僕のお願い
「ブルー。このお兄さん達は、僕のパンチ、何発まで耐えられる?」
聞いておかないと、大変な事になるかもしれない。
『箇所にもよるけど、右から、5発、4発、6発で行動不能になる。それ以上は、致命的な状態になるか、後遺症が残る。あと、同じ箇所は狙わないほうが良いよ』
そうか。星の強度で殴られるって、凄く痛いんだな。
「わかった。気をつけなきゃな」
無視して逃げても良かったのだが、こういう輩は少し懲らしめておいた方が、世のため人のため、そして本人達のためだ。
『タツヤ。金属バットで殴ってあげた方が、ソフトで思いやりがあるぞ』
「うえぇ。絵面はヤバそうだけどな」
3人組に連れて来られたのは、絵に描いたような薄暗い路地裏だった。
「さ~て、僕ぅ? いくら持ってるのかな~?」
ライフ5のお兄さんが、優しげに聞いてきた。
「ボク、お金なんて持ってないです」
「優しくしてあげてるのに、嘘ついちゃ駄目だよ~?」
ライフ6のお兄さんも、すごく優しい口調だ。
「うええ~ん! 本当にもってないですうう!」
「ふざけんじゃねぇぞ、このガキ! 痛い目、見る前にさっさとサイフ出しやがれ!」
ライフ4のお兄さんが怒鳴り散らす。一番弱いくせに、みっともない。
「おサイフなんか持ってないです」
本当だ。持っているのは、ポチ袋だけで、あとはリュックとポケットに突っ込んである。
「コイツ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
ライフ4がローキックを繰り出した。
「痛い!!」
とりあえず、痛がってみる。だが、多分、痛いのは相手のほうだ。〝どうだ参ったか〟的な表情で、痛みをこらえているが、目にうっすら涙を浮かべている。
「うええん、お金、ないっ ひぐっ んぐっ でっ すっ ひぅっ!」
会心の泣いたフリに、全員のテンションがあがってきた。僕も含め。
「お兄ちゃん達も、そろそろキレちゃうよぉ?」
ライフ6が、僕の髪の毛をつかんで前後に揺らす。もちろん揺れない。むしろライフ6が揺れている。
「やめてよう! お金ないよう!」
やめてほしい要素は皆無だが、一応、嫌がってみる。
「そんじゃ、ジャンプしてみてよ!」
ライフ5の提案だ。カツアゲの定番キター!
楽しげなので思いっきりジャンプしてみた。子供の体に大人のジャンプ力だ。3人組の身長ぐらいの高さまで飛んだ。
着地と同時に、ポケットの小銭が散らばる。
「ああ……バレちゃったかな」
いろんな意味で。
何だコイツという表情になる3人。だが、非現実をなかなか受け入れられないのか、今の跳躍は見なかった事にしたのか、商談を続行する3人。
「ほら見ろ、持ってんじゃねーか!」
「さっさと有り金、出しやがれ!」
「痛い思いしたいのかテメェ!」
そろそろ飽きてきた。小銭を拾って、ちょっと痛い目をみせて帰ろう。
僕が面倒臭そうに、散らばったお金を拾い始めると、勝手に逆上した3人が殴りかかってきた。やれやれ。
「とりあえず、一発ずつあげるから、その後どうするか決めて」
僕は3人のライフを、パンチで、それぞれ一つずつ減らした。以下、表記がそれぞれ-1になるのでご注意を。
もんどり打って転がるライフ3。
膝をつくライフ4
「クソガキぁぁああああ!!!」
ライフ5は、ポケットからナイフを取り出した。
「あーあ。やっぱりそういうの持ってるんだ。でもね?」
僕はニヤッと笑ってライフ5を睨み付けた。
「それを出すという事は、僕に殺意を向けたと思っていいのかな?」
震え上がるライフ3、
呆然としているライフ4、
怯まない僕を見て、後に引けなくなるライフ5。とうとう、怒りに任せて突っ込んできた。
「死ねやコラあぁぁぁ!!!」
残念。僕は死なない。
「ギィィィン!」
僕に刺さるはずのナイフは折れ曲がり、はじけ飛んだ。そりゃそうだ。あの痛い痛い注射針ですら、弾き返すんだぞ? まだ試してないけど。
『そうだったねタツヤ。先日の検査項目に、採血は無かった』
「ああ。よく考えたら、転落事故では血液検査は、しないよな」
ライフ5を蹴り飛ばす。ワイヤーアクションさながらに、キリキリと回ってすっ飛ぶ。
「やば。蹴っちゃダメだったか? ブルー」
予想以上の威力にちょっとドキッとする。
『ギリギリセーフだ。タツヤ』
良かった。チョットだけ、痛い目を見せるだけのつもりなのだ。弱い者いじめは、良くないよな。
『だが、目立ってしまったな』
確かに。さて。どうするかな。
「とりあえず、3人とも住所を聞いて、脅しておくかな。いざとなったら、後日、彩歌さんにご足労願わなきゃ」
『記憶操作だね』
「まあ、やり方次第で、それも不要だろう」
僕は、金属バットをリュックから取り出した。
「はい、じゃ、お兄さんたち、ここへ来て正座ね」
一人、逃げ出そうとしていたので、追いかけて、もう一つライフを減らし、首根っこ掴んで引きずってきた。
「大人しくしてね。僕だって、いつまでも優しくしてあげられるほど、ヒマじゃないんだ」
3人とも、ガタガタと震えながら僕の前に正座した。
「お兄さんたち、弱い者いじめ、好きなんだね」
3人は、涙目で首を横に振っている。
「えっとね、この間、僕に楯突いた奴が居たんだ。悪いやつでね」
僕は、金属バットを両手で持ち、自分の頭に、思い切り振り下ろした。鈍い音を立ててグニャリと曲がるバット。ああもったいない。
「そいつは、消し炭になっちゃった。可哀想だよね」
金属バットを、二回、三回と頭に打ち付ける。原型がわからなくなるバット。悲鳴をあげたり、泣き出したりの3人組。
「でね、僕、お兄さんたちにお願いがあるんだ。聞いてくれるかな?」
ただ震えるだけの3人組。
「お願いがあるって言ってんだろうがぁ!!!!!!!!」
金属バットを思いっきり地面に投げつける。ズドンという音と共に、地面に亀裂が入る。ナイスなアドリブだブルー。僕までビビった。3人とも、声にならない悲鳴をあげている。
「もう一度聞くけど、僕のお願い、聞いてくれる?」
必死でうなずく3人。
「僕のこと、他の誰にも、絶対、ぜーったい 言わないこと。わかった?」
首が折れそうなほどに、うなずき続けながら、はい、はい、と答える3人。
「良かった。じゃ、念のため、お兄さんたちの住所を教えて?」




