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入居者の言い分

 土の大精霊ノームを宿す〝器〟となる武器。それは……


「ユーリの〝魔神の爪〟だぜー」


 ウォルナミス・ガジェットに標準装備されている武器〝魔神の剣〟を、大ちゃんが改造してユーリの戦闘スタイルに合わせたのが〝魔神の爪〟だ。

 その切れ味は凄まじく、ユーリの動きを妨げないので、剣の形の時よりも遥かに強力になった。


「大ちゃん、ノームを宿すには、神が作ったような武器が必要らしいけど、大丈夫?」


 まあ大ちゃんは〝名工神(ヘパイストス)〟だし、変身すれば〝機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)〟なんだから、大ちゃんの作った武器、イコール、神が作った物という事で間違いないんだけど。


「あー。このナイフに組み込まれてる、不思議で複雑な構造をイチから作るには、かなりの時間と精霊に関する知識が必要だろうなー」


 理解しようにも、俺、精霊が見えないし。と言って笑う大ちゃん。


「だから、重要であろう部分をそのまま補強して使えば、大丈夫だと思うんだ。俺の見立てが間違っていなければ、上手くいくと思うぜー?」


 なるほど。もともとある〝強度が心配な入れ物〟を〝頑丈な入れ物〟の中にギュッと入れてしまうわけか。


『星の化身よ……この少年が、(わし)住処(すみか)を造るというのか?』


「ああ、紹介するよ。ウチの頭脳(ブレイン)、大ちゃんだ」


「おー? もしかして精霊に紹介してくれてるのかー? でもさー、精霊は、きっとこう言うんじゃないかな」


 大ちゃんは、()()()()()を作り、低い声で言う。


「〝こんな子どもに、自分の(うつわ)を作ることはできないんじゃないか〟……ってな」


 同時にノームも言った。


『このような子どもに、大精霊の器を用意できるはずがない』


 さっすが大ちゃん! 大正解!

 セリフを言い当てられたのが気に食わなかったのか、ノームは、ちょっとしかめっ面。それがまた、さっきの大ちゃんの顔マネに似てて笑える。


「あとさー、その器の使い手がユーリっていうのも、きっと問題だろー?」


「やー? どうして? (くせ)っ毛だから?」


 なんでだよ! 天然パーマ(テンパ)のヒト全員に土下座しろ!


「たしか、精霊は自分に勝った魔法剣士の武器に宿るんじゃなかったか? それなら、ユーリの力を見せなきゃダメだろー?」


 あ、そっか。グアレティンは例外だった。

 ……あの時は、彩歌がエーコに譲渡した感じになったけど、本当は戦って勝たなければ掟に反すると言っていたな。


『今の話、聞き捨てなりませんな。その〝魔神の爪〟とやらの使い手は、星の化身ではないのか?』


 若干、不機嫌になるノーム。


「あ、いや。僕じゃないんだ。ほら、そっちの……」


「やっほー! 私がユーリちゃんだよー?」


 ユーリがヒラヒラと手を振り、ノームは更に機嫌が悪くなる。


「……あの者、魔力が感じられませぬが?」


「魔力は、ほとんど無いからな、魔法も使えないし」


 ノームはやれやれという素振りで首を横に振る。


『星の化身よ。このノーム〝弱者〟の持つ〝出来損ないの器〟に宿るつもりは無い。どうしてもというならば、即座に消滅させて頂きたい』


 ノームのセリフの直後、練習場に〝キーン〟という耳障りな音が響く。

 ……いや、音じゃないな。これはユーリの殺気だ。


「にゃー。みんな、ちょっと下がってて」


 一度は隠していた耳が完全に出ている。口調も、ユーリが臨戦態勢になった事を表していた。


「……ノーム。望み通り、消滅する事になるかもな」


『誇りをもって死するなら望む所。ましてや星の化身の手に掛かるなら、尚の事』


 笑みすら浮かべているノーム。

 いや、お前を消すかもしれないのは僕じゃない。


「ブルー、テーブルと椅子を片付けてくれるか? 荷物ごと全部」


『了解した』


 ユーリとノームを残し、全員、壁際まで下がる。何が起こったのか理解できないノーム。


「武装」


 まばゆい光に包まれて、ユーリはイエローに変身した。


「にゃー。聞き違いだったら悪いから、念のため聞くんにゃけど? ……魔神の爪」


 左右の拳から、鋭い刃が飛び出す。


「これが魔神の爪。そしてこの姿が、大ちゃんの改造してくれたガジェット。これを見てどう思うんにゃ?」


 イエローの言葉は、いつもより少しトーンが低い。

 ノームは、イエローをつま先から頭までジッと眺めてから、こう答えた。


『稚拙な出来損ないのガラクタを見せられても、返答に困るのだが? ……それより、いつまで児戯(じぎ)に付き合えばよいのか教えてくれ』


 次の瞬間、イエローが消えた。

 ギョッとした表情のノーム。その背後に、黄色い影が浮かぶ。


『なにっ?!』


 ノームが振り返る。しかし、そこにはもう何も無かった。


「2つ」


 不意に現れたイエローの爪が、ノームを腰の辺りで水平に両断する。


『ぐああ!』


 苦痛に歪んだ顔のまま、ノームの胴体が床に転がる。


『くっ、何だ? 何が起こった!』


 ノームの上半身が、フッと消え、立ったままだった下半身の上に現れた。


『ぬう……只の小娘では無かったようだが、所詮は魔法を使えぬ弱き……』


「3つ」


 セリフを言い終える前に、今度は腰と胸の辺りで水平に切断される。


『がふぅっ?! ……こ、こやつ?! 無駄だぞ! 物理的な攻撃を受けたところで(わし)の体は自動的に元に戻るのだ』


「4つ」


 先程と同じように、ノームの上半身が元に戻る。と同時に、脳天からの一撃、続けて腹を真横にと、十字に切り裂かれた。

 黄色い影が、浮かんでは消える。


『があああっ!! 調子に乗りおっ……』


「5つ」


『ぐびゃあ?! おのれぇぇ!』


「6つ」


『あひゅんっ!?』


「7つ」


『むがぎゅぶっ?!』


 イエローの宣言通りの数に、切り刻まれては戻るを繰り返すノーム。延々と切り刻まれ続ける。


「21」


『や、やめっ! やめぎゃああぁい!』


 ノームは、得意の魔法も使えず、結界も張れない。その前に、細切れにされるのだ。


「38」


『がぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!』


「39」


『もっ! もういやだばぷしっ?!』


「40」


『ひぃぃぃぃっ?! ひぬるゃっ!』


 あーあ……ちょっと可哀想になってきたな……






 >>>






「1139」


『ご、ごべっ』


 ……これが地獄の責め苦か。

 ノームは、目視できない程に切り刻まれては、元に戻るを繰り返していた。

 魔法なら殺して貰えたんだろうけど、物理的に細切れにされるもんだから、自動で元に戻ってしまい、痛い上に死ねない。


「1140」


『ごめんなぎっ』


「1141」


『ごべんなさぎゃっ』


「1142」


『ごめんなさぎゃうっ』


「1143」


『ごめんなさいっ!』


 イエローが、ピタリと動きを止める。


「……もう1回言うにゃ」


『へっ?!』


「……1144」


『あああっ! 待って下さいっ! ごめんなさい! 許して下さい!!』


「にゃー。私に謝ってもダメにゃよ」


『は、はい?!』


「大ちゃんに謝って。そしたら許してあげる!」


 ノームは、放心状態で、ポカンとイエローを見ている。

 そうだ。ユーリが怒ったのは、自らを〝弱者〟と言われたからではない。


「お前にゃあ? 大ちゃんの事をバカにしたよにゃ? 大ちゃんの作る物に〝出来損ない〟にゃんて、ひとつも無いんだよ? 謝って! すぐ! ……1144」


 ノームは慌てて大ちゃんの前に(ひざまず)き、土下座した。

 大ちゃんには見えてないんだけどな。


『申し訳御座いません! どうぞお許し下さい!』


 イエローが、腰に手を当てて(うなず)く。


「分かればよろしい! 大ちゃんはね、スゴイんだ!」


 ノームの謝罪を見届け、変身を解いたユーリは、にっこり笑って満足げに言った。

 いやいやユーリ、お前もスゴイよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] このレベルではないでしょうけど、散々、主人公に好きだ愛してるだの言ってたのに、一回救われただけで過去の全てが無かったかのようにヤンデレレベルで大ちゃんラブとか言われてもどんだけ軽いんだ…
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