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落日と轟雷の塔

※視点変更

九条大作 → 内海達也


※舞台変更

地下・練習場 → 魔界

 (てん)高くそびえ立つ塔。

 誰が何のために建てたのかも、なぜ〝落日(らくじつ)轟雷(ごうらい)の塔〟と呼ばれているのかも不明。

 そして……


「登る方法も不明って、そんな〝塔〟あるのか?」


 立派で重い、古びた扉を開くと、塔の外周に見合った広い部屋の真ん中に、下へと続く階段があるのみ。上りの階段は無かった。


『主よ。ここにあるのは、地下へと広がる大迷宮です。上に向かう通路もなければ、外壁には、小虫一匹入る隙間も御座いません』


『登らないのか! また地下かよパズズ。ちょっと多いぞ、地下へ(もぐ)る展開』


『私に申されましても……』


 誰に対する苦情なのか、僕もイマイチわかんなくなってるけどさ。

 ……塔って聞いたら、登っていくと思うじゃんか。


『お探しの物は、この塔のどこかにあると伝えられております』


 時間操作に関わる魔道具のひとつ〝砂抜きされた砂時計〟の効果は、使用者の寿命分、使用者以外の時間を止めるというものだ。

 そして途中で解除は出来ない。つまり、自分の寿命の砂が落ち切るまで、止まった世界を孤独に過ごすのだ。

 ……何だろうな、この〝コレジャナイ感〟は。


「ここが〝落日と轟雷の塔〟か……!」


「半端ねぇし! こんなトコまで誰も来れないし!」


 遠藤翔(えんどうかける)辻村富美(つじむらふみ)が、(はしゃ)いでいるとも(おび)えているともとれるテンションで騒いでいる。


「皆さん、気をつけて下さい。恐らくここは、魔物の巣になっています」


 織田さんは杖を構えたまま、階段の方を睨んでいる。なぜ探検初心者のハズのアンタが、そんな事知ってるんだよ?


『タツヤ、下階から何かが近付いてくる。数は4体』


 マジかよ……よし、チャッチャと圧縮岩弾(プレスロック)で……


「まって達也さん、手加減の練習をしてからの方が良いんじゃない?」


 あ、そうか。

 今はまだ、どれだけ力を絞ってもクレーターが出来てしまう。

 〝使役:土〟って、地形を変えちゃうような威力の技ばかりだよな。


『タツヤ、それはキミが規格外な上に、力の制御が出来ていないからだよ。今はまだ最大出力は出せても、最小出力には出来ない。ジェット機で近所のコンビニに買い物に行くようなものだ』


 それは随分と近所迷惑だな。

 ……うーん。という事は、やっぱ狭い場所では〝使役:土〟を使わない方が良いのか。

 ゴーレムを作っても、その腕の一振りで、この塔ごと粉砕しかねないし。


「仕方がない。こっちでやるか」


 例のごとく〝接触弱体(せっしょくじゃくたい)〟を掛けて、杖を伸ばす。

 この杖、ただの〝初心者用の杖〟なのに、鈍器として絶賛大活躍中だ。


「来ましたよ!」


 織田さんも杖を構えた。彼の杖は、殴る為のものではなく、魔法の効果を上げるためのものだ。彩歌のロッドと同じように、先端には宝石が埋め込まれている。


『っていうか、あの人〝見た目〟だと、武器すら使わずに、(こぶし)でやっつけそうなんだけど』


 しかも、内部からの破壊を極意としてるだろう。絶対。


『ふふ。悪いわよ、達也さん』


 間もなく薄暗い階段の奥から何かが現れた。


「何だよ、あんなの見たこと無いぞ!?」


 遠藤が叫ぶ。

 ……目だ。巨大な目が、宙に浮いている。


「〝見つめる者(ゲイザー)〟! こんな入口まで出てきたのか?」


 ……織田さん?


「達也さん。あれ〝伝説級〟の魔物よ。得意技は魔法……だったと思う」


 ほほう? むかし遊んだゲームに、なんかそれっぽい敵キャラがいたな。


「気をつけて下さい! あれは手強いですよ」


 織田さんが詠唱を始める。同時に、4体の魔物も何やらよく解らない呪文を唱え始めた。あいつら口もないのに、どこで喋ってるんだ?

 ……とか言ってる場合じゃないな。


「うおおおおおっ!」


 僕は魔物の気を引くために、わざと大声で叫びながら突進した。

 必然的に、4体の魔物が唱えた呪文の標的は僕になる。

 2体は雷系、あとは、火の玉と、……緑の玉か。これは毒だな?


『つまりタツヤ、当然だがキミには効かない』


 全てがほぼ同時に、僕に命中する。

 ブルーの言う通り、雷と毒は僕には効かない。

 けど、火の玉だけは、ちょっとチクっとしたぞ。さすがは伝説級だな。


「ボウズ、お前なんでピンピンしてるんだよ?」


「今のおかしくね? レジストして無くね?」


 確かに、今のは4つとも、レジストじゃなくて〝ガチヒット〟だけど。

 エーコがいなくなったので、最近、遠藤と辻村が僕の秘密に近付こうと必死だ。

 ちょっとちょっと。僕の正体は城塞都市のトップシークレットだぞ?

 ……嘘だけど。

 彩歌の放った大きく鋭い鉄針(ニードル)が、いちばん左の目玉を貫く。本数を減らして威力と精度を上げたんだな。

 右の2体は、織田さんの風魔法をレジストし切れずに細切れになった。やっぱ織田さん強いな!

 ……よし、僕も!


「って、マジで?」


 目の前の敵が、悲鳴を上げている。遠藤と辻村による、弱体系魔法が効いているようだ。


「二人がかりの重ね掛けだけどな!」


「効いた?! ラッキー! やっちゃえし!」


 ラッキーなもんか! おまえらが腕を上げてるんだよ!

 僕の杖が風を切る音と共に、目の前の〝見つめる者(ゲイザー)〟は粉々に砕け散った。


「ふぅ。まさかあんな大物が出てくるとは。もう始まっているのかもしれませんね……」


 織田さんが、額の汗を拭う。

 あーもー! 意味深(イミシン)過ぎる。わざとなのか?


「……織田っちさー、ここへ何しに来たんだ?」


「いい加減、教えてくれてもいいじゃん? チョー気になるし!」


 遠藤と辻村の質問攻め。

 ……まあ確かに、この先も同行するんだ。秘密にする意味も無いだろう?


「聞かないほうが良いと思うんです。恐らく、聞くだけで私と同じ〝呪縛〟に捕らえられてしまいます」


「な、何だよ……脅かすなよ! だいたい、探検初心者がなんでそんなに強いんだよ!」


「しかも第五階級魔道士(マジシャン)って! ワケわかんないし!」


 そういえばそうだな。


『彩歌さん、魔道士の階級って、どうやって決まるの?』


『判定試験とか、功労によって認定されるの。ちなみに私の階級は功労によるものよ』


 なるほどね。織田さんはどっちだろう。


「はは。ちょっとした功労賞ですよ。最近頂きました」


 複雑な表情で笑う織田さん。


「魔道士の階級は〝魔法〟で名を上げれば貰えるけど、探検者や守備隊として〝戦闘〟に関わらずに第五階級魔道士(マジシャン)に認定って、ちょっと考えられないわ」


 彩歌が(いぶか)しげに言う。

 〝戦って生き残る事〟が重要視される魔界では〝強さ〟こそが、一番の評価対象なのだろう。

 ……あと、織田さんの戦闘能力や体の傷跡から見ても〝戦闘〟に関わっていないとは、どう考えても思えないんだよなあ。


「あはは。良いじゃないですか! さあ、とにかく行きましょう!」


 織田さんに質問すると、いつもこうやって誤魔化されてしまう。

 まあ、僕や彩歌も似たような感じだけど。おかげで遠藤と辻村だけ、頭にハテナを乗っけっぱなしだ。


「こっちです! ここを降りて右に行けば、隠し通路が……」


 織田さんが階段に向かって駆け出した。

 ……だから、なんでそれをアンタが知ってるんだよ?

 怪しさを隠す気は全く無いんだよな、この人。

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