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悪党の巣

※視点変更

内海達也 → ノウマズ・ロクドナス ←new!


※舞台変更

地下室 → 次元の隙間

 私〝ノウマズ・ロクドナス〟は〝ここではない世界〟から来た。

 ……そして今、私は〝子どもたち〟を観察している。


「意味が分からないな」


 目の前で無邪気に笑っているのは〝聖剣の残り香〟漂う一人の少女。

 有り得ない事だ。

 これは〝裁きの香り〟だ。

 少女は、死んでいなければならない〝裁きの香り〟を振りまきながら、元気に遊んでいる。


「どういう事なのだ?」


 私〝ノウマズ・ロクドナス〟は〝子どもたち〟を観察している。

 細心の注意を払って。

 なぜなら、絶対に認識できないはずの〝次元の隙間〟に身を潜め、追跡している自分に、明らかに気付いているであろう素振りを、子どもたちが見せているからだ。


「とにかく、彼女をここにお招きしよう。話を聞くのは彼女だけでいい」






 >>>






 話してみて分かった。

 間違いなく、彼女は〝何か〟を知っている。

 ……そう思って泳がせてみたら、やはりクロだったようだ。

 なんと彼女は、ご丁寧に〝認識阻害〟まで完備された部屋に逃げ込んだのだ。


「そして、またしても、子ども……か」


 だが見つけたぞ。

 あれこそは、奪われた聖剣。

 しかし昨日の〝裁きの波動〟は、どうやら誤検知だったようだ。

 私が彼女から感じている〝残り香〟も、きっとこの世界特有の、別の香りだろう。

 ……そういう事は(まれ)にある。

 現に先程から、あの〝独り言の多い子〟と、あちらの優しい感じの子が、聖剣を交互に触っているが〝裁き〟は起きない。

 つまり、まだ聖剣は、使用者を特定していないのだ。


「それはそうだ。聖剣が、あんな〝無法な奪われ方〟で、勇者を選ぶはずがない」


 私の従属(じゅうぞく)が、なぜこの場所を〝直接〟見つけ出すことが出来なかったのかは分からないが、どうでも良いな。

 きちんとこの世界の言葉を翻訳さえしてくれれば。

 ……しかし、相当に難しいのだな、この世界の言語は。

 意味のわからない言葉が多すぎる。

 毎回毎回〝翻訳範囲〟を固定するまでの精神集中に、時間を取られ過ぎだぞ。


『僕はどうなんだ?』


 お? やっと意味の分かる感じになってきた。

 しかし、子どもの遊び場にしては、少々、手が込み過ぎているな、この部屋は。

 まあ、そんな事もどうでも良い。

 ……あの子どもたちが、聖剣を盗んだ者と、どういう関係なのか。

 どうやって〝審判の台座〟を破壊し、奪い去ったのか。

 聞き出して罰を与え、速やかに聖剣を回収して帰る。それだけだ。


「いや、充分だろ! そんなに長期間、行くつもりはないよ」


 先程までの会話はほとんど分からなかったが、そろそろ踏み込むとするか。

 ……どこかに旅行にでも行く話か? 呑気なものだ。


『それじゃ、異世界人〝ノウマズ・ロクドナス〟に連絡をとるのは、異星人に勝って、分岐点を乗り切った、その後という事で良いかな?』


 不意に、私の名前が出たので焦った。

 おい子どもたち。何の話をしているんだ?

 私に連絡をとるのは、何かの後回し?


『俺はそれでいいぜー?』


 何が良いんだ?

 何でこの子どもたちは、私への連絡を取るタイミングを、勝手に決めているんだ?


『やー! 楽しみだなー!!』


 何が楽しみなんだこの子は。先程、会話した感じでは、悪意は無さそうだったが。


『えへへー! 大賛成!!』


 この子も、賛成?

 私の世界の人々を救うために必要不可欠な、その剣の返却を後回しにする事に賛成?


『私も賛成!』


 満場一致で、〝聖剣を返さない〟と言うのか。

 ……ならば、先にお仕置きが必要なのは、この子たちだ。


「……反対だな」


 私が姿を現すと、5人の子どもたちは、一斉にこちらを向いた。

 さて、子ども相手に大人気(おとなげ)ないとは思うが、とりあえずひとつ、脅しの意味で私の力を披露しておこうか。


「私は〝ノウマズ・ロクドナス〟。貴方(あなた)たちから見ると、異世界人という事になる」


 とりあえず、この不格好(ぶかっこう)人形(にんぎょう)を、粉々に砕いてやろう。

 聖剣を抜き、一閃。案山子は跡形もなく弾け飛んだ。


「貴方たちには、もう伝わっている様なので、詳しくは説明しない。速やかに聖剣をこちらに渡し、奪った人物の事を話すんだ」


 逆らえば、少々痛い目を見なければならないが。さあ、どう出るかな?


『いやー、良くぞおいで下さいました! この剣は、僕が、ほんの手違いで拾ったんですよ。さあ、お返ししますので、持って帰って下さい! どうぞどうぞ!』


 〝独り言の多い子〟が、ペコペコしながら、愛想笑いをしている。

 おや? やけにあっさりと。まあ、そういう態度なら、今回だけは、大目に見てやらんでもないが……


『駄目だよ! たっちゃん!』


 優しそうな子が、慌てたように、それを止める。

 おや? 意外と、こちらの子は聞き分けが悪いようだな。


『何でだよ、栗っち! このまま返しちゃえば、異世界なんか、行かなくて済むんだぞ?』


 ん? 何を言っているんだ、この子は……?


『だって、その剣の持ち主は、たっちゃんなんだよ? 他の人に、触らせちゃ駄目だよ!』


 いよいよ、聞き分けの無さが(かん)(さわ)るな。

 その聖剣の持ち主が、お前たちのような子どもの訳がないだろう。


『えー? いいよ。返しちゃおうよ! 面倒じゃんか!』


 なにか、妙な言い回しだが、この子は素直(すなお)に聖剣を返そうとしている。

 よしよし、良い子だ。


『あー! なるほどな。分かったぜー。誰もその剣に触らせちゃ駄目だな。返すわけにはいかない』


 ……やれやれ。こちらの子も反対派か。

 仕方がない。とりあえず先に聖剣を回収するか。そして、お仕置きだ。


「貴方たちが何と言おうが、その剣は返してもらう」


 聖剣が置いてある机に近付いて行く。

 ……ん? 〝私の聖剣〟が、妙な警告信号を出しているな。これは?


「何だというのだ、まったく……さあ、これは頂いて行くぞ」


 聖剣に手を伸ばす。

 ……しかし、私が触れるより先に、大人しそうな子が聖剣を掴んでいた。


『触っちゃ駄目だよ! これはもう、たっちゃんの物なんだよ?』


「いい加減にしたまえ! その剣は、玩具(おもちゃ)ではないのだぞ?」


『おいおいー! それは触っちゃ駄目だろー! たっちゃんの物なんだから』


『やー! そっか! ノウマズさん、ダメダメ! それダメー!!』


『達也さん! 私も分かったわ! 達也さん以外は、触っては駄目!』


 どういう事だ、これは……?!

 なぜ、〝たっちゃん〟と呼ばれている少年以外、剣を返すのを拒むのだ?


『いや、ちょっと待った。そういう事か! 栗っち、もしかしてその剣、いちど使用者を決めたら、もう変更できないんだな?』


『うん。そうだよたっちゃん。たぶん、使用者が死なない限りね』


『だー! やっぱ行かなきゃならないのか、異世界!』


「何を言っている!? 私は聖剣を返せと言っているのだ。お前たちが異世界に行く必要などない!」


『ノウマズさん。その剣は、既に僕を、使用者と決めているんだ。あんたが、別の聖剣の持ち主でも、たぶん、僕の聖剣に触れたら、灰になっちまうんだろ?』


 ……ん? 今何と言った?


『昨日、ユーリが、剣に触ってしまったから分かるんだ。聖剣は、間違いなく使用者を僕と認めてしまっている』


「タツヤとか言ったな、少年……貴方は、なかなか聞き分けの良い、賢い子だと思っていたのだが、そうでもないのかな。貴方が聖剣に選ばれているなら、なぜ、今、聖剣を手にしている彼は、灰にならずに無事なのだ?」


『ああ、それは栗っちが……』


 まだ何か、言い逃れをしようというのか。()(ごと)は、もう沢山だ。


「それに、もう一つ! 確かに貴方の言う通り、聖剣に選ばれた私でも、他の聖剣に触れれば、神の怒りに触れ、灰になる。そちらの少女が聖剣に触れたなら、なぜこうして生きている?」


 バカバカしい。それに加えて、とにかく腹立たしい。まだ何か言おうものなら、実力行使だ。


『ユーリは、異星人の末裔(まつえい)だ。昨日、聖剣に触った時は、手を火傷(やけど)した。けど、すぐに治ったんだ』


 異星人と来たか。

 ふむ。決まりだな。もう、容赦はしない。


「黙りたまえ。良く分かった。これ以上、貴方達と遊んでいる暇はもう無い」


 剣を抜き、構える。可哀想だが、盗人(ぬすびと)として、聖剣による裁きを受けてもらう事にする。


『えへへー。だよねー……えっと、ユーリちゃんも、ちょっと熱いけど、証明しておく?』


『やー! まあ、しゃあないね。へーきだよ、昨日ぐらいの熱さなら』


『……おいおい、無茶はすんなよなー?』


 という会話が聞こえた直後、信じられない事が起きた。

 一瞬で、私の手から聖剣が消えて無くなったのだ。


「っ?! これは……」


 〝栗っち〟と呼ばれる少年が、私の剣を持っている。


「何だ? 一体どういう事だ?!」


 ……ジューッという音と、異様な焦げ臭さに気づき目を向けると、いつの間にか、もう一つの聖剣を握り締めた〝ユーリ〟と呼ばれる少女が、笑顔でこちらを見ている。


「そんな……なんで貴方たちは裁かれない?! なんで無事なんだ?!」


『ワ・タ・シ・ハ・ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ』


『えへへー。じゃあ、僕も! 〝とんでもねぇ! あたしゃ神様だよ!〟』


 何を言っているのかは分からないが……聖剣の裁きが通じないこの2人の存在が、全てを物語っていた。

 ……驚いた事に、先程からの話は、全て本当だったのだ。

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