フリー・マジック
源泉かけ流し。
……じゃなかった。
魔法もずいぶんと受けたし、大精霊様もそろそろネタ切れみたいだし、パッパッと片付けちゃいましょうかね。
そう思った矢先に、ノームが口を開いた。
『魔法が効かぬなら、これはどうだ?』
新たな呪文を唱えるノーム。
おっと、まだ何か持ってるんじゃん。早く出せばいいのに。
『出よ、ゴーレム!』
ノームが地面に片手を付く。
グムグムという〝どこかで聞いたような音〟が響き、身の丈3メートルはある〝土の巨人〟が現れた。
『そいつは土で出来た人形だ。恐ろしく頑丈で、怪力だぞ? ……いくら魔法を無効に出来ても、物理攻撃は防ぎようが無かろう?』
まだ笑う余裕があるのかノーム。
〝魔法を無効〟って、見当違いな事を言いやがって。
……ん。あれ? 何だろう、この感覚。
このゴーレムとやらを見ていると、なにかちょっと頭の隅がチリチリする。
何かを思い出せそうな不思議な感じだ。これは一体?
「ブルー、ちょっと良いかな?」
思考がフル回転を始めた。頭の隅にあった閃きが、さらに次の閃きを呼ぶ。
思考が……連鎖する! 爆発する!!
「僕、もしかして解ったかも知れない。ブルーの使う地球の力って、こうだよな?」
僕は地面に目を向けて、指差す。
自分でも不思議なほどに〝その力〟の使い方が分かる。
ほら! 床の石畳の隙間から、土がボロボロと湧き出して来た!
『なんだって?! タツヤ……まさかキミ……?!』
僕は、ゴーレムをもう一度見て、確信する。
これは〝僕の知っている力〟だ。
さっきからノームが使っていた〝精霊魔法〟も、全部分かってしまった。
「なんだ、あれも土人形か……同じだ。さっきの呪文でそれが出来るという事は……」
僕の脳裏に、土の力を操るための図式が浮かぶ。なんで今まで解らなかったんだ?
空中に岩を出現させるには……簡単だ。こっちの力をちょっと借りて、こうだろ?
……ほら、出来る。空中に無数の大きな岩が現れた。
「なんだ。呪文ってそういう仕組みか……なら〝要らない〟な」
何も唱えなくてもいい。
要は、力の借り方とその使い方だけだ。
……で、この岩を圧縮して硬くするんだろ?
こっちの回路をこう繋ぐ。
力はもっと〝右上〟から借りて、こうだな?
『タツヤ、キミはいったい?!』
巨岩は、全て圧縮されて小石サイズになった。実に簡単だ。
「ん? 何を驚いてるんだブルー」
土人形とゴーレムが一緒なら、他のも僕に出来るはずだろ。
よし、さっきノームがやったよりも小さくなるまで圧縮できたぞ?
どれどれ、試しに撃ってみるか。えっと、引き金はこうかな。
「穿て」
次の瞬間、目の前のゴーレム目掛けて、全ての岩が撃ち出される。
凄まじい轟音と共に、ゴーレムは塵になった。
朦々と上がる砂煙が収まるまで、誰一人、動く事も、声を出すことさえ出来なかった。
「なるほど。じゃあ、あれは……そうか、あっちをこう繋ぐのか」
さっき見た、全12種類の精霊魔法を思い出してブツブツと呟いている僕を除いて。
『詠唱破棄……だと??!!』
ん? やっと喋ったな。けど違うよ、ノーム。
「魔法じゃないんだ。だから、詠唱破棄とかそういうのじゃなくて……」
僕が両手を目の前にかざすと、さっきノームが使った12種類の土魔法が全て同時に発動し、ズラリと並ぶ。
ゴーレムも、あいつが作ったのより強そうだ。
『タツヤ! 〝使役:土〟を、自分で習得したのか?!』
そうだよ、ブルー。
先日の〝精算〟で開放した、火・水・風を自在に操る力。
それと同じ、土を操る力を、僕は今、手に入れたんだ。
だからこれは、さっきノームが魔法で呼んだ力と同じものだが、魔法じゃない。
……僕の力で呼んだ〝大地の力〟だ。
『ば、化け物か!? いや、この力は……まさか神?』
結局、正解にたどり着かなかったな、ノーム。
罰ゲームは決めてなかったけど、どうしようか。
「神より上の存在って、知っているか?」
口を開けたままのノーム。
その〝大地の力の頂点〟に〝大地そのもの〟であるブルーが語りかける。
『〝神〟は、生物を導くために存在する。犬の神、猫の神、馬羊猿鳥、それぞれに神がいる。でも、それは生命が芽吹き栄える〝星〟ありきの話だよ。種が潰えれば、神もまた消える。だから星は、神よりも上位の存在なんだ』
その声を聞いて、ハッとした表情で震え始めるノーム。
「ほ、星の化身……!」
膝と両手をつき、額を床に擦りつけて動かなくなるノーム。
降参……かな?
僕は12個並んだ〝使役:土〟の効果を片手で消し去った。
「そういえば〝宇宙〟とか〝星〟を作ったのは、〝神様〟じゃないのか? ブルー?」
『うーん。それは表現が難しいんだ。〝神〟という括りが、広い意味で使われ過ぎだからね。生物から見れば、この世界を作ったのは〝神〟だが、私やキミから見れば、もっと上の存在だよ』
「部長も専務も社長も会長も、全部〝上司〟って呼んじゃってる感じか?」
『なるほど。さすがだタツヤ。わかりやすいね』
ブルーがいつものように笑っている。それを遮るように、床に頭を付けたままノームが口を開いた。
『恐れながら申し上げる。このノームの身の程を知らぬ振る舞い、もはや覚悟は出来ております。どうぞ、お好きに……』
消すなり、封じるなり、吸収するなりってやつか?
……精霊のリアクションは、グレードに関係なく、同じなんだな。
まあ、コイツのおかげで、大地の力を使うコツが解ったし、消すのは勘弁してやるか。
「エーコさん、ノーム、要る?」
未だに、あんぐりと口を開けて呆然としているエーコに聞いてみた。
「た……達也くん! 大精霊をそんな、作りすぎた野菜みたいに言うのか……?!」
ありゃ。そんな軽い感じだったかな。
「それ以前に、大精霊を宿せるようなエレメンタル・ネストなど、そうそう無いんだ。それこそ、神が作ったような剣でもない限り……」
そっか。残念だな。
「それに私にはもう、グアレティンが居るしな!」
その言葉を聞いて、心なしか嬉しそうな表情の、火の精グアレティン。
良いコンビになりそうだ。
……さて、それじゃノームをどうするかだな。
吸収って、どんな効果があるんだ?
『タツヤ、気付いているとは思うが、キミは地球そのものだ。〝その程度〟の土の力をキミが取り込んだ所で、無意味だ』
その程度って酷くない? ノーム泣いちゃうぞ?
「達也さん。もしかして、あの異世界の聖剣に、ノームを宿せないかしら?」
「異世界の……? そうか! 神が作ったというあの剣なら、いけるかもしれないな!」




