乱戦
白いローブの男の周りには、10匹の悪魔がいた。
……嫌な予感というか、これって決定的だよな。
「自己紹介をしよう。私は鈴木博己。ここ、地下ブロックの動力制御室長をさせて頂いている」
腕を後ろに組んで、ゆっくり低いトーンで続ける。
「大きくなったね、紗和。迎えを送ったんだが、報告が来ないから、心配していたんだ」
……迎え?
「城塞都市に居る悪魔からの連絡で、お前が〝探検者〟になると聞いてね? 危ないから私の代わりに向かわせたんだが」
……まさか迎えって、城塞都市を出た時に襲ってきた、悪魔の大群の事か?
「無事で何よりだ。……それにしても、ゾロゾロと大勢で来たなあ」
ニヤニヤと奇妙な笑みを浮かべながら〝鈴木さんのお父さん〟は僕たちを舐めるように見る。
「まあいい。ここまで辿り着けるという事は、そこそこの力を持っているという事だろう。残念ながらキミ達の活躍は、この中央本部に入って来るまで見ていなかったのでね」
僕は、この建物に入ってから、ほとんど〝使役:土〟を使っていない。威力がデカ過ぎて、ここを潰しかねないのだ。
「達也くん。キミの力は見られていないようだな」
エーコの言う通り、ここに入ってからは他のみんなに頑張ってもらったし〝接触弱体〟を掛けた杖で殴れば、悪魔は大体、一撃で死んだ。
「お父さん……?」
涙を浮かべながら、鈴木さん……おっと。ややこしいな。紗和さんは、不思議そうな顔で、フラフラと、父、博己氏に近付こうとした。
「待てし! これ結構ヤバイやつじゃん?」
辻村に腕を掴んで止められる。
「まだ動くな。紗和ちゃん……残念だけど親父さん、様子が変だぜ?」
遠藤がその前に立って、2人を庇う。
お前らよく分かってるじゃんか。本番に強いタイプだな?
「え? だって、お父さん……お父さん?」
「紗和、よく来てくれたね」
両手を広げ、優しく微笑む博己氏。
「その人たちは、お友達だね? でも、お前にはもう人間の友達は必要ない。さあ、こっちへおいで?」
後ずさる紗和さん。
……〝人間の〟って言っちゃったよ。
『彩歌さん、どう思う?』
『魅了か洗脳……悪くすると、霊体による憑依とか、寄生生物系の魔物に操られているかもね』
憑依や寄生って、ちょっと厄介だな。悪魔に魔法を掛けられているなら〝呪病変換〟で何とかなるけど……
『ブルー、どう思う?』
『詳細を表示できない。何らかの力でガードされているようだね……寄生はされていないだろう。生命反応はひとつだけだ』
『達也さん。操られているとしても、悪魔が近すぎるわ。あれでは人質に取られているようなものね』
そうだな。様子を見ながら〝呪病変換〟を掛けるタイミングを待とう。
「紗和さん。キミは私の依頼主だ。だから、何があっても全力で守る。恐らくお父さんは悪魔に操られている……もし万が一の事があったら、私はお父さんよりキミを優先する事になる」
紗和さんの耳元で、エーコが囁く。驚いた顔でエーコを見る紗和さん。
「万が一の話だ。大丈夫。達也くんとアヤが何とかしてくれるよ」
僕の方を向いてウインクするエーコ。ひどいプレッシャーの掛け方しないでくれよ。
……まあ、なんとかするんだけど。
「ははは。何をしているんだ? さあ、こっちへ! ……キミ達、邪魔だなあ」
急に、博己氏の表情が険しくなる。
「おい、あの人間どもを拘束しろ。紗和には傷一つ付けるな?」
「承知シまシた」
襲いかかって来る10匹の悪魔。
……うーん。悪魔に操られているって感じの口調じゃないような。
「よし、コイツらを倒せば、お父さんに解呪の魔法を掛けられるぞ! ……契約を行使せよ!」
エーコが剣を構えると、炎が刀身を包む。グアレティンの宿ったエレメンタル・ネストの本領発揮だ。
「達也さん、本気は出さずに……ね?」
「了解! そっちは任せたよ、彩歌さん」
「おおっと! 来るぜ? お前らは俺が守る!」
「翔カッコイイし! よーし! アタシも!」
「皆さん! 気をつけてください!」
「ああっ、危ない織田さん! ……やめてお父さん、正気に戻って!」
悪魔は、左右から3匹ずつ、正面から4匹。
「4匹もらいます!」
って、言わないでもちゃんとフォーメーションが出来上がってる。
ここ数日、一緒に旅をしてきただけの事はあるな!
遠藤と辻村には、彩歌が付いたから心配ない。紗和さんの側にはエーコと織田さんが居るから大丈夫だ。よし、やるぞ!
「はあっ!」
接触弱体の掛かった杖を伸ばし、跳んだ。
一斉に詠唱を始めた悪魔の懐に入り、水平に薙ぐも、命中して粉々になったのは1匹だけ。
他の3匹は詠唱を続けつつ、左右に別れた。
「グアレティン! 最大火力!」
少し離れたエーコから、熱気が伝わってくる。チラッと視界に入ったのは、既に1匹、黒焦げになった悪魔。あっちは大丈夫だな。
「あんたの魔法、スゲーね!」
「ふふ。なんたって私〝第十一階級魔道士〟ですから」
彩歌の方では既に2匹の悪魔が、床に串刺しになっていた。あっちも大丈夫、と。
よし、僕もさっさと片付けるか。
「はいはいはいはい!」
連続で突きを繰り出す。器用に避ける一匹と、器用に急所を突かれる一匹。まあ、悪魔の急所が人間と同じかどうか知らないけど、どこに当たっても一撃必殺だ。残り2匹。
おっと、背後から魔法が飛んできた……あ、赤い玉!?
「〝煉獄の魔法〟って、上級悪魔じゃないか! コイツめ!」
杖で魔法を叩き落とし、次の一撃で、上級であろう悪魔に詰め寄り叩き潰す。
上級が紛れてたなら、ちょっとヤバくないか? 僕は慌てて周囲を見渡した。
彩歌の方はもう勝負が付きそうだ。壁際に追い詰められた悪魔に、雷撃の呪文を詠唱している。
エーコと織田さんの方は……
やっぱり。あっちも上級が紛れていたんだな。
「ありがとう、グアレティン。助かったよ」
「いつでも私を具現化すればいい。お前に死なれては困るのだぞ?」
黒焦げになった悪魔と、その前に立つ火の精霊。
剣からグアレティンを呼び出さなければならないほどの悪魔が紛れていたようだ。危ない危ない。
「さて、最後の一匹は……」
チョロチョロ逃げ回って魔法を撃って来ている。全部、煉獄の魔法だ。器用なやつだな。
「そこだ!」
僕が投げた杖は、逃げ回っていた上級悪魔を串刺しにして、壁に刺さった。見たか! シューティングゲームは得意中の得意だったんだぞ。
「……クッ! お前らは一体何なんだ!?」
博己氏は小刻みに震えながら、驚いている。
「紗和さんのお友達です!」
遠藤と辻村が同時に言い放った。
……やるなあ、お前ら!




