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惑星ウォルナミス

 僕とレッドは、迷宮の中にいる。

 ちなみに、つい先程〝聖剣〟に触れたために裁きを受け、ズタズタになったレッドの手は、すでに元通りに回復している。

 ここは〝術者〟の、知識、潜在意識、前世、遺伝子情報、想像力、その他諸々(もろもろ)を元に造られた場所。

 …………だよな?


「思ってたのと違う……」


「そうだろうか、達也少年。ユーリはああ見えて、重い使命を帯びた、誇り高きウォルナミスの〝戦士〟だ」


 ユーリが勝手に巻物(スクロール)を開封してしまい〝夢幻回廊(むげんかいろう)〟の魔法が暴発(ぼうはつ)。大地の王へ続く迷宮が生成され、ユーリはその中へ取り込まれてしまった。

 つまりこの場所は〝術者〟であるユーリの、知識、潜在意識、前世、遺伝子情報、想像力、エトセトラが元となっている迷宮のはずなのだが……


「なんだよ、この重っ苦しい雰囲気の〝これぞファンタジー〟的な、ゴリッゴリのダンジョンは!」


 積まれてから恐ろしい程の年月が経ったかのような石の通路。

 どす黒くて不均一なサイズの石が、不気味さを演出している。

 魔界の迷宮でさえ、もっとフレンドリーでフランクな感じだったぞ?


「ユーリの事だから、黄色くてフワフワの壁とか、ミカンのバケモノみたいな敵とかが出てきそうなイメージだったのに!」


 ひんやりと冷たく、薄暗い通路には、オオカミのような怪物の死体が点々と転がっている。


「ユーリが倒したのだろう。ラッキーだぞ、これを追っていこう」


 おかげで見失わなくて済むかもしれないけど、どうやらこの迷宮内に現れる敵も、バリバリシリアスなモンスターだ。


「〝作画をギャグ漫画家に依頼したRPG〟っぽいのが、ヒョコヒョコ、かつ、コミカルに出てくると思ったんだけどなあ」


「達也少年。何度も言うようだが、普段の彼女と、その内面に隠された〝戦士としての本質〟には、恐ろしいほどの隔たりがあるのだ」


 ……その〝普段の彼女〟のせいで、僕たちはこんな所まで来る事になっちゃってるんだけどね。


「まあ確かに、ユーリはスゴイよなあ。さっきから、結構なスピードで追い掛けてるのに、一向に追いつけないぞ」


 決して少なくない数の怪物を倒しつつ、僕たちより早く進んでいるユーリ。魔力を吸われ、体力も削られた後なのに、元気過ぎるだろ……しかも迷宮なのだから、当然、入り組んだ迷路になっていると思うのだが。


「迷った痕跡もないんだけど……?」


 一直線に戦闘の跡だけが続いている。追い掛けやすくて有り難いのだが、ここまで迷いなく、どうやって道を選んでいるんだ?


「野生のカンだろう。特にこういう場所では、ユーリは和也少年(かずやしょうねん)より()えている」


 〝未来予知〟、〝千里眼〟、〝確率操作〟その他諸々。

 栗っちは、迷路を攻略するにあたっては、比類ないであろう能力を持つ。まさに〝攻略本いらず〟だ。

 しかしそれでも、こんなハイペースで道を間違えずに突き進めるユーリには、きっと(かな)わないだろうな。


『タツヤ、レッド。怪物の死体の具合から見ても、どうやらユーリは、かなり先まで進んでいるようだ。ペースを上げたほうが良いかもしれないね』


 ブルー曰く、転がっている死体の〝死んでからの経過時間〟が、徐々に長くなっているらしい。

 ってことは、ユーリは僕らより速いスピードで進んでるのか?!


「マジかよ?! 急ごう、レッド!」


「了解した」






 >>>






 半日は走り続けた気がする。


「想像以上に広いな……どこまで続くんだ、この迷宮」


『〝大地の王〟までだよ、タツヤ』


 それは知ってるよ。その〝大地の王〟……〝惑星ウォルナミスの意思〟まで、あとどれくらい走るのかって話だ。

 まあ、疲れないし、敵も大したことないけどさ。


「いや達也少年。ゴールは近そうだぞ。見たまえ、扉だ」


 迷宮には扉があり、それを超えると迷宮自体の雰囲気や、現れる敵の雰囲気がガラリと変わった。


「……居るな、ユーリ」


「うむ。間違いない、ユーリの気配だ」


 ピリピリとした空気感が、扉の向こうから伝わってくる。


「この扉で、4つ目だっけ?」


「その通りだ。扉のデザインは、ほぼ同じだが、向かって右側にある、星型のエンブレムについた印が、ひとつずつ増えている」


「ええ?! どこどこ?」


 ……本当だ。この扉には奇妙な模様が4つ入っている。よく気づいたなレッド。


「さて、この先はどうなっているのかな」


 ユーリの後を追い、シリアスでファンタジックな迷宮を進んで、ひとつめの扉をくぐった先は、妙にウッディな迷路だった。壁も天井も床も、木でできていたのだ。例えるならログハウス。敵は、虫のようなヤツばかりだった。

 ふたつ目の扉をくぐると、SF映画に出てくる宇宙船の内部みたいな、鉄パイプで組まれた床と、鉄板の壁。天井には、ご丁寧に照明まで用意されており、その雰囲気にぴったりマッチした、カニとサソリを合わせたような怪物が、無数に襲い掛かってきた。あいつら絶対、顔に張り付いて取れなくなるヤツだろ。


「で、いま居るココが、いちばんワケわかんないな……」


「いや、達也少年。キミの予想が的中したのには驚いたよ」


 鮮やかな黄色の壁と、カラフルなシマ模様の天井。そして、ミカンのような形をしたヤツを筆頭に、ギャグセンス満載の敵が次々に、ヒョコヒョコと登場したのだ。


「……ユーリさ、この迷宮、さっきの僕らの会話を聞いてから作ったろ?」


「ははは。まさか! さあ、扉を開けるぞ。間違いなく、この扉の先にユーリがいる!」


 ゴトンという音とともに、扉が開く。中は広い空間で、その中央付近に、ユーリが立っていた。


「ユーリ! 無事か?!」


『また現れた……お前たちは何者? どこから来たの?』


 女性の声が響く。どこか落ち着くような、それでいてジワジワとお腹の底が熱くなるような、不思議な雰囲気の声だ。


「やー?! 大ちゃん! ……じゃなくてレッド! たっちゃん!」


「無事のようだな。あまり心配させないで欲しいものだ。生きた心地がしなかったぞ?」


「やはは…………ごめんなさい。面白そうだったから、つい……」


 招き猫のようなポーズでペロリと舌を出すユーリ。

 おいおい。毎度毎度〝面白そう〟で命を懸けられたら、たまったもんじゃないぞ、まったく!


『私の質問に答えなさい。お前たちは?』


 おっと、またあの声だ。もしかして……


「僕は内海達也(うつみたつや)。こっちが九条大作(くじょうだいさく)で、彼女は大波友里(おおなみゆうり)。あなたはウォルナミスの意思……なのか?」


『……なぜ私の事を知っているの? それに……お前の、その気配は?』


 僕は、右手を差し出した。ひときわ青く輝くブルー。


『初めまして。私はブルー。遥か銀河の果て〝地球〟と呼ばれる星の意思だ』


 少しの沈黙……そして突然、オレンジ色に光る、バレーボールサイズの(たま)が、目の前に現れた。


『……私はウォルナミス。初めまして、遠き星の意思よ。チキュウ……とは、聞いたことのない星ですね』


『そう。その名前ではあまり知られていない。〝7つの鍵〟のひとつ〝初番鍵(しょばんかぎ)〟……と言った方が分かりやすいかな?』


 ん? 〝7つの鍵〟……? 初めて聞く言葉だな。


『え……? ま、まさか……! あなたが、あの〝クニス・ナノラ〟?!』


『あはは。そんな懐かしい名前をよく知っているね』


「ちょっとちょっと、ブルーさん? 星同士で盛り上がってるところ悪いんだけど、知らないワードが多すぎて、ついて行けないから!」


『ああ、すまないタツヤ』


『あなた、星の化身なのに、なにも知らないのね? この宇宙には7つの聖なる星〝初番鍵(クニス・ナノラ)〟〝次版鍵(ト・ニヒチ)〟〝三番鍵(ノナコ・イホスチ)〟〝中番鍵(コイミ・カイミ)〟〝五番鍵(ハナノナ・スラノナ)〟〝六番鍵(トニス・チ・クニキ)〟〝七番鍵(ク・ラカイニ)〟があるの。それでね……』


『ウォルナミス。すまないが……それはいずれ、私から話す事もあるだろう。彼にはあまり関係ない事だよ。昔の話だからね』


『……そうですか。勝手な事をしてしまい、申し訳ございませんでした』


 ええ? やめちゃうの?! 何だよ、気になるなあ。

 ……けどブルーの声、少し辛そうだったな。言いたくない事なら、無理に聞く必要もないか。


『それで、チキュウの皆様は、こんな遠くの星まで……それも私の所に直接、どんな御用で参られたのですか?』


「実はですね。〝星の意思に会う〟ための術が暴走しまして……」


 僕とブルーとレッド、3人がかりで説明するも、よく分からない様子のウォルナミス。やっと伝わったかと思われた時、それは起こった。


『……なるほど、それは凄い技術ですね。でも、なぜここに来てしまったのですか? チキュウ人なら、出口はクニス・ナ……失礼しました。ブルー様の所に繋がるはずでしょう』


「にゃー! それは私が、ウォルナミス人の血を受け継いでるからなんだよー!」


 そう言って、耳を出すユーリ。


『……え?! そんな!』


 突然、ウォルナミスが、声のトーンを上げる。


『あ、ああ!! よ、よく……』


 ウォルナミスの声が震えている。ずいぶん久し振りの〝里帰り〟だ。喜びに打ち震えるのも無理はない。


『よくも! ……よくも、いけしゃあしゃあと帰ってこれましたね! この恥知らず!』


 ……って、ええええっ?!

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