特殊武装戦隊マンデガン VS 救星戦隊プラネットアース (承)
※視点変更
九条大作 → 内海達也
「タイトル長っ!」
『……タツヤ、どうかしたのか?』
「いや、なんでもないよブルー。それにしても、よく堪えたな、ユーリ」
てっきり、怒りに任せて、いきなりあの〝サル〟を八つ裂きにするんじゃないかと思っていたんだけど。
意外な事に、ユーリはベルトを大ちゃんに手渡すと、サル怪人を睨みつけたまま、大人しくしている。
「危ない所だった。ずいぶん酷くやられたみたいだな、大ちゃん……」
傷だらけの大ちゃんと、その正面には、大柄なニホンザル。
状況から察するに、あのサルがここのボスだろう。
そこにいる3人のヒーローの目の前で、大ちゃんを殺そうとしていたんだな?
……それじゃ、ここからは逆に、部下たちの前で、ボスザルにお仕置きしてやろうじゃないか。
「変身!」
大ちゃんは、まばゆい光に包まれて変身した。ふう。これでひと安心、と。
「キャキャッ?! 何だお前! その姿は一体……?」
あ、そうか。栗っちの未来予知に出てた〝猿〟ってアイツだな、きっと。
サイズは、いつもの怪人と違ってコンパクト。そして、しゃべり方もサルっぽい。
「キキッ! どういう事だよ? お前は〝特殊武装戦隊マンデガン〟の〝マンデガン・ベージュ〟じゃなかったのか?!」
「私は〝レッド〟。こちらが本来の姿だ」
〝特殊武装戦隊マンデガン〟か。
それにしても〝ベージュ〟って……いや、まあ良いんだけどさ。
「な、何だガキども! 一体どうやって現れた?!」
僕の目の前にいる、イヌの姿をした怪人が、驚いた口調で喚く。やっと思考が回り始めたのだろう。
いやいや、どうやってと聞かれても……ねぇ?
まあ、一応教えておいてやろうか。
「普通に入って来たんだけど」
あ、そうそう。入り口のシャッターは、ユーリがズタズタにしちゃった。ごめんね?
……ちなみに、この〝ダーク・ソサイエティ〟の基地は、建設中にも関わらず、離れた所からでは視認できないように、何らかの装置で、巧妙に隠されていた。
まあ、ブルーとユーリの〝生命感知〟で、すぐ見つけられたけど。
「普通に入って来た、だと? ふざけるな! ぶっ殺すぞ!」
ああ、いやいや。それは不可能だ。〝僕を殺せる〟という事は、同時に〝地球を破壊できる〟という事だからな。そんなヤツは居ないだろう……漫画じゃあるまいし。
「達也さんにだけは、言われたくないと思うわ」
クスクスと笑う彩歌の傍にいる、ゲジゲジの怪人は、吐きかけた消化液を〝障壁魔法〟で弾かれて、呆然と立ちつくしている。
「……漫画みたいなヤツって言われたような気がするんだけど」
『あはは。たしかにその通りだね、タツヤ』
いやいやブルー。さすがに、この人たちには敵わないよ。
赤、青、黄色のスーツを身に纏った正義の味方。赤の人は女性で、マスクとスーツが溶けてしまっているけど。あらら。服まで溶けているな……
……はっ?!
『タツヤ、キミは本当にアレだな』
待て待て待て! 僕は何もしてないよね? 悪いのは怪人だよね?!
『いや、悪いのはキミのアレなアレだ。今後は気をつけて欲しい』
「気をつけてね? 達也さんは本当にアレなんだから」
彩歌までカブせて来た?!
っていうかアレって何だよ! 僕のアレなアレってどういう事さ?!
「コホン! もとい。それにしても、正義の味方が実在してたなんて、ビックリだよな」
「えへへ。本物のヒーローさんたちだもんね! カッコイイよね!」
栗っちは、何人もの戦闘員を、念動力で〝宙吊り〟にしたまま、うれしそうに笑う。
「き、キミたちは……いったい?」
フラつきながらも立ちあがる、マンデガン・ブルー。
……が、すぐに膝をついてしまった。かなりのダメージを負っているようだ。下手すると大ちゃんより酷い怪我じゃないか?
「HuLex UmThel cHnheAl iL」
僕は〝治癒連鎖〟の魔法を唱えて、頭上に現れた青い玉を、傷ついたヒーローたちにぶつける。
「こ、これは……?!」
「ケガが……治っていく!」
「どうなっとるんじゃ?!」
いきなり怪我が治って、驚いている3人。
特に青の人は相当な重症だったと思うけど、ちゃんと治ったみたいで良かった。
……おっと、お前は動くなよ? おすわり!
「キャイン!」
暴れるイヌ怪人の頭を、掴んで床に押し付ける。
よしよし。そのまま大人しくしてろ。
「あ、レッド。回復魔法は……」
「ありがとう。しかし、もう治った」
そうだよね。変身すればあっと言う間に全快だ。やっぱスゴイな〝超回復〟は。
それじゃ、レッドの猿回しを、ゆっくり見物しようか。
「えっと、ゲジゲジの方は……」
うわ……さすが彩歌さん。見てるだけで気持ちの悪いゲジゲジを、そんな風に押さえつけるなんて……! しかも、ああっ! そんなトコをそんな風に?!
「魔界の生き物に比べたらカワイイものよ?」
魔界育ち、恐るべし!
ちょ? えええっ! まさかそんな感じでその部分を掴むなんて!
「ガウウッ! ガキの癖に、なんてパワーだ!」
唸り声をあげ、僕の腕を引っ掻いて、ジタバタと暴れるイヌ怪人。もちろん痛くも痒くもないし、逃がすことはない。
「キシャアアァァ! 動けんッ! こっちは女の子だゾ? どうなってルんダ?! 」
たくさんの長い足をワシワシ動かしているゲジゲジ。気持ち悪いなあ……
「だ、だがな! いくらお前たちでも〝ワン様〟には敵わないぞ? あの方の強さは計り知れないのだ!」
ふーん。そんなに強いんだ、あのサル。
「相手が悪かっタな。また妙な変身ヲしたみたいだガ、一瞬で殺さレるゾ」
あ、おい! 〝妙な変身〟とか言うなよ! それ、ユーリに聞こえたら、お前が一瞬で殺さレるゾ?
「〝パンタル・ワン様〟は、ダーク・ソサイエティ四天王の一人。お前らも覚悟しておくがいい!」
……〝四天王〟は良いとして、このイヌ、組織名を言っちゃってるけど、大丈夫か? アルレッキーノもそうだったけど、お前らちょっと開けっぴろげ過ぎだろ。秘密じゃないのかよ!
「さあ、始まルぞ! ワン様の勇姿を目に焼き付けるがイい!」
おっと、そうだ。折角のヒーローショーだもんな!
「……ふうん。別の組織の子だったんだ。ちょっとビックリしちゃったよ。キキッ!」
平静を取り戻したサル怪人は、余裕の笑みを見せる。
「マンデガン・ベージュに変身したのは、ちょっとした成り行き。そして、ここからが私の真の力だ」
首を左右に振ったあと、腕をぐるぐる回すレッド。こちらも余裕のストレッチだな。
「キャッキャッ! 人間風情が滑稽だよ。すぐに力の無さを思い知らせてあげるね?」
「ハッハッハ! サル風情が滑稽だな。以下同文だ」
奇声を発しながら、サルはレッド目掛けて襲い掛かる。
「メルキオール・マリオネット発動」
『READY』
レッドの頭脳が、スーツと同期を始めた。
比類なき天才の思考能力が、そのまま戦闘能力に反映される。
「メルキ……? 何だそれ。マンガの見過ぎだよ! 食らえ!」
凄まじい勢いで、手刀による連続突きを繰り出すサル。
「メルキオールは、東方の三賢者の一人。〝王権〟と〝黄金〟の象徴だ」
もちろん、レッドには掠りもしない。
いや、それどころか……
「ウキャッ! すごいね、今のを避けるの? 確かにさっきまでとは比べ物にならないね……じゃあ、ちょっとスピードを上げるよ?」
今度は、手足を全部使って高速移動を始めるサル。なるほど、かなりのスピードだ。
「ウキャキャ! どう? 見えないでしょ! 人間には〝限界〟ってモノがあるんだ。覚えておいた方がいいよ」
ご講説をたれながら、レッドのまわりを走り回る。まさに、サルの動きそのものだ。
「まあ、僕が見えてない時点で、お前らはもう死ぬの決定だけどね! キャキャキャキャ!」
そうだな。今の動きが見えていない時点で、勝負はついたも同然だ。
「……え? なんで?! ジャケットが……!」
突然、マンデガン・レッドが驚きの声を上げた。
「な……なんだこれ? 俺のジャケットも!」
「ワシのもじゃい! 何が起きたんじゃ?!」
どうやら、ブルーとイエローも気付いたみたいだ。
「フフフ。さすがね、レッド」
「やっぱりスゴい! 愛してる!」
「えへへ。カッコイイね! やっぱりヒーローは、こうでなくちゃ!」
ウチのメンバーは、全員、見えていたみたいだ。
「そんな……どういう事だ?」
「キシャアアァァ! オマエら、ボロボロだったハズだゾ?!」
遅れて、イヌとゲジも騒ぎ始めた。
「〝パンタル・ワン〟。もしお前が人間の〝限界〟とやらを知っているつもりなら、その知識、今すぐ修正した方が良い」
マンデガン・ブルー、レッド、イエロー、全員の装備が、キレイに修復されている。
……これたぶん、元の状態以上にピカピカなんだろ?
「キキーッ?! なに? どういう事?!」
「まあ、私の動きが見えなかった時点で、お前の敗北は決定だがな」
なんとレッドは、あのサルに気付かれずに、ヒーロー三人のジャケットを直したんだ。
「ウッキャー?! ウソだ! できるわけ無いだろ、そんな事! 僕と戦ってる最中に、あんなに離れた場所まで行って、装備を修理するなんて!」
「……やはり、お前は終わりだ。ぜんぜん見えていない」
やれやれといった口調で、腕を組むレッド。
「何だと?!」
「あれは〝修理〟ではない。〝改良〟だ。身体能力の向上率は50倍。防御力は120倍になっている」
いや、それは僕にも分からなかったんだけど?
……しかし相変わらずスゴイな! 改良というより大改造だよ。
「そ……そんなバレバレの……」
「ウソだと思うなら戦ってみるがいい」
かぶせ気味に言い放つレッドと、ギリギリと奥歯を噛み締めて睨むサル。
「そしてもう一つ。ここが今回最大の改良ポイントだが……」
ゴクリと生唾を飲みこむサル。
…………少し間を開けて、レッドは言った。
「腕をあげなくても、変身できるようにしておいた」




