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征く者、去りし者

 (りん)とした表情で、手を挙げている、ひとりの少年。


「他に誰かおらんか? 地球を離れ、同胞(はらから)を救おうという、勇気ある戦士は!」


 長老の声に、どよめきは一層大きくなる。


「……ひとりだけじゃな?」


 顔を見合わせたり、ヒソヒソと話し合ったりする人たち。うつ向いて、ジッとしている人もいる。

 ……少年以外に、手を挙げる者はいない。

 仕方のないことだ。ここで挙手すれば、地球を離れ、はるか彼方の惑星ウォルナミスに向かうことになる。

 帰ってこれる保証は、一切ない。


「よし、里人(りひと)。お前は今日から戦士じゃ」


「はい。精進します!」


 里人くん……か。

 小学生っぽいけど、ウォルナミス人の年齢は、見た目では分からない。例の薬を飲んでいないだけかもしれないし。


「り……里人!」


 おや? 女性がひとり、里人くんに近づいて行く。


「どうして? あなたは、まだ子どもよ?! なんで……なんで……?」


「お母さん。僕は強い戦士になりたい。宇宙一の男になるために、惑星ウォルナミスに行くんだ」


 やっぱり、見た目通りの年齢みたいだな。

 だけど、故郷を捨てて、二度と戻れないかもしれない星へ行くって、どんな気持ちなんだろう。

 そして、それを送り出す親の気持ちも、僕にはまだ分からない。


「僕は必ず、惑星ウォルナミスを守り抜いてみせる! だから心配しないで」


「ああ……里人……! そうね。あなたも誇り高いウォルナミスの戦士なのね……」


 里人くんのお母さんは、悲しみを振り払うように、姿勢を正し、こう言った。


「行ってらっしゃい、戦士里人(せんしりひと)。武運を祈っています」


 ……強いな。

 彼女もまた、気高きウォルナミスの末裔(まつえい)なのだ。


「やー! おまたせー!」


「ん? どうしたんだ? 一緒に行ってくれる戦士は見つかったかー?」


 ユーリと大ちゃんが戻ってきた。手には、小さな木箱。

 二人が持って来たのは、過去の戦いで力を失って、保管されていたガジェットだ。


「えっとね、一人、一緒に行ってくれる事になったよ。里人(りひと)くんだって。まだ子どもなのに偉いよね!」


 栗っちの言葉に、ユーリと大ちゃんが驚く。


「里人くんが? マジかー!」


「えー?! 里人? なんで?!」


 ……知り合いなのか? 確かに、年格好は僕たちと同じぐらいだし、案外、幼なじみだったりして?


「やー! ちょっと里人? どういう事なのさー?」


 ユーリと大ちゃんは人集(ひとだか)りをかき分け、里人くんに駆け寄る。


「……ユーリちゃん、僕は生まれ変わるんだ。惑星ウォルナミスを守る、戦士になるよ!」


 里人くんが、清々(すがすが)しい笑顔で答える。


「里人くん……本当にいいのかー?」


「九条君……」


 里人くんは、少し言葉を詰まらせた。

 だがすぐに、意を決したように続ける。


「……うん。ガジェットを手に入れて、戦場(ボード)に立たなきゃ、何も始まらないからね! ……くやしいけど、今の僕の力では、地球もユーリちゃんも守れない。だから僕は、出来る事をやると決めたんだ」


「でも……でもさー、里人……」


 悲しげな表情のユーリと、申し訳なさそうに(うつむ)く大ちゃん。


「ふたりとも、そんな顔しないで! ……九条君、ユーリちゃんをよろしくお願いします」


 大ちゃんは、ハッと顔を上げた。目の前に、里人くんの右手が差し出されている。


「ああ! もちろんだぜー! そして、こちらこそよろしく。戦士里人(せんしりひと)! 一緒に惑星ウォルナミスを救おう!」


「やー! 里人……!」


 握手を交わす里人くんと大ちゃん。そして、そんな二人を見つめているユーリ。何があったのか知らないけど、3人とも、良い笑顔だ。






 >>>






 長老の案内で、大波神社の最奥(さいおう)、ガジェットのメンテナンスルームにやって来た。


「この部屋ですじゃ」


「おー! いかにも異星のテクノロジーって感じの物ばかりだなー!」


 地球の工場や研究室の雰囲気ながらも、明るいパステルカラーの壁と、それ自体が照明となっている、継ぎ目のない天井。

 見たこともない機械や工具が、所狭しと並んでいる。


「この部屋と機材は、好きに使って下され。あと、何か質問などがございましたら、エンジニアたちに。皆の者、頼んだぞ」


 部屋の中で作業をしている技術者たちに声を掛けると、長老は、深々とお辞儀をして部屋を出ていった。

 ……相変わらず、すべての仕草がかわいい。


「えへへー。たっちゃんが、長老さんに飛び掛からないかと、ヒヤヒヤしちゃった」


 栗っちが苦笑いしている。

 今日、初めて長老を見た時からずっと、僕の頭の中は、すぐにでも羽交い締めにして、()でまくりたい衝動でいっぱいだったからな! 耐えきった! まさに忍耐の鬼だな。


『タツヤ、自慢げに言うことではない。長老が男性でなければ、私はキミのアレを〝アレだね〟ってアレする所だったのだ。気をつけて欲しい』


「それ、もう僕に〝アレだね〟ってアレしちゃってるのと同じだよねブルー?! だから僕はアレじゃないし、アレって何なんだよ?!」


 ハアハア……おかしいぞ? 段々、ヒドくなってないか? 


「とりあえず、この作業台を借りようぜー?」


 大ちゃんは、壊れたガジェットを、早くイジりたくて仕方ないみたいだ。

 ……僕とブルーの会話は、耳に入ってないな。


「やー。このガジェットはねー、長老の、お孫さんが使っていたんだよー」


「へえ、そうなんだ。あ、えっと、そのお孫さんは……もしかして亡くなってたり?」


 このガジェットが力を失っているのなら、そういう事もあり得る。


「やー。ううん、えっと、生きてる……と思うんだ」


 思う? ……どういう事だ?


「長老のお孫さん……里留(さとる)さんっていうんだけど、3年前の戦いで、ガジェットを暴走させた責任を感じて、どこかへ行ってしまったんだよー」


 当時、ガジェットは残り2つ。その戦いは、5対2の不利な戦いだった。

 新型のガジェットで武装した強敵に、戦況は終始、劣勢だったという。


「もう一人の戦士を(かば)って、5人がかりの攻撃を受けた里留(さとる)さんは、致命的な怪我を負い、ガジェットを暴走させてしまったんだって……」


 暴走したガジェットは、無双の力を発揮して、戦士を守ろうとする。

 ……装備したウォルナミス人の力と、ガジェット自身の力、両方を燃やし尽くして。


「なるほど。戦いには勝ったけど、ガジェットをひとつ、失ったんだなー……」


 大ちゃんは、低いトーンでそう言って、表情を暗くする。


「やー! でもね? ガジェットを暴走させるほどに、命を掛けて戦ったんだから、力を失った戦士は、英雄として(たた)えられるんだよー! 歴代の戦士たちも、ほとんど全員が、暴走させたガジェットと一緒に、安らかに眠ってるんだから!」


 ユーリが、涙ながらに叫ぶ。

 確かに、その仕組みから考えても、戦士が死ぬ前に、ガジェットは暴走して力を失うはずだ。


「うーん……可哀想だよね。真面目すぎたんだね、里留さん」


 悲しい表情で、ポツリと呟く栗っち。

 続けて彩歌が、何かに気付いたように言う。


「ねえ、友里さん。もしかして、その里留さんと一緒に戦ってた戦士って……」


「……うん。ねーちゃんだよ」


 里留(さとる)は、愛里(あいり)と一緒に戦っていたのか!


「3年前の事なんだ。2人はね、結婚の約束までしてたんだけど……」


 戦いに敗れた里留(さとる)は、大きな怪我を負っていたにも関わらず、戦闘の翌日、行方不明になったそうだ。〝すまない〟とだけ書かれた紙を、愛里に残して。


「戦う力も、ガジェットも失った状態だぜー。お姉さんと一緒に戦えない、守れない自分が、許せなかったんだろうなー」


 時が止まった戦場(ボード)に立てるのは、ガジェットを装備している者だけ。戦いに関わる事はおろか、見ることすらできない。


「でも……お姉さんは、一緒に居て欲しかったと思うぜ」


「うん。ねーちゃん、泣いて泣いて、挙げ句は自分のせいだって……しばらくは、敵と戦うというより、自分の気持ちと戦ってる感じだったよー」


 里留(さとる)を責めることは出来ないけど、愛里の事を考えると、ちょっとやるせないな。


「やー! だからね、今まで辛い思いをいっぱいしながら、地球を守ってくれた、里留さんと、ねーちゃんのためにも、私が頑張らなきゃって思ったのさー!」


 ……ユーリ。お前も、色々な想いを胸に、戦ってたんだな。


「お前はもう、一人じゃないんだぜユーリ! これからは、5人で頑張るんだからなー!」


「えへへー! みんな一緒だよ。ぜんぜん怖くないよね!」


「友里さん、辛い事は5人で分け合いましょ! ずっとね!」


「地球は、僕たち5人で守る! 約束通り、惑星ウォルナミスも救う! 楽勝だ!」


「やあぁ……! みんな……ありがと!」


 涙を拭い、にっこり微笑むユーリ。


「さて……と。そのためにも、まずはガジェットをなんとかしなきゃだな! とにかく、分解してみるぜー?」


 さっきまでの会話には、まったく無反応だった技術者たちが〝分解してみる〟の声に、わらわらと集まってきた。こういう人たちって、自分の興味があることに関しては、耳ざといよなあ。


「おい、こっち来いよ! おまえ、九条さんのレプリカ・ガジェットの修理、見てなかっただろ?」


「あーん? 何だよ修理って」


「聞いてないのか? まあ見てろよ、ビックリするぜ」


 十人余りの技術者が注目する中、大ちゃんは、どこからともなく、マイナスドライバーを取り出した。

 ……5本もどうやって使うんだろう?


「こうやってフタを開けて……」


 ガジェットに、器用に5本すべてのドライバーを当て、作業を始めようとしたその時だった。


「ゴルァあぁぁぁ!! ちょっと待てガキども! 何してんだ?!」


 ものすごい形相の、ネコ耳の少女が現れた。すごい勢いで近付き、大ちゃんの手をひねり上げる。


「いてててて! いきなり何するんだー?!」


「何するんだじゃねえぞ! お前らバカなのか?! さっさとここから出ていきやがれ!」

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