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約束

※視点変更

内海達也 → 大波友里

『……よくも、いけしゃあしゃあと帰ってこれましたね! この恥知らず!』


 ウォルナミスから発せられた言葉に、私の頭の中は真っ白になった。

 分からない……なぜ、この星は怒っているんだろう?






 >>>






 ……私は大波友里(おおなみゆうり)

 私は、またしても()()()()()()()みたいだ。

 〝夢幻回廊(むげんかいろう)〟の巻物(スクロール)を開封した時、私の頭の中には色々な情報が流れ込んできた。


『お前の中にある、全ての要素を使って〝大地の王〟へと繋がる迷宮を作り出す』


『魔力が足りないので、生命力を削る』


『生命力を削って魔力に変換。不足分の補完に成功』


 ……次々に説明が進む。拒否は出来ないみたい。


『迷宮の生成が完了したので、移送を開始する』


『目的地は、4つの扉の先』


『殺意を持った、多くの敵がいる』


『命を落とせば、死体は迷宮と共に消失し、巻物だけが元居た場所に戻される』


『〝大地の王〟の名は〝ウォルナミス〟』


 ……え? ちょっと待って! それって!


『移送完了まで、3、2、1……』






 >>>






『私は、惑星ウォルナミス』


『わが子よ』


(わたし)を傷つけ、捨てた子等の末裔(まつえい)よ』


 さきほど荒げた語調を必死で抑え込むように、ぽつりぽつりと、ウォルナミスは語る。


『あなたの先祖は、どこへ行ったのですか? なぜ、帰ってこなかったのですか』


「違うにゃあ! 私たちは……!」


『これをご覧なさい』


 空中に、映像が映し出された。これは?!


『この星に残された、我が子たちの、今の姿です』


「うっ! これは……!」


「なんと……これはひどいな……」


 たっちゃんとレッドが小さい声で呟く。私も思わず息を呑んだ。

 ワイヤーに繋がれ、強制労働をさせられる姿。

 首輪を付けられて、見世物にされている様子。

 檻に入れられ、街角で売られている人もいる。

 ……みんな、頭に耳がついている。ウォルナミス人だ。


「そんにゃ……あんまりにゃ……!」


 2000年近く前、この星は〝惑星オプラ・オブナ〟に侵略された。

 王族は皆殺しにされたと聞いたけど、そうか、それ以外の人たちは……


『分かりましたか? 永きにわたり、我が子たちは異星人たちの奴隷として、非道な扱いを受け続けています』


 やはり、怒りが収まり切らないのだろう。ウォルナミスの声が荒ぶる。


『あなたたちが、どこで何をしていたのかは知りませんが……彼らは、あなたたちの帰りを信じて、耐え続けてきたのですよ!』


「うう……うにゃぁ……」


 生き残った3人の戦士……地球から帰れなくなった〝ご先祖樣〟は、地球人を守り、地球で生きると決めた。

 でも、惑星ウォルナミスに残された人たちは、長い間こんな非道い事をされながら、救いを待ちわびていたのだ。


『ウォルナミス。話は分かったが、キミは〝光球〟を作れるほどの星だ。なぜ〝守護者〟を選ばなかったんだ?』


 ブルー曰く、星々にも力の差があり、その能力にもランクがあるらしい。

 意思すら持てない星もあれば、ブルーのように守護者を選び、自分の身を守れるような星もある。なんと自分の思うがままに動き回れる星まであるのだとか。


『選びたくても、選べなかったのです……』


 ウォルナミスは、悲しげにそう言ったあと、クルリと回転した。

 普通なら、まん丸でオレンジ一色のウォルナミスが角度を変えたとしても、気付くはずがないんだけど、それはすぐに分かった。


『な?! ウォルナミス……キミは一体?!』


 驚きのあまり言葉に詰まるブルー。


『ブルー様は、ご存知でしょう。このような不完全な光球では、ろくな力も使えません』


 大ちゃんとたっちゃんも、驚いているみたい。

 もちろん、私も。

 ……なぜなら、ウォルナミスは、(かじ)られたリンゴの様に、一部が削り取られていたから。


『あなたたちの先祖が旅立ち、この地が異星の民に侵略される少し前。私の元に、数人の男女が現れました』


 ウォルナミスは、悲しげな声で静かに語り始めた。


『私は、彼らを心から歓迎しました。星の意思にたどり着けるほどの文明を築いた我が子たちを、とても誇らしく思ったのです。でも……』


 少しの沈黙。


『彼らは突然、私に襲い掛かりました。いくらやめるように求めても、彼らは聞こうとしません。とうとう私の一部は削り取られてしまいます』


「ええっ?! そんな! にゃんで?」


『彼らは言っていました。〝新型には、この素材が必要だ〟〝遠征までに完成させなければ〟と』


 新型……遠征? まさか……


『私は逃げました。執拗に追い掛けてくる彼らは、恐怖でしかなかった……』


 震える声で、ウォルナミスは続ける。


『なんとか、この場所まで逃げ延びた私は、削り取られた自分の〝光球〟が、大きな1つの欠片(かけら)と、小さな11の欠片(かけら)に分けられ、12の〝小さな何か〟に埋め込まれるのを、ここから見ていました』


 その〝小さな何か〟は、たぶん……

 私は、ポケットに手を入れ、ガジェットを握りしめる。


『やがて、光球の入った12個の〝何か〟と共に、私を削った者たちは、この星を出て行きました』


 やっぱりそうだ……! 惑星オプラ・オブナを攻略するために用意された12のガジェット……その中に、ウォルナミスの一部が使われていた?!


『その後、この星は異星人の攻撃を受けました。光球を削られていた私は〝守護者〟を選ぶ事も出来ず、もちろん時神(クロノス)の休日に抗うことも出来ず、星を守ろうとした5人の戦士の死を見た後、我が子たちが虐げられ続ける様を、延々と見続ける事になるのです』


 何て事だろう。星の意思は、削られ、持ち去られた。それが原因で、この星は侵略され、みんなひどい目に遭い続けている。その原因が……!


『そうです。あなたは、この星に災厄をもたらした者たちの末裔(まつえい)。どんな理由があろうと、それは言い逃れの出来ない事実です』


「っ! 待ってくれウォルナミス!」


 大ちゃんが、急に変身を解いた。


「俺は、地球人だ。見ての通り、地球人は……弱い! とてもじゃないけど、武装した異星人と戦えないぜ!」


『……チキュウの子よ。何が仰りたいのです?』


「ユーリの先祖は……あなたの子どもたちは、俺たちの星を守ってくれていたんだぜー! 命懸けで、ずっと……!」


『……ええ?! それはどういう事でしょうか?』


「私のご先祖様は、地球に墜落したんにゃあ」


 私は、ウォルナミスに全てを説明した。

 ……侵略という愚かしい行為の報いとも言える、あの惨事を。


『つまり地球は、ウォルナミス人のおかげで、今に至るまで侵略されず無事という事になる。とても感謝しているよ』


 と、ブルーが穏やかな口調で結んだ。


『……そうですか。そんな事が……えっ?!』


 私は、無意識の内にウォルナミスを抱きしめていた。

 涙があふれて止まらない。


「ごめんにゃあ……ごめんにゃぁあぁぁ!」


 私たちは、地球を守ることだけで精一杯だった。

 命にかえても守らなければならない地球人と、戦いに敗れて死んでいく仲間の事だけが全てだった。


「みんな待っててくれたのに! 助けてって叫んでたのにぃ! ごめんにゃあああ! にゃああああぁあ!」


 ウォルナミス、温かい。お母さんみたい。

 私たちは、お母さんを削ってまで、戦争をしてたんだ……


「ごめんにゃあ! 痛かったのにゃ? 辛かったのにゃ?! うにゃああああぁ!」


『……あなたは、優しい子ですね』


「そんにゃ事ないんにゃああぁ! 私は! 私は! んにゃああぁぁあ……!」


 優しくなんかない。私はこの星の人たちの、助けを呼ぶ声に、涙に、気付かなかった。


「にゃぐっ……ひぐっ……ごめんにゃぁ……ごめんにゃぁぁぁ……」


『助けに……来てくれますか?』


「ぐすっ……にゃぐずっ……にゃぁ?」


 ……え?


『私と、私の子どもたち……あなたの兄弟たちを、救ってくれますか?』


 ……!!


「えぐっ……えぐっ……」


 そうだ!


「にゃあっ! ……来るよ」


『……来て、くれるのですか?』


「絶対来るにゃあっ! 約束するよ!!」


 ウォルナミスが、暖かい光に包まれる。しあわせな気持ちで一杯になる!


『あなたに私の力を託しましょう。私はここから動くことは出来ませんが、これであなたは、かつて私の一部だった欠片(かけら)の力を〝正式〟に開放できます』


「にゃあ?! これ……!」


 ポケットが光っている。ガジェットが熱い!


『さあ、今はチキュウにお帰りなさい。あなたが助けに来てくれる時を、私たちは待っていますよ』

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