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自称・人

『アイツのステータス、ビックリするくらいプラスが付いてるな。かなり高い数値になっているぞ』


『ふふ。普通の人間と比べたら……ね?』


 彩歌(あやか)がそう言ってロッドを構える。


『タツヤ。〝時間管理局〟からの連絡はまだ来ない。なんとか時間を稼いで欲しい。あの敵が使う〝時間操作〟は危険だ』


 いつものように〝時神(クロノス)休日(きゅうじつ)〟による時間停止なら、時券(チケット)を使っている者以外は、どんな大怪我を負っても、時が止まる前まで巻き戻る。

 だがアイツの時間操作は、()()()()()()可能性が非常に高い。

 加えて、今回は時券(チケット)自体が役に立つかどうかすら分からないのだ。


『もし万が一、時間を止められたら好き放題されるわけだよな。それにアイツに都合の悪い事は、巻き戻されたり、早送りされたりするだろう』 


 時間稼ぎに失敗したら、僕の不死身性を脅かす事態になるかもしれない。

 ……前にブルーが言っていたが、数少ない僕の弱点のひとつだ。


『でもブルー。実際の所、時神(クロノス)って何をしてくれるんだ?』


『もし可能なら、能力の剥奪(はくだつ)かな? いや、あるいは……まあとにかく、放置はしないだろう。世界のルールを守らなければ、大きなペナルティが待っているんだ』


 ……そうか。とにかくアイツを何とかしてくれるんだな。よし、それじゃ!


「達也さん、みんな。モース・ギョネは私に任せて」


『彩歌さん?! どうして……?』


『達也さんの不死性が、万が一アイツにバレたら、即、時間操作を使われるわ。時間稼ぎぐらいなら、私にも出来るから。ね?』


 なるほど。確かに僕はつい調子に乗って、やり過ぎてしまう事がある。

 心配だけど、アイツのステータスから考えれば、彩歌の方が圧倒的に強い。時間を操作されなければ、大丈夫だろう。


「ごめん、彩歌さん。でも無理はしないで?」


 彩歌はニッコリ笑って(うなず)く。くれぐれも気をつけてくれよ、彩歌……!


「……話し合いは終わったかね? さあ、どいつから食べて欲しい?」


 鈴木博己(すずきひろき)氏は、余裕の笑みを浮かべる。


「やめて! お父さんは操られてるのよ! 優しいお父さんに戻って!」


 おっと、そうだな。得体の知れない物のせいで、正気じゃ無くなっているんだろう……アイツは、鈴木博己(すずきひろき)氏ではなく、モース・ギョネだ。


「ふははは! 私が操られているだと? 違うな紗和(さわ)。私は全てを操る側の存在だよ。そのためにも、お前は私に食われて栄養となるんだ」


 モース・ギョネが、恐ろしい速さで紗和さんに近付く。しかし僕と彩歌には、ヤツの動きは見えていた。

 彩歌が、紗和さんを(かば)うように立ちはだかる。いつの間にか張られていた障壁魔法にぶつかって、ガン! という鈍い音が響いた。


「おう? キミは素早いな! 強化魔法かね」


「さあ、どうでしょうね?」


 モース・ギョネの太い腕が振り下ろされ、障壁が砕かれた時には、エーコが紗和さんを連れて少し距離を置いていた。ナイス連携プレイ!


「……まあいい。先にお前を食ってやるとしよう」


 縦に付いた口から、涎を垂らすモース・ギョネ。

 ……さっきから言ってる〝食う〟って、魔力を吸い取るとかじゃなくて、あの口で物理的にバリバリいくのかな?


「ストップ。ちょっと良いかしら?」


「何だね? 手短に頼むよ。腹が減って仕方がないんだ」


「あなたの背後の〝モース・ギョネ部分〟にダメージを受けたら、あなたは痛い?」


「もちろん痛いさ。私とモース・ギョネは〝一心同体〟なんだからね。痛みも悲しみも喜びも、すべて分かち合うのだよ。どちらか一方だけという事はない」


 あれれ? おっかしいぞ? 僕をからかって喜んでいる右手の青いのは、確か〝一心同体〟じゃなかったっけ?


『タツヤ、高度な心理作戦だ。耳を貸してはいけない』


 お前はもう少し、僕の言葉に耳を貸してくれ。


「しかし……聞き捨てならんな」


 ほらぁ! 心理作戦とか言うから怒っちゃったじゃないか!


「私にダメージを与えるだと?」


 あ、そっちか。


「……ごめんなさいね、紗和(さわ)さん。お父さん、ちょっとだけ痛いかもしれないけど」


 彩歌はロッドを高く掲げた。


「HuLex UmThel NedlE iL」


 氷柱(つらら)の様な、銀色の針が数本、頭上に現れた。手加減しているのだろう、いつもよりサイズが小さく数も少なめだ。針は間髪入れずに飛び、全てモース・ギョネ部分に命中した。


「グオオオオォォ?! この私が、鉄針(ニードル)ごときをレジスト出来ないだと?! き、貴様ぁあ!!」


「やっぱり、痛みも共有しているのね。あまり無茶な攻撃は出来ないか……」


 腕と(ひたい)に刺さった針を抜きながら、モース・ギョネは、ゴニョゴニョと気持ちの悪い声で呪文の詠唱を始めた。


「貴様、只者では無いな? 今度はこちらから行くよ!」


 緑色の玉? 初めて見る魔法だ。モース・ギョネの頭上に少しずつ形成されていく。


「いけない! あれは毒魔法です!」


 織田さんが、慌てた口調で叫ぶ。


「悪魔や魔物が使うヤツか? 本当に人間離れしているな……!」 


 と言った後、すぐにハッとした表情で紗和さんを見るエーコ。


「お父さん……!」


 悲痛な面持ちで涙ぐむ紗和さん。

 その肩に手を置く辻村と、庇うように立つ遠藤。


『ルナ? 念のために聞くけど、あなた毒は平気?』


『大丈夫だよ。それより僕の事、忘れてるのかと思って心配したよ』


『ふふ。あなたが警戒しているのは、織田さんね』


『さっすが彩歌。気付いてたんだね! ……まあ、気のせいとは思うんだけど、織田っちからは、懐かしい匂いがするんだ。魔界の深層に似た感じのね』


『……悪い人じゃないけど、謎の多い人ね。警戒しておいて正解だと思うわ……さあ、毒が来るわよ』


「はーはっは! 食らえ!」


 彩歌に向けて、魔法が撃ち出された。仁王立ちでそれを受け止める彩歌。

 ……高原の澄んだ空気を全身に浴びるかのようだ。


「な? 何でアヤは対抗魔法を使わないんだ?!」


「エーコさん、彩歌さんと僕には、毒は効かないんだ」


 小さな声で説明すると、エーコは苦笑い混じりのヤレヤレといったジェスチャーで返す。

 ……僕も、何でもアリだなとは思うよ。

 で、たぶんモース・ギョネは、言うよな、あのセリフを。


「なぜだ?! なぜ効かない!」


 ほら言った。

 ……って、いま遠藤と辻村も同時に言ったよな。


「ふふ。レジストって事にしとかない?」


「馬鹿を言うな! あれ程の猛毒を無力化できる人間などは居ないだろう! お前、本当に人間か?」


 ……怪しい所だよな。僕と彩歌は不老だ。その上すさまじい身体能力と、さらには無尽蔵の体力と魔力。


「失礼ね。私は人間よ?」


『ね? 達也さん』


 ……もちろんだ。


『ああ。僕たちは人間だ。だからこそ、こうやって博己さんを助けようとしているんだ』


 たとえ、体が人間でなくなっても、心はいつまでも人間だ。だから僕たちは地球を、そして人々を守る。


「HuLex UmThel NedlE iL」


 彩歌が呪文を唱える。今度は少し多めの鉄針(ニードル)が現れた。


「そこっ!」


 モース・ギョネの不気味な口に、全弾命中する。呪文を唱えさせないように狙ったんだな。さすがだ!


「ウグアアアアッ! ふぅ……うぅ……くそおおおっ! そんなに死にたければ、望み通り殺してやるぞ!」


 ……何だ? アイツ両手を真上に上げたぞ? まさか時間操作を!?


『ブルー、時間管理局は、まだ何も言って来ないのか?』


『タツヤ、先程から時神(クロノス)は13通りの方法で敵の能力を奪おうと試みたが、全て失敗したようだ』


 マジかよ! マズい……! かなりマズいぞ? 何とかしないと……よし!


「おい! モース・ギョネ! 時間の操作は、しないんじゃなかったのか?」


 少しでも時間を稼ぐ! 早くしてくれ、時神(クロノス)


「……うるさいなキミは。安心していいよ。〝時間の操作〟は莫大な魔力を消費するから、使わないさ」


 ふぅ……良かった。


「私がこれから使うのは〝空間の操作〟だ」


 お、おい、ちょっと待てよ! それも使わないって言ってたよな、お前!

 ……そう叫ぼうと思った次の瞬間、彩歌の周囲が透明な直方体で囲まれた。


「う……あ……!」


 僕が声を上げる暇もなく、直方体は粉々に砕け散ってしまった。

 ……引きつった顔の彩歌を内包したまま。

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