに、どちらから開いても〝試練〟へと続く通路に繋がるんだ。そして、入ったら最後、挑戦者は引き返すことができない」


 へぇ。面白いな。未来のロボが出してくれる、あのドアにそっくりだ。ちょっと豪華すぎるけどね。


「ねえ、あなた達……本当に試練を受けるの? 危険なのよ、とても……」


 神妙な面持(おもも)ちで、河西千夏(かわにしちなつ)は僕たちを見つめている。

 彼女は日本から観光のためにシギショアラを訪れ、この場所に迷い込んでしまったらしい。


「そうだ。自分から、吸血鬼のエサにしてくれと言っているようなものだよ。大人しく隠れ住んだ方が、長生き出来るぞ?」


 お気持ちは嬉しいんだけど、そういうわけにも行かないんだよな。僕たちは、さっさとこんな所から出て、地球の破壊を防がなきゃならないんだ。


「ケータ兄ちゃんは〝試練〟がどんな物なのか知っているの?」


 彩歌の問いに、七宮さんは静かに(うなず)いた。


「〝試練〟は、単純な〝力比べ〟や〝ゲーム〟だよ。対戦相手は吸血鬼の、忠実な下僕(しもべ)たちだ。そして、負けた者は〝眷属(けんぞく)〟に触れた時と同じように、自由を奪われてしまう」


 負けたら、即、ゲームオーバーか。確かに普通の人間にはリスクが高いな。

 いや、それより……何で七宮さんは、そこまで詳しく知っているんだろう。


「中に入れるのは〝挑戦者〟5人と〝案内者〟が1人。まっすぐ続く通路を進み、5つの〝試練〟の部屋を突破すれば、吸血鬼に会えるだろう」


 たぶんね。と続ける七宮さん。


「えーっと〝挑戦者〟は俺たちだろー? じゃあ〝案内者〟っていうのは、何をするんだ?」


 大ちゃんの質問に、七宮さんは、少し低いトーンで言う。


「吸血鬼の〝試練〟は、全部で5つある。その全てを突破した者は、未だ居ない……」


「あー、なるほど。分かったぜ」


 スゴいな大ちゃん! 今ので何がわかったんだ?


「戻って伝えるヤツが居なければ、突破した者の有無なんて分からないからなー。つまり〝案内者〟は〝挑戦者〟がどうなったのか、一部始終を見届ける役目なんだろ?」


「……やはり君は、すごく頭がいいね」


 七宮さんは、大ちゃんの言葉に驚いている。

 しかし、なるほど。どおりで詳しいわけだ。たぶんこの人は〝案内者〟の経験があるんだろう。


「ちなみに、私が〝案内者〟として同行した者たちは全員、この閉ざされた空間のどこかを、今も徘徊しているだろう。〝眷属〟としてね」


 七宮さんが悔しそうな顔で(うつむ)く。


「私が知る情報は、できる限り伝えておこう。まずは〝試練〟の内容だ」


「おいおい! 〝案内者〟がそれ言っちゃって良いのかよー!」


 大ちゃんの言うとおりだ。〝試練〟に付き添うからには〝案内者〟は、その内容から、進行、下手をすれば攻略法まで、見てしまっているはずだもんな。


「うん、大丈夫だよ。禁じられてもいないし、(とが)められることもない。逆に〝案内者〟は、丁重に門の外に返されるんだ。お土産(みやげ)付きでね」


 ……そのお土産というのが、僕たちがつけている、首輪らしい。


「1人の〝挑戦者〟につき、1つ。その首輪の数だけ、この扉に入った者が居るということなんだよ」


 首輪は、生命反応をゼロにするアイテムだ。これがあれば〝眷属〟に追われなくなる。どうして吸血鬼が、そんな大盤振る舞いをするのかは謎だけど。


「むしろ〝挑戦者〟に情報を与え、ハードルを下げて、多くの人を参加させようとしているのかもしれないわね」


 彩歌(あやか)が言った。

 なるほどね。この〝試練〟は、吸血鬼にとって、それほどにメリットのある物なんだろう。やっぱり、罠だと考えるほうが納得がいくなあ。

 ……まあ、どちらにしても、絶対に〝試練〟は受けるのだから、情報は多いほうがいい。


「よし、では説明しよう。この鍵で扉を開け、まずは〝挑戦者〟が入る。次に、鍵を持った〝案内者〟が入り、内側から鍵を掛けた時点で〝試練〟スタートだ」


 鍵を掛けられるって、なんかイヤだな。閉じ込められた気分になる。


「同時に挑戦できるのは5人までだ。鍵を手に持たない状態で、6人目が扉に入ったら、即時、吸血鬼のエサだ。もちろん、1人でも参加可能だが、大勢のほうが対処しやすし〝試練〟に失敗しても、そのメンバー以外は、次の部屋に進むことが出来る」


 つまり、少なくとも5人いれば、最後の〝試練〟まで受けられるのか。


「一緒に入った〝挑戦者〟が全員〝試練〟に失敗した時点で〝吸血鬼の食卓〟に送られることになる」


「やー。全員が失敗? じゃあさ、もしかして……」


「そう。誰か1人でも最後の試練を突破することが出来れば、挑戦者全員が開放されるんだ。吸血鬼に会えるのは、最後の試練まで残った者だけだけどね」


 好条件すぎるだろ。5人揃えて、1人でも最終試練を突破すればいいだなんて。


「簡単だ……とか、思っていないかい? それもまた、吸血鬼の思惑通りなんだと思うよ。現に、最後の試練まで突破した者は、今まで1人もいないんだから」


 七宮さんは、ため息の後にそう言った。


「それでも、やるのかい?」


 全員が(うなず)く。

 やれやれといった表情の後に、七宮さんは〝試練〟の内容を話し始めた。


「試練その1は、カードゲームだ。ルールはポーカーと似ているけど、使うのはトランプじゃない」


 驚いた。命がけの〝試練〟なのに、本当にゲーム感覚なんだ。


「2つ目の試練は、力くらべ。腕相撲ってヤツだよ。相手は、怪力の持ち主だが〝人間〟だ」


 人間相手の腕相撲なら、ウチのメンバーが負ける要素は無いな。


「そして3つ目は謎解きだ。内容は毎回変わる。なぞなぞの様な問題や、推理小説の犯人当てみたいなものの場合もあるよ」


 こういうのは、大ちゃんに任せれば大丈夫だろう。むしろ、大ちゃんに解けない問題なら、()()()()()()()()


「第4の試練は鬼ごっこ。相手は〝挑戦者〟が出会った事のある生き物の中で〝最も素早い何か〟に化ける悪魔。姿(かたち)とスピードを、そっくりそのままコピーしてくる」


 おっと。これは手強そうだ。

 例えば、ユーリに追いかけられたりしても、逃げ切る自信はないなあ。


「ここまでは、1対1の対決だ。そして、5つ目の試練。最後の部屋にいる〝番人〟を、今まで勝ち残った者、全員で倒すことが出来れば、君たちの勝利だ」


 なんだ、最後は全員か。これはもう、勝ったも同然じゃないか?


「そうだ。最後に、大切なルールをもう1つ。この扉の中にある物以外の、あらゆる道具は、使用禁止だ。使ったとたんに、負けとなる」


『タツヤ、それはあまり良くないね』


 そうだなブルー。ちょっとマズいぞ。彩歌のロッドはもちろん、大ちゃんのベルトとユーリのガジェットも使えないのか。


『まあ、試練の内容は、変身の必要がないものも多い。5つ目の試練だけ注意すれば、命に関わる事はないだろう』


 そっか。よし、大ちゃんには頭脳で勝負してもらおう。


「じゃあ、準備はいいかい? 扉を開くよ!」


 七宮さんが鍵を鍵穴に差し込むと、鈍く(きし)む音と共に、扉が開いていく。


「やー! いくよ、みんな!」


「ちょっと待った!」


 元気な掛け声と共に扉に入ろうとしたユーリの腕を、大ちゃんがつかんで引き止める。


「やー? 大ちゃん、どうしたのん?」


 不思議そうにしている、ユーリの首に手を回し〝首輪〟を外す大ちゃん。


「これも、扉の外から持ち込んだ〝道具〟じゃないか? 一発で負けになっちまうぜー?」


 うわっ! それはイヤだな。


「これでよし、っと!」


 全員が、慌てて首輪を外してから、扉に入っていく。

 ……ん? でも大ちゃん、さすがにそれは無いんじゃないか? もし首輪がルール違反なら、七宮さんが教えてくれるだろう。


「……君は本当に頭がいいね」


 背後から、低く小さい声で、ボソリとつぶやく七宮さん。

 ……え?


「まあでも、それはそれで面白い。それじゃあ……」


 七宮さんは、隣りにいた千夏の首輪を無理やり引きちぎり、そのまま腕をつかんで、扉の中に押し込んだ。


「きゃあっ!? リ、リーダー? 何を……」


「予定を変更しよう。ゲームをゆっくり楽しむのも悪くない」


 自分も中に入り、扉を閉めて施錠する。


「あ、そうそう。もう1つ、ルールがあったんだ」


 ガチャリという音のあとに、邪悪な笑みを浮かべてこう言った。


「〝案内者〟に危害を加えてはならない。覚えておいたほうがいいよ」

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