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ふりだしにもどる

※視点変更

ケイタロウ → 内海達也

 ラゴウは僕を(にら)んでいる。

 それにしても、なんでこの人たち、ムダに筋肉質なんだ? 〝魔道士〟ってこんなんじゃないだろ?


内海(うつみ)さん。兄を……兄を止めて下さい。私のことは気にせずに」


「ふん。止められるものなら止めてみるがいい」


 で、しかも2人とも無駄に渋い声だったりするんだよな。なんだろう、このアウェイ感。僕だけ別の世界の住人みたいだ。


『タツヤ。キミは別の世界の住人だよ』


 ……あ、そうだった。

 いや、そんな事より、ラゴウは〝魔王〟を復活させるとか言ってるな。これはもしかして、ちょっとラッキーかも。


「そこで指をくわえて見ているがいい。世界が滅ぶ様をな!」


 そう言ってラゴウは、聞いたことのない言葉を(しゃべ)り始めた。


「グラネデ・ソコネ・アンケル・ウネ・ロケ……」


(あるじ)よ、これは古代語です』


 古代語……パズズの封印を解く為の呪文か。

 そういえばなんとなく、響きが〝砂抜きされた砂時計〟の封印を解いた時、パススが唱えていた呪文に似ている気がするな……


「兄さん! やめて下さい!」


「あ、ちょっと待って織田さん」


 今にも飛び掛かりそうな織田さんの手を(つか)んで引き止めた。


「内海さん?! なぜですか? このままだと大変な事に!」


「大丈夫ですから、ね?」


 いや、いま邪魔をされると、ちょっと困るんだよね。

 笑顔で返す僕を見て、複雑な表情の織田さん。


「大丈夫じゃないです。伝説の魔王ですよ?! いくら内海さんでも魔王が相手では勝てるはずないですよ! ……兄さん、話し合いましょう! 魔王はいけない!」


 杖を構えようとする織田さんと、それを邪魔する僕。

 ……あれ? なんだか僕、悪の手先みたいじゃね?


「……オラ・アンケル・ボロク・ミ・フォロネテ! はっはは! もう遅い。唱え終わったわ!」


 ラゴウは呪文の詠唱を終え、不敵な笑みを浮かべた。


『なるほど。そういう構成だったか……』


 呪文を聞いて納得した様子のパズズ。(あご)に手を当てて、しきりに(うなず)いている。


『パズズ、封印は解けたのか?』


『いえ、微塵(みじん)も変化は御座いません。先程の呪文、問題が多いようですゆえ』


 解けないのかよ! ……問題が多いとは、どういうことだ?

 あ、ほら。呪文を唱え終えた本人さんは、得意の高笑いを始めたぞ?


「フハッ! フハハハハ! さあ、始まるぞ! 復活するのだ、魔王よ!」


『……残念だが復活はしない』


 両手を高らかに挙げて叫ぶラゴウに、パズズがキッパリと言い放つ。


「……なんだと?」


『その呪文、いくつものミスがある。まず序盤から構文と単語の間違いが3箇所ずつ、そして抑揚(よくよう)の付け方と言い回しが違う部分が6箇所もある。それでは封印は解けない』


 あっちゃー! 教習所の筆記試験なら不合格なレベルの不正解率だぞ。

 ……パズズには、ラゴウが唱えた呪文の問題点が分かっているようだ。

 という事はつまり、パズズはさっきの呪文を理解した上で、自分の封印を解く呪文を手に入れたって事かな?

 念のため確認しておくか。


『パズズ、封印を解く呪文が分かったんだな?』


 パズズは、僕を見てニヤリと(うなず)く。

 これ、ゲームならレベル吸われるヤツだろ?!


『今すぐ、封印を解くか?』


 僕の問いに、今度は首を横に振る。


『有難うございます。しかしながら、それは(あるじ)の魂が完全に修復された後に……』


『……律儀(りちぎ)だな、お前』


 僕の魂と一体化してしまっている状態でさえゴーレムをそこまで操れるなら、先に体を復活させておいても大丈夫だろうに

 まあ、本人がそう言うならいいか。


「という事で、魔王の封印は解けない。もうやめよう」


 それに、解けたとしても、中身は僕の中にいるんだ。

 ずーっと言ってるけど、無駄なんだよな。


「な、何を言っている! 俺が見つけた情報によれば、今の呪文で間違いないはずだ!」


『ならば、なぜ何も起きぬのだ? その〝情報〟とやら、間違いだらけなのだよ。例えば最初の一節〝大地と空の戒め〟の部分は〝グラネデ・()()()()・アンケル〟と唱えるべきだ』


 とパズズが口にした途端、ドーン! という音が響き、軽い振動が伝わってくる。


『おっと、つい口にしてしまった。封印がほんの少しだけ(ゆる)んだようだな』


 パズズがニヤリと笑う。ほんと、禍々(まがまが)しいなあ!

 ……作ったの僕だけど。


「くッ! お前はいったい何なのだ?! 魔王や封印……古代語のことを、なぜそこまで詳しく知っている?!」


 僕が知っているという訳でもないんだけどなあ。

 未だに、


「ヒントはこれだよ」


 僕はラゴウに、右手の指輪を見せた。


「はぁ? 何だ? お前の手がどうかしたのか?」


「……う、内海さん? 今まで気づきませんでしたが、まさかその指輪!」


 織田さんの方が先に気づいたみたいだ。続けて、ラゴウの顔色も変わる。


『我の正体がわかったようだな。見ての通り、我が(あるじ)は既に決まっている。諦めるがいい』


 ラゴウは、ワナワナと震えている。

 あ、織田さんも口を開けたまま固まってる。


魔王の指輪(デモンズリング)……だと?!」


 信じられないといった表情のラゴウと……


「う、内海さん……どうして?!」


 あ、あれ? なんだか織田さん、僕を(にら)んでいるような?


「信じていたのに……内海さんは魔王以上の(あく)だったのですか?!」


 そっちか!


「えーーーーっ?! いえいえいえ! 違いますよ織田さん! 違いますから!」


 ……いや、まあ魔王が(あるじ)と呼ぶってことは、僕はその上をいくと思われるかもなあ。


『安心するがいい。(あるじ)は悪ではない。それはお前もよく知っているだろう』


 ナイスフォローだ、パズズ!


「そうそう。僕は善良な、ただの小学生ですからね?」


『タツヤ、それはない』


 うん。そうだな、自分でもそう思う。


『キミは、善良で、ちょっとアレなアレだ』


『アレって何だブルー! アレなアレって何だよ?!』


「お、おのれ……お前はいったい?!」


 後ずさるラゴウ。これであきらめたかな?


「……仕方がない。余興はここまでだ! 今すぐに鬼門を完全に開放してやる。地上にいる全ての悪魔や魔物、そして凶獣は強化され、人は人の姿を保てなくなるだろう」


 あきらめてなかった! この人どこまで往生際が悪いんだ?


「させるわけ無いだろ!」


 僕が飛び掛かろうとした時、ラゴウはこちらを指さして言った。


「お前はこれでも食らえ!」


 僕の周囲の床から〝円柱形の何か〟が4本せり出す。


「内海さん、いけない! それは〝転移〟の仕掛けです!」


 しまった、油断してた!

 織田さんが〝表層〟まで飛ばされたっていうヤツか!


「内海さん!」


「うははは! さらばだ!」


 ふたりの声と景色が(ゆが)んで消える。

 ……そして次の瞬間、僕とパズズは、見た事もない場所に居た。


「いや、まてよ……ここは?!」


「お気付きですか、(あるじ)よ」

 

 前言撤回。

 見たことあるぞ!

 〝落日と轟雷の塔〟で最初の階段を降りた広場だ。表層っていうか、入り口じゃないか!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラゴウとケイタロウ……北斗? それなら、いっそのこと、霞姓にしても良かったんじゃないですかね?(笑
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