またね
※視点変更
内海達也 → 藤島彩歌
彩歌と手分けして、先生と看護師さんは、それぞれ、1階の受付と3階にある詰め所に移動した。
「達也さん、スゴい力……!」
「僕、こう見えて大人の腕力だから。彩歌さんこそ、便利だなぁ、それ……」
僕は父さんを背負い、彩歌は母さんを魔法で浮かせて移動している。
周囲を警戒しつつ、エレベータを下りた僕たちは、そろりそろりと待合を目指す。
「よいしょ、と」
父さんはドスンと、母さんはフワリと。2人を待合のソファに座らせた。
「じゃ、解呪するわね」
4人の記憶は改竄済みだそうで……やっぱり魔法って便利だ。
彩歌がパチンと指を鳴らすと、両親は同時に目を覚ました。振り返ると、受付に座っていた先生も、立ち上がって辺りを見回し、診察室に入って行った。
「……逹也、その子は?」
目を覚ました父さんは、不思議そうに僕と彩歌を交互に見る。
「初めまして。内海くんと同級生の藤島彩歌です。」
父さんの問いに、彩歌がニッコリと微笑んで答えた。
「ああ、確か、転んで頭を打って検査に来たって……」
「はい、でも、大丈夫でした」
彩歌はニコッと笑って、偽の情報に嘘を返す。
そこまで記憶を自由にイジれるのか。スゴいな……
「あれ? 親御さんはどうしたのかな?」
「はい、母と看護師さんは、3階で話してます。知り合いだそうで」
上手い! さすがは魔女っ子。〝秘密を守る〟なんて、お手の物だ。
「そうか。とにかく、大した事が無くて良かったね」
「それじゃ私たち、先に失礼するわね」
両親とも、先程の事は全く記憶に無いようだ。僕は、右手に力を込めてから彩歌に話しかける。
『それじゃ、行くよ。また会おう!』
『うん。またね! 何かあったら連絡して!』
笑顔で答える彩歌を残して病院を出た。
「逹也、別れ際に挨拶も無しなんて、愛想ないなぁ、お前は!」
駐車場まで来た時点で、父さんが僕の頭をクシャクシャ撫でながら言う。
偶然出会ったクラスの女子に照れて、終始無言だった息子を、からかう感じだ。
ブルー越しの会話が聞こえていないせいで、僕が終始無言だった様に見えたのだろう。
「かわいい子ね。礼儀正しいし」
母さんも、何か言いたげだ。
……なんだか、この感じも懐かしいな。
「ラッキーだったな、逹也!」
「やめてよ! そんなんじゃないよ!」
そんなんじゃない事も無いのだが、とりあえずそう言って、僕は車に乗り込んだ。
「ブルー、魔界、行ってみたいな」
『いいねタツヤ。いつか必ず行こう』
自宅までの帰り道、ブルーと、魔法の話で盛り上がる。
「僕も、魔法、使えるようになるかな」
『どうだろう。色々試してみたが、呪文をただ唱えるだけでは、魔法は発動しないようだ』
いつの間に試したんだ、ブルー……
『たとえば……』
ブルーが、彩歌の唱えていた呪文を唱える。
『HuLex UmThel FiR ……』
「待て待て! ちょっと待てブルー!」
『何だタツヤ?』
「それ、何の呪文だ?」
『火球』
「だあああ! ダメダメ! それでなくても、お前、〝不思議存在〟なんだから! 万が一、火の玉とか出ちゃったら危ないだろ!」
『なるほど。一理あるね。それなら……』
ブルーは、コホンと必要の無いであろう咳払いを一つしたあと、別の呪文を唱え始める。
『HuLex Thel cloT Ne』
しかし、何も起こらなかった。
「ちょいちょいちょい! 今のはアレだろ! 〝早着替え〟の呪文だろ!?」
『そうだタツヤ。よく覚えているな』
「いやぁ、やっぱ、一番興味をそそられたから……って、そうじゃなくて!」
『どうしたんだタツヤ?』
「もし今、何かの間違いで魔法が発動して、僕が突然ワンピース姿とかになったら、父さん達にどう説明するんだよ!?」
『ははは、それは面白いね!』
「面白いけど大惨事だよ!」
こんなに大声で会話していても、父さんと母さんには、全く認識できないんだよな。
『……あ。あの呪文は、なんとなく仕組みがわかったので、魔法を使わずに再現できるかもしれない』
「え? あの呪文?」
『HuLex Thel STaTs Ne』
「それは確か、自分の詳細を見るっていう……」
『そうだタツヤ。この呪文は、元々自然界にあるシステムを呼び出して、それを魔法の力でわかりやすく脳内に表示させているのだろう』
「自然界にあるシステム?」
『そう。野生の動物などは、敵や自分の力を推し量ることが出来るよね? それは、生まれついて持っている能力であり、元々、この世界にあるシステムなんだ』
「なるほど……」
『なので、その〝わかりやすく脳内に表示する〟というのを、私が代行する』
僕の頭の中に、文字と数字がズラっと並ぶ。
「うわ! スゴい! ゲームのステータス表示みたいだ!」
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内海 逹也 Utsumi Tatsuya
AGE 11
H P 8888888888888888888888888
M P 3
攻撃力 56
守備力 8888888888888888888888888
体 力 26
素早さ 42
賢 さ 25
<特記事項>
救星特異点
不老
星の強度
摂食不要
呼吸不要
超回復
真空耐性
熱耐性
電撃無効
不眠不休
光合成
詳細表示 ← NEW!
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彩歌には、こんなのが見えていたんだな。
『HPと守備力の表示は、数値ではなく〝エラー表示〟だよ』
確かにHPと守備力が、おかしな事になってますな……
『ちなみに、この能力は〝他者〟にも使える』
「マジか! どうやればいいんだ?」
『簡単だよ。相手を指定してくれればいい』
「じゃ、とりあえず、父さんを」
『分かった。表示するよ?』
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内海 幸治 Utsumi Kouji
AGE 36
H P 32
M P 0
攻撃力 25
体 力 22
守備力 5
素早さ 13
賢 さ 26
<特記事項>
格闘技Lv4
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なるほど、一般の成人男性は、こんな感じか……
そういえば父さん、若い頃、柔道やってたっけ。
『タツヤ、キミの〝素早さ〟が高いのは……』
「ああ、体格が子どもなのに、大人の体力だからだろ?」
『その通りだ。あと、MPというのは、魔力の数値だ。アヤカと接触することによって理解した。他にも、未知の力と出逢えば、見出だせる数値があるかもしれない』
「よくわかった。しかしこれは面白いな。ついでに母さんも見ておこうか」
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内海 理乃 Utsumi Rino
AGE 32
H P 21
M P 0
攻撃力 14
体 力 14
守備力 2
素早さ 9
賢 さ 28
<特記事項>
なし
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すごい! 楽しい!!!
後で、ばあちゃんと妹もチェックだな!
『タツヤ、あまり他人の詳細を見るのは、良くないと思うぞ?』
「え? そう?」
『のぞき行為だよね』
「あー、そうだな……なるべく控えよう」
車はちょうど、休み明けから、もう一度通うことになる、懐かしい小学校の前を通り過ぎた所だ。




