真相
織田さんは、静かに語り始めた。
「私は、地下深くにある〝地下都市シェオール〟から来ました」
この城塞都市の地下には、忘れ去られた〝迷宮〟がある。
……パズズはそう言った。
『〝迷宮〟なんだよな、パズズ? 〝地下都市〟ってどういう事だよ?』
『主よ。我が根城としていた迷宮の上に、城塞都市が作られたのは、幾度か召喚されました故、存じておりました。しかし、封印された玉座の間以外の場所は見ておりません』
「織田っち! 地下都市って……?! そんなのが、ここの地下に?!」
遠藤が、信じられないといった表情で尋ねる。
「はい。太古に、魔王が封印された迷宮です」
「魔王って! 城塞都市の下に魔王が居んの? 超コワイんですけど!」
いや、魔王はいま、僕の中にいるんだけどね。
「隠された迷宮の入り口が発見されたのは、気が遠くなる程の昔です。人々は、こぞって迷宮の探索に挑みました。ここが、魔王の封印された迷宮だとは知らないまま……」
熊が冬眠していると知らずに洞窟探検みたいな感じかな。
しかし、パズズが封印されたのってどれだけ昔なんだよ……
「迷宮には、財宝や資源が豊富にあり、まるで金鉱を掘り当てたかのような騒ぎでした。しばらくすると、迷宮の上層には集落が形成され、やがて、街と呼べるまでになります。住まう者が多くなり、街は徐々に深層にまで拡大していきました」
人間って、本当にどんな所にでも根を張るよな。〝住めば都〟とはよく言ったもんだ。
「そしてある日、ひとりの魔道士が、見たこともないほど厳重な封印が施された扉を発見します。扉の前の石碑には、古代文字でこう書かれていました。〝魔王パズズをここに封印する。何者も近寄るべからず〟と」
その魔道士が、織田さんのご先祖様だったそうだ。
彼は、世紀の大発見を他の誰にも言わず、その時代の王様に伝えた。
「ご先祖様は、手柄を独り占めしようとしたんでしょうね。危険を知らせたというなら、王様だけに言うなんておかしいですよ」
でも、それがいけなかった……魔王という言葉を聞いた王様は慌てふためいて、すぐに行動を起こした。
「〝王の名において命ずる。魔王の迷宮だと判った以上、誰ひとり、外に出してはならぬ!〟と」
王様は、迷宮の入り口だけでなく、地表より下の階層全てを、即刻、封印したのだ。
「迷宮内の人々もろともに……です」
マジかよ? 無茶苦茶するなぁ!
「ええっ?! どうしてそんな……」
「……魔王に魅入られた者や、魔王が乗り移った者、他にも、魔王に関わった可能性のある者が外界に出る事を、王は許さなかったのです」
伝染病の〝封じ込め〟と同じだな。〝多〟を救うために〝少〟を見捨てる。
……いや、話を聞いた限りでは、王様は単に、自分が助かりたかっただけなのかも知れない。
「おいおい! 何だよそれ……! 中の奴らはどうなるんだ?」
「……〝生き埋め〟ですね」
織田さんが、暗い声で答えた。
「ヒドいし! あんまりだし!」
今にも泣きそうな顔で、辻村が叫ぶ。
「……私もそう思います」
織田さんは、ボソリとそう呟いたあと、説明を続ける。
……何世代にも渡って、地下に閉じ込められた人々は、地上に出ることも出来ず、迷宮の中で生活を続けることになる。
幸か不幸か、地下水だけは豊富なうえ、絶えることなく迷宮に現れる魔物を〝糧〟にして、飢えることもなく、今日に至る。
そして、織田さんのご先祖は、唯一地上に繋がる〝秘密の通路〟を管理するという、極秘の役目仰せつかった。
「もちろん、私の先祖も迷宮から出ることを禁じられました。それから何代にも渡って、私の家系は、口伝だけで〝真実〟と〝地上へ繋がる道〟を隠し伝えて来たのです」
この〝秘密〟は、最初に生まれた子どもにだけ伝承されるのだそうだ。
いいのか? どっかで聞いたような話になって……
『いけないタツヤ。このまま気付かないフリを続けるんだ』
お前が気付いてるのが一番問題なんだけどね?!
……おっと。織田さんの話は、まだ続いている。
「兄がいたので、つい最近まで、私は本当の事は知りませんでした。世界は地下都市が全てだと思っていましたし、食べ物は魔物や、迷宮に生えるキノコと苔だけだと思っていましたからね」
悲しげな笑みを浮かべる織田さん。
「……その兄が、行方不明になったのです」
迷宮の最下層に、お兄さんの物と思われる大量の血痕と、発動したであろう〝罠〟の残骸が残されていたという。
「生存は絶望的だろう、という事でした。そしてとうとう〝秘密〟は、私にも伝えられたのです……ところが!」
そんなお兄さんが、ある日、織田さんの前に突然現れた。生きていたのだ。
「兄は、最下層だと思われていた階層から、さらに下の階に落ちたのだそうです。そして、そこで迷宮の真実を知ったと言っていました」
「……真実?」
「はい。魔王の封印された迷宮。でもそれは〝あと付け〟の肩書きです……〝落日と轟雷の塔〟と、ここの地下にある迷宮……〝地下都市シェオール〟は、全く同じ形をしています。もう既にお気づきかもしれませんが……」
そうだった。〝落日と轟雷の塔〟での、織田さんの〝知り過ぎていた〟感じからも、迷宮の造りだけでなく、生息する魔物まで同じなのだろうというのがわかる。
「この迷宮〝鬼門〟です」
「な……?! 織田っち、今なんて?」
「ヒィッ! そ、そんなわけねーし!」
急に震え上がる遠藤と辻村。鬼門って何だ?
「達也さん。〝鬼門〟は、魔物や悪魔の力の源となる〝負の感情〟を際限なく出し続ける場所の事なの……」
彩歌も、複雑な表情だ。
「織田っち、もし城塞都市の下に〝鬼門〟があるなら……」
「はい。魔界中の魔物が押し寄せてくるでしょう。魔物や悪魔にとって〝鬼門〟は最高のごちそうを提供し続ける、パワースポットですからね」
「でも、なんで今まで無事だった城塞都市が、急に襲われたんだ?」
「今まで、鬼門は閉じられていたんだと思います。兄は、迷宮の奥で、鬼門を開けたのでしょう」
「何でそんな事するし! ほんと迷惑!」
確かに迷惑だけど、たぶん、織田さんのお兄さんは……
「兄は、地上に出れば〝王〟に殺されると思い込んでいます。そして、地上の全ての人間を恨んでいます。きっと鬼門を開けて魔物と悪魔に力を与え、地上の人間を根絶やしにするつもりでしょう。」
お兄さんは、誰も降りられないように、下層へ向かう〝隠し扉〟を開くための仕掛けを壊したらしい。
「あ、そっか! もしかして〝落日と轟雷の塔〟で見た、鉄の箱に入ったヒツジとオオカミの像?」
「はい。あの赤い液体が、扉を開けるための鍵です。〝地下都市シェオール〟の像を兄に破壊されてしまい、どうしても〝落日と轟雷の塔〟で手に入れて来なければなりませんでした」
織田さんは、魔界を救うために危険をかえりみず、地上にやって来たらしい。
城塞都市の運営当局と守備隊に事情を説明し、身分証を発行してもらった上で、単身〝落日と轟雷の塔〟に向かったのだ。
「まさか迷宮の上に、このような都市が出来ているとは思いませんでしたよ!」
そりゃそうだ。だって外の情報は一切入ってこないんだから。
「しかしさ、守備隊もケチケチせずに、護衛ぐらい付けろよな!」
遠藤の言う通り、守備隊は何で織田さんに同行しなかったんだ?
結局、魔物が押し寄せてきて、大ピンチじゃないか……!
「仕方がないのよ。〝砦越え〟に付き合うような命知らずは滅多に居ないし、守備隊の人員不足も深刻なの」
まあ確かに、それが出来るなら、先ずは4つの大砦に救援を送るよな。
「いえ、しかし助かりました。皆さんのおかげで、ギリギリ間に合いそうです。私はこれからシェオールに戻り、兄を止めます」
「事情は分かったぜ! 話してくれてありがとな、織田っち!」
「結局、役に立たないかもだけど、何か手伝える事があったら言って欲しいし!」
織田さんが、嬉しそうに微笑む。
「有難うございます! それではお言葉に甘えさせて頂きますね……藤島さんと遠藤さん、辻村さんは、魔物から城塞都市を守って下さい。内海さんは、私と一緒に来て頂けますか? もし兄が説得に応じない時は……」
言葉を詰まらせる織田さん。
「分かりました。お兄さんを止めましょう!」
乗り掛かった船だ。それに、城塞都市が無くなってしまったら色々と困るんだ。
えっと……そうそう。せっかく貰った福引き券が無駄になっちゃうからな。




