猫耳エンジニア
※視点変更
内海達也 → 九条大作
「室長。彼は九条大作さんです。例の〝ガジェット無しで戦場に立てる〟という……」
そうだぜー? 俺が噂の、九条大作だ。
「はぁ? ガジェット無しでって、お前バカなのか? そんなヤツ居るわけ無いだろ!」
……んー? なんで知らないっぽいんだ?
「室長は、会議や集会には、ほとんど出ません。たまに出ても、話を聞いていませんし……」
隣りにいた技術者の一人が、そこそこ大きな声で教えてくれた。
「室長! この人は、先日、戦士ユーリのガジェットを直して下さった、九条さんですよ!」
「よーし! 全員、作業に戻れ! 私はこのガキどもをつまみ出す!」
「本当だな。まったく聞いてないぜ……」
猫耳の〝室長〟は、俺の腕をつかんで強引に引っ張る。
あいたたた……痛いって! さすがウォルナミス人。すごい力だなー。
「やー! 待って、美土里さん!」
ユーリが、あわてて止めに入ってくれた。
助かったぜー。骨が折れるかと……え? おいおい、なんで手を離さないんだ?
「なんだ、誰かと思ったら、戦士ユーリ様じゃないか。何やってんだ、こんなトコで?」
「大ちゃんを離して! ガジェットを直してもらわなきゃ……」
室長……〝美土里〟は、ユーリの方を向くと慌てたように言う。
「ガジェットを直す? お前、もう壊しやがったのか?! ふざけんじゃねえぞ!」
話の腰ブレイカーかよ。最後まで聞かなきゃ会話にならないだろー?
「やー、私のじゃないんだよー」
ユーリは、自分のガジェットを取り出して見せた。なるほど、慣れてるぜ。
実物を見せないと止まりそうにないもんな、この人。
「……なんだ、ビックリするじゃねーか。レプリカならレプリカって言えよな」
レプリカ・ガジェットは、訓練や警備に使われる、時間操作機能のない、ウォルナミス・ガジェットだぜ。戦闘能力は、オリジナルに近いけど、時間操作機能がなければ、戦場に立てないからなー。
「……最後のガジェット、頼むから壊さないでくれよ?」
それだけ言うと、俺の腕をさらに強く握って、部屋から連れ出そうとする。
……まったく人の話を聞かないヤツだなー! あいててて!
「おっと、それはオモチャじゃないんだ。預かっておくぞ」
俺が持っているガジェットに、手を伸ばす美土里。
「まって美土里さん! それは大ちゃんにしか直せないんだからさー!」
ピタッと動きを止める美土里。ゆらりとユーリに顔を向け、怒りの表情でにらみつける。
「……聞き捨てならないな。私に直せないって事か? しかもだ! こんなチンチクリンのガキに、なんでガジェットが直せるんだよ……? ああ?!」
口調と会話からも、この人は俺たちより、随分と年上みたいだぜ。
……けどな? 見た目は同じぐらいの背格好なのに〝ちんちくりん〟は無いんじゃないか?
「よし。勝負だ」
……んんー?
「おい、戦士ユーリ。そのガジェット、壊れてるんだよな。状態は?」
「やー、えっと……損壊8割6分、動力源沈黙……あと、時そ……」
「大破じゃねーか! それを、このボウズが修理するってか? あははは!」
本当に最後まで聞かないな、この人は。
今〝時操作不能〟まで聞かなかったよな? このガジェットが本物だって、絶対わかってないだろ……
「おい、ゴミ山からヤバそうなの、ひとつ取ってくれ!」
美土里は、部屋の奥にいた部下に指示を出す。
「室長、ゴミ山ではなく、重度破損品……」
「よし、条件は同じだ! どっちが早く修理できるか、勝負してやろう」
ほら、やっぱり。これを〝レプリカ・ガジェット〟だと思ってるなー。
……部下の話も聞いてないし。
「ちょっと待ってよー! 何でそうなるのん?!」
「いやユーリ、良いんじゃないか? どうせ直すんだし、ただ隣に誰かいるってだけだろー?」
やることは変わらないんだ。ぜんぜん問題ないぜ。
「この私が〝眼中に無い〟だと? ……大口を叩いていられるのも今の内だ」
そんな事は言ってないぜー?!
珍しく聞いてたかと思えば〝曲解〟って、すげーなー!
「そっちの作業台を使え。工具と機材も、好きに使うといい。それでは、始め!」
なんか、勝手に向こうのペースで始まったぜ?
……部下の人たちも、やれやれって感じで見てるなー。いつもこうなのか?
「えへへー。大ちゃん、頑張ってね」
「んー、頑張るけどさー。けっこう時間かかるぞ……大体これ、直せるかどうかすら分からないんだけどな?」
「ははは! 早くも弱音か?」
高笑いの美土里。こういうのだけは聞いてるのかー。都合のいい耳だな。
美土里は、見たこともない形の工具を取り出して、何やら操作を始めた。きっとあれが、ガジェットのフタを開けるための、専用工具だな。
……確か、専用工具で半日かかるって言ってたよなー。
「さて、俺も始めるか。まずは5箇所をマイナスドライバーで……ん?」
ユーリや里人くんのガジェットを開けた時のように、決められたポイントにドライバーを当てようとした時、違和感に気づいた。
「……ちょっと違うなー?」
罠だぜ。巧妙に偽装されてるけどな。
このガジェットをいつものように開けたら、中枢の重要な部分に、ダメージが入る仕組みだろ。危ない危ない。
「正しいポイントはどこだー?」
相変わらず、継ぎ目すら見極めが難しいなー。
……お、見っけ! ここと、ここ……こっちもだ。
「追加で3ヶ所かー。凝った作りだぜ」
戦士がピンチの時に、ガジェットは暴走する。
……つまり、暴走後は、戦士が生きているかどうか、分からない状態になるってことだ。
この罠は、暴走した後のガジェットが、万が一、持ち主以外の者に渡ってしまった時、機密が漏れないようにするためだろう。
「まてよ? 11個しかない貴重なガジェットだ。今までにも、修理しようとしたヤツは居るだろ……?」
つまり、分解しようとして、この罠に掛かり、修復できなくなった物もあるかもしれない。
マズいぜ。少なくとも、あと4つは無事でいてくれよなー!
「フフン。おいガキ! 何をチンタラやってんだ。こっちはもうすぐ開くぞ?」
ちょ、おいおい、早いな!
まあ別に、勝負してるつもりは無いんだけど。
「フタを開けるのに、半日かかるんじゃないのかー?」
「……ふん。ノロマ共と一緒にするな。私を誰だと思ってるんだ?」
ふーん? なかなかやるなー。伊達に〝室長〟は名乗っていないなー。
「まあ、仕組みは分かったし、ドライバーが3本増えるだけだぜー?」
5本のマイナスドライバーに、さらに3本追加して、ガジェットに当てる。
「せーの、はいよっ……と」
隠された新しい分解ポイントに力を入れ、すぐさま、もともとの5箇所も攻める。よし、開いたぜー!
「……っ?! ちょっと待て、お前、今どうやった?!」
こちらを見て、唖然としている美土里。
「あー。ちょっと説明のしようがないな」
あえて言葉にするなら、全ての指の間にドライバーを挟んで、それぞれ摩擦を計算に入れた上で、わざとスリップさせつつ、タイミングを図って力を入れる所は入れ、ゆるめる所はゆるめる。
……聞いて分かるやつも、ましてや、今の操作が出来るやつも居ないだろ。
「クッ! ……これで勝ったと思うなよ? まだ勝負は始まったばかりだからな!」
うーん。めんどくさいぜ。
ま、確かに、まだ始まったばかりだ。何せ、暴走したガジェットを直すのは初めてだからな。
「とりあえず、武装の修復から始めてみるか。折角だから、名前を入れといてやるかな。〝LICHT〟っと。で、装甲は7重構造で、受けた攻撃を動力に還元するように……」
「やー。大ちゃんの手が見えない」
「えへへー。すごいねぇ!」
「大ちゃんは、ああなったらもう、周りが見えてないな」
ギャラリーが、何か言ってる気がするけど、耳に入ってこない。
……ごめんなー、今、いいトコだから。
「よし、と。これで壊れた装甲は全部直ったぜー。後は、暴走がどういうプロセスで行われるのかと、制御しているパーツが、無事かどうかだよなー」
んー〝暴走〟というからには、出力を上げまくってる状態なんだろ?
……エネルギー量が大きすぎて、焼けたり熔けたりしてるかと思ったんだけど、綺麗なもんだなー。どうなってるんだ?
「うーん。伝達系の回路も、ぜんぜん傷んでないぜー。なんでこれで、動かなくなるんだ?」
俺は、変身ベルトのバックルから、コードを引っ張り出して、ガジェットの動力源に当てる。
「ブルー、ちょっと借りるぜ?」
『構わないよダイサク。その欠片は、どんなエネルギーでも制御することが出来る。私が調整しよう』
ベルトのバックル部分が淡く光る。ブルーの欠片から供給されたエネルギーが、コードを伝ってガジェットに送られ始めた。
「おいおい。この辺りで、堰き止められてるのか?」
動力源から、ひとつ目の変圧系で、ブルーのエネルギーは止まっている。しかも、故障じゃなくて、仕組み自体がそうなっているなー?
「ここで止める意味は……おー、なるほど! そういう事か!」
暴走した時点で、エネルギーを、ガジェットや武装内でなく、装着者の体に通すんだろ! 俺のベルトに似てるなー!
「ウォルナミス人の強靭な肉体があって、初めて出来る事だな。地球人なら負荷で死んじまうぜ」
つまり、暴走したあとのガジェットは、いわゆるウォルナミス人の〝戦う力〟部分を回路に見立てて動作するんだ。だから暴走後は、ガジェットだけじゃなく、ウォルナミス人自身も、その力を失ってしまうんだな。
「それじゃ……これ、故障っていうか、エネルギーの枯渇か! 傷んでるのは動力まわりだけだな!」
そうと決まれば簡単だ。動力源は……っと。これで直ったぜ。あとは、ここと……ここを補強して。
……おっと、暴走システムも改善しとかなきゃな。
「出来たぜー!」
ガジェットに蓋をして、いっちょ上がりだ。
……ん? 見土里がこっち見てニヤニヤしてるなー?
「んふふ。5秒ほど遅かったな! 私の勝ちだ!」
あ、そうか、勝負してたんだっけ。
「それ以前に、本当に直っているのか? 貸してみろ!」
身土里は、俺の手からガジェットを奪い、頭上に掲げた。
「武装!」
……何も起こらない。
「ククッ。はーはっはっは! 動かないじゃないか! やっぱり所詮はただのガキだったか!」




