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電話

 あの3人組のお兄さん達は、僕の事は誰にも言わないだろう。これに懲りて、悪さも控えてくれると嬉しい。

 予定よりすっかり遅くなってしまったが、無事に自宅についた。


「ブルー、地下室を開けてくれ。リュックを置いてこないと」


『そうだね。見慣れない物が部屋にあると、不審がられるだろう』


「鳥取とオランダのガイドブックなんか見られたら、ちょっと面倒だしな」


 家に入る前に、地下室に向かう。地下室への階段には、(おもむ)きのある、ランタン風の灯りが灯っていた。


「仕事が速いな、ブルー」


『丁度、地下に埋もれていたのを見つけたので、利用してみた』


 地下室の部屋の机に、新しいリュックサックと、ポケットの中の小銭、残った旧札、そして、例の三人の住所が書かれたメモを置く。


「今日の感じだと、あと数日で、鳥取には行けそうだな」


『良かった。タツヤ、よろしくお願いする』


 地下室を出ようとした時、右手から、ブルーではない声が響いた。


『達也さん、聞こえますか? 彩歌(あやか)です。今、大丈夫?』


『彩歌さん!』


あれ? ちょっと今、声が裏返ってたかも。


『ちょっと色々と手間取っちゃって遅くなったけど、無事に魔界に着いたこと、連絡しようと思って』


『良かった。それで、説明は上手くできた?』


『うん。不老の事とか、ブルーの事は話さずに、上手くごまかせたと思う。弱体には、みんな驚いてたけど』


『だろうね。とにかく、無事で何よりだ!』


『有難う。達也さんとブルーのおかげよ。何かあったらいつでも言ってね!』


 何か……あ、そうだ。分岐点の件、一応伝えておかなきゃな。


『そうだ。えっと……ブルー、最初の分岐点って、何日後だっけ?』


『33日後だよ。今回はタツヤだけで十分対応できるはずだ』


『そっか……彩歌さん、僕だけで大丈夫らしいんだけど、33日後に、地球を救うためにオランダへ行くんだ』


『オランダ?! すごい! 行ってみたいな』


『可能なら、アヤカも同行して欲しい。導きの成功率が上がる』


『やった!』


 僕と彩歌、同時に、喜びの声を上げる。


『えっと、でも、もしかしたら、その頃はまだ〝清めの儀式〟が終わってないかも……』


『清めの儀式?』


『悪魔を倒した後に、しなくてはならない、呪いよけの儀式なの。今回の悪魔は、かなりの上級悪魔だったから、清めを終えるのに凄く時間がかかるかもしれない。それが終わるまでは、自由には動けないの』


『そうか。それじゃ、運次第って感じだね。ちょっと残念』


『ええ。でも、それが終わったら、私、かなり自由になるの』


『かなりってどういう事?』


『私、弱体化されたでしょ? 任務に支障が出るという事で、城塞都市の守備隊から、除名扱いになっちゃった』


『そんな……!』


『でもね、この弱体も、名誉の負傷というか……逆に、この体で、高位の悪魔を倒した事で、私、英雄扱いなのよ。本当は、達也さんが、やっつけてくれたのにね』


『いやいや。僕はただ、殴ったり蹴ったりしただけだよ』


 本当に、殴って蹴っただけだ。今思えば、高校生が5~6発で行動不能になる僕のパンチを、100発以上受けても生きているという事は、あの悪魔って結構タフだったんだな。


『でね、清めの儀式が終わったら、大人になるまで、自由にして良いということになったの。お給料も今まで通り、出るみたい』


『凄い高待遇じゃないか!』


『なんてったって、英雄ですから、私!』


 良かった。除名と言うからマイナスイメージだったが、有給もらってバカンスモードだな。


『だから、もし今回は無理でも、次からは、一緒に連れて行ってね!』


『ああ、よろしく頼むよ、彩歌さん!』


 俄然(がぜん)、やる気が出てきた。よ~し、今回が無理なら、オランダはプライベートで一緒に行こう。あ、鳥取も。


 彩歌との通信を終えて、自宅に戻ると、妹がチーズかまぼこを食べながら、お正月にありがちな、お笑い番組を熱心に見ていた。


「あ、お兄ちゃんお帰り」


「ただいま。父さんと母さんは?」


「なんか、すぐ帰ってくるって言って、出てった」


 はて? どこに行ったのかな。


「おばあちゃんも?」


「ううん。おばあちゃんは部屋にいると思うよ」


 そっか。じゃ、帰って来るまでテレビでも見てるかな。


『タツヤ、ちょっと思い出したのだが』


「何?」


『先日、ユーリが言っていた事だが、宿題は、どうなっているのだろう』


「あ、そうだ。よく覚えているな、ブルー」


 僕は自室に戻り、ランドセルの中を見た。冬休みのドリルは、案の定、ほとんど白紙だった。連絡帳をチェックすると、他にもいくつか、やらなければならない宿題があるようだ。


「やれやれ、仕方がない。 パパっとやっちまうか」


 ドリルは、さすがにスラスラと進む。面倒臭いかと思ったが、これが意外と楽しい。


「5年生の頃って、こんな問題やってたんだな。懐かしすぎる」


 算数の問題を解きながら、ふと、連絡帳の赤い文字に目が止まる。僕の字だ。


 〝忘れない事! 1月2日 朝 うさぎのエサやり当番〟


 げげ! 今日じゃん! もう夕方6時近いぞ……


『タツヤ、ウサギが可哀想だ』


「本当だ。急いでエサをやりに行こう!」


 僕はおばあちゃんに、学校に行くと伝えて、懐中電灯を片手に、家を出た。外はもう真っ暗だ。


『タツヤ。ウサギは1日食べないと死亡する可能性もある』


「マジか! それは可哀想過ぎる。急ごう!」


 学校についた。懐かしむよりも、今はウサギが先だ。校庭を横断して、飼育小屋向かう。

 

「無事でいてくれよ」


 飼育小屋の扉を開け、かすかな記憶でウサギの部屋を探す。

 ……確か、チャボの右隣だったな。居た! ウサギは元気だった。


「良かった。急いでエサを」


 僕は棚からウサギ用のエサが入った袋を取り、皿に入れた。水も足したし、完璧だ。


「ふう。これで良し! さあ、帰るか。」


 エサを食べ始めたウサギを確認して、帰ろうとすると、小屋の入り口に、誰か立っている。


「なんだ、達也か。あけましておめでとう。だな」


 担任の谷口先生だ。懐かしい。


「エサをやりに来るのは朝のハズだろう」


「あけましておめでとうございます。ごめんなさい。忘れていました」


「まあ、思い出しただけ、偉かったな。エサやりを忘れると、死んでしまう動物も居るから、先生たちはこうして、午後、確認に来るんだ。今日はちょっと遅くなったがな」


 そうだったのか、全然知らなかった。


「もう、暗くなったし、早く帰るんだ。気をつけてな」


「はい、さようなら先生!」


「また、新学期にな! 宿題やれよ!」


「は~い!」


『タツヤ。良い先生だな』


「ああ。生徒思いの、優しくて、厳しい、とても良い先生だ」


 僕は、学校と先生の懐かしさに浸りつつ、家路を急いだ。早く帰らないと、両親に、また心配をかけるもんな。


 家に着くと、父さんと母さんは、既に帰宅していた。


「達也、お前は、正月から色々と、忙しいやつだな」


 本当にそう思います。


「今、駐在さんに、お礼に行ってきたのよ。あなたも一緒に行けたら良かったんだけど」


 なるほど、そういう事か。色々と申し訳ないな……


「駐在さん、お前が検査で異常なしだったって聞いて、喜んでくれてたぞ」


「うん。僕も近い内に、お礼に行くよ」


「それが良いわね。きっとよ」


 父さんはソファに腰掛けて、テレビのリモコンを操作し始め、母さんは夕食の準備を始めた。


 そこへ、電話が鳴る。丁度近くに居た、おばあちゃんが受話器を取る。


「……達也、電話やで」


 正月早々、僕に電話? 誰からだろう。


「もしもし、たっちゃん? 和也だよ。ちょっと良いかな?」


 栗っちだった。


「うん、どうしたの?」


「ちょっと、相談したい事があって……明日、お邪魔しても大丈夫?」


 明日は、ちょっと遠出(とおで)して、旧札ショッピングをしようかと思ってたのだが、何やら栗っちの声色(こわいろ)が、変だ。


「大丈夫だよ。いつでも来て」


「ありがとう。ちょっと僕、大変な事になってるみたい。朝9時に行くね」


「わかった。待ってる」


 電話が切れた。僕は家族に、明日、栗っちが来る事を伝えた。


「和也さんが来るの?! うわ、どうしよう!」


 嬉しそうな妹。そうだ、妹は栗っちが大好きだった。なんと15年後も、密かに想い続けていた。


「明日は、おばあちゃんら、親戚まわりするけど、達也だけ残るかえ?」


「お兄ちゃんだけ?! 私も! 私も残る!」


「るりは、お邪魔になるでしょ? 一緒に行きなさい」


「えーっ! お兄ちゃんだけズルい! 私も残るの!」


 半泣きで食い下がる妹。


「こら。栗栖君は、お兄ちゃんと、何か話があると言っているんだぞ。お前は父さんたちと行くんだ」


「やだやだやだ! 私も和也さんといっしょに居るのぉ!!!!」


 本当に泣き出す妹。ちょっと可哀想になってきた……


「しょうがないな。栗っちには、また別の日に遊びに来てもらうからさ。るりのために」


 僕の言葉に、真っ赤になって大人しくなる妹。


「私のために?」


 ニヤける妹。ちょっと怖い。


「ああ。頼んでみるよ」


 栗っちは、優しいからきっと来てくれるだろう。


「ありがとうお兄ちゃん! ぜったいよ! やくそくだからね!」


「わかったわかった」


 この後、僕が


「しつこいな!」


 と言うまで、妹の〝絶対だよ攻撃〟が続く。

 気が済んだ妹は、鼻歌交じりに、ソファでクッションを抱えてゴロゴロしている。


「お昼ごはんはどうする?」


「明日なら、もう開いてると思うから、栗っちと、まりも屋でなんか食べるよ」


 〝まりも屋〟は、駅前にある大衆食堂で、ほぼ年中無休。オススメはカツ丼とオムライスだが、量がハンパナイので注意が必要だ。


「あなた本当に、まりも屋、好きね……お金、ここの引き出しに入れとくから、和也くんの分とね」


「うん。ありがとう!」


 まりも屋は、15年後には、大将が引退して息子さんが後を継いでいるが、味は、見事に劣化していて悲しかった。カレーだけは、なぜか超絶グレードアップしているのだが。


「達也、栗栖君の力になってあげなさい。何か困ったら、父さん母さんに相談するんだぞ?」


「わかった。ありがとう、父さん」


 夕食を終え、お風呂に入ってから、自室に戻る。眠らなくていいので、宿題を続ける。


「ブルー、栗っちの相談事って何だろうな」


『うん。私の予想が正しければ、かなりの大事(おおごと)だと思う』


「何か気付いているのか?」


『私とキミの出会いは、彼の予言によって、先延ばしになったよね』


「ああ。そういえばそうだったな……それがどうかした?」


『私とキミの出会いは、決められていたもので、いわゆる〝頑丈な歴史〟のハズなんだよ。彼はね、それを曲げる事が出来た、という事なんだ』


「え? ちょっと待った。それが出来るのって……」


『そう。彼も、何らかの〝特異点〟だ』

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