帰宅
※視点変更
藤島彩歌 → 内海達也
おばあちゃんは、父さんからの電話で僕が元気だという事を知らされていた。
「逹也、お帰り。明けましておめでとう」
……それでも、寝ないで僕の帰りを待っていてくれたのだ。
「明けましておめでとうございます。えっと、ただいま……心配かけてごめんなさい!」
「ええよ、ええよ。逹也が元気で帰ってきてくれて良かったよ」
僕は、こんなに大切にされていたんだな、でも、子供の頃は、それに気付いていなかった。思わず泣きそうになる。
おばあちゃんと話をするのは5~6年振りぐらいだ。僕が20歳の年に、病気で亡くなったから。
「逹也、疲れたやろ。ちょっと寝な」
そう言っておばあちゃんは、お年玉の入った〝ポチ袋〟をくれた。そして僕はこの時点で、さすがに泣いてしまった。
これからは絶対に〝おばあちゃん孝行〟するぞ!
「わぁ、ありがとう! ホントにごめん! ……おばあちゃんも、もう寝て」
自分の口調が、意識せずに子どもに戻ってしまっていることに気づいて、ちょっと驚く。
「逹也、優しなぁ。ほや、おばあちゃんも寝てくら」
そう言って、おばあちゃんは自分の部屋に戻っていった。
あ〝ポチ袋〟って関西弁らしいけど、ウチはおばあちゃんが関西出身なので、家族全員、関西弁が出てしまう事があるんだ。そしてそれは栗っちと大ちゃんにまで、自然と伝染していた。
ウチは両親とおばあちゃん、そして僕と妹の5人家族だ。
おじいちゃんは、九州の出身で、僕がまだ小さい頃に、交通事故で他界している。仕事先の和歌山でおばあちゃんと出会い、結婚後、ここ、神奈川県に移り住んだのだそうだ。
「おやすみなさい」
2階に上がる。
僕の部屋に入る前に、隣の扉をそっと開けてみると、妹はスヤスヤと眠っていた。
内海るり。2つ下の妹。という事は、今は9歳か。起こすとうるさいので、静かに扉を閉めて、自室に入る。
「ブルー。ようこそ! ここが僕の部屋だ」
『お疲れ様、タツヤ。場所はとらないが、今日からルームシェアしてもらうことになる。改めてよろしくお願いするよ』
部屋を見回す。巻き戻る前は、ほとんど物置のような状態だったが、ランドセルや時間割表等、懐かしいもので一杯だ。僕は、ベッドに腰掛ける。
『タツヤ。次の分岐点の話をしておこうか』
地球の破壊を防ぐための分岐点。僕が正しい道筋を選ばなければならない。
『時は34日後。場所は、オランダ、ユトレヒト州、アメルスフォールト』
「やっぱり、世界中なんだな。分岐」
僕は、机の横の棚から、地球儀を手に取る。クルッと反転させて、ヨーロッパの辺りを指でなぞる。
「ブルー、移動はどうするんだ?」
『私がルートを用意する。融合が進めば、飛行や空間転移もできるが、まだまだ先だからね』
良かった。小学生の身では、パスポートを取って飛行機ってわけにはいかないからな。
『ただ、接続出来る場所同士に、若干の制限がある。ルートを乗り継ぐ場合もあるが、今回は日本から直接、目的の国に繋ぐことが出来るよ』
「入り口までは、何らかの方法で、僕が移動するのか」
『手数を掛けるけど、お願いする。今回は、入り口を、鳥取県、境港市に開ける』
「遠いよ! パスポートは要らないけど、小学生にはやっぱりキツイよ!」
よく考えたら、26歳の身でも鳥取は遠いよな……
『タツヤ、地球のためだ。なんとかしてほしい』
「OK、わかってるよ。ちょっとツッコんでみたくなっただけだ。どうにかするさ」
しかし、大問題が3つある。
「僕はオランダ語とか喋れないんだけど」
というか、日本語以外は喋れません。
『それは私が通訳するから大丈夫だ』
予想通りで良かった。実は凄くアテにしてた。
「さらに……その日にオランダまで行くと、学校を盛大に欠席することになるぞ。新学期、始まってるじゃんか」
今更、小学校の勉強をもう一度やり直す必要もないので、欠席とかは全然構わないのだが、目立つことは極力避けなければならない……のだろう?
『タツヤ、いい所に気がついたね』
「あと、旅費をどうするか……」
『それはについては心配ない。先程のポチ袋には、小学生が鳥取まで往復できるだけの現金が入っている』
「凄い金額だな! おばあちゃん有難う!! っていうか、いつの間に中身を確認したんだブルー!?」
『ははは。冗談だタツヤ』
「じんわり嫌な汗をかくような冗談はヤメて?」
普段、真面目なので、たまに崩して来ると、ドキッとするよな。
『さておき、ちゃんと説明しよう』
「そうして下さい」
『まず、あと数日たてば、キミは〝土人形〟という、新しい技術を身につける』
「つちにんぎょう?」
『うん。自分そっくりの人形を作り出して、意のままに操れるんだ』
いきなり凄いのキタ! なるほど、そいつに僕の代わりをさせるんだな。
『ただ、慣れない内は、操作が難しい。練習が必要だ』
「命令しておけば勝手に動くとかじゃなくて、リアルタイムで操作するのか?」
『そうだよ? 意識を何かに与えるとかは、まだまだ無理だ。それに、人形に勝手な事されたら困るじゃない?』
「だけど、自分も何かをしつつ、人形も動かすって、大変なんじゃ……」
『練習あるのみだね』
「不器用なんだよな、僕。歩きスマホとか、凄いと思う。やっちゃダメだけど」
『それにね、幸いな事に、時差がある。8時間ほど』
「そうか! 日本の昼間、学校の間だけ操作すればいいんだ」
『今回の分岐は、現地時間で13時頃だ。間に合うと思う』
「何とか、なりそうだな! あとは、旅費だけど……」
『そうだね。金とか銀とか宝石とか、いくらでも用意できるんだけど、小学生だと、扱いに困るな』
そうか……ブルーって地球そのものだったな。地中に埋まってるものなら、何でも好きにできるんだろう。
『そこで、ダイレクトに使える〝現金〟を探してみた。いたる所に埋まっているのだが、ここから一番近い物を、掘り出しに行こう』
新春早々、僕たちの宝探しが始まる。




