表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/267

城塞都市

 少し薄暗い空と、黒み掛かった雲。

 ……そして(まぶ)しくなく、(あたた)かみもない太陽。

 僕と彩歌(あやか)は、魔界の城塞都市にやって来た。


『タツヤ! 魔界だ!』


「ああ。やっと来れた! テンション上がるな!」


 ここは城塞都市の中心部、魔界の(ゲート)がある建物の前。

 石やレンガで出来た建物が立ち並び、そこそこ広い石畳の道を、鎧やローブ姿の人たちが行き交っている。


「想像以上に人が多いな……」


「達也さん、あまりキョロキョロしないで?」


 おっと、危ない危ない。

 ブルーとの会話は誰にも聞こえないけど、あまり(はしゃ)いで衛兵に見つかったら、不法侵入罪で地下牢行きだ。


「ここから2キロほど歩いて、知り合いの店に行くわ。そこで〝身分証〟を用意してもらうから」


 それまでは、観光も買い物もおあずけだ。


「ああ、早く魔界を存分に堪能したい」


『本当だねタツヤ』


 大通りを抜け、入り組んだ細い路地を歩く。

 ……こんな狭い道でも、やはり人とすれ違う。

 この城塞都市には、僕がイメージしていたよりもずっと多くの人が住んでいるようだな。


「えっと、一応、おさらいね」


 ここ数日間、彩歌から魔界の事を色々と教わった。

 予備知識がないと、色々と困るもんな。


「達也さんたちが住んでいる、あちらの世界の事を、私たちは〝Agartha(アガルタ)〟と呼んでいるの。()()()()()()()()()()()()()も〝理想郷〟や〝天国〟といった、伝説の聖地の事を指して〝アガルタ〟と言うわ」


 僕たちで言う所の〝桃源郷(とうげんきょう)〟とか〝天竺(てんじく)〟みたいな感じかな?

 ……あ、気付いたかもしれないけど、いま彩歌が言ったように、魔界の住人は、ゲートの存在と、その先……僕たちが暮らしている世界の事を、〝知らない〟。


「ビックリしたでしょ? みんな、魔界が世界の全てだと思っているの。この城塞都市が、ゲートを守る……つまり〝アガルタ〟を守るためにあるという事を、知らないのよ」


 そりゃ驚いたさ。魔界に住んでいる人のほとんどが、僕たちの世界の事を知らないなんて。


『しかしタツヤ。我々も、魔界の事を知らなかったぞ?』


 なるほど。言われてみればそうだな。

 でも以前、彩歌が〝魔界と日本政府は繋がりがある〟と言っていたから、政府の偉い人たちは、魔界の存在を知っているんだ。


「城塞都市の運営関係者と守備隊員は全員、ゲートの存在を知っていて〝アガルタ〟に行くことも許されているわ。ただ、その事は絶対に他言できない。友人にも、家族にもね」


 誰かに知られれば、知った側も含め、地下牢にて終身刑だそうだ。それは誰にも言えないな。

 とか思っていると、不意に視界が開け、広い場所に出た。ここは?


「この広場はね、城塞都市の運営局が管理している市場(いちば)なの。今日は平日だから少ないけど、休日になると露天商とお客で、すごく賑やかになるわ」


 なるほど。チラホラと、絨毯を敷いたり、テントや屋台を置いて、商売をしている人が居るな。


「へい、いらっしゃい! 坊っちゃん嬢ちゃん、見ていってよ! なんと今日はマンドラゴラが半額! たったの……」


 ……そうだ、そして、一番驚いたのが、お金だ。


「魔界の通貨は〝円〟よ?」


 なんでさ?!

 金貨とかが流通してて〝その銅の剣は40ゴールドだ。装備していくかい?〟なんて感じじゃないのか?!


「〝日本銀行券〟って書かれている紙幣を、何の疑いも無く使っているのよ。魔界の人は」


 どういう事?! せっかくのファンタジー感が台無しだよ!


『タツヤ。日本円がそのまま使えるのは便利だ。ここは気持ちを切り替えていこう』


 まあ……ね。旧札も普通に使えるらしいので、良かったといえばそうなんだけどさ。〝マンドラゴラが一株250円〟とか、聞きたくなかったよ。


「へっへ。生きの良いマンドラゴラだろ! ……あれ? お嬢ちゃん、どっかで見たことある顔だな? オイラの事、知らねぇ?」


「えっと、ごめんなさい、人違いだと思います……行きましょう、達也さん」


 あれ? 知り合いじゃないの?

 ……彩歌は僕の手を引いて、そそくさと広場を後にする。


「……ふう。危ない危ない。有名になると色々と面倒よね」


「あ、そっか、彩歌さん確か〝英雄扱い〟だって……」


 上級の悪魔を、弱体されたにも関わらず倒したという事で、彩歌は城塞都市の有名人になったと聞いた。


「あの悪魔は、高レベルの魔道士が、綿密な作戦を立てて、入念に準備をして、数人掛かりで挑むほどの強敵だったわ」


「そんなにすごいヤツだったのか。もうちょっと丁寧に作戦と準備をこう……何かアレしてあげれば良かったな」


 ……殴ったり蹴ったり、かわいそうな事をしたもんだ。


「ふふ。達也さんが作戦を立てたり準備なんかしたら、魔王も裸足で逃げちゃうわ」


『全く。(あるじ)といい、御内儀(ごないぎ)といい、ご同胞の方々といい、規格外の猛者(もさ)揃い。恐ろしや恐ろしや』


「あ、そういえばパズズ、お前の本体ってどこにあるの?」


『はい。私めの封じられておりまするは、この町の地下深く。忘れ去られた迷宮の最奥(さいおう)で御座います』


「ええええ!? 城塞都市の地下?!」


『おや? 御内儀はご存知かと思っておりましたが』


 〝魔界の軸石〟に聞けば分かる事だもんな。きっと。

 ……当のウサギさんは、とんがり帽子の中でスヤスヤ寝ているみたいだけど。


「4体の悪魔が封じられたという事すら、伝説として伝わっているだけで、場所や封じた者の事や、その他の詳細は誰も知らない事よ」


「この地下か……パズズ、お前の封印、解こうと思うんだが、可能かな?」


「達也さん?! 何を!」


『主よ?! 何故(なにゆえ)そのような?!』


「いや、お前さ、忠誠を誓ったって事は、僕の家来(けらい)だろ? そのお前が封印されているっていうのは、僕としてもちょっと許せないんだよな」


 舎弟を救うのは兄貴の役目だ。波止場の倉庫だって、真夜中の廃ビルだって、助けに行っちゃうよ?


『……この上なき歓び。(わたくし)、この身が塵と消えるまで、お側に仕えさせて頂く事を誓います』


「……すごいわ達也さん。ねえ、どうせなら、残り3体の魔王、全員を家来にしましょうか!」


『さすがは御内儀。よくぞ申された! 私も御進言させて頂こうと思っておりましたぞ!』


 マジか! さすがにそれはやり過ぎじゃねえ?


『主の魂は私の護りによって、そうそう壊れる事は御座いません。滅びぬ肉体を持たれる主が、他の魔王ごときに遅れを取る事など有り得ません』


 あらそうなの? 負けないのなら、ちょっとやってみようかしら?


『しかしながら、他の魔王たちが封印されている場所は、それぞれが(いささ)か遠い。ここから移動するには時間が掛かり過ぎます』


「今回は彩歌さんの時券(チケット)が目的だからな。もし近くまで行く事になったら、ついでに寄ってみるか!」


「ふふ。封印されている魔王に〝ついでに〟会いに行く人なんて、達也さん以外に居ないわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ