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完全なる案内人

 僕たちは、綺麗なレンガ造りの通路を歩き続けている。

 普通に目に見える扉は全てダミー。

 ありえない所にあるスイッチや、何の変哲もない古びた壁の飾りを操作することで開く隠し扉が、正しい通路だ。


「次はあの壁です。足元にある(くぼ)みが開閉ボタンになっています」


 織田さんのアドバイス通りに、次々と扉を開けて進む。


「絶対おかしいし。織田っち、ナニモノ?」


「そうだよなあ。さっきから、迷いもなく進んでるしなあ?」


 遠藤(えんどう)辻村(つじむら)は、ずっと(いぶか)しげ。

 っていうか、絶対ここに来たことあるだろう、織田さん。


『タツヤ、何かが居る。13体だ』


 もちろん、魔物も頻繁に襲って来た。

 ……でも、初っ(ぱな)に襲われた〝見つめる者(ゲイザー)〟に比べれば、ザコも良いトコだ。


「また出たよ〝這う者(クロウラー)〟!」


 見た目は芋虫だが、口から無数の触手を出して獲物を捕らえようとする。

 糸じゃなくて触手な所が気持ち悪い。

 しかも、ガチ肉食。人間を襲うための移動速度。

 なんと、あんな見た目なのに〝歩行者かと思ったらバイクだった〟ぐらいのペースで近寄ってくる。


「HuLex UmThel FiR iL」


 彩歌の火球が命中すると、敵は次々に消し炭になっていく。髪の毛を火に近づけたようなニオイが辺りに充満する。


『タツヤ、なぜそんなニオイを知っているんだ?』


『昔、焚き火でちょっとね』


 チリチリになった僕の前髪を見て、栗っちと大ちゃんが大笑いしてたっけ。

 でも、良い焼き具合の芋のためなら、前髪など多少ボイルされても構わないのだ。


『タツヤ、まだ居るぞ。前方200メートル。天井に5体、左右の壁に3体だ』


「〝溶かす者(メルター)〟だ。天井にも居るから気をつけて!」


 ゲル状の魔物。こいつもここには多数生息している。

 ほぼ透明で視認し辛く、近付くと襲われる。発見が遅れれば命取りだ。


「炎系や雷系の魔法しか効かないくせに、そこそこ魔法耐性が高いという曲者(くせもの)です」


 織田さんは火球の詠唱を始める。風魔法だと、切り刻んだ破片が、それぞれ自我を持って動き出すので、事態は悪化するだけだ。


「俺の火球じゃ通用しないんだよな……」


 悔しそうに歯ぎしりする遠藤。


「だ、大丈夫だし! (かける)は伸び(しろ)が凄いんだから!」


 辻村が必死で励ます。確かにこの2人の成長は素晴らしい。

 まあ初心者には来れないような所までついて来て、有り得ないレベルの戦いを目の前で見続けていれば、それなりの経験は積めるだろう。

 ましてや……


「うお、効いた! 俺の魔法が効いたぞ!」


「やったし! (かける)パネェし!」


 ……この2人は、何があってもへこたれない前向きさと、チャレンジ精神を兼ね備えている。


「やるじゃない。コイツが倒せるようなら〝第1階級魔道士(アプレンティス)〟も夢じゃないわね」


 この〝溶かす者(メルター)〟という魔物は、ごく稀に街中にも現れて、家やテントに侵入する事があるそうだ。

 そうなった場合、恐ろしい惨劇のあとに、高確率で〝空き家〟や〝放置テント〟が出来上がる。

 更には、不審に思って確認しようとした親族や周辺住民まで犠牲になるらしい。


「ちょっと隙間(すきま)があれば、どこにでも入って行くし、先に顔を狙う習性があるから、呪文の詠唱どころか悲鳴も上げられないわ」


 ……やっぱ恐ろしいな、魔界。町の中ですら、死と隣り合わせなのか。


「ところで、パズズ。例の物は本当にこっちでいいの?」


『はい。この先の通路を右に曲がり、突き当りの隠し部屋から、更に下へと続く階段を降りてまいります』


 偶然、織田さんの行き先とも同じ方向みたいだし、一緒に行こう。

 しかし、さすがは魔王様だな。随分と物知りだ。

 ……っていうか、なんでそんな事知ってるんだ?


『〝砂抜きされた砂時計〟は〝魔王イブリース〟が所有しておりました。あ奴と私は比較的、交流が御座いまして……』


 友人、と言う程でもないらしい。戦争はしないが常に牽制し合うぐらいの仲だったそうだ。


『あ奴め、右腕とも呼べる部下を〝砂抜きされた砂時計〟によって失っております』


 管理者が、ちょっとしたミスで命を落とす事はある。銃器や刀剣、爆発物等の管理には細心の注意が必要だ。ましてや、究極の秘宝を扱うなら尚の事。


「止まった時間の中に、閉じ込められたのか……」


『その通りで御座います。あ奴の部下は、手を滑らせて〝砂抜きされた砂時計〟を落とした直後、まばたきをする間もなく、変わり果てた姿で倒れていたそうです』


 〝砂抜きされた砂時計〟を使った者以外は、時神(クロノス)の休日のように、時間が停止した時点まで巻き戻るようだ。その証拠に、死んだ部下が一瞬にして年老いた姿になって倒れていた以外には、周囲に何の変化もなかったのだ。


『その部下の老い方から見ると、どうやら200年以上の年月が経っていたそうです』


「長いな、そいつの寿命! ……確か、地球に攻めてきた宇宙人の死体も〝時神(クロノス)の休日〟が終わると同時に、宇宙船まで死んだまま移動するとか言っていたな。きっとその部下も……」


 ……200年も、全てが止まった世界に閉じ込められた上、死んだら巻き戻ってしまうなんて。完全な無駄死にだ。


「でも達也さん。もし時券(チケット)を持っていたりすると、巻き込まれて一緒に閉じ込められるんじゃ……」


「いや多分、時券(チケット)は効かないと思うよ」


 定期時券(パス)の効果で、時間の流れが見えるようになったからよく分かる。〝時神(クロノス)の休日〟と〝時券〟は、あらかじめ時神(クロノス)が用意したシステムだ。


「魔界の魔道具や魔術で行われる時間の操作は、異端でイレギュラーな物みたいだしね」


 モース・ギョネが時間を止めた時は、その前にユーリがガジェットを使っていたから、相乗効果で意識を保てていたけど、それが無ければ、時券(チケット)は役に立たなかったはずだ。


「まあ、定期時券(パス)を持っているから、もう全然大丈夫だけどね」


 手に入れた〝砂抜きされた砂時計〟を、誤って落とそうが、ブン投げようが、僕の時間を止める事は出来ないし、止まった時間を正しく流す事もできる。


「おお? 何だこれ! ちょっと見せてみろよ!」


 とか言って、手を滑らせる遠藤が目に浮かぶが、何の問題もないのだ。

 ……さて、話を戻そう。


「その〝魔王イブリース〟が持ち主だったのは分かった。つまり、ここに砂時計を隠したのは……」


『ご明察です。危険だと判断したあ奴は、この場所に〝砂抜きされた砂時計〟を封印したと言いました。よりによって、この場所に……』


 よりによって?


『この迷宮は、私が封印されている〝忘れ去られた迷宮〟と、全く同じ作りなのです』


「同じ作りって……どういう事だ?」


『詳細は不明です。私は元々あった広大な迷宮を、自分の根城としただけの事。その後、随分経ってから、この〝落日と轟雷の塔〟の地下に広がる迷宮が、我が居城と寸分違わぬ作りだと知ったのです』


 2つの全く同じ迷宮……とても偶然とは思えない。何かしら関係があるのだろうか。


『そして、砂時計が封印されているのは、私の玉座の間と同じ場所です』


 自分の部下を殺した、危険で()むべき魔道具を、わざわざパズズの玉座の間に置くとは。地味な嫌がらせだな!

 ……あれ? という事はもしかして。


『はい。私が封印されているのは、お察しの通り、その玉座の間です』


 やっぱりね。じゃ、今回のはちょっとした予行練習になったな。

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