せんとうきろく:にし門
※視点変更
丹生瀬真 → ????←new!
※舞台変更
城塞都市南門 → 城塞都市西門
「ママー! 人がいっぱいいるよ! ねー!」
今日は、あさからパパもママも、すっごくいそがしそう。
「あなた、気をつけて」
「ああ。大丈夫。そう簡単に、あの門は破られはしないよ」
パパが、おしごとのくろいローブのかっこうで出ていった。
「あれ……ママー? パパ、今日はおやすみじゃなかったの?」
「ええ。急に、お仕事になっちゃったの」
ママがちょっとだけ、しんぱいそうにわらった。
……やっぱり、町を守るってたいへんなんだ!
「今日のおしごと、パパはどこに行くのかなー」
「ふふ。今日はね、すぐ近くなの」
そう言ってママは、まどのそとを指さした。あ、そっか! お家のすぐ前にある門!
「いつも、とおくに行っちゃうけど、今日はちかいからうれしいね!」
「そうね。もしかしたら、えっちゃんにも、見えるかもしれないわね」
お家のすぐそばに、大きな大きな門がある。〝にし門〟って言うんだって。
「パパがいつも行くのは〝しがし門〟だよね!」
パパは〝ゆうしゅう〟だから〝しがし〟なんだぞ! っていつも言ってるもん。
「そうね。でもえっちゃん。〝しがし〟じゃなくて、〝東〟門よ?」
「あ、そっか、ひがし門だ!」
また間違えちゃった。でもなんで今日は、にし門なのかな?
……まあいいか。
あーあ。どうせなら、ずっとお家の前の門の方がいいのにな。
「さあ、それじゃあママは、お掃除をしようかな!」
「うーん……えっちゃんは、パパをおうえんしてるー!」
「そう、いいわね。パパもきっと喜ぶわ! ……じゃあ、ママ、少しだけ地下室にいるから」
ママはそう言って、ちかのとびらを開けるスイッチをおした。
「はーい! がんばってね!」
「うん、えっちゃんも頑張って……あ、ネズミとか虫が出てきたらイヤだから扉は閉めるけど、何かあったら開けて言ってね?」
「わかったー!」
ちかにいって、とびらをしめると、そとの音はなーんにも聞こえなくなっちゃうよね。
えっちゃん、こわいからあんまり行きたくないんだ。
「よーし! パパのおうえん、がんばるぞー!」
それにしても、すごくたくさん、人がいるのね。
……あ! そうだ!
「たしかここに……あったー!」
これ、かってにつかったら、おこられちゃうけど、今日は〝じゅうよう〟な〝にんむ〟だから、大じょうぶだよね。
「じゅうようなー! にっんっむー!」
へへー! そうがんきょう! これがあれば、とおくのものも、すっごくちかくに見えるんだよ! よーし!
「かんしをはじめます!」
「ごくろう! ほうこくは、みつにおこなうこと!」
「りょうかいしました!」
なんちゃって……うふふ。えっちゃん〝しゅびたいいん〟みたいね。
えーっと、パパはー……
「きゃあ! まぶしい!」
なんか光った! え? なに? ドーンっておおきな音!
えっちゃん、びっくりしちゃった!
「ママー! なんか光って、門がなくなっちゃった!」
……あそっか。ママ、ちかにいるから、きこえないんだ。
じゃあ、まあいいか。
もどって来たらおしえてあげようっと。
「うわあ! なんか、へんなのがいっぱい出てきた! すごおい!」
門から、見たこともないような、へんな生きものがどんどん出てくる。
うわあ……あの生きもの、門の前にいた人たちをおそってるの?
「もしかして、あれ、おばけ?」
おばけ、はじめて見た……!
「えっちゃーん?」
「ひゃああ?! もうー! ママったら、おどかさないでよ!」
しんぞうがドキドキいってるよ……
「ふふふ。えっちゃん、パパは居たの?」
「ううん。いないー」
おくのおへやからの、ママのこえに、へんじをした。でもね、それどころじゃないの、みんなたべられちゃうかも。
「ママー! パパがいたら、門からおばけが出てきても、やっつけてくれるよね!」
だいじょうぶだよね? パパは〝ゆうしゅう〟だもん。
「急にどうしたの? ……そうね、パパはどんなお化けでも、魔法でチョイチョイって、やっつけてくれるわよ!」
「よかった! じゃあ、あんしんだね!」
にんげんを食べる、わるーいおばけは、パパがやっつけてくれる。
でも、門の前……なんだか、にんげんよりもっともっと、おばけのほうが、いっぱいいっぱいになってきたよ?
「ママー! おばけって、ここまでくるかな?」
「えー? なにか言った?」
「……ううん。なんでもないー!」
おばけはパパがやっつけてくれるから、ここまではこない。ママがしんぱいしちゃうといけないから、しずかにおうえんしていよう。
うわぁ……どんどんおばけがふえていく。
「みんな、にげてる……パパは……いない。どこ? パパ……」
とうとう、こっちまでおばけが来たよ……
「ママー」
「なあにー?」
「おとなりのおばちゃんが」
……食べられちゃった。
「えっちゃん? どうしたのー?」
ママは、おそうじをがんばってる。
えっちゃんも、がんばって〝おうえん〟すれば、きっとパパが、おばけをやっつけてくれる。
だいじょうぶ……だいじょうぶ……
……あ。
「ママ……おばけが」
おばけ、こわいおばけ! おっきなお口をひらいて、えっちゃんを見てるの。
こわい! だめ! おばけこわい! ママ!! おばけが……!!
「おばけが来た……ひぃぃ! おばけが、まどのそとまで……!!」
いやだ! 食べられちゃう! こわい! こわいよう!
「ママ! たすけ……え?」
いつのまにか、しらないおねえちゃんが、まどのそとに立ってたの。
「……おねえちゃん、だれ?」
「なにー? ママ、今、水を使ってるから聞こえないー! 大っきな声で言って!」
「ねこのお耳がついてるー!」
「猫ー? 猫がどうしたのー?」
「ねこのお耳がついた、ローブのおねえちゃんがー!」
おばけを、バーンってやっつけてくれたよ!
それから、えっちゃんにウインクして、門のほうに、はしって行っちゃった……
おねえちゃん、はしるの、すっごくはやい!
「あー、猫耳ローブ? あったわね昔! あなたが生まれるずっと前に流行ったのよ」
「ふーん。そうなんだー! かわいいね、ねこみみ!」
「そうねー。でも最近はもう、猫耳のついたローブなんて見ないわね……」
そういいながら、ママがこっちに来る。
……ちがうよママ。ローブにお耳がついてたんじゃないの。
きいろいローブの、おねえちゃんのあたまに、ねこさんのお耳がついてたんだよ?
「……あら! この子ったら、また双眼鏡を勝手に出してきて! パパのお仕事用だから、触っちゃダメってあれほど……イヤアアアアアアアッ?!」
ママは、おっきなこえを出したあと、ねちゃった。まどのそとを見てビックリしたみたい。
……えっちゃんも、こわかったんだよ。でも、もうだいじょうぶ。さっきのおねえちゃんが、おばけをぜーんぶやっつけてくれたから。
パパのすがたは見れなかったけど、きっと見えないところで、おしごとがんばってたんだよね!
「うふふ。えんのしたのちからもちっていうのよね」
……あ、ママが目をさますまえに、そうがんきょうを、もどしとこっと。




