秘密基地を作っちゃおう!
※視点変更
パンタル・ワン → 栗栖和也
〝特殊武装戦隊マンデガン〟カッコいいよね! 僕、本物のヒーローを見たの、初めてだよ!
「……あ、夢中になっちゃってごめんなさい。自己紹介しなきゃ!」
栗栖和也だよ。僕たちは今、香川県に来ているんだ。
ここから〝ルート〟っていう、ワープゾーンを使って〝シギショアラ〟まで、魔界の門を閉じに行くんだけど……
『タツヤ、ルートの入り口は無事だ。いつでも移動できる』
「オッケー、ブルー。良かったぜ!」
あ、たっちゃんの口調が変わってるのは、変身してるからだよ。
でね、その〝ルート〟の入り口に、悪の秘密組織〝ダーク・ソサイエティ〟が、アジトを建設しようとしていたんだ。すごい偶然だよね!
「マズいね。敵に、われわれの存在を知られてしまった……」
「……いや、マスター。心配いらない。すでに、この施設内のネットワークに侵入して、今回の件に関するデータは、全て削除した。映像や音声データが、外部に漏れた形跡もないようだ」
モジャモジャ頭の〝マスター〟っていう人と、レッドが、なんだか難しい話をしている。
「そうか。キミたちは、地球を守るために戦っているんだな」
この人は後藤千弘さん。マンデガン・ブルー。
「それにしても、あなた達、すごく強いわね!」
このお姉さんは、慈許音貴代さん。マンデガン・レッド。
「まったくじゃあ! ちっこい体で、大したもんじゃのう!」
そしてこの人は、土田端和久さん。マンデガン・イエロー。
ヒーローの皆さんは、僕たちの事、あまり詳しくは聞こうとしないんだよ。秘密のヒーロー同士だから、事情を察してくれてるんだね、きっと。
「しかし、大ちゃん……もとい、レッドくん。敵は強大で得体が知れない。ここも、いずれまた狙われるかもしれないよ……」
マスターは困った顔をしている。
そうだよ。こんなに立派な建物を作りかけておいて、放っておいたりしないよね。
『タツヤ、普通の人間では認識できないはずの〝精霊〟ノームの声に、サルの姿をした怪人は、わずかだが反応していた。ヤツらは高確率で〝ルート〟にも、気付く恐れがある』
「それはちょっとマズイな。ルートを悪用されるとか、地味に厄介だ」
みんな、この場所をどうするか話し合っている。とっても大事な事だよね。
「……ならば、ここをマンデガンの基地にすればいい。私が少し手を加えて、無敵の要塞にしておこう」
えへへ。〝大ちゃんが少し手を加える〟って……たぶん、世界中の軍隊がいっぺんに攻めて来ても、平気な感じになるんじゃないかな。
「まず、外壁の強化と電磁バリアの設置だ。そして自動反撃システムは対空と対地をそれぞれ50機ずつ用意しよう。幸い、ここには資材が充分にある」
「いやはや、冗談……じゃないみたいだね。すまないがよろしく頼むよ。それで、日数はどれぐらい掛かるかな?」
「84分で作成と設置が完了する。その後、32分で、4着すべての〝マンデガン・ジャケット〟を、可能な限り強化しよう。少なくとも、今日のサル程度なら軽く倒せるぐらいになるだろう」
「ええっ?!」
「マジかよ……」
「今日、戦闘中に軽く改良した際に、ジャケットの構造は把握した。元がしっかりしているので、機能の向上は容易い」
……なんか、マスターもヒーローさんたちも、口を開けたまま固まってるんだけど。
「それと……ブルー。〝喫茶ガブロ〟から、ここまでの抜け道を作れないだろうか」
『了解した。早速とりかかろう』
「ありがとう、助かる。次に、光学迷彩だが……」
えへへ。あっちのお話は、僕にはあんまり関係ないみたい。それじゃ僕は、こっちの人たちと、お話をしようかな。
「……解除」
僕は、変身を解いた。
マンデガンの人たちには、素顔を覚えられても平気みたいだし、それに……えっと、変身したままだと、怖がらせちゃうから。ね?
「神の名に於いて命ずる。答えよ」
パン! という音が鳴り響く。それじゃ、始めようか。
「…………うん。そうだよね。あなたたちは、とても悪いことをしたんだよ」
目の前にいるのは、ダーク・ソサイエティの怪人だった人たち。
……の、霊体。
「みんな、分かってるんだね。そう、生きている時は、どうしても、それに気付けないんだ。悲しいよね。みんな、本当は優しい人たちなのにね」
ここにいる3人は、自分がしてきた悪事をすごく後悔しているよ。
「大丈夫。神は……僕はあなた達を見ているよ」
だから、とても安らかな場所で、償う機会が与えられる。怖くもないし、痛くもない、辛くもない、ただ、償いをする。そんな場所に行けるんだよ。
……甘いかな? 生ぬるい? 違うよ。
それは痛みや苦しみをもって償うのとは、まったく別の事なんだ。人間の理では、説明できないんだけど。
「そうだよ。もう誰も、あなた達を傷つけることは無いんだ。ほら、見えるでしょ? あの光を目指して行けば大丈夫」
とっても素直な、いい子たちだったよ。
でも、ほとんどの人は〝少しだけ〟とか〝いっぱい〟とか差はあるけど、必ず〝悪い心〟を持ってしまうんだ。悲しいね。
「……という感じで大丈夫だろう。今回のように、怪人が複数で襲ってきても、籠城しつつ全員を呼び戻し、撃退する事ができる」
「すごい……! 本当にすごいよ、レッドくん!」
「この場所を防衛してもらえるなら、われわれも助かる。それではさっそく取り掛かろう。アース、堀と壁の作成をお願いするよ」
「任せとけ! ちょちょいのチョイだぜ!」
あ、お話が終わったみたい。アースは、腕をグルグル回しながら部屋を出ていく。
「えへへ。僕もなにか手伝うこと、あるかな?」
「ああ、和也少年。悪いが、そこに転がっている怪人の死体と戦闘員を、こちらに並べてくれないだろうか。改造して、この基地の衛兵にするのだ」
すごいよね! レッドにかかれば、昨日の敵は今日の友だちだもん。
あ、でも、完全に粉々になっちゃって、死体が残っていない怪人もいたよね?
「〝イヌ〟と〝桃〟は、完全に塵と化しているので、復元は不可能だ。〝ゲジゲジ〟と〝サル〟をお願いするよ……ん?」
レッドが、急にピタリと動きを止めて、怪人の残骸を見つめる。
「……どうしたの? レッド」
レッドは不思議そうに首を傾げてから、サル怪人が居た場所に近付いてこう言った。
「頭部が、無い」
「えっ……頭が? なんで……?」
確かに、手足と、胴体は転がっているけど、レッドがさっき切り飛ばしたはずの〝首から上〟が見当たらない。
「にゃー? 頭? アレじゃニャい?」
イエローが指さした先に、サルの頭が転がっている。
「ふむ? ……そうか。私の記憶では、ここに有ったはずなのだが。目を離したすきに、誰かが蹴ったのかもしれないな」
うわぁ。不注意で生首を蹴って転がすとか、怖いよね。
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レッドは、本当に2時間足らずで、建設途中だった〝ダーク・ソサイエティ〟の基地を〝特殊武装戦隊マンデガン〟の基地に仕上げちゃった。
「これで、この基地を制圧できるのは、われわれ〝プラネット・アース〟ぐらいのものだろう」
「こんな短時間で……?! 信じられないよ! 一体キミは何者……いや、やめておこう。組織の秘密は、お互い知らないほうが良さそうだ」
マスターが、にっこりと微笑む。
「だいちゃ……レッド、そしてプラネット・アースのみんな! 本当にありがとな!」
後藤千弘さんが、右手をレッドに差し出した。
「少し待ってほしい……解除!」
変身を解いた大ちゃんは、後藤さんと握手を交わす。男の友情って感じで良いよね!
「大ちゃん、ありがとう! おかげで香川の平和は守れそうよ」
後藤さんと大ちゃんが固く握手している、その手の上に、慈許音貴代さんの手が乗せられる。
「うおおお! お前はすごいヤツじゃい! また会いたいのう……!」
土田端和久さんの手も重ねられた。
一度は同じ戦隊として戦った4人。きっと、僕たちには分からない、熱い友情が生まれたんだろうね!
「それじゃ、俺たちは行くぜー! また会おうなー!」
>>>
僕たち五人は、香川県をあとにした。目指すは〝シギショアラ〟だよ。
「みんな、ありがとな。おかげで助かったぜー!」
大ちゃんが、申し訳なさそうに苦笑いしながら言った。
それにしても〝ルート〟って面白いね。フワフワと宙に浮かんでいる感じだよ。
「九条くん、無事で良かったわ」
「本当に! 一時はどうなる事かと思ったよ」
彩歌さんとたっちゃんも、大ちゃんの無事を喜んでいる。
「やー! もし大ちゃんに何かあったら、ダークから手ぇ突っ込んで、ソサイエティをガクガク言わせてやるところだったさー!」
ああっ! セリフは意味が分からないけど〝精神感応〟で直接流れてくる感情を読むと、怖くて思わず泣いちゃいそうな内容だよ!
「それにしても、今回は危なかったなー! 変身できない上に、怪人が4匹だぜ?」
「だよね! あんなに悪い怪人が4匹も……あれ?」
待って? さっきいた怪人の霊体って、たしか3人だったよね……?




