ショッピング
切符を〝子ども料金〟で買うなんて、久しぶりだなあ。
僕は今、電車に揺られている。いろんな場所で買い物をして古いお金を使い、お釣りを集めるのが目的だ。自宅周辺の商店やコンビニは、足がつく可能性があるので、やめておく……あれ、なんか背徳感が半端ない言い回しになったぞ?
『タツヤ〝足がつく〟が良くない。〝露呈する〟でどうだろう』
悪化してるぞ、ブルー。
とにかく、2つ3つ隣の町で、正月から開いている店を何軒か回って買い物をする。あまり安いものではなく、そこそこの品を買って、違和感なく旧札で支払うのだ。目標は10万円。交通費だけなら半分もいらないが、現地で何があるかわからないので、多めに用意していこう。
「どうせなら、有用な物を買おう。何か持って行かなければならない物ってある?」
『そうだね。私がナビをするので、地図もコンパスも要らない。気候は大体、日本と同じなので衣類も買わなくていいし……』
「そっか。じゃ、別に適当でいいかな」
『……さておき、キミが洞窟の奥に、踏み込まなかった理由だが』
ああ、そうだ。電車を待っている時から聞かれてたんだ。
僕が小学生に巻き戻る前。ブルーに出会わず〝行き止まりの未来〟に、たどり着いてしまった理由。
〝ダメだよ、たっちゃん! 何か手に刺さってる! たっちゃんが死んじゃうよ!〟
栗栖和也、あだ名は「栗っち」
……あの時、栗っちは、洞窟探検を強行しようとした僕を、涙をポロポロと流しながら、必死で止めた。彼の予言は、昔から恐ろしいほどよく当たるんだ。
栗っちは運も良かった。例えば、彼がジャンケンで負けるのを見たことがない。
「僕だって、負ける時はあるよ?」
昔、栗っちはそんな事を言っていた。確かに〝勝った人が班長になる〟みたいなのは、見事に負けていたが……いやいや、それって逆に勝ちカウントだろ。
他にもあるぞ。僕と栗っち、大ちゃんの3人は、中学まで一緒に登校していたんだけど……
「……あれ? なんで傘?」
「えへへ。ちょっとそんな気がするんだ。たっちゃんも、持って行ったほうがいいよ?」
天気予報で〝100%晴れ〟という日でも、彼が傘を持ってきた日は必ず雨が降った。
「色々思い出せてきたぞ。栗っちが使っていた自転車は、町内会の福引きで当てたものだった。しかも、成長してサイズが小さくなると、また福引きや雑誌の懸賞で、丁度いいサイズの自転車を当てるんだ」
ブルーは、そんな昔話を、興味津々で聞いている。
幼馴染で、小さい頃から兄弟のように接していたせいか、僕はあまり不思議だと思った事が無かったんだけど。
……ん? でも、栗っちって、もっと何か凄い特技があったような……まあいいか。
『そういえばタツヤ、あの時キミの友人が、もうひとり居たな』
「ああ。そうそう。彼はね……」
九条大作
……大ちゃんの話も、ブルーの興味を引いたらしい
彼は、小学2年生の夏に転校してきた。家が近いし、不思議と気が合ったので僕達はすぐ仲良くなった。
大ちゃんの父親は、研究者か科学者か発明家のようで、本屋で名前を見かけたり、テレビで姿を見たりと、かなり有名な人のようだ。
「今朝の新聞、見たか? 大ちゃんのお父さん、載ってたぞ!」
学校でも話題に上がったりしていた……なんだ、新聞沙汰にもなってたのか。僕はテレビ欄しか見ないから、全然気付かなかったな。
大ちゃんの家に遊びに行くと、見た事も無いようなオモチャが、たくさんあった。どうやら父親の研究の失敗作などを、たびたび貰っていたらしい。
いらなくなったガラクタを小学生に与えても、何も問題無いと思っていたのだろう。確かに、僕も栗っちも、スイッチとかレバーが沢山付いている、楽しげなオモチャだと思っていた……ところが。
「いや、これ通信機だな。おおっ?! こっちは燃料電池じゃんか!」
大ちゃんは、どのオモチャも、実はオモチャでないことを知っていた。
ただ、それを両親に知られてしまうと、全て取り上げられてしまう事も知っていたので、ヒミツにしていたのだ。
……そう。彼は天才だった。
「このコネクターはマイナスだから、こっちのプラグを接続して、この振動子を……」
大ちゃんの説明はさっぱり理解できなかった。が、彼が知ったかぶっているとか、嘘をついているのではない事はわかっていた。
小学4年生の時、彼は、高名な研究者である父親が「失敗作」だとサジを投げた部品を組み合わせて、校庭の一番高い木に引っかかっていたサッカーボールを、怪しげな光線で、消し炭にしたのだ。
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3つ隣の駅で降りた。ここは駅自体がデパートになっていて、様々なジャンルの店が軒を連ねている。
「三箇日でも、ここなら買いたい放題だな」
『タツヤ。まず、あの店はどうだろう』
〝外国語なら駅中留学 NAVA〟
「通訳してくれるんじゃなかったの?!」
『冗談だ。良いツッコミを、ありがとう』
「感謝されても困るが……とりあえず、本屋にでも行ってみるか」
ここの本屋は、地下にあったはず。エスカレーターで降りる。
「折角だから、鳥取県とオランダのガイドブックを買うか……」
『タツヤ。その取り合わせ、みんな不思議に思うだろうね』
確かに。まさか鳥取からダイレクトにオランダに行けるとは、誰も思うまい。
「有難うございます。合わせて、3885円になります」
僕は旧札を一枚、ポケットから取り出し、店員さんに渡す。
心なしか、一瞬、変な間があった。
「1万円お預かりします。こちら、6115円のおつりになります」
ふう。大丈夫だった。変に緊張するなぁ。
『タツヤ。うまくいったな』
「ああ。この調子で行こう。このビルでは、あと一軒ぐらいか」
次に訪れたのは、スポーツ用品店。
「〝素手〟が特記事項に載ってしまう前に、武器を用意しよう」
僕は、野球用品のコーナーで立ち止まる。
『さすがだタツヤ。金属バットなら、小学生が持っていても違和感ないね』
僕は、数ある中で、打ちやすさや軽さといった、本来のバットとしての機能性よりも、安くて頑丈そうな素材の物を選んだ。
「アルミより、やっぱ鉄だな」
『そうだね。そのバットが強そうだ。それでも、キミの拳の方が、圧倒的に頑丈なんだけどね』
僕はレジをチラッと見た後、昨日おばあちゃんに貰ったポチ袋に、旧札を入れた。
『タツヤ、何をしているんだ?』
「ちょっとね」
そして、バットをレジまで持って行く。
「これください!」
僕はバットを、レジに座っていたお爺さんに渡した。
「いらっしゃい。野球かい? これ、重くないか?」
「うん。今日から毎日、素振りするんだ!」
「なるほどな。頑張りな。ボウズが有名になったら、おじちゃんにサインくれよな!」
「うん! ありがとう!」
「えっと、3864円だ」
僕はポケットから、ポチ袋を出して、中から一万円の旧札を取り出した。
「こりゃまた懐かしいのが出てきたな!」
ちょっと訝しげな表情になるお爺さん。
「うん。毎年、おばあちゃんがくれるお年玉は、このお金なんだ」
「そうか、おばあちゃんに貰ったのか。良かったな!」
笑顔でおつりをくれる。
『なるほど。そういう事か、タツヤ』
僕はおつりを受け取ると、お爺さんにお辞儀をして、店を出た。
「こうしたほうが、違和感がないと思ったんだ」
ポチ袋を、ヒラヒラさせる。ブルーは感心しているようだ。これからはこのパターンでいこう。
『いいペースだ、タツヤ。ちょっと移動する?』
「そうだな。駅前の商店街に、いってみようか」
駅ビルの正面出口から出て、右方向に行くと、昔ながらの商店街がある。お正月なので、シャッターの下りている店も多いが、その中で、僕が目をつけたのは、カバン屋さんだった。
「この際、リュックも新調しよう」
『いいね。今後、世界中を飛び回る事になる。あったほうが良い』
僕は、落ち着いたデザインの、やや大きめのリュックサックを手に取った。
「値段的にもデザイン的にも、これだな」
レジで旧札を支払い、おつりを6782円手に入れた。
「よし、なかなか良い」
リュックの中に、先ほど買った鳥取県とオランダのガイドブックを入れ、金属バットを挿して背負う。
「もう一軒、行っとこう」
最後に商店街の外れの雑貨屋で、折り畳み傘を買い、リュックに入れる。現在もらったおつりの合計は、27233円。この分だと、目標の金額には、すぐに到達できそうだ。
「今日はこのくらいにして帰ろうか」
『そうだね。これ以上は目立ってしまうだろう』
駅に向かおうと振り返ると、高校生ぐらいの3人組みが立ちはだかった。
「ボク、随分とお金持ちだねぇ?」
あらら。もう、目立っちゃってたか……
「お兄ちゃんたち、ちょっと今月ピンチなんだ。助けてほしいんだよね」
今日、2日だぞ。もうピンチってどういう事だ。
「とりあえず、あっちに行こうか?」
そりゃ、助かる。こんな往来だと、色々と目立っちゃうからな。じゃ、とりあえず、アレ言っときますか。
「やめてよぉ。ボク、お金なんて持ってないよぉ」




