そして実家へ……
正座だ。
僕と彩歌が左右並んで、道端で正座させられている。
……なんだこれ?
『アハハ。傑作だねタツヤ』
いやいやいや。笑い事じゃないぞブルー。
……正座している僕たちの前で、腰に手を当てて仁王立ちしているのは、彩歌のお父さんだ。
「で? 君は本当に、あーちゃん、ゴホン……彩歌とは、破廉恥な関係では無いんだね?」
口調こそ、なんとか紳士っぽくなってくれたが、言ってる事はやっぱりおかしいぞ?
でも、ここで下手な事を言えば、またお父さんが鬼の表情と口調に戻ってしまう。
「はい! 誓ってその様な関係では御座いません!」
ここは出来るだけ、穏便に済ませよう。
「よーし! それなら、証拠を見せてみろ! 君が潔白だと証明できなければ、このまま警備兵に突き出してやる」
ご無体な。
その証拠って、〝一休さん方式〟とかじゃなきゃ、出し様がないよね?
「お父さん! 何を言ってるの?! 私はさて置き、達也さ……達也君は11歳の子供よ?」
彩歌が自分を〝さて置いて〟まで、この場を誤魔化そうとしている。
言われてみれば、26歳の娘が、11歳の彼氏を連れている所を見つけたら、どちらかと言うと、悪いのって〝娘の方〟だよね? 咎めるの、僕じゃない筈だよね?
「だってだって! 今のあーちゃんは11歳じゃないか! 若い男女がこんな時間に2人で出歩いてたら駄目じゃない? 不純な関係としか思えないじゃない?!」
不純な関係としか思えないんだ……
お父さん? あなたの脳内が不純で満たされていませんか……?!
だいたい、若い男女って、若過ぎるでしょ?!
「お父さん。達也君と私は、決してそういう関係ではありません!」
この場を収める為とはいえ、そこまで言い切られると若干ショックだ。
いや、まあ、そういう関係では全然無いのだが……
「……うーん、あーちゃんがそこまで言うなら」
よし。なんとか分かってもらえたようだな。それじゃ、僕たちは、テントを……
「ずいぶん暗くなってしまったし、君も一緒に来なさい」
……え?
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彩歌の家に着いた。
って……すごい豪邸だな……!
「ごめんなさい、達也さん。ちゃんと説明しておくべきだったんだけど、その……恥ずかしくて……」
「あ、アハハ……随分と個性的なお父さんだね」
という事で、今夜は彩歌の家に泊めてもらうことになった。
どうやら彩歌のお父さんは、昔から彩歌を溺愛しており、近付く男は先程のように恐ろしい剣幕で追い払ってしまうのだそうで……なんと、学校も一貫して女子校に通わされていたらしい。
「達也くんと言ったね。疑ってすまなかった」
「ふふ。あなたったら。彩歌がいくつになったと思ってるのよ! 恥ずかしいったらないわ……ごめんなさいね?」
彩歌のお父さんとお母さんに、謝られつつの食事。彩歌は申し訳なさそうに、パンを千切っては口に放り込んでいる。
「任務だという事で、彩歌が達也君の素性を話せないのはよく分かったけど、まだ子どもなのに〝探検者〟になるための訓練なんて、大変だな」
彩歌は明日から、とある事情で、謎の少年〝内海達也〟を引率して城塞都市の外周を回る。
もちろん、護衛はあと5人つく手筈だ。
……という事にしてもらった。
「まあ、ウチの彩歌が付いていれば、何も心配は要らない。大船に乗ったつもりで居たまえ」
僕と彩歌が〝砦超え〟をすると知ったら、お父さん、卒倒するだろうな。
「あなた。彩歌も弱体を受けた後のリハビリを兼ねているのよ? ……彩歌、無理はしないでね。他の護衛の人に頼って良いんだから!」
当然だが、護衛などは居ない。居るのは謎のベテラン初心者と、バカップルだ。
「ああ、ところで達也君は今日、初めて魔法を覚えたらしいね。ウチに、練習用の部屋がある。耐魔構造の頑丈な作りだ。好きに使ってくれて構わないよ?」
おお! それは有り難い。色々と、試してみたかったんだよな。
「はい! 使わせて頂きます!」
「ふふ。達也君。お姉さんが見てあげるわ」
「わぁい! ありがとう、彩歌さん!」
お姉さんモードだ! あれれー? なんかこれはこれでドキドキしちゃうぞ?
『タツヤ。キミはやはり、アレだな。自重しないと、お父さんに感づかれるぞ?』
だからアレって何だよブルー! 僕はアレじゃない! って、あれれー? お父さんがこっち見て睨んでる。まさか気付かれてるの?!
「えっと、ごちそう様でした! 魔法の練習に行ってきまーす!」
お父さんの、刺さるような視線から逃げるように、僕と彩歌は練習部屋にやってきた。広さと天井の高さは、どちらも地下の練習場の半分ぐらいだ。
さて。〝阿吽帰還〟以外の魔法を一通り使ってみようかな。もちろん、アシスト機能を使って。
「HuLex UmThel cHnheAl iL」
〝治癒連鎖〟は、一度使ったけど念の為。
「やっぱり回復魔法、羨ましいわ……!」
彩歌が少し悔しそうに言う。
「HuLex UmThel cOnTshEp iL」
〝共睡眠〟は、本人同意のもと、対象を彩歌に指定して使ったが、簡単にレジストされてしまった。
「効かないって事もあるんだね!」
「うん。特に、自分より熟練していて、魔力が高くて頭の良い相手には、弾かれる事が多くなるのよ」
なるほどね。まあ、この魔法で自分が寝てしまわない事がわかって良かった。
それに、もし魔法で寝ない相手がいたら、大ちゃんのくれたカプセルで、科学的に眠ってもらおう。
「HuLex UmThel eAtcRs iL」
〝呪病変換〟を唱えると、以前見た〝解呪〟の魔法のカッコイイ魔法陣とは違い、不気味なデザインの、いかにも病気になりそうな模様が頭上に浮かぶ。うっわ、気持ち悪いな、これ。
「触れって言っても、誰も触りたがらないわね」
「ホントだね。ハンナとか、怖がって泣いちゃうぞ……」
まあいいや。嫌がる奴が居ても、力づくでグイグイ押し付けて呪いを解いてあげよう。不味そうな薬ほど良く効くのだ。
さて、あとは〝接触弱体〟だな!
僕が呪文を唱えようと杖を抱きかかえた瞬間、不意に入口の扉が開いた。
「2人とも、お風呂の用意が出来たわよ? ……あら、それは変わった杖の構え方ね。流行っているの?」
彩歌のお母さんが現れた。
っていうか、杖を包み込むようにギュッと抱きしめているのを見られてしまった。
……いえ、これはあまり一般的ではないスタイルです、お母様。
「お母さん! ノックぐらいしてよ!」
思春期の子がよく言うやつだな。
「……流れ弾があたったらどうするの?!」
……いや、やっぱ言わない。
〝流れ弾〟が飛んでくる日常があってたまるか。
「あらあら、フフ。ごめんなさいね。でも、お母さんにレジストされず、魔法を当てられる魔道士は、そうそう居ないわよ?」
え? そうなの?!
「もう! 確かにそうだけど、ノックはしてよね!」
お母さんは笑顔で、はいはい。と言いながら、帰っていく。
もしかしてお母さん、スゴい人なのか?
「という訳で達也さん、お風呂場に案内するわね」
城塞都市で風呂は贅沢なんじゃなかったっけ。やはり彩歌は、イイトコのお嬢様だったんだ。
「彩歌さん、お先にどうぞ。僕はもうちょっと魔法を試したいし……それに僕、眠らないし」
実は先程から、彩歌は少し眠そうにしている。今日は色々あったから、疲れたんだろう。
彩歌は申し訳なさそうに、それじゃお先に。と言って、部屋を出て行った。
「……さて、それじゃ続きをやりますか」




