合体技
「チミキル・ダガー!」
マスターに教わった武器の名前を叫ぶと、目の前に二本の〝短剣〟が現れたぜ。
「不思議なデザインだなー」
銃のように、人差し指の部分に引金が付いていて、刃と反対の柄の部分には、虫眼鏡のような出っ張りがある。
俺は〝チミキル・ダガー〟を掴み、後藤さんの元へ急いだ。
「ヒドい怪我だな、大丈夫かよ!」
手足を拘束しているのは、ただのロープじゃないな。異常に硬い……これは特殊な合成繊維か?
「ああ! サンキュー、ベージュ!」
ロープを切ると、にっこり笑ってウインクする後藤さん。
あー、それにしても、やっぱベージュはカッコつかないなー。
「マスターがブレスレットを?」
後藤さんが、俺の耳元で尋ねる。
「そうだぜー! あ、それから、誘拐された人たちは開放したって言ってたぜ?」
スゲーよな〝半透明マント〟は! ……いや、半透明でそこまで動けるマスターがスゴイのか。
「そっか、さすがマスター! ……なら、思い切り暴れても大丈夫だな!」
あー、それはいいんだけど、アンタ、結構な怪我なのに大丈夫なのか?
「お前らは絶対に許さねぇ! 〝オゴッキャゲル・チェンジ!〟」
右手を掲げて叫ぶ後藤さんを、青い光が何重にも包んでいく。
「〝マンデガン・ブルー〟参上!」
手をあげなければ変身できない、このブレスレットの仕様って、どうにかしないとダメだよなー。
……あー、もちろん、ボタンを押さなきゃ変身できない、俺のベルトもだぜ?
「ブルー! 無事で良かった!」
「ずいぶん、ヒドくやられたのぉ!」
レッドとイエローが、ブルーの無事を喜びながら、それぞれの武器を取り出す。
「ジョンナラン・ウィップ!」
空中に現れたいばらの鞭を手に取ると、レッドは踊るように敵を倒していく。
「ゴジャハゲ・ハンマー!」
イエローは、現れた巨大なハンマーを軽々と振り回し、次々と黒服をペシャンコにしていく。
「よーし! 俺も暴れてやる! ハリマス・ソード!」
ブルーの目の前に剣が現れた。それを手に、素早い動きでくるりと一回転すると。周囲にいた敵はバタバタと倒れた。
「よーし、じゃあ俺もやるぜー!」
逆手に構えた二本の〝チミキル・ダガー〟の、柄部分にある虫眼鏡。マスターの説明によると、これは照準器らしい。
俺は、目の前の戦闘員たちを次々とロックオンしていく。
「くらえ!」
引き金を引くと、刃の部分が宙を舞い、ロックオン済みの戦闘員10人を一瞬で切り裂いた。
何だよこれ! おもしれーなあ!
「ぬぬぬ……調子に乗るなよ人間ども!」
さっきまで俺を拷問していた黒服が叫ぶ。みんな同じ格好だからややこしいな、まったく。
おっと……よほど頭にきてたんだろう。上着を脱ぐの忘れてるぜ?
スーツをビリビリと破り、肥大化していく筋肉。あーあ、もったいないなー。
「キシャアアアアァァアァッ! 殺してやル!」
ムッキムキの筋肉体型から、いつものように動物の姿になる……と思ったら、男の体はどんどん丸くなっていった。
足も丸太のように膨れ上がり、八方にグネグネと伸びて、緑の葉が生い茂ってゆく。
……このパターンは想定外だぜー! 〝植物系〟かよ!
「こりゃ、大したバケモンじゃな!」
両手でハンマーを構えながら、イエローが叫ぶ。
「いっそ、これぐらい人間離れしてくれたほうが、思いっきり戦えていいわ!」
レッドも前後にステップを踏みながら、警戒している。
完全に変化し終えたヤツの姿は、まさに巨大な〝桃〟だぜ。その実を中心に、周囲の枝がしなやかに蠢いているなー。
「気をつけろ! 来るぞ!」
ブルーの声とほぼ同時に、枝に生えた無数の葉が、ザワザワと一斉に逆立つ。
あー、これはきっと、飛び道具だろ?
「ズタズタに切り刻まれテ死ネ!」
ものすごい数の葉が、鋭い刃となって、敵味方関係なく撒き散らされる。
「うおっ、あぶない! ……って、おお?! このスーツ、なかなか強いなー!」
地面や壁、そして戦闘員たちに突き刺さる木の葉。しかし、俺たちのスーツには、刺さるどころか傷一つ付かない。
「バカな! 効かナいだと?!」
完全に〝桃〟になってしまって顔がないから、表情までは分からないけど、かなり驚いた様子の桃怪人。
「ガハハ! 〝マンデガン・ジャケット〟は、ピストルの弾でも弾き返すんじゃ!」
〝マンデガン・ジャケット〟か。想像以上の性能だぜ! 身体能力もかなり向上しているみたいだし、おもしれー!
「しかし、味方まで巻き添えかよ! やっぱ許せねぇぜ!」
「同感ね。それじゃあ、お仕置きの時間かしら、ブルー?」
「よっしゃ! あれで決めるとするかのぉ!」
イエローのハンマーが、カタカタと展開していき、大きな弓の形に変わった。レッドの鞭が弦。そして、ブルーの剣が伸び、光を纏った矢となる。
「完成! ヘッパクゲナ・キャノン!」
3人の武器が合体して、ひとつの大きな武器に変わったぜ! カッコイイな!
弓を支えるイエローと、矢を引き絞るレッド。
……その後ろで、両手を広げて突っ立ってるブルーは、どういう役割なんだ?
「3・2・1・ファイヤー!!」
轟音と共に放たれた攻撃は、桃怪人を射抜いた。
「そ、ソんな……この俺ガ、たっタ一撃で……グハアアッ!」
ドン! と爆音が鳴り響く。
怪人は炎に包まれ、ブシュブシュと言う音と、甘い匂いを残し、消えていった。
「おおー! すげーっ! 勝ったぜー!」
俺の所に、みんなが駆け寄ってくる。
「ゴメンな、怖い目にあわせちまって。そしてありがとう」
申し訳なさそうなブルー。いやいや、こっちこそ足引っ張っちまったぜ。
「初めてなのに、すごいじゃない! 大したものだわ!」
まあ、ある意味、初めてってわけでもないんだけどなー。
「わしゃあ、最初っからお前がやる奴だって分かっとったぞ?」
俺も最初から、アンタがイエローだって分かってたぜ?
「すごいねえ! おめでとう!」
おー! ありがとな! ……って、ん?!
3人のヒーローの隣に、パチパチという拍手と共に、見たこともない少年が立っていた。おいおい誰だ? いつの間に現れたんだ?!
「面白い物を見せてもらったよ。僕の名前は〝パンタル・ワン〟……この基地の責任者さ」
ニコニコと自己紹介を終えた〝パンタル・ワン〟の背後から、イヌ怪人とゲジゲジ怪人が現れた。
不意討ちを受けたレッド、ブルー、イエローは、すっ飛ばされて壁に激突する。
「ぐあっ?! あ痛たた!」
「きゃふっ! あう……何が、何が起きたの?」
「うぐっ! ……な、なんじゃい、お前は?!」
ヨロヨロと立ち上がる3人。
「あれ、おじさん達、まだ動けるんだ。強いねえ!」
クスリと笑う少年〝パンタル・ワン〟。
……そうか、コイツが昼間、イヌとゲジゲジが話していた〝ワン様〟だなー?
「ふふふっ! どう? 強いでしょ? ……僕の近くにいる怪人や戦闘員は、すごい力を出せるんだ。ねえ、スゴくない? 僕!」
……そうみたいだな。イヌもゲジゲジも、見違えるほどに強くなってるぜー! どういう仕組みなんだ?
「ワン様、こいつら殺してしまって良いですか?」
「〝モモちゃん〟の仇だ! 思い知るがいい!」
あの桃怪人、〝モモちゃん〟って呼ばれてたのかよ! 〝イヌゲジコンビ〟より笑えるなー!
……あ、いや、そんな場面じゃないぜ? 大ピンチだ。この怪人たちは〝ワン〟の能力で、かなりの強さになっている。ハッキリ言って、4人がかりでも勝てないだろー。
「さあ、どいつから死にたい?」
「八つ裂きにしてやる」
ジリジリと3人に詰め寄る怪人たち。
「ああ、待って待って。まだ殺しちゃダメだよ。動けなくなるまで遊んであげてね。そのあと僕がその3人の目の前で、このベージュの子を〝死ぬほど〟イジメてあげちゃうんだから」
……という事は、やっぱこの〝ワン〟も、怪人だぜー。
「よし、かかれ!」
〝ワン〟がにっこり微笑むと、イヌゲジコンビは待ってましたとばかりに、奇声を発しながら3人に飛びかかる。
「まあね。〝死ぬほど〟っていうか、死んじゃうんだけど! ふふふっ!」
あーあー。またまた形勢逆転だな、こりゃ。




