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渦中への帰還

 伝説の魔道士からの、まさかのご指名に、広場にいる全員が僕を見ている……


海神王(ネプトゥーヌス)様。申し訳ございません……(おっしゃ)っている意味がよく分からないのですが」


 飛竜に乗ってやって来た、城塞都市からの使者は、困り顔で僕と菅谷(すがや)稀太郎(まれたろう)さんを交互に見る。


「ふむ。分からんだろうな……」


 稀太郎(まれたろう)さんも、ちょっと困り顔だ。

 いや、僕だって困ってるんだけど。


『ブルー、この人数にバラしちゃ、さすがにマズいよな?』


『そうだね。いくら魔界とはいえ、守備隊員は〝アガルタ〟に行けるみたいだし、どこから情報が漏れるか分からない』


 だよな。さて、どうしたものか。

 ……あれ? 稀太郎さんが近付いてきた。


「もしや秘密だったか? すまんな」


 僕の耳元で(つぶや)く。

 ……あ、そっか。この人には、ブルーと僕の会話が聞こえてるんだっけ。


『はい。実はちょっと困ります』


「そうか。ではひと芝居、打つとしよう」


 そう言うと、稀太郎さんは、腰に下げた(かばん)から、ナイフを取り出した。


「見るが良い。この魔剣にはワシの魔力が込めてある。これを弟子である少年に託そう!」


 稀太郎(まれたろう)さんが短剣を頭上に掲げると、周囲から歓声が上がった。


「という事にしておいてくれ。何の変哲もないナイフだ……果物でも剥くといい」


 僕にナイフを手渡すと、ニコッと笑う稀太郎(まれたろう)さん。この人、なかなかやるなあ!

 ……よし、それじゃ僕も。


「お師匠様……お力を拝借(はいしゃく)致します! わが命に替えましても、必ずや、城塞都市を救ってご覧に入れます」


 大げさな身振り手振りでナイフを頭上に掲げたあと、バックパックに入れてペコリと頭を下げる。


「うむ。お前はいずれ、ワシをも超える魔道士になる器だ。任せたぞ」


 なるほど、という顔で、一連のやり取りを見ている城塞都市からの使者。よし、辻褄(つじつま)が合ったな。


「それでは、お弟子(でし)様。早速ですが飛竜にお乗り下さい。城塞都市まで5時間ほどかかります。急ぎませんと……」


 マジか! 空を飛んでも、そんなにかかるんだ。遠かったもんなあ……


「彩歌さん、織田さん、バ……遠藤さん、辻村さん、ちょっとこっちに……」


 そうそう。みんなで手をつないで輪になろう。


「達也さん、アレを試すのね」


 お、覚えてたのか彩歌、さすがだな。


「内海さん、何を? 急がないと城塞都市が……」


 いやいや織田さん。5時間もかけてたら間に合わないから。


「おおっ! アニキ、何が始まるんスか?」


「なになに? パイセン、これって何の遊び?」


 お前らは、何でちょっとワクワクしてる感じなんだよ!


「とにかく、絶対に手を離さないで」


 よし、僕の考え通りならこれで……


「あの……お弟子(でし)様? 何をされているのですか?」


 この場所にいる全員が、不思議そうに僕たちの作った円陣を見ている。これで上手く行かなかったら、ちょっと恥ずかしいぞ。


「この場から僕たちが消えたら成功です。先に城塞都市に着いていると思いますので安心して下さい……では参ります!」


 僕は、大きく息を吸い込んだ……と同時に、周囲の景色は一変した。


「あ、アニキ?! ここ、どこっすか?!」


「マジ? 大砦に居たのに……! パイセンすげぇ! パネェ!」


 眼の前にあるのは、見覚えのある巨大な門。よし! 成功だ!


「良かった。まだ門は破られてないわね」


 僕たちは帰ってきた。一瞬にして城塞都市に。


「内海さん! これは一体……?!」


 織田さんも、キョロキョロと周囲を見て、目をパチクリさせている。


「〝阿吽帰還(あうんきかん)〟の魔法です」


 ……思った通り〝阿吽帰還(あうんきかん)〟の魔法は、呪文を唱えた場所まで、次に息を吸った瞬間に帰って来るという魔法だった。超便利だけど……僕しか使えないな。


「驚いた……内海さん、探検の間、ずっと息を止めていたのですか?! でも、それじゃ呪文を唱えるどころか、会話も出来ないんじゃ……?」


 そう。そこが問題だったんだよね。だから僕はある方法を試してみたんだ。


「……胃袋の中に小さいゴーレムを作って、そいつに喋らせてた!? アニキ、それちょっともう、軽く引くレベルッすよ!」


「どおりでパイセン、声がヘンだと思ってたし! 途中で慣れて忘れちゃってたけど!」 


 そう、僕は〝使役:土〟で〝ミニ達也〟を胃の中に作って、代わりに喋らせていた。

 なんと胃の中のゴーレムが詠唱しても、魔法は発動するのだ。


「アシスト機能は使えないから、全部覚えなきゃならなかったけどね」


 スクロールの〝自動詠唱機能〟を使うと、勝手に自分自身の口で呪文を詠唱してしまう。そうなると、もちろん〝息を吸う〟事になってしまうので、呪文は一晩で暗記した。幸いな事に、僕の夜は誰よりも長いのだ。

 ……あ、ちなみに、体の外に作ったゴーレムが唱えた呪文は無効のようだった。あくまで、僕の口から呪文が発せられるというのが、魔法の発動条件なんだろう。


「おい、お前ら何をしている?」


 突然、背後から声が聞こえた。


「戦えるなら (やぐら)に上がるか、結界前で待機! 非戦闘員は避難だ。早くしろ!」


 立派なローブを身につけた男性に声を掛けられた。


「既に外門はボロボロだ。いつ魔物が入り込んでくるか分からんぞ」


 門の前にはバリケードが張られ、多くの魔道士が待機している。でもさ、確か門の前には結界があったよな。


「強力な結界があるから、大丈夫なんじゃないの?」


「いいえ、結界に魔力を送っている魔導球の出力には限界があるの。今回のように多くの魔物が一斉に結界に触れれば、絶対に保たないわ」


 なるほど。それはマズいな。


「この北門だけではなく、西と南の門も、かなり厳しい状態だ。戦えるならこの場を死守して欲しい」


 そう言って、男性は慌ただしく走っていった。

 ……あれ? そういえば、飛竜に乗った魔道士も言ってたけど、なんで東門は大丈夫なんだ?


「東門は帰還用の門だから、いつでも開けられるように、常に優秀な魔道士が多く集められているのよ」


 そういえば前にそんな事を言ってた気がするな。


「では、私は魔物の大侵攻の原因を止めてきます。皆さん、すみませんがもう少しの間、持ち(こた)えて下さい」


「おっと! ちょっと待った織田っち!」


「無事に城塞都市に帰ってきたら、全部話してくれる約束じゃん!」


 お前ら、よく覚えてたな。


「……どうしても聞かれたいですか? 聞けばあなた方を巻き込むことになります」


「俺たち、友達じゃねぇか!」


「役に立たないかもしれないけど、力になりたいし!」


「ふふ。本当に第一印象って当てにならないわね。あなた達」


 彩歌の言うとおりだ。バカップルなんて言ってゴメンな。


「内海さんと藤島さんは、どうされますか?」


 ある程度はわかってるけど、このまま真相を知らないのは気持ち悪いな。


「聞かせて下さい。力になれると思います」


「うん。どういう事か教えて欲しい」


「……分かりました」


 少し呼吸を整えてから、織田さんは静かに語り始める。

 その内容は、身の毛もよだつような……僕たちの想像を遥かに超えた物だった。

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