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悪魔と晩餐会

※視点変更

内海達也 → 九条大作


※舞台変更

西の大砦 → 地下・練習場

「そっかー! ギリギリだな。まあ、2人とも、代役が居るからいいんじゃね?」


 あー、久しぶり。九条大作(くじょうだいさく)だぜー?

 そうなんだ。卒業式が迫っている。

 まあ、まだ2週間近くあるから、急げば間に合うだろー。


「卒業生への言葉? 生で言いたい? たっちゃんは本当にロマンチストだなー!」


 たっちゃん達は、とうとう魔界の〝大砦〟を超えたらしい。

 人間が容易には立ち入れない秘境。

 命がいくつ有っても足りないと言われる、恐ろしい場所らしいんだけど……


「やー、たっちゃん! なんか美味しい物あった? え? (かえる)? 美味しいよね、カエル!」


 緊張感なさすぎだ!

 やめろユーリ、お前の言っているカエルと、たっちゃんの言ってる〝(かえる)〟は、たぶん別物だし、お前の冗談か本気かわからないボケは、聞いてる皆さんが不安になるんだ。

 ……お前、悪魔も本当に食べると思われてるからな?


「でもさー、一匹じゃ足りなくない? え! そんなでっかいの?!」


 ……って、まさか本気じゃないよな、蛙。


「ま、まあ〝間に合えば〟で良いんじゃないか? 自分の卒業式じゃないんだし」


 それに、たっちゃんは2回目だ。

 藤島さんに至っては、まだ転校 (?)して来て2ヶ月ぐらいだから、卒業生には、そんなに思い入れもないだろー。


「じゃあ、また明日なー!」


 今は、夜の8時だ。

 練習場に仮設されたテントで、魔界人5人と悪魔2匹は、奇妙な共同生活をしている。

 そう。悪魔はもう、ケージには入っていないんだぜ。マスクも外したままだ。


「やっぱ、名前が無いのは不便っスよー!」


「何度も言うが、無いんじゃない。お前たちには発音できないだけだ」


 悪魔に話し掛けているのは〝岩木ちゃん〟。藤島さんの同僚らしい。


「そうだな……人間が発声できる〝一番近い音〟で呼べばいい。俺が〝ヴェットル〟、コイツは〝フツォメニ〟だ」


「やったー! じゃあ、よろしくね! 〝ヴェットル〟と〝フツォメニ〟」


「ああ」


「よろシくナ」


 仏頂面(ぶっちょうづら)を崩さない悪魔たち。別に機嫌が悪いわけでも、怒っているわけでもなさそうだけどなー……


「えへへ。むしろ、かなり嬉しいみたいだよ?」


 栗っちは〝精神感応(せいしんかんのう)〟で悪魔の心が読める。


「へえー! なんか面白いな!」


 確かに、2体とも、しっぽをパタパタさせている。犬っぽいなー。


「いつも缶詰めとかカップ麺とかじゃ、栄養が偏っちまうからなー! 今日はちょっと奮発したんだぜー?」


 携帯コンロと鍋を2セット。そして、肉と野菜、豆腐に白滝(しらたき)。春菊は、ビタミンたっぷりでカリウム、カルシウム、鉄分も豊富だ。


「やー! スキヤキ! やったー!!」


「ユーリ、お前、晩メシ食ってきたんじゃなかったか?」


 まあ、そんな事もあろうかと、多めに買ってきたんだが……


「大ちゃん! ミカンとスキヤキは別腹だよ?」


 わけがわからん! 


「お前の晩メシ、ミカンだったのか?」


 あり得るからな。そしてあんま驚かなくなってる自分が怖いぜ……?


「やはは! 大ちゃん! 晩ごはんの後にミカン食べるじゃない、そうしたらさー、次はスキヤキじゃん! なに言ってるの?」


「お前が何を言ってるんだ?」 


 お前の別腹システムは地球人と違う構造なのか?!


「とにかく、藤島さんが野菜を準備してくれているから、ここへ運んでくれ。お前の分もあるから」


「やったー! さすが大ちゃん、愛してる!!」


 ほっぺにキスされた。人前でやるなと言ってるだろー!

 ……あ、いや、人前でっていうか、ほら、アレだ。アレ。


「ゲゲゲ。お前ラ、仲が良いナ」


「お前たちのように圧倒的な強さを持つ者が、なぜ他者を思いやって生きられるのか。興味深いな」


 悪魔たちがそう言った……悪魔同士は殺し合わないと聞いたことがある。しかし、殺し合わないだけで、他者を思いやることは無い。あるのは、上下関係や主従関係。強い者の言いなりになって働くだけだ。


「えへへー! 僕はね、これを持ってきたんだよ!」


「おー! 栗っち、やるなあ!」


 本場さぬきうどんだ。スキヤキのシメには、やっぱうどんだよな!


「親戚のおじさんが、いっぱい送ってくれたんだけど、食べきれないからお裾分けだって!」


 香川県のうどんか! 本場のうどんをスキヤキに入れて、バチは当たらないのかー?

 コンロに鍋を置き、火をつける。えっと、油、アブラ……


「わぁ! 何ですか、これ!」


 岩木ちゃんは、興味津々といった感じだ。魔界にスキヤキは無いのか。


「いつもすみません、ご迷惑をおかけします」


 手越(てごし)さんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「困った時はお互い様だからなー! そのかわりと言っては何だけど〝例の件〟はよろしく頼むぜー!」


「お安い御用です。むしろこちらからお願いしたい位だ」


 あー、そのお願いっていうのは……


「野菜が来たよー! 食器も!」


 おいおい、ユーリ! 百均とはいえ、ワレモノを頭に乗せて運ぶなよなー!

 ……すごいバランス感覚だな、しかし。


「タマゴも要るわよね。人数分で良いかしら?」


 さすがに藤島さんは、スキヤキを知っているようだ。

 チョイチョイこちらに来ていたらしいしな。


「ちょっと待ってね、すぐに茹でてくるから!」


「待った藤島さん! それは生でいいんだぜー?」


 やはりちょっと間違っていたなー。魔界人だから仕方ないけど。 


「ああっ! 先輩! お手伝いしまス!」


 ふらっと立ち上がろうとする岩木ちゃん。


「良いのよ岩木隊員。今はゆっくり体を休めてね?」


「優しいっス! 先輩、一生ついていくっス!」


 パッと見、岩木ちゃんの方が藤島さんよりもずっと大人なので、上下関係が真逆だ。見ていて面白いな。

 ……さて、油を引いて肉を焼く、と。


「美味そうだナ! 何だソレ!」


「これは牛肉……牛の肉だぜ。おっと、そっちの〝牛〟とは違うけどなー」


 たっちゃんに聞いた魔界の〝牛〟は、2足歩行で棍棒を持っていたはずだ。神話に出て来そうだな。


「牛……ですか……?」


 魔界人は、2足歩行の魔物は気味悪がって食べないと聞いた。

 この〝牛ですか〟は、俺達で言う所の〝蛙ですか〟と同じ意味だなー。


「牛ハ、暴れるかラ、料理が面倒なんだよナ」


 ……悪魔は〝牛〟を食べるようだ。でも、魔界の人達には、ちょっとハードル高いよな。誤解を解くか。

 俺は、自分の部屋からノートパソコンを取ってきて、こっちの世界の牛を動画で紹介した。


「これがアガルタの牛?」


「かわいいー! え? この子を食べるの?」


「ウガ! 何だこの気味の悪イ生き物ハ!」


「不思議な〝牛〟が居たものだな!」


 様々な意見が飛び交ったが、スキヤキが出来上がり、器に入れた生タマゴをかき混ぜ終えた頃には、全員、食欲に抗える状態ではなくなっていた。


「よーし! いっただっきまーす!」


「ユーリ! 先ずはお客様からだろー!」


 まあいいか。ちなみに俺も、晩飯は少なめにしといたからなー! ガッツリ行くぜ。


「うわわわ! とろける! お肉がすっごい美味しい!」


「タマゴを生で食べるって、魔界ではちょっと信じられないけど、これがまた絶妙ですね!」


「ゲゲゲ…… アガルタの人間ハ、こんな美味いものヲ食ってるのカ?!」


「ああ~ん! お肉ばっかりズルいよ、フツォメニ~!」


「幸せだー! 何ですか、この新鮮な野菜! スゴイ! 美味しすぎる!」


「……美味いな。人間達の食事も悪くない」


「このプニョプニョしたものは何ですか? シラタキって……え? 元は芋? 芋が何でこんな食感に……」


「こっちの白いのは……あ、砕けた。え? 豆? 豆が四角くて白いって?」


「えへへー。ご飯もいっぱいあるけど、最後にうどんを入れるからね」


「最高だ! なんて美味いんだ! 有難う、本当に有難う!」


 どうやら喜んでもらえたようだなー!


「……あれ? 大ちゃん大ちゃん?」


 んー? どうしたユーリ?


「……カエルは?」


「だからユーリ! またそういう……」


 首を傾げて、不思議そうに俺を見ているユーリ。

 ……冗談だよな? 冗談だと言ってくれ!

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