王子様
※視点変更
内海達也 → 藤島彩歌
「さて、と。大変なことになっちゃったわね」
私は藤島彩歌。魔界の城塞都市から来た魔道士。
せっかくのお休みだったのに、まさか悪魔に襲われるなんて思わなかったわ。こんな事なら、恵理子の占いを信じていれば良かったかもね。
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「今週のアヤは……うわ、なんだろ。こんな色、見たことないし! ピンクと灰色が、混ざり切らずにグチャグチャしてる……」
水晶玉をのぞき込んで半笑いのこの子は、木崎恵理子。小学校からの腐れ縁で、今現在も、城塞都市守備隊の同僚だ。
「なんで? ここでどうやったら青が出てくるの? すごいすごい!」
ひとりで勝手にエキサイトしている恵理子。ちょっと! 人を勝手に占って、遊ばないでくれるかしら?
「恵理子ぉー。あなたの占いって的中率いくつだっけ?」
「えー? 夏に測った時で、確か72.8かなー?」
「微妙なのよね。信じていいのか怪しんでいいのか。もうちょっと練習すればいいのに」
私から見れば、的中率72.8は驚異的な数値なんだけど。
「えへ。まあまあ……で、続き聞く? 聞かない?」
ニヤリに近い笑みを浮かべる恵理子。
……もう! 途中でやめられたら、余計に気になるじゃない。
「……聞かせて頂きます」
うれしそうに、恵理子は水晶玉に手をかざした。施術者でない私には何も見えないけど、恵理子には水晶に映る様々な情報が見えており、それを読み取っていく。
「うーん。とてつもなく悪い暗示を、それよりもっと良い暗示が打ち消しているみたいね。キーワードには〝心臓〟とか〝星〟あと……〝王子様〟?! ちょっと、アヤ、王子様だって!」
「タマゴ様とかの間違いじゃないの? で、それって結局
私どうすれば良いのよ?」
とてつもなく悪い暗示なんて。魔界にいるならまだしも、私このあとすぐ、超安全な〝アガルタ〟に行くんだけど?
……それは百歩譲って当たったとしても〝王子様〟って! 今回の占いは、悪いけど当たらないわね。
「アヤ、結果的には良い結果になっているけど、その前に悪い暗示が大きすぎ。安全を重視するなら、家でじっとしていた方がいいと思う」
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「王子様……か」
内海達也さん。この星を救う人。彼に出会えたのだから、こちらに来たのは大正解。子どもに戻っちゃったり、不老になっちゃたりしたけど、それも、前向きに考えよう。
「……? ちょっと待って。良いことばかりじゃない? 若返って、永遠の命と色々な能力を得るだなんて」
あれあれ? なんで達也さんはあんなに謝っていたんだろう。
例えば、私がまだ不老を手に入れていないとして、ウチの家系に伝わる、いまだ完成していない〝不老長寿の秘術〟が、もし完成したら、私は真っ先に自分に使うわ。というか、魔界人なら、誰もが永遠の命を求めると思う。
「こっちの世界は、平和ね……」
とぼとぼと海沿いの道を歩く。ときどき通る〝自動車〟にさえ気をつければ、命を落とす事などめったに無い世界。これが魔界なら、とっくに魔物に襲われているわ。
そんな危険な世界に住めば、命に貪欲になる。死にたくないから、強くならなければならない。だから、達也さんとブルーには、感謝しかない。
「次に会ったら、お礼を言わなくちゃね。王子様……か」
恵理子め。家でじっとしてろだなんて! 帰ったらもっと占いの練習をするように言ってやろう……
「……恵理子、驚くだろうなぁ」
恵理子だけじゃない。お父さんもお母さんも、同僚も、きっと驚くだろう。だっていきなりこんな姿だし。
……守備隊だって、子どもの体じゃ在籍出来るかどうかわからない。いくらパワーアップしても、子どもの姿では色々と問題がある。
「ずっと歩いているけど、全然疲れないし、体が軽いわ! 魔法のレベルは下がっていたけど、魔力も勝手に回復するし、頑丈だし。弱体される前より、かなり強くなっているわね、私」
かと言って、この力を堂々と披露するわけにはいかない。そういう約束だから。
つまり〝子どもにされた貧弱な魔道士〟を演じなければならないという事だ。守備隊に、そんな人員は要らない。
「どうなっちゃうのかな。私」
海岸線の道は、無駄にまっすぐで変化がない。そして、目的地の〝魔界のゲート〟は、まだまだ遠い。
「お嬢さん、こんな時間にひ、ひとりで歩いてたら、あ、危ないよ? 車で送ってあ、あげようか?」
歩いている私の横に、白い大きな車が停まり、運転席から見知らぬ男性が声を掛けてきた。こっちの世界の人は、なんて親切なんだろう。
「ありがとう御座います! でも、本当にいいのですか?」
よくわからないけど、すごく嬉しそうに笑う男性。
「も、も、も、もちろんだよ! さ、さあさあ、乗って!」
男性の隣の席に乗せてもらい、言われるがままに〝シートベルト〟を締める。車はゆっくりと走り出した。
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もうすぐ、魔界のゲートに到着する。確か、この先を右に……
……あれ? なんで真っ直ぐ行っちゃうの? ってなんだか呼吸が荒いわ、この人。
「あの、すみません。今の曲がり角を右に……」
「あ、ああ、ごめんね。間違えちゃったかな」
そっか。間違えちゃったか。あるある、そういう事。ちょうど私も、そろそろかなと思っていたし……?
私は、信号で停まるのを待って、呪文を唱えた。
「HuLex UmThel PaRAlis iL」
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魔法で男性を眠らせて、記憶を消した。車を降りてパチンと指を鳴らし解呪すると、男性は不思議そうな表情をしていたが、後ろから来た車のクラクションに急かされて、走り去っていった。
「ごめんなさい。おかげで助かったけど、ゲートの位置を知られるのはちょっと良くないのよね」
少し歩くと、見覚えのある場所にたどり着いた。良かった、間違えてなかった!
私はゲートのある建物に入り、着替えの呪文を唱える。
「HuLex Thel cloT Ne」
ローブにとんがり帽子。さっきまでの服も好きだけど、城塞都市をあの格好で歩いてたら、さすがにちょっと目立ってしまうわ。
私はゲートをくぐり、城塞都市へと帰ってきた。やっぱり、何だかんだで魔界は落ち着くわね。




