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シゴセン

※視点変更

九条大作 → 内海達也


※舞台変更

地下室 → 魔界

 城塞都市を出て、まる2日。

 山を超え谷を渡り、様々な魔物に襲われては撃退しつつ、西へ西へと進む。

 暗くなればテントを張り、その周囲に〝結界〟を張って寝る。

 ……僕以外は。


「ボウズ、お前、本当に寝なくて平気なんだな」


 遠藤翔(えんどうかける)が、眠そうに言う。


「アンタ、ほんとに何者……」


 と言いかけた辻村富美(つじむらふみ)が、なにやら急にあわて始めた。


「あわわわ? ちがうし! いや全然ちがうし! マジ興味ないし!」


「うわっ! お、俺も何も聞いてないぜ? 徹夜で見張り、ご苦労さんだなーって!」


 それを聞いた遠藤も、引きつった表情と声で言う。


「君たちは、無理について来なくていいんだぞ? だいたい〝断罪の丘〟は城塞都市の西北西(せいほくせい)だ。とっくに通り過ぎてるじゃないか」


 この2人は、当初の目的地である〝断罪の丘〟へは向かわず、僕たちと〝西の大砦(おおとりで)〟を目指している。

 エーコが現れたから、シドロモドロになったんだな。

 この2人は、僕の事を〝城塞都市のトップシークレット〟だと思い込んでいるので、色々と聞かれずに済んで助かる。


「いやいやいや! あの()の事を聞かされたらさー! ジーンと来ちまってよ!」


(あっし)らも手伝うし! お父さんに会わせてやりたいじゃん!」


 ……基本的に、優しい奴らなんだよな。

 頭に浮かんだ事を、何も考えず口に出しちゃうだけで。


「ここから先、君たちは、自分で自分の身を守ることだけを考えたほうが良い。そろそろ〝死後線(しごせん)〟を超えるからな」


 誤字じゃないぞ。魔界には〝子午線(しごせん)〟ならぬ〝死後線(しごせん)〟という物があるらしい。

 城塞都市と大砦の、ちょうど中間地点。ここを超えると、探検者の生還率が桁違いに下がるという。

 ……つまり、ここから先は、死後の世界という訳か。


「おはようございます! いやー、内海さんが見張っていてくれるので、安心して眠れますよ!」


 織田啓太郎(おだけいたろう)さん。

 彼は僕たちと同じく〝落日(らくじつ)轟雷(ごうらい)の塔〟を目指している。

 そして、その経由地が〝西の大砦〟だ。


「達也さん、おはよう!」


「おはようございます、皆さん」


 彩歌(あやか)と一緒にテントから出てきたのは、鈴木紗和(すずきさわ)さん。〝西の大砦〟は、彼女の目指す場所でもある。


「おはようございます」


 ……と、返した僕の声に、なんとなく違和感があるようで、変な間とともにツッコみが返って来た。


「お前、やっぱり風邪とかひいてないか? 声の感じ、変だぞ?」


「寝たほうがイイし! 見張りとか任せろし!」


 バカップルが、そろって心配そうに言う。

 ……ホント、基本的に優しいんだよな。誤解してたよ、ゴメンな?


「ふふ。達也さん、そこまで声が出せるなんて、逆にスゴイわ」


 事情を知っている彩歌はニコニコと笑っている。

 それというのも、実は今、僕は声を……


『タツヤ。多数の生物だ。恐らく魔物だろう……囲まれたぞ』


 おっと。朝まで待ってくれるなんて、律儀な魔物だな……まあ、偶然だろうけど。


「みんな、魔物が来る! 戦闘準備を!」


「……相変わらずスゴイ感知能力だな、達也くん」


「いえいえ。魔法で隠れているヤツとかは見つけられないので、あんまり当てにしないで? エーコさん」


 僕は杖に〝接触弱体〟を掛けてから目一杯まで伸ばし、構えた。

 ……襲ってきたのは蜘蛛(クモ)のような魔物。ご想像の通り、デカイ!


「うっわ、ちょっとイヤだ!」


「達也さん、あいつは〝蜘蛛(クモ)〟と呼ばれているわ」


 先日から遭遇する魔物達は、全部〝まんまだな!〟というネーミングだった。シマウマみたいな奴だけ〝(しま)〟だったから、ツッコミは〝そっちかよ!〟だったけど。


「アイツの糸は、なかなかの量と粘度よ? 一応気を付けてね」


「お? 待ってました! ファンタジー世界の蜘蛛(クモ)はそうでなくちゃ。どれどれ……」


『タツヤ、蜘蛛(クモ)はチョコレート味だと聞くぞ?』


 食べねぇよ!

 いや……でもなぜか、ファンタジー物って〝蜘蛛(クモ)を食べて能力を奪う〟パターンが多いよな。ここは僕も、やっとかなきゃいけないのか?


『どうしてもと言うなら〝光合成〟で能力を奪えるが、キミの思考が蜘蛛(クモ)寄りになる』


 (イヤ)過ぎだ! さっさと片付けて先に進むぞ!






 >>>






 さらに半日ほど西に進むと、道沿いに、高さ2メートルぐらいの石碑が置かれていた。


「石碑に文字が書かれているな……なんて書いてあるんだろう?」


「〝ひきかえせ、おまえのいのち、ひとつだけ〟よ?」


 よく見ると、確かに日本語だ。これって道路沿いにある、交通安全川柳こうつうあんぜんせんりゅうみたいなヤツか!


達筆(たっぴつ)なだけかよ! なんで日本語なんだよ!」


「公用語が日本語だからよ? 達也さん」


 そうなんだけどさ。折角のファンタジー感が台無しなんだよな。

 ここ数日使っているテントにも〝男性用〟とか〝女性用〟とか書いてあるし……!


『ほう? 同じテントで寝たいと言うのか。タツヤは本当にアレだな』


『僕はアレじゃないし! あと、寝ないし! テント使わないし!』


「なにやってるし! さっさと行くし!」


 ……なんかタイミングよく、辻村と口調が合ってしまって語呂が良くなったし! やめろし!


「おいおい、緊張感がないな……ここからだぞ?」


 エーコがあきれたように言う。ああ、そうか。この石碑が〝死後線〟の目印か……


「うお! ここがそうなのか?!」


 若干、後退りする遠藤。

 そして織田さんも険しい表情だ。

 ここから先は、さらに過酷な状況が休む間もなく襲い来る、魔界の深部。全員の緊張が高まる。……僕は死なないけど、誰も死なせないために、気を引き締めていこう。


「という事は大砦までやっと半分か。広いな、魔界!」


『タツヤ、そろそろ大きな休憩を取っても良いかもしれない。この先の、ちょうど日が暮れそうな地点に、洞窟風の地下室を作っておくよ?』


『さすがブルー! 本当に気が利くなあ!』


 洞窟風という事は、偶然見つけたっぽくすれば、怪しまれず安全に休憩できるな。なんて快適な冒険なんだ。


『ええっ?! もしかしてそこには……!』


『もちろん、天然の温泉を装った浴場も作る予定だよ、アヤカ』


『すごいすごい! ブルーありがとう!!』


 ピョンと跳ねて喜ぶ彩歌。直後に、みんなの視線に気づいて、準備運動に見せかけて誤魔化す。


『さ、さあ! 気合を入れて行くわよー!』


 たまに天然だよな、彩歌。そこがまた、かわいいんだけど。

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